悪役令嬢の怠惰な溜め息
番外編:ルーナ、人生七転び八起き:(1)初対面の伯父
猟師の娘として生を受けたルーナは、その日も実に雄々しく生きていた。
「よし、今日もしっかり食料確保。これで充分ね」
若冠十二歳にも関わらず、父親から手ほどきされた弓の腕を発揮して野鳥を二羽仕留めた彼女は、昼を過ぎたところで住居としている山小屋に戻った。
「おねえちゃん、水汲みは終わったよ! あと、粉もひいておいた!」
留守番をしていた妹のアリーも、六歳ながら自分ができることは全て自分で済ませる生活に何の疑問も不満も持っておらず、この間の成果を姉に報告する。
「ありがとう。じゃあこの鳥を裏に吊るして血抜きしたら、少し休むわ。その後でパンを焼くから」
「うん! 鳥につかう、香草を準備しておくね!」
「お願い」
そこで姉妹で顔を見合わせてにっこり笑ったところで、生い茂った木々の向こうから、微かな声が伝わってきた。
「……ルーナ! アリー! 大変だぁぁっ!」
「え? なに?」
「今、村長さんの声が、微かに聞こえたような……」
反射的に二人とも声がした方に視線を向けてから、アリーが姉を見上げながら尋ねる。
「村長さん、ここに来る用があったの?」
「ううん、別に? だって私達、ここにはいないことになっているし」
「あ……、そうだよね。それじゃあ、どうしよう……。隠れる?」
心配そうに尋ねてきた妹に、ルーナは明るい笑顔で返した。
「洗濯物も干しているし、ここで生活しているのがバレバレよ。笑って誤魔化せばいいわ。現にこれまで三ヶ月、何事もなく暮らせたんだから、今更ガタガタ言われないと思うし。それでこれからは、時々村に行って物々交換させて貰うから。まだ大丈夫だけど、さすがに塩とか油とか山の中だと調達は無理だし、そろそろ在庫が切れそうだから自給自足生活は潮時かなと思っていたの。あと布地とか、たまにはフカフカのパンも欲しいしね。うちの石窯だと、どうしても硬くなっちゃうし……」
「そうか。じゃあ村長さんに、挨拶してもいい?」
「構わないわ」
「分かった。……そんちょーさぁあーん! こんにちはぁー!」
姉の許可を取ったアリーは、小屋がある開けた場所から麓に向かって曲がりくねりながら続いている坂道に向かって、大声で呼びかけた。すると少しして木々の間から姿を見せた、麓の村の長であるエルヴィスが、息を切らしながら坂道を上がってくる。
「ルーナ! 獣道ではない普通の道に、どうして獣用の罠を仕掛けるんだ!? しかも子供なのに、どうやってあんな大人が落ちる深い穴が掘れたんだ!?」
「穴堀りに、ちょっとしたコツがあるの。それにあそこはいつも人が通らないし、私やアリーは場所が分かるから良いかと思って。村長さんもここまで無事に来れたから、問題ないでしょう?」
不思議そうに首を傾げたルーナだったが、エルヴィスが声を荒らげながら訴えてくる。
「俺は無事だが、客人が穴に嵌まって出られなくなったんだ!! 早く助け出さないと! 手を貸してくれ!」
「お客? こんな山奥に、誰のお客ですか?」
「お前達2人の客で、お前達の伯父さんだ! それより、梯子はないか!?」
「……伯父さんですって?」
「おねえちゃん?」
予想外のエルヴィスの話を聞いて、ルーナは驚きに目を見張り、その様子を見たアリーは不安そうに姉を見上げた。しかしさすがに怪我をしているかもしれない人物を放置することなどできず、詳しい話は後ですることにして、ルーナはエルヴィスとアリーと共に小屋にあった梯子を抱え、急いで坂道を下りて行った。
「ゼスランさん。遅くなってすまない、大丈夫か?」
エルヴィスが細い山道のど真ん中に大きく開いた落とし穴の中を覗き込むと、底に座り込んでいた男性が立ち上がりながら、申し訳なさそうに言葉を返した。
「あ、村長さん。なんとか大丈夫みたいです。あちこち打ちましたが、骨折はしていないと思いますし。案内をお願いした上に、お騒がせして申し訳ない」
「いや、それなら良いんだが。取り敢えず梯子を持ってきたから、これで上がってきてくれ」
「ありがとうございます。助かりました」
自身の身長より深さがあり、手を伸ばしてもその縁に届くかどうかという穴に、ゼスランは最初驚き、次いで呆気に取られていたが、少々時間が経った今となっては平常心を取り戻していた。すると木製の梯子が見え、穴の中にゆっくりと下りてきた。
