藤宮美子最強伝説

篠原皐月

(9)優先順位

「美子、相手に殴りかかる時は、怖くても目を閉じては駄目だぞ? 最後まで標的を睨み付けろ」
「どうして?」
「固く目を閉じると、変に力が入り過ぎて、瞬発力が落ちる」
「しゅんぱつりょく?」
「殴る時は、最後の最後で捻りを加えて、確実に当てたい所に当てる事が大切なんだ」
「さいごのさいごまで、まとをみる」
「その通り! それから、『えい!』とか『やあぁっ!』とか大声を出すのも無駄だ。子供が大声出しても相手はビビらんし、変な所に力が入って腕に力が行かない」
「『とりゃ』とか、『はっ』とかは? リズム、とりたいの」
「ああ、それくらいなら自然体からの攻撃だな。やって良いぞ?」
「うん、わかった」
「じゃあ実践して見せるぞ? 美子。俺の方に、両方の掌を広げて見せろ」
「こう? ……きゃうっ!」
 まだ今一つ良く分かっていない美子に向かって、公典が大真面目に拳を繰り出すと、寸止めだったにも係わらず、怯えた美子が手を引っ込めて顔を背けた。その為、公典が真顔で窘める。


「こら! 怖くても目を逸らしたら駄目だろうが。それに当てて無いぞ? 良く見てろ」
「うん、がんばる!」
 子供なりに気合いを入れて、今度こそ誉めて貰おうと美子が頑張っていると、その二人の様子を眺めていた康子は、呆れながら息子に愚痴を零した。


「全く……。孫相手に、何をやっているのやら」
「後五分位したら、引き離すから」
 さすがに昌典も呆れて強制終了させる事を請け負ったが、そんな事など知らない公典は、機嫌良く立ち上がりながら美子に言いつけた。


「よし、美子! 攻撃の基本中の基本は教えたからな。これからもう一回、俺を倒してみろ。言っておくが、今度はあっさり噛み付かれんからな?」
「うん、わかった。やるね?」
 そして再び見下ろしてきた祖父を、美子は真剣に眺めた。


(ええと……、よしこがこうげきできるばしょ……、パンチとキック、でももうすこし、たおせそうなわざ……。あ、あった!)
 そこである事に思い至った美子は、公典に背を向けてとっとこ走り出した。


「美子? どこに行くんだ?」
 公典が不思議そうに声をかけると、座敷の端まで行った美子は、両足の靴下を脱ぎながらお伺いを立ててくる。
「おじいちゃん、ここからこうげきでも、いい?」
 それを聞いた公典は、カラカラと笑って快諾した。


「何だ? そこから助走を付けて、飛び蹴りでもする気か? 子供にしては考えたな。構わないからやってみろ」
「うん! よしこ、いきま~す!」
「おう! どこからでもかかって来い!」
「おい、親父!」
「まさか本当に、飛び蹴りする気じゃないでしょうね!?」
 片手を上げて宣言した美子が、身構えた姿勢の公典に向かって走り出す。ここでさすがに昌典と深美は心配そうな顔付きになったが、その両親の不安は的中した。


「あ?」
 飛びかかってくるかと思いきや、伸ばした両腕の下にしゃがみ込む様に美子が飛び込んだ為、公典は戸惑った。そんな彼に向かって両足を揃えて力を溜め込んだ美子が、前方斜め45度の角度で勢い良く飛び出した為、その頭をまともに下腹部に受けた公典は、衝撃を堪えきれずにそのまま仰向けに転がる。


「とりゃっ」
「どわぁぁぁっ!!」
「きゃあぁっ!! あなた!?」
「親父、大丈夫か!?」
「お義父様!?」
 一気にその場が騒然となったが、しっかり公典をクッション代わりにして衝撃を緩和した美子がすぐに起き上がり、満足そうに喜びの声を上げた。


