乙女ゲームのモブに転生したので縁結び相談室を作る

ねんねこ

02.シーラの相談

「まあいい、お前から先に済ませろ」
「いいの、オルヴァー? ……私が後から来たけど」


 それとなく相談室の使用権を譲ろうとするオルヴァーに、シーラが怪訝そうな目を向ける。彼は頑として俺の慈悲だぞ、という態度を崩さなかった。
 最初は不審に思っていたらしいシーラもまた、その態度に圧されたのか、それとも突かない方が良いと断じたのか。それ以上の言及はしなかった。


「管理人さん、私から相談してもいい?」
「どうぞどうぞ」
「実は、いつもいるメンバーに内緒でクエストを受けたいの。……管理人さんなら、どれが私に向いていると思う?」
「予め答えのある相談なんだね……」


 言うが早いか、シーラが手に持っていたクエストを数枚、机に並べた。どれも私にしてみれば恐ろしく高難易度の縁遠いクエストだ。
 場所、内容、報酬。どれもがまちまちで、何の用途に使う金を稼ぐのかによって選ぶ内容が異なってくるレベルでバラつきがある。


「何の為に使うお金なのかな? 金額はどれくらいあればいい?」
「うーん……。プレゼントで、これくらいあれば……」


 シーラの提示した金額を見、高すぎる難易度の高すぎる報酬を取り除く。いつものメンバーで行けないのならば、出来るだけ高難易度のクエストは受けるべきではない。
 数枚しか無かったクエストが半分に減った。ここからどうしたものかと考えていると、それまで黙っていたオルヴァーが不意に口を挟んだ。


「シーラ、こんな戦闘に関してド素人の雑魚にクエストを選ばれるより、自分で選んだ方が身のためだぞ」
「管理人さんが戦えないタイプの人だって知っているの? ……結構通ってるんだね、相談室」
「いや、ちがっ……!!」
「ふぅん」
「俺が適当なのを選んで片付けて来てやろうか」
「クエストを? 私が稼がないと意味が無いから、いい。私が相談しに来ているんだから、お父さんみたいに口出ししないで欲しい」
「誰がお父さんだ」


 ――くそぅ、楽しそうに会話しやがって……!!
 いつか私もシーラみたいになるんだ、そう心に誓って選んだクエストを提示する。正直、これだけの選択肢であれば選ばれるのはシーラの土俵で戦闘が出来るクエスト、それのみである。


「これが良いと思うよ、シーラちゃん。はい」
「これは……シャルネの浜辺? 討伐クエスト……」


 シーラは幻獣と呼ばれる獣人に分類される存在だ。つまり、人の皮の下に源身と呼ばれる本来の姿を隠し持っている。そんな彼女の源身と相性が良いのは、広大な海のフィールドだ。
 つまり、万が一彼女に危険が及んだとしても、海にさえ逃げ込めれば勝ったも同然。怪我をするしないはその場のあれこれによるが、間違って命を落とす事も無いはずだ。


 私の選択に興味を惹かれたらしいのは、シーラ自身では無くオルヴァーの方だった。


「海、海か……。おい、管理人」
「はいはい、何かな?」
「お前と俺も、シーラのクエストに同行するぞ」
「ちょっと話の脈絡がなさ過ぎて何言ってるか分からないんだけれども。どういう事?」
「クエストに行くぞ」
「管理人さんも来るの? 報酬は山分けね」


 ――報酬を山分けしちゃったら一人頭の取り分が減るのではないのか。
 そう思ったがシーラが嫌がっている様子は無い。オルヴァーの提案に興味津々だ。彼が一体何を考えているのか知らないが、あわよくばお近づきになるチャンスでもある。


「まあ、折角のお誘いだし、行こうかな、うん」
「歯切れの悪い奴だな。お前、そういえば名前は何だった?」
「え? ああ、シキミだけど」
「分かった、覚えた」
「えっ」


 名前を忘れられていた事ではなく、覚えられた事に驚愕する。何だ、良い感じに会話が出来る人ポジションに移り変わりつつあるのではないか?
 ボンヤリと言われた言葉を噛み締めていると、シーラから声を掛けられる。


「あなたが付いて来てくれるんだね。よろしく、シキミ」
「はぅあ!? よろしく!!」


 可愛い、心中でそう叫び、全力でよろしくした。彼女の回りは恐い人が多いのでお近づきになれただけでも奇跡である。


「ぼさっとするな、クエストに行くぞ」



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