乙女ゲームのモブに転生したので縁結び相談室を作る

ねんねこ

04.ギルドでの揉め事

 ***


「ぼんやりして、どうかしたのか?」


 聞き覚えのある声にハッとしてベティは顔を上げた。
 ここはギルドのロビー。話し掛けてきたのは相棒のデレクだ。そんな彼の疑問に答えるべく、口を開く。


「おはよう、デレク。いやそれがさ、シキミが今日は珍しく相談室にいなくて。アテが外れちゃったから、やる事を失ってボンヤリしてたって訳」
「今日はいないのか。確かに珍しいな」


 基本的に相談室の管理が本業の彼女、シキミはクエストに誘わない限りは相談室に常にいる。であるにも関わらず、本日は相談室そのものが締め切られており、不在の掛札がしてあった。
 見るからにどこかへ出掛けて居るそれを見て、呆然と立ち尽くしたのは記憶に新しい。まさか、相談室以外の場所へ行く事があるなんて。


 しかし、その事実をあっさり受け止めた相棒はあっけらかんと提案を口にする。


「いないなら仕方無いな。久しぶりに2人で何かクエストにでも行くか? 座ってるのも退屈だろ?」
「うーん、でもぶっちゃけ私達あんまり強くないからさあ。もう一人くらい欲しいんだけどなあ」


 ロビーを見回すも、声を掛けられそうなメンバーの姿は無い。ギルドとはいえ、プライベートパーティが横行しているので全く見ず知らずのメンバーには声が掛け辛いのだ。
 それを指してデレクも2人でクエストへ行く事を提案したのだろうが。めぼしい依頼が無ければ、今日1日は鍛錬の為に時間を使うとしよう。


「ま、いっか。確かにここで座ってるだけじゃ時間の無駄だし、お前の言う通りたまには2人でクエストに行こうか」
「そう言うと思ってたぜ」


 椅子から腰を上げた。その瞬間だった。苛立った男の声が、人の少ないロビーに響き渡る。


「おい、何故俺がクエストも受けていないグズの後処理に駆り出されなければならないんだ! 他を当たれ!!」
「君凄いなぁ。ギルドのマスターにここまで堂々と口答えしてくるメンバーはあんまり……いや、結構いるなぁ。とにかく、見て分かる通り人が居ないんだよね。君はうちでも強いし、行ってくれないと困るんだよ」


 すぐに声の出所が判明する。ロビーの出入り口付近で、オルヴァーとギルドマスターが言い合いをしているのだ。上司に噛み付くどころか、噛み殺す勢いのオルヴァーには戦慄しか抱けない。雇用されている側でよくもあんな啖呵を切れるものだ。
 無礼な態度を取られている我等がギルドマスターは特に気分を害した風でもないが、それにしたって限度というものがあるだろうに。


 恐々とその様を見守っていると、ふとギルドマスターの彼がこちらに気付いた。あのオルヴァーに絡まれながらも、いつも通りの掴み所が無い飄々とした笑みを浮かべている。


「あ、君達も丁度良いところに~」


 手招きされた。デレクと顔を見合わせ、一先ずその指示に従い、苛立っているオルヴァーの隣に並ぶ。
 聞きもしないのにマスターは本題へと勝手に入って行く。


「実は、隣街から救援依頼が出ててね。クエスト何も受けて無いみたいだけど、ギルドのメンバーみたいだから助けに行ってあげようと思って。今、その救援メンバーを選出しているところなんだ」


 クエストを受けていないと言うのに救援とはどうなのか。その一点においては、オルヴァーの怒りを分からなくもない。どういった状況でそんな事になったのか。言うなれば、プライベートでギルドの権限を活用している状態なのか。
 そこを突くように、なおもオルヴァーがギャンギャンとマスターへ噛み付く。弱者は死ね思想の持ち主なので、現状に鬱憤が溜まっているのだろう。


「客もいない、クエストでもない救援に行けるか! 勝手にしろとそいつらには伝えておけ!!」
「うーん、それが一概にプライベートって訳でも無いんだよね~。救援を送って来た子は、多分仕事中なんだよ。彼女、事務の子だし。一応」
「事務!?」
「ね? だから~、クエストを彼女が受けてないのは当然なんだよね~。相談室案件なんだけど」
「相談室!?」


 今度、声を上げる事になったのはベティ自身だった。そういえば、シキミは本来の職場にいなかった。変な事に巻き込まれでもしたのだろうか。
 デレクも察したのか、深く頷く。


「マスター。俺達は救援に行きます」
「本当? いやぁ、助かるよ~。ありがとう。勿論、タダ働きはさせないから~、安心してくれてオッケー」
「俺は行かんぞ!!」


 そう言わず、とマスターがオルヴァーに根気強く説得を続ける。しかし、彼の次の何か言いかけた言葉により暴れていたオルヴァーの言葉が急に静まった。


「君もシキミちゃんにはお世話になったんでしょ?」
「……何故それを知っている……」
「僕はギルドで起きた事なら、何でも知ってるよ~。そういう訳だから、行ってくれるよね? 彼女、貴重な人材だからいなくなると困るし」
「……くそっ」


 何か痛い所を突かれたのか、捨て台詞を吐いたオルヴァーは観念したように押し黙る。成る程、彼も相談室の利用者だったのか。何だか意外だ。


「そういえば、他の面子はどうしたのさ。オルヴァー」
「気安く呼ぶな雑魚。……女共は買い物に行き、ルグレはどこかへ消えた」
「取り残されたのか……」


 少し可哀相だなと思ったので、雑魚呼ばわりされた事には目を瞑ろうと思う。まあ、喧嘩を仕掛けても勝てない相手だ。



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