聖獣として異世界召喚されました!?

ゆなか

36

「……おい!!……唯!?」
眼下には、こちらを見上げて呆然としているジルの姿がある。


そう。ここでの比較対象者は『ジル』である。


うーん。よくぞこのタイミングで来てくれました!
つい、万能の力を駆使してジルを突き落としてしまったね!


……え?王子を突き落とすな?
そんなのは気にしない、気にしない。
だって、私は聖獣だもの!


必死でバシャバシャと水をかいている騎士団員達と、緩やかに手を動かすだけで立ち泳ぎが保てているジル。
この差は何と言っても『筋肉』である。そう、筋肉に他ならない。
因みに……私の元の姿ならば、余裕で浮くと思う。脂肪で。
脂肪って無駄に浮くんだよねえ……。
私は思わず空を見つめた。


「ミーガルド様ー!助けて下さいー!」
「酷いじゃないですかー!」
「たーすーけーてー!」
「しーずーむー!!」
……やかましいな。
私はチラッとツヴァイさんを見た。


「そろそろ……よろしいのでは?」
ツヴァイさんは、手元にある懐中時計を見ながらそう答える。


「意外と時間が経つのは早かったですね」
「……見ている側はそうかもしれません」
苦笑いを浮かべるツヴァイさん。


言いたい事は分かる。ちゃんとそこら辺は分かっている。
でもね?大変じゃなかったらお仕置きにならないじゃない?
まあ、そろそろ沈みそうな人もいるから……頃合いかな。


「みなさーん!分かりましたかー?自分達とジルとでは何が違うと思いますか?」
私は口元に手を当てながら声を張り上げた。


「顔ー!」
「顔だー!!」
「顔の良い王子様!」
それは勿論違うだろう。
って、私が言いたいのはそれじゃない!!


「違ーう!!しっかり考えろー!!」
「「分かりませーん!!」」
「何が違うのですかー!?」
「馬鹿野郎!!甘えるな!!」
気分は熱血教師である。……そんなスイッチが急に入った。


なので今回は女教師モードの指示棒ではなく、真っ赤なメガホンを作ってみた。


「ミーガルドさまぁあー!」
「総員!泣き言の前に頭を働かせろー!!」
怒鳴りながら、メガホンをグルグルと回す。


「分かりませんよぉー!」
「顔だ!やっぱり顔が違う!!」
「手足が長い!」
「イケメン!!」
「貴様らー!考える気はあるのかー!?」
「ありますけど、本気で分かりませーん!」
「仕方がない奴らだな!そんなお前達にヒントをやろう!お前達の身体とジルの身体は何が違う!?」
私はメガホンを使って怒鳴った。


「顔だ!顔が違う!顔が小さい!!」
「手足が長い!」
「イケメン!!」
「あと、イケメン!」
……大喜利か!!


顔、顔、顔……奴らは全く気付かないというのか…………っ!


「随分と余裕があるみたいですね……?」
ニコッと笑った口元がヒクヒクと引きつる。


「ちょっ……!」
「ミーガルド様、すみませんでした !」
「……問答無用ー!」
下に向かって手を伸ばした私は、手に万能の力を込めた。


「「「ぐぉおおおーっ!」」」
お水たっぷりの抉れた地面は、あっという間に洗濯機の様にグルングルンと勢いよく回り出した。


あ、ジルは巻き込まれない様にちゃんと結界を張ってあげている。
その位の理性は残っていたからね!




***


高速で二十回転した位で力の発動を止めた。ついでに抉れた地面とたっぷりのお水も消して元に戻した。
でないと溺れちゃうからね!


「し……死ぬかと思ったぁぁ……」
「助かった……!」
「おい!しっかりしろ!助かったんだぞ!」


 抉れた地面のあった場所には、沢山の筋肉……もとい、騎士達が地面に手を付きぜーぜーと荒い呼吸を繰り返ている。抱き合って涙を流している者さえもいる。


「さて、皆さん。生還おめでとうございます」
私はそんな騎士達の前に仁王立ちした。
この手にはまだ真っ赤なメガホンがあるよ!