「やったあ~! おじいちゃん、やっつけた~!」
「何をやってるの、美子!!」
 すかさず深美が彼女を叱りつけたが、当の本人はにこにこしながら言い返す。


「へでぃんぐ! ろなるどさま、まねしたの!」
「へディング、じゃないでしょう! もう! この子はぁっ!!」
 泣きそうになっている嫁を横目で見ながら、康子は息子に囁いた。


「昌典……、『ろなるどさま』って何の事?」
「今美子が気に入っている、サッカー選手の名前です」
「美子ちゃん、サッカーが好きなの?」
「少し前、何気なく見せたテレビの映像に釘付けになって」
「……そう」
 何とも言えない表情で二人が囁いていると、公典がゆっくりと身体を起こしながら、不気味な笑い声を上げた。


「ふ、ふふ……。ははは……。この俺を一度ならず二度までも驚愕させるとは……」
「あなた、大丈夫ですか?」
「向こうで寝ていたらどうだ?」
 そんな妻子の気遣う声を無視して、公典は美子に向かって叫んだ。


「美子! やはりお前は、只者ではないと見た! よし、お前は俺の後を継げ!! お前なら、日本初の女性総理大臣も夢ではないぞ!!」
「え?」
 キョトンとして首を傾げた美子だったが、その場に居た大人達は、揃って顔色を変えた。


「いきなり何を言い出すんですか!」
「親父、気でも違ったか!? 親父の後継者は和典だと、きちんと決めただろうが!!」
 本来後継者として目をかけていた長男の昌典が、すったもんだの末に婚家の婿養子に収まってしまい、末子で次男の和典が後継者として決まるまで、二人の娘婿の名前も取り沙汰されて、親族間でかなりギクシャクした時期があり、下手したらその時の再来かと懸念した大人達は、揃って顔を強張らせた。しかしそんな事はお構いなしに、公典が持論を展開する。


「思えばお前も和典も、俺を一度として倒せた事は無かった……。親の屍を越える事ができない輩など、大成できないに決まっている! それに引き換え、美子は大器の片鱗がある! 俺の考えに不服があるのか!?」
「大ありだ! 耄碌するにはまだ早いぞクソ親父! 望むならたった今、親父を屍にして踏み越えてやろうじゃないか! 美子を政治家なんて、因果な稼業に就かせてたまるか!!」
「因果な稼業だと!? それで飯を食って育った貴様が何をほざく!!」
「あなた! 昌典、いい加減にして!」
「お義父さん! あなたも止めて頂戴!!」
 とんでもない修羅場に突入しかけて深美は涙目で義父と夫に訴えたが、そんな彼女に当惑した声がかけられた。


「おかあさん、『つげ』ってなに?」
「え、ええ? 何が?」
 袖を軽く引かれながら娘に問われて、深美は狼狽しながら問い返した。すると美子が真顔で再度尋ねてくる。


「さっき、おじいちゃんがいったこと」
「ええと……、おじいちゃんみたいに、国会議員になりなさいって事なんだけど……」
「こっかいぎいんってなに?」
「その……、政治家って事よ」
「せいじかってなに?」
「それは……、皆の為に働く人の事なんだけど……」
 これ以上詳しく聞かれたら、幼児にどう分かり易く説明すれば良いかしらと、深美が密かに冷や汗を流していると、いつの間にか息子との論争を止めていた公典が美子の前にやって来て、満面の笑みで言い聞かせた。


「そうだぞ、美子。仕事は色々あるが、政治家はとってもやりがいがある仕事だぞ?」
「やりがい?」
「良い事をして、褒められる仕事って事だ。良い仕事だろう?」
「うん、すごいねぇ」
 心底感心した様に頷いた彼女に気を良くして、公典は上機嫌で話を続けた。


「どうだ美子。政治家になるか?」
 そこで昌典が、父親を押しのける様にして会話に割り込む。
「黙れ、クソ親父! 美子、親父に騙されたら駄目だぞ?」
「黙るのはお前だ! 子供の可能性を潰す気か、このクソガキが!!」
 そこで再び親子での舌戦が再開しかけたが、美子が冷静に問いを発した。


「おじいちゃん、せいじかになったら、さっかーうまくなる?」
「は、はぁ? サッカーだと?」
「うん」
 予想外の事を言われて、唖然としている夫に代わり、ここで康子がのんびりと口を挟んだ。


「そうねぇ……、政治家になっても、サッカーは上手くならないわねぇ」
「じゃあ、ならない。よしこ、さっかーせんしゅになって、ろなるどさまとけっこんするの」
 康子の話を聞いた途端、きっぱりと断ってきた美子に、公典は本気で腹を立てた。


「なんだと!? 政治家よりも、サッカー選手の方が良いというつもりか、お前は!?」
 しかし美子は、満面の笑みで頷く。
「うん!! だって、ろなるどさまはね? ぽーんって、ばしゅって、だだだだって、ひょいひょいって、ひゅーんって、すごいのよ!?」
 お気に入りの選手がどれだけ凄いのかを、自分なりに全身を使って表現しようとしたのか、美子がその場で一生懸命ちょこまかと動き回ってサッカーの動作を真似して見せた為、つい先程までの室内の緊迫した空気が綺麗に吹き飛び、ほんわかした雰囲気になった。


「か、可愛い……、美子ちゃん」
「いやぁ……、本当に癒されるな」
 大抵の大人達は微笑ましく彼女を見守ったが、とても納得できなかった公典は仁王立ちになって美子を叱りつけた。


「お、お前と言う奴は!! 俺とそのロナルドとか言う奴と、どっちが大事だ!!」
 しかし美子は恐れ気も無く彼を見上げ、真顔で怒鳴り返す。
「ろなるどさまだもん!! ろなるどさま、さっかーじょうずだし、おこったりしないもん!!」
「…………っ!!」
 目に入れても痛くない程溺愛している孫娘からの拒絶に、公典は言葉を失って畳に崩れ落ちた。それを冷静に見やりながら、昌典がぼそりと呟く。


「そりゃあ、テレビで見てるだけだから、怒られたりはしないよな」
「あなた! ちょっと黙って! お義父さんが気の毒過ぎるわ」
 深美はもう涙目で夫に懇願したが、室内のあちこちで笑いを堪えようとして、失敗した様な声が漏れた。


「だ、駄目だっ……。あの『カミソリ倉田』の異名を持つお義父さんがっ……」
「わ、笑っちゃ駄目よ、あなた」
「お前だって笑ってるだろうが」
「政界の風雲児が、すっかり形無しだなっ……」
「本当に……、美子ちゃんは確かに、大物になるかもね」
 そこで唐突に、康子が美子に声をかけた。


「美子ちゃん。じゃあお祖父ちゃんより、ロナルド様の方が好きなのね?」
「うん。ずっと、もっと、いっぱい、とってもすきよ? けっこんして、じゅういちにんこどもをうんで、さっかーちーむをつくるの~」
「あらあら、大変ねぇ」
「……くぅぅっ!」
 畳に両手を付いて蹲っていた公典が、そこで如何にも悔しそうな呻き声を漏らした為、更に「ぶはっ!」とか「くふっ!」とかの微かな笑い声が漏れた。しかしそれらは聞こえないふりで、康子が問いを重ねる。


「じゃあ、美子ちゃん。お祖母ちゃんとロナルド様だと、どっちが好き?」
「え? おばあちゃんと?」
「ええ、そう」
 ぱちくりと目を瞬かせた孫娘にに康子が穏やかに問いかけると、美子は暫くの間視線を彷徨わせ、両手を組み合わせてもじもじしながら、恐る恐る言い出した。


「……ええと、ね?」
「はい、なあに?」
「あのね? おばあちゃん、ろなるどさまと、おなじくらい、すきよ?」
 その言葉の裏側を読んだ康子は、笑顔のまま確認を入れた。


「同じ位好きで、でもロナルド様の方がちょっとだけもっと好きなのね?」
「……うん、ごめんなさい」
 申し訳無さそうに項垂れて謝った美子だったが、康子は楽しげに笑って彼女を宥めた。


「あら、良いのよ? 美子。お祖母ちゃんは美子がサッカーを好きでも、怒ったりしないわ。ロナルド様の次に好きでいて頂戴ね?」
 そう言われた途端、美子は再び満面の笑顔になって、勢い良く康子に抱き付く。


「うん!! おばあちゃん、だいすきー!」
「私も美子の事は、大好きよ?」
 そして祖母と孫娘がほっこりと和んでいるすぐ側で、敗北感に塗れていた公典が、四つん這いになったまま呻いていた。


「くっ……、強行採決時の乱闘騒ぎでも斬り込み役を努めていたこの俺が、サッカー選手などに後れを取るとはっ……」
「会った事も無いサッカー選手に、訳の分からない対抗意識燃やしてどうする。還暦近いのに、いい加減止めろ」
 そして相変わらず大人気ない父親に向かって昌典は冷静にコメントしつつ、あっさり切り捨てたのだった。




 ※※※




 そんな話を一通り聞かされた秀明は半ば呆然としながら、数えるほどしか顔を合わせる機会が無かった、義理の祖父についての感想を述べた。
「倉田公典氏と言えば……、現役時代は長らく与党の重鎮で、バリバリの保守派だった方だと記憶していましたが……」
 そして意味ありげな視線を向けられた美子が、拗ねた様に言い返す。


「あれはちょっとした祖父と孫のスキンシップが、偶々エスカレートしただけよ。不可抗力だわ」
「いやあ、不可抗力ねぇ……」
「何が言いたいの? 吉雄さん」
 何か含む様な物言いをしてきた従兄を美子は軽く睨んだが、彼は笑いを堪えながらある事を言い出した。


「思い返すと、親戚一同が集まる時は、必ずと言って良い程、美子ちゃん達によって何らかの騒動が起きていたなぁと思ってさ。美恵ちゃんの『自画自賛落とし穴事件』とか、美実ちゃんの『毒入り饅頭事件』とか、美野ちゃんの『襖で自爆事件』とか、美幸ちゃんの『池の潜水艦事件』とか。勿論、他にも色々あるけどね」
「……否定はしませんけど」
 思わず視線を逸らしながら認めた美子だったが、ここで彼女の周囲で聞き耳を立てていた妹達が、一斉に抗議の声を上げた。


「姉さん、そこはちゃんと否定してよ! あれは私のせいじゃなくて、不幸な事故だったんだから!!」
「私の場合、事故以前に、毒とか入って無かったし!」
「あれで確かに襖は台無しになったけど、あれはそもそも美幸のせいで!」
「何言ってるのよ! それなら言わせて貰うけど、あれは美野姉さんのせいで池に嵌ったんだからね!」
「なんですって!? 人のせいにするのもいい加減にしなさいよ!」
「美野、美幸! こんな場所で喧嘩は止めなさい!!」
 口々に弁解してくる妹達を美子が叱りつける所までお約束だったらしく、周りの者達は揃って苦笑するのみだった。


「どうだい? あんな家よりも、藤宮家の方が数倍楽しいだろう?」
 隆介が軽く肩を叩きながらそんな事を尋ねてきた為、秀明は笑って即答した。
「百倍は楽しいですよ」
「それは良かった。まあ、頑張れ」
 それから秀明は如才無く受け答えし、同年配の美子の従兄弟達ともそれなりの交遊関係を築く事に成功したのだった。


 法要が無事終了し、昌典と美子夫婦は秀明が運転する車で、美恵達四人は美恵の運転する車に分乗して帰途についたが、その車中、助手席に座っていた昌典が、思い出した様に言い出した。
「今日は何やら、懐かしい話題で盛り上がっていたな」
「公典氏が美子に『サッカー選手の方が好き』と手酷く振られた時の話ですか?」
 運転しながら秀明が応じると、昌典が含み笑いをしながら一人頷く。


「そうそう。あれは傑作だった」
「お父さん?」
 チャイルドシートの美樹の様子を見ながら後部座席に座っている美子が、チラリと父親を睨んだが、昌典はそれを無視して上機嫌で秀明に語り掛けた。


「あの後、親父が実にしつこくてな。美子に『政治家は良いぞ? 政治家になれ』と事ある毎に煩くて。美子がうっかり洗脳されない様に、あれから暫く俺は美子にサッカー関連の物ばかり買い与えたんだ。サッカーボールや日本代表のキッズサイズのレプリカユニフォームから始まって、ロナルド・ディアスのサイン入りポスターやブロマイドをコネを総動員して集めたり、そうそう、庭に縮小サイズのサッカーゴールを作ってやったのもその頃だな」
「……え?」
 それを聞いた秀明は僅かに顔を引き攣らせたが、昌典はそれに気付かないまま話し続けた。


「その甲斐あって、美子は見事にサッカーフリークになってな? 親父の後継者就任要請など、当然けんもほろろに断ってたし、成人してからも親父が見込んで見合い相手として連れて来た将来有望な若手政治家を、『私よりもサッカーが上手な方なら考えます』ときっぱり跳ね付けていたんだ」
 どうだと言わんばかりに胸を張った昌典に、美子が当然の如く言い返す。


「だって本当に、まともにボールを蹴られない人ばかりだったんだもの。ボール一個すら思うように操れない人に、大勢の有権者の心を掴む様な芸当ができるわけ無いじゃない」
「……お前も親父と同じで、時々とんでもなく無茶な事を言うよな」
「失礼ね、真理よ」
 思わず遠い目をした昌典に、美子が真顔で応じる。


(そうなると……、時々どうしようもない敗北感を感じるそもそもの元凶は、お義父さんだったって事か……)
 運転しながら、これまで美子がサッカーに関する事を優先して、自分の事を二の次三の次にしたあれこれを思い返した秀明の耳に、苦笑気味の義父の台詞が届いた。


「しかしお前も案外人が悪いな。親父が見合い相手を家に連れて来る様になってから、わざわざ皆の記念樹をちょうどシュートコース上にくる様に植え替えるとは。連中、すぐそれにボールを突っ込ませてはお前から説明を受けて、顔色を変えて引き下がっていたし」
「はぁ?」
 聞き捨てならない事を聞いた秀明が小さく疑念の声を上げると、後部座席から如何にも心外そうな美子の声が聞こえてきた。


「あらお父さん、何の事? あの配置の方が、庭がすっきり整うと思ったからよ。変な勘ぐりは止して欲しいわ」
「ほう? それでは美樹の誕生記念に植えたドウダンツツジも、シュートコース上に植えたのは偶々か?」
「勿論、そうよ」
 バックミラーの中でにこやかに微笑んでいる妻の顔を見た秀明は、絶対わざとだと確信した。そこで昌典が、面白がる様に言い出す。


「それで? 美樹に言い寄る男が出てきたら、シュートをさせてみるか? 美樹が結婚できなくなるぞ?」
 しかしその父親の問いに、美子は笑って答えた。


「あら、秀明さんだって成功したもの。世の中に一人や二人、ズブの素人でもシュートできる人はいるわ」
「だそうだ、秀明」
 そこで含み笑いで視線を投げられた秀明は、笑い出したいのを堪えながら、真面目くさって義父の問いかけに応じた。


「この場合どちらかと言うと……、言い寄って来る男の方に加勢したいです」
「俺も同感だ」
「もう! 男二人で、何を結託してるのよ!」
 拗ねた様に美子が文句を言うと同時に、助手席の昌典は豪快に笑い出し、秀明も釣られて笑い出した。


(本当にあの頃と比べたら、百倍どころか一万倍は楽しいな)
 そして笑い続けながら先程言われた事を思い返した秀明は、しみじみと今現在の生活をかけがえのない物だとの認識を新たにしたのだった。



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