悪役令嬢の怠惰な溜め息
(4)追い付かない時代
その日、全ての授業が終わり、生徒達が安堵した表情で荷物を纏め始ると、グラディクトが突然大声を上げて立ち上がった。
「全員、教室から出るな! 私から話がある!」
「何だ?」
「グラディクト殿下?」
「話とは何事かしら?」
あちこちでざわめきが生じる中、グラディクトは前方に進み、一段高い所から教室内を見回しながらクラスメートに言い聞かせた。
「皆、揃っているな? それではこれから