アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

03.魔石の採掘

 実に情けない気分に陥りながらも、頷く。ユリアナは終始ニコニコしていたが、アロイスの顔は険しい。工具なんて一歩間違えれば怪我をするに違いない道具を触っていながらあっさり怪我したのを見て呆れているのだろうか。


 しかし、アロイスは一応保護者であり大人でもある。そんな気持ちを特に感じさせる事無く、不意に訊ねた。


「そういえば、午後から魔石狩りに行くと言って居なかったか? 今日は止めておいた方が良いと思うが……」
「あっ! そうでした! いや、ちょっと下に行って治癒用のアイテム作って来ます」
「自然治癒に任せた方が健康的だぞ」
「や、時間が押しているので!」


 言うが早いか、メイヴィスは踵を返した。
 とにかく魔石狩りは絶対に外せないイベントだ。市販の魔石は数も質もサイズも均等に切り売りされているが、天然物の魔石は格別である。やはり業者に委託するのではなく、自らの足で採って来た方が質が良い。


 怪我などしている場合では無い、なるべくぱっくりと口を開けている傷を開かないように注意しながらメイヴィスは駆け出した。


 ***


 2時間後。
 止めるアロイスをほぼ強制的に連れ出したメイヴィスは人生初の魔石採掘場にやって来ていた。正直、治癒魔法の使用し過ぎで割と疲れているが人生初の試みに、その疲れすら一時忘れる。


 薄暗い雑木林。湿気が多いのだろうか、何だかベタベタする気候だ。更に、踏みしめる地面はかなり緩い。地面と言うより泥に近いのかもしれない。歩く度に砂とも石ともつかない感触が足に伝わる。恐らく、魔石の原石だろう。


「この狭い国土によくもこんな場所を作ったな」
「流石はヴァレンディア、魔道に命懸けですよね」
「まったくだ。しかし……ここは随分と歩きにくいな」
「泥とか跳ねそうですよね」


 人気の無さそうな場所だと勝手に決めつけて掛かっていたが、予想に反し人で賑わっている。何故なのか考えてみたが、恐らくは魔石狩りという物珍しい風景を見に来た観光客が大半だ。
 現に多く居るその人等は魔石を集めるつもりがないらしく、数名のローブを着てこちらは真面目に魔石が欲しい連中を珍獣でも眺めるかのように眺めている。


 さて、とアロイスが悪戯っぽく笑った。


「魔石とやらはその辺にたくさん転がっているが、探すのに何かコツはあるのか? 質の良い魔石が欲しいと言っていただろう?」
「はい。質の良い魔石は重いんですよね。それで、魔石狩りにはグラム制限が付いているので、つまり質の良い魔石を集める程、制限に近づいてしまう訳です」
「重いのを探せばいいんだな?」
「あっ、いや、私にはルーペがありますから」


 重さを逐一計るのでは日が暮れてしまう。そう思ったので、工房から魔力を数値化して測定するマジック・アイテムのルーペを持って来た。これで、魔力値の高い魔石を効率的に採取しようという魂胆だ。
 最近、アルケミストが何であるのか理解し始めたアロイスの反応は薄い。精々、便利な物だなくらいにしか思っていない顔である。


 そんな騎士サマは不意に屈み込んで、草の根を掻き分けた。中から七色の外皮を纏った魔石が顔を見せる。半分が地面に埋まっているようで、泥のようなそれがキラキラと輝いているのが見て取れた。


「メヴィ、早速発見したぞ。これはどうだ?」
「アロイスさんの勘の良さって神懸かってますよね。何かコツとかあるんですか?」
「そうだな……空気の匂い、とでも良いだろうか。大自然の気の流れのようなものかもしれない」
「ず、随分と奥が深いんですね。ちょっと私には理解が……」
「詰まるところ、勘という訳だ。あまり深く考える必要は無い」


 恐ろしい特技だ。
 そう思って恐々とアロイスを見つめていると、不意に彼は空を仰いだ。上を向いても広がるのは一面の木々の葉だ。空すらよく見えない。


「何故この辺りは葉が覆い茂っているんだ。探し辛いな」
「ストラスの魔樹、っていう木なんですけど、葉が大きくなる木なんですよ。あと、その幹にたくさんの魔力を内包しています。これらの木々は魔道士の使う杖の材料になったりとか、色々使い道があるんです。それで、この木と魔石は相性が良くて、だから採掘場なんかにはよく植えられるとは聞きますね」
「日光をもっと取り入れて欲しいのだが」
「あ、太陽光は魔石の表面を溶かすのでNGです」
「考えがあってこんなにも暗いのか。なら、仕方が無いな」


 あっさりと納得した騎士は再び魔石を発見した。とにかく、この辺にありそう、という動きでは無く「ここに絶対に何かがある」と確信したような動きには舌を巻くしか無い。他に魔道士を連れて行くより簡単に魔石が見つかっている気がする。
 ルーペを翳して魔石の魔力値を測定しながら漠然とそう思った。



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