アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

03.3つ目の国

 無理だと一蹴したウィルドレディアだったが、彼女は基本的には協力的な人物である。自身では何も出来ないが、代替案を出してくれるとの事だ。


「そうねぇ……とてもややこしい話になるのだけれど。未来的には友人である彼女なら、範囲結界を作成して維持する事くらい出来るはずよ。ああでも、年齢的にそこまではまだ出来ないのかしら? うーん、ちょっと分からないわね」
「要領を得ないな。未来的な友人、というのもかなり矛盾しているが、それはつまり、今はまだ他人という事にならないか?」
「それはそうなのだけれど。会っても門前払いになる可能性が高いわ」


 胡散臭いものを見るような目をしたアロイスがこちらを振り返る。それは無理だろう、と思いつつも判断をメイヴィスに委ねるといういつものスタンスだ。
 とはいえ、答えは決まっている。
 年長者であり、今まで協力してくれたウィルドレディアの意見を真っ向から否定する事は許されない。


「取り敢えず、行くだけ行ってみましょうよ。研究のご協力をお願いすれば、善良な人間なら万が一って事もあるじゃないですか」
「いやそうか……お前がそう言うのなら、否定はしないが」
「それに何と言うか、世の中って狭いですからね。案外、誰かの知り合いとかだったりして」
「ウィルドレディアと共通の未来的友人がいるとは……想像が出来ないな。それで、その未来的友人はどこにいるんだ? 魔道国内ならば、魔道の研究に積極的に協力してくれるかもしれない」


 ここで魔女は僅かにアロイスから目を逸らし、小さな声で早口に目的地を告げた。


「いや魔道国じゃなくて、帝国に居るわ」
「なに?」
「帝国に向かうわ」


 ――アレグロ帝国。
 ヴァレンディアが加わった事で主な大国は3つとなったが、その内の1つ。シルベリア王国に並ぶ歴史を持つ大きな国である。


 基礎知識はここまで。アロイスは少し悩ましげに眉根を寄せた。そういえば、帝国の方へは一度も足を伸ばした事が無い気がする。


「帝国……帝国か。あの国は余所者に厳しいぞ。最悪、帝都にすら入れないかもしれない」
「大丈夫よ。私の記憶が正しければ、今は排他的な運営が一時休止されているはず。入る事は出来るわ」
「……分かった。ではメヴィ、行こうか。帝国は近い。数時間で国境を越えるだろう」


 ***


 アロイスの言った通り、程なくして帝国に辿り着いた。
 そこで気付いた事がある。今まで生活してきたヴァレンディア、たまに足を向けていたシルベリア。どちらも個性的な国風だったが、この帝国もまた例に漏れず。
 ――明らかに軍事国家。
 都子は高い壁に覆われ、中を覗く事すらままならない。大きな門の前ではひっきりなしに兵士が行き来しているのが見て取れる。


「そうね。将来的にはガッチガチの軍事国家になるわよ。今はまだ、準備期間中だけれど」
「軍事国家? 何故急に。近隣の国同士が争っているという話も、貧窮しているという話も聞かないが」
「どうしてそうなったのかは分からないわ。途中で足を洗ってしまったもの」
「成る程。賢明な判断だ」
「無理矢理、私を離脱させてくれたその友人には感謝しているわ」


 ちなみに、補足の説明とはなってしまうが。
 今回のアロイスは非常に軽装だ。いつもの立派な鎧は脱ぎ、あの巨大な大剣も未所持状態。代わりに使っているのを欠片も見た事が無い短剣を装備している。全てはあの行き来する門番兵士達の神経を逆撫でしない為だ。


 とはいえ、あまりにもピリピリしている門番を見てアロイスは顔をしかめている。


「不安だな。武器は持っているが、本当に何かが起こった時にこれで処理出来るとは思えない」
「大丈夫よ、アロイス。私がメヴィを見ているわ」
「わーい、よろしくお願いします」


 さあ、と魔女が麗しい笑みを浮かべる。


「まずはあの門を越えなくては。良い事、普段通りの顔をして通るのよ。門番は他のどの国よりも査定が厳しいわ」
「まあでも、この面子ですし……ん、いやちょっと待ってくださいよ。私達、これ何メンに見えるんですかね? 結構なデコボコトリオ感ありますよ。ドレディさん」
「……言われてみればそうね。何者なのかしら、私達は」


 多大な不安を抱えながらも、門へと向かった。何か聞かれた時には兄と姉、とでも言っておこう。父母と言うには歳が離れ過ぎている。



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