「よいしょっと……、どうぞ。これで上がって来てください」
「……え?」
「初めまして。間違っていたらすみません。ひょっとして、お母さんのお兄さんですか?」
梯子の端を掴んでいる少女の容姿が、記憶にある妹の子供の頃のそれと重なり、ゼスランの目が驚きで見開かれた。更にもう一人幼い少女が彼女の隣に現れ、無邪気に声をかけてくる。
「こんにちは! わなに落ちちゃったのね。だいじょうぶ?」
「まさか……、ロザリーの娘のルーナ? それに、アリー?」
「はい」
「うん!」
ルーナが淡々とアリーが笑顔で頷くと、ゼスランは梯子を掴んだまま上を見上げ、地上に上がるのを忘れて号泣し始めた。
「う、うぉおぉぉっ! 二人とも、こんなに大きくなっていたとはぁあぁぁっ!」
「ええと……、ゼスランさん。取り敢えず泣くのは後にして、上がってきてください」
そのまま穴の底で泣き崩れそうなゼスランを、エルヴィスは宥めつつ上がってくるように促した。そして少々怖い顔でルーナを振り返り、ある事について問いただす。
「ルーナ。ここに来る道すがらゼスランさんに聞いたが、親父さんが死んだのを、ロザリーさんの実家に知らせていなかったそうだな?」
「だって、知らせるもなにも、お父さんとお母さんからかなり前に結婚の時の話を聞いていただけで、母さんの実家の人達とは一度も会ったことはないし、どこに住んでいるかも知らないし」
少々居心地悪そうにルーナが面会すると、エルヴィスが盛大に溜め息を吐いてから話を続ける。
「全く……。親父さんが崖から転落して死んだのが村の端だったから、すぐに村人が気づいて葬儀まで滞りなく済ませてやれたが」
「その節は、本当にありがとうございました。村の皆さんにも、大変お世話になりました」
「そうじゃなくて! その時に『子供だけでは生活できないだろうが、村は貧しくて引き取って面倒は見れる者はいないだろうし、こちらで大きな街の孤児院に入る手続きをしようか?』と言った時に、『親戚に連絡を取って、面倒を見て貰うから大丈夫』と私達に言ったよな!?」
「確かに言いましたね……」
さすがに弁解できない事実を持ち出され、ルーナは神妙に頷く。
「それ以降三ヶ月、二人とも村には降りてきていなかったから……。村ではてっきり、少し薄情だが挨拶なしで小屋を引き払って、親戚のところに引き取られたのだと思っていたのに……。子供二人だけで山中暮らしをしていたとは、一体全体どういう了見だ!?」
「村長さん、おこらないで! 私が遠くに行くのがいやっていったの!!」
子供二人の面倒も見ることができず、住み慣れた山から追い出してしまったとこれまで自責の念に駆られていただけに、蓋を開けてみれば本人達がそのまま悠々自適の生活をしていたのが判明して、エルヴィスは呆れるやら安堵するやらかなり複雑な心境に陥っていた。それゆえに無意識に声を荒らげると、アリーが彼に飛びつきながら涙声で訴えてくる。続けて「うわぁあぁぁ――ん!」と大声で泣きだしてしまったため、そんなつもりではなかったエルヴィスが、狼狽しながらアリーを宥め始めた。
「あ、いや、アリー。怒ってはいないぞ? ただ、村の皆が身寄りがないお前達のことを、とても心配していたからな」
ここでルーナは、必死に弁解するエルヴィスと泣きわめいているアリーから、穴から出て来たゼスランに視線を移した。
「ええと、伯父さんは父さんが死んだのを知って、私達の所に来たのかと思いますが、私が知らせていないのに、どうしてそれを知ったんですか?」
その最大な疑問をぶつけてみると、ゼスランは苦笑しながらそれに答える。
「この村のリゼルさんという人が、ロザリーが存命中に懇意にしてくれていたそうで、自分を勘当した実家の話もしていたそうだ。それでお前達が、私達の所に引き取られたと思い込んだリゼルさんが、元気に暮らしているか様子を尋ねる手紙を送ってきてくれてね」
「リゼルさんが……。ああ、なるほど。納得しました」
村でも世話好きな老婦人のことを思い浮かべながら、ルーナは深く頷いた。
「それに色々書き連ねてあって、ロザリーがとっくに亡くなっていた上に、ダレンさんまで最近事故死したことを知ったんだ。それで驚いて、慌ててやって来たんだよ」
「え? まさか母さんが3年前に死んだのも、知らなかったんですか?」
