聖獣として異世界召喚されました!?

ゆなか

19

「二つ目のお願いだけど……四代目神子の事は、僕の口からは多くは語れない。ごめんね」
「どうしてですか?」
「それは……あの子が穢れてしまったからなんだ……」
穢れた……?四代目の神子が?どうして……?
「穢れると、どうして語れないのですか?」
これだけでは意味が分からない。
首を傾げる私に、神は寂しそうな笑みを向けてくる。


「僕は『神』だから、言葉に魂が宿ってしまう。普通の何気ない会話ならば問題ない。だけど、それが強い負の感情……つまり憎悪の感情を含んだ言葉を発してしまうと、この世界が闇に飲み込まれ兼ねないんだ」


神が説明をしてくれた内容によると……
四代目の神子は、とある事情により憎悪の感情に飲み込まれてしまった。
それにより五代目以降の神子に呪縛がかけられてしまったという事か。
その呪縛とは勿論……【短命】だ。
穢れてしまった神子の名前を呼ぶだけで、強い憎悪の感情を持ったのと同じ意味になってしまう為に、神は多くを語れない。
負の感情は伝染しやすく、引き摺られやすいのだそうだ。


それでも神は、四代目の神子も五代目以降の神子も今までずっと救おうとしてきたが……それも叶わなかった。
そして今回。いつも以上に短命になってしまいそうなミーシャ姫を愁い、私を召喚したのだそうだ。


つまりは、初めからこの問題をどうにかする事が私の使命だったのだ。
目的もなく、ただ神の戯れで召喚され、そこで聖獣と混じり合ってしまうという事故が起きたのかと思えば……そうではなかった。
仮説だが……魂だけで存在していた聖獣が、この世界の将来を心配して、神に召喚された私に更に強い力を与えてくれようと協力してくれたのであれば、今の私の状態の説明もつく気がする。


「だから……僕の口からは神子の名前も起こった事も何も言えない。だけど、この子が教えてくれるから……よろしくお願いしても良いかな?僕はこの世界を正しい状態に戻したいんだ」


はあー……。
私は大きな、大きな溜息を吐いた。


「どうして……初めにこの話をしなかったのですか?」
「それは……君は巻き込まれた被害者だから。聖獣と混じってしまった事で、もう元の世界には帰れない。そんな君にお願いなんて出来なかった。……本当は全てが解決したら帰してあげられるはずだったんだ」
神はくしゃりと顔を歪ませた後に、ごめんと頭を下げて来た。


いきなりこの世界に連れて来られて……人としての元の姿も失って……。
出来るだけ泣かない様に……怒らない様に……元の世界の事を考えない様にしてきた。
向こうの世界には沢山の未練も後悔もある。


……だってそれは仕方がないよね?
こんな事になるだなんて考えた事なんかなかったのだから。
今まで作り上げてきた人生をそのまま失ってしまったのだから……。


『本当は全てが解決したら返してあげられるはずだったんだ』
神はさっきこう言った。


……もう本当に、元の世界には帰れないという事だ。聖獣が混じってしまったから……。


私はそんなに出来た人間ではない。ただの人間だ。
自分の精神を保つ為にポジティブさを装いながらも……堪えきれずに泣いたり、たくさん悩んだりもした。
結果的に人助けをしたりもしたが……それはあくまでも、成り行きやその人達に同情したからに過ぎない。
『私はこの人よりは幸せ』『この人よりは上手くやれる』
そんな酷い事を心の中で思った時もあった。
だって……そう思わなければこんな理不尽には耐えられなかった。


それなのに皆は、私に対して『ミーガルド様』と親しみや愛情を持って接してくれて……優しくしてくれた。


「……私は自分の事しか考えていませんでした。理不尽な状況を恨んで……それを表には出さずに隠して来ました」
「でも!それは君のせいじゃない。全ての責任は僕にある!!」
「それでも……!!そう思っていた事実には変わりありません。私は皆の気持ちを裏切っていた……。だから……」
「……?」
「私はやります!!やらせて下さい!!」
私は神に向かって深く頭を下げた。


ここから挽回したい。
……きちんと心からの対応を考えるんだ。
私はこれからこの世界で生きて行くのだから……。
信頼には信頼で返したい。


「うん。ありがとう」
神の声と共に、ポンと頭に温かい感触が降って来た。
「……頑張ります」
私は頭を下げたまま、瞳を拭った。


「あのね?君は否定するかもしれないけど、ここで明るく元気に生活をしていた君も本当の君だと思っているよ。だから、そんなに自分を否定しないで。君はここで生きるのに精一杯だっただけなんだから」
そう言いながら私の頭を撫でる神の手に、変化を感じた私はハッと顔を上げた。


そこにあったのはカーバンクルの姿ではなく、神殿で見た男性の姿だった。
慈しむ様な優しい眼差しを浮かべながら私の頭を撫でる神……。


「これからは何でも頼って。僕はいつでも君を見てるから」
ね?と更に瞳を細めながら微笑む神。


「神様……」
「ん?」
「殴って良いですか?」
「ええっ!?今すっごく良い所だったよね!?どうしてそうなるの?!」
「はははっ!」
サッと私から一瞬で距離を取った神を見たら、笑いがこみ上げて来た。


お腹を押さえながら笑い出した私を、呆気に取られた様に見ていた神もいつしか一緒に笑い出した。


心の底からこんなに笑ったのは久し振りかもしれない。
まるで生まれ変わった様な……そんな気分だ。


「辛い事とか溜まって来たら……また話を聞いてくれますか?」
「勿論だよ。嬉しい事でも何でも聞かせて?」
私達は握手をして別れる事にした。
そう神が望んだから。


……しかし、私はその行為の指す意味を理解していた。


「じ、じゃあね!」
そそくさと速やかに消え去る神。
アイツは私に殴られる前に逃げたのだ。


チッ。一発くらい殴らせてくれれば良いのに……。
舌打ちした私の足下では、神が置いていったカーバンクルがスヤスヤと寝ている。


私、頑張るから、よろしくね?
四代目神子の呪縛を解き放つ為の大切な相棒だ。
私はしゃがみながら、カーバンクルを優しく撫でた。

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