私の姿を見た騎士達は一斉に肩を跳ねさせた。
「ひいっ……!!」


……失礼だな!
アインさんとドライさんまで怯えているじゃないか。


「唯……まあ、まあ……」
ジルが私の肩にポンと触れた。


……ジル?
私はジルを見ながら首を傾げたが……ジルは諦めを含んだ咎めるような眼差しを向けてくる。


……やり過ぎですか……そうですか。
しかし、やってしまったものは今更どうしようもないのだよ!!
だから、気にしないで続けるよ!


「今回の集団お見合いですが、まずは皆さんが変わらないと成功はないと思って下さい!」
「え?何ですかそれは!」
「何ですか……ってそのままですよ?ていうか、そもそもジルに勝てると思っているのですか?皆さんとジルとの違いは顔だけではありません!」
「顔だけじゃない……だと?」
「筋肉は水に沈みます。鍛えられた肉体は彫刻の様に美しいかもしれません。そもそも……皆さんのお仕事は何ですか?」
「国防です」
そう言いながら、手を上げた騎士を私はジッと見つめ返した。


「そうですね。王様や国を守る……そこに住む民を守る。それが皆さんの仕事ですよね?」
私の言葉に頷く一同。


「先程も言いましたが筋肉は水に沈みます。もしも溺れている人がいたらどうしますか?溺れている人に身分は関係ありませんが……護衛をしている要人だったら?皆さんはきちんと助ける事が出来ますか?」
「そ、それは自らの命をかけて……」
「黙らっしゃい!自分の命を粗末にする人に誰の命が助けられますか!!」
ビシッと赤いメガホンを突き付けると、騎士達は気まずそうにしながら私から目線を逸らした。


……ふっ。勝った。
必殺!正論返し!!
……私が同じ事されたら多分……泣く。
だが、今の私は強者だ!!どんどん責めちゃうぞー?!


「ここで私が言いたい事は、『』です。ジルも鍛えているみたいですが……」
うっ……。朝チュン事件を思い出してしまった……。
程よく付いたジルの筋肉質な身体が…………って、あぁぁぁぁ!!
セクハラだ!これはセクハラだ!
頭をブンブンと振って、記憶を頭の外に追い出す。


「ミーガルド様?」
「……何でもありません」
コホンと咳払いをし、気を取り直した私は改めて騎士達を見た。


「ジルの様に……程々に鍛えておけば水には浮けます。極端な行動は身を滅ぼしますよ?……そもそも、皆さんの売りってなんですか?筋肉以外で。あ、アインさんとドライさんは除きます」
アインさんはお花、ドライさんはコーディネート等、きちんと売り込めるものがある。


「……まさか、騎士団にいるからモテるだろうだなんて勘違いしていませんよね?」
「「「…………」」」


……おーい。どうして全員視線を反らす。


「……無いのですか?」
……シーン。
……そうですか。やっぱり無いのですか。
まあ、騎士としての筋肉質な見た目が好きな令嬢もいるだろうし……そもそも政略結婚がメインの世界だから……って、内面とかはどうでも良いの?


いや、どうでも良くはないだろう。
孫とおじいちゃん程に年が離れた結婚ならまだしも……夫婦仲が良いにこしたことはない。生まれてくるであろう子供達もその方が嬉しいだろう。


ふむ……。売りがないなら作れば良いのだ。
付け焼き刃でも積み重ねれば、身になるだろう!
……と言っても時間はないので、騎士達には仮想空間で短時間集中トレーニングしてもらおう!


そうと決まったら、強制的に眠らせて……っと。
私が手を翳すと騎士達があっという間にバタバタと倒れていく。


「……ミーガルド様?」
「唯……何を……?」
不安な顔をしているツヴァイさんとジル。


「皆さんには仮想空間……ええと、睡眠学習をしてもらう事にしました」
「因みに……何を?」
「彼達には良き夫になる為に、家事、育児をきっちりと叩き込みます!」
「ミーガルド様……彼等は貴族が多いので家事は必要ないのでは?それに遠征等で慣れている者も多いですよ?」
……そう言われたら、そうかもしれない。
あれー?
……だけど、遠征等の野宿とは違う!違うったら違うのだ……!!
それにイクメン計画もあるのだから……


「えい!」
私はジルとツヴァイさんも強制的に眠らせた。


よしよし、これで万事OK!!


ふう……。
みんなが寝てる間に私は休憩でもしよう。


私は騎士達を横目に、ツヴァイさんに貰ったクッキーを食べ始めた。


うん。今日も良い仕事したー!!

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