「ああ……、その連絡を貰えていなくてね……」
項垂れたゼスランを見て、それが真実だと悟ったルーナは、さすがに死んだ父親の行為を非難した。
「父さん……。幾ら結婚を反対されて母さんが勘当されているからって、一応手紙の一通くらいは……。確かに実家の住所が分かるものが全く無かったけど、徹底していたのね」
苦々しい口調でそう呟いたルーナは、心底申し訳なく思いながらゼスランに頭を下げた。
「本当にすみません。母さんが死んでも連絡一つよこさないなんて、なんて薄情な人達だと今の今まで思っていました」
その謝罪を聞いたゼスランは、小さく首を振って彼女を宥める。
「それは君の責任ではないし、ロザリーと結婚する時の経緯を考えれば、ダレンさんが私達に隔意を持つのは当然だから。それでダレンさんの死をこちらに積極的に知らせる気にはならなかったし、連絡先も分からなかったんだね……。事情は良く分かったよ。取り敢えず二人の墓参りをさせて貰ってから、話をさせて欲しいのだが」
「分かりました。お墓は家のすぐ裏手に作ってありますから、案内します。それから家の中で、話をしましょう」
「ああ、よろしく頼むよ」
そこで話は纏まり、アリーが漸く泣き止んだこともあって、四人は揃って山道を歩き始めた。
少ししてルーナ達が住んでいる山小屋に到着し、そのまま裏手の少し開けた場所に移動する。そこに比較的平らな石が二つ並んで地面に置いてあり、その簡素過ぎる墓を見てゼスランは微妙に泣きそうな顔になったものの、そのまま無言で祈りの言葉を呟いた。
それからゼスランと話をすることになり、ここまで彼を案内してきたエルヴィスは村に戻ることにした。
「村長さん。伯父さんをここまで案内してくれて、ありがとうございました」
「いや、大したことではないから。それから、そちらの馬車をうちで預かっているから、帰る時はルーナが村まで送ってくれるかな? また罠にかかったりすると危ないから」
「分かりました。そうします」
坂道を下っていくエルヴィスを見送ってから、残った三人は小屋の中に入り、決して広いとは言えない室内で、お手製のテーブルを挟んで向かい合った。
「よし、今日もしっかり食料確保。これで充分ね」
若冠十二歳にも関わらず、父親から手ほどきされた弓の腕を発揮して野鳥を二羽仕留めた彼女は、昼を過ぎたところで住居としている山小屋に戻った。
「おねえちゃん、水汲みは終わったよ! あと、粉もひいておいた!」
留守番をしていた妹のアリーも、六歳ながら自分ができることは全て自分で済ませる生活に何の疑問も不満も持っておらず、この間の成果を姉に報告する。
「ありがとう。じゃあこの鳥を裏に吊るして血抜きしたら、少し休むわ。その後でパンを焼くから」
「うん! 鳥につかう、香草を準備しておくね!」
「お願い」
そこで姉妹で顔を見合わせてにっこり笑ったところで、生い茂った木々の向こうから、微かな声が伝わってきた。
「……ルーナ! アリー! 大変だぁぁっ!」
「え? なに?」
「今、村長さんの声が、微かに聞こえたような……」
反射的に二人とも声がした方に視線を向けてから、アリーが姉を見上げながら尋ねる。
「村長さん、ここに来る用があったの?」
「ううん、別に? だって私達、ここにはいないことになっているし」
「あ……、そうだよね。それじゃあ、どうしよう……。隠れる?」
心配そうに尋ねてきた妹に、ルーナは明るい笑顔で返した。
「洗濯物も干しているし、ここで生活しているのがバレバレよ。笑って誤魔化せばいいわ。現にこれまで三ヶ月、何事もなく暮らせたんだから、今更ガタガタ言われないと思うし。それでこれからは、時々村に行って物々交換させて貰うから。まだ大丈夫だけど、さすがに塩とか油とか山の中だと調達は無理だし、そろそろ在庫が切れそうだから自給自足生活は潮時かなと思っていたの。あと布地とか、たまにはフカフカのパンも欲しいしね。うちの石窯だと、どうしても硬くなっちゃうし……」
「そうか。じゃあ村長さんに、挨拶してもいい?」
「構わないわ」
「分かった。……そんちょーさぁあーん! こんにちはぁー!」
姉の許可を取ったアリーは、小屋がある開けた場所から麓に向かって曲がりくねりながら続いている坂道に向かって、大声で呼びかけた。すると少しして木々の間から姿を見せた、麓の村の長であるエルヴィスが、息を切らしながら坂道を上がってくる。
「ルーナ! 獣道ではない普通の道に、どうして獣用の罠を仕掛けるんだ!? しかも子供なのに、どうやってあんな大人が落ちる深い穴が掘れたんだ!?」
「穴堀りに、ちょっとしたコツがあるの。それにあそこはいつも人が通らないし、私やアリーは場所が分かるから良いかと思って。村長さんもここまで無事に来れたから、問題ないでしょう?」
不思議そうに首を傾げたルーナだったが、エルヴィスが声を荒らげながら訴えてくる。
「俺は無事だが、客人が穴に嵌まって出られなくなったんだ!! 早く助け出さないと! 手を貸してくれ!」
「お客? こんな山奥に、誰のお客ですか?」
「お前達2人の客で、お前達の伯父さんだ! それより、梯子はないか!?」
「……伯父さんですって?」
「おねえちゃん?」
予想外のエルヴィスの話を聞いて、ルーナは驚きに目を見張り、その様子を見たアリーは不安そうに姉を見上げた。しかしさすがに怪我をしているかもしれない人物を放置することなどできず、詳しい話は後ですることにして、ルーナはエルヴィスとアリーと共に小屋にあった梯子を抱え、急いで坂道を下りて行った。
「ゼスランさん。遅くなってすまない、大丈夫か?」
エルヴィスが細い山道のど真ん中に大きく開いた落とし穴の中を覗き込むと、底に座り込んでいた男性が立ち上がりながら、申し訳なさそうに言葉を返した。
「あ、村長さん。なんとか大丈夫みたいです。あちこち打ちましたが、骨折はしていないと思いますし。案内をお願いした上に、お騒がせして申し訳ない」
「いや、それなら良いんだが。取り敢えず梯子を持ってきたから、これで上がってきてくれ」
「ありがとうございます。助かりました」
自身の身長より深さがあり、手を伸ばしてもその縁に届くかどうかという穴に、ゼスランは最初驚き、次いで呆気に取られていたが、少々時間が経った今となっては平常心を取り戻していた。すると木製の梯子が見え、穴の中にゆっくりと下りてきた。
「よいしょっと……、どうぞ。これで上がって来てください」
「……え?」
「初めまして。間違っていたらすみません。ひょっとして、お母さんのお兄さんですか?」
梯子の端を掴んでいる少女の容姿が、記憶にある妹の子供の頃のそれと重なり、ゼスランの目が驚きで見開かれた。更にもう一人幼い少女が彼女の隣に現れ、無邪気に声をかけてくる。
「こんにちは! わなに落ちちゃったのね。だいじょうぶ?」
「まさか……、ロザリーの娘のルーナ? それに、アリー?」
「はい」
「うん!」
ルーナが淡々とアリーが笑顔で頷くと、ゼスランは梯子を掴んだまま上を見上げ、地上に上がるのを忘れて号泣し始めた。
「う、うぉおぉぉっ! 二人とも、こんなに大きくなっていたとはぁあぁぁっ!」
「ええと……、ゼスランさん。取り敢えず泣くのは後にして、上がってきてください」
そのまま穴の底で泣き崩れそうなゼスランを、エルヴィスは宥めつつ上がってくるように促した。そして少々怖い顔でルーナを振り返り、ある事について問いただす。
「ルーナ。ここに来る道すがらゼスランさんに聞いたが、親父さんが死んだのを、ロザリーさんの実家に知らせていなかったそうだな?」
「だって、知らせるもなにも、お父さんとお母さんからかなり前に結婚の時の話を聞いていただけで、母さんの実家の人達とは一度も会ったことはないし、どこに住んでいるかも知らないし」
少々居心地悪そうにルーナが面会すると、エルヴィスが盛大に溜め息を吐いてから話を続ける。
「全く……。親父さんが崖から転落して死んだのが村の端だったから、すぐに村人が気づいて葬儀まで滞りなく済ませてやれたが」
「その節は、本当にありがとうございました。村の皆さんにも、大変お世話になりました」
「そうじゃなくて! その時に『子供だけでは生活できないだろうが、村は貧しくて引き取って面倒は見れる者はいないだろうし、こちらで大きな街の孤児院に入る手続きをしようか?』と言った時に、『親戚に連絡を取って、面倒を見て貰うから大丈夫』と私達に言ったよな!?」
「確かに言いましたね……」
さすがに弁解できない事実を持ち出され、ルーナは神妙に頷く。
「それ以降三ヶ月、二人とも村には降りてきていなかったから……。村ではてっきり、少し薄情だが挨拶なしで小屋を引き払って、親戚のところに引き取られたのだと思っていたのに……。子供二人だけで山中暮らしをしていたとは、一体全体どういう了見だ!?」
「村長さん、おこらないで! 私が遠くに行くのがいやっていったの!!」
子供二人の面倒も見ることができず、住み慣れた山から追い出してしまったとこれまで自責の念に駆られていただけに、蓋を開けてみれば本人達がそのまま悠々自適の生活をしていたのが判明して、エルヴィスは呆れるやら安堵するやらかなり複雑な心境に陥っていた。それゆえに無意識に声を荒らげると、アリーが彼に飛びつきながら涙声で訴えてくる。続けて「うわぁあぁぁ――ん!」と大声で泣きだしてしまったため、そんなつもりではなかったエルヴィスが、狼狽しながらアリーを宥め始めた。
「あ、いや、アリー。怒ってはいないぞ? ただ、村の皆が身寄りがないお前達のことを、とても心配していたからな」
ここでルーナは、必死に弁解するエルヴィスと泣きわめいているアリーから、穴から出て来たゼスランに視線を移した。
「ええと、伯父さんは父さんが死んだのを知って、私達の所に来たのかと思いますが、私が知らせていないのに、どうしてそれを知ったんですか?」
その最大な疑問をぶつけてみると、ゼスランは苦笑しながらそれに答える。
「この村のリゼルさんという人が、ロザリーが存命中に懇意にしてくれていたそうで、自分を勘当した実家の話もしていたそうだ。それでお前達が、私達の所に引き取られたと思い込んだリゼルさんが、元気に暮らしているか様子を尋ねる手紙を送ってきてくれてね」
「リゼルさんが……。ああ、なるほど。納得しました」
村でも世話好きな老婦人のことを思い浮かべながら、ルーナは深く頷いた。
「それに色々書き連ねてあって、ロザリーがとっくに亡くなっていた上に、ダレンさんまで最近事故死したことを知ったんだ。それで驚いて、慌ててやって来たんだよ」
「え? まさか母さんが3年前に死んだのも、知らなかったんですか?」
「ああ……、その連絡を貰えていなくてね……」
項垂れたゼスランを見て、それが真実だと悟ったルーナは、さすがに死んだ父親の行為を非難した。
「父さん……。幾ら結婚を反対されて母さんが勘当されているからって、一応手紙の一通くらいは……。確かに実家の住所が分かるものが全く無かったけど、徹底していたのね」
苦々しい口調でそう呟いたルーナは、心底申し訳なく思いながらゼスランに頭を下げた。
「本当にすみません。母さんが死んでも連絡一つよこさないなんて、なんて薄情な人達だと今の今まで思っていました」
その謝罪を聞いたゼスランは、小さく首を振って彼女を宥める。
「それは君の責任ではないし、ロザリーと結婚する時の経緯を考えれば、ダレンさんが私達に隔意を持つのは当然だから。それでダレンさんの死をこちらに積極的に知らせる気にはならなかったし、連絡先も分からなかったんだね……。事情は良く分かったよ。取り敢えず二人の墓参りをさせて貰ってから、話をさせて欲しいのだが」
「分かりました。お墓は家のすぐ裏手に作ってありますから、案内します。それから家の中で、話をしましょう」
「ああ、よろしく頼むよ」
そこで話は纏まり、アリーが漸く泣き止んだこともあって、四人は揃って山道を歩き始めた。
少ししてルーナ達が住んでいる山小屋に到着し、そのまま裏手の少し開けた場所に移動する。そこに比較的平らな石が二つ並んで地面に置いてあり、その簡素過ぎる墓を見てゼスランは微妙に泣きそうな顔になったものの、そのまま無言で祈りの言葉を呟いた。
それからゼスランと話をすることになり、ここまで彼を案内してきたエルヴィスは村に戻ることにした。
「村長さん。伯父さんをここまで案内してくれて、ありがとうございました」
「いや、大したことではないから。それから、そちらの馬車をうちで預かっているから、帰る時はルーナが村まで送ってくれるかな? また罠にかかったりすると危ないから」
「分かりました。そうします」
坂道を下っていくエルヴィスを見送ってから、残った三人は小屋の中に入り、決して広いとは言えない室内で、お手製のテーブルを挟んで向かい合った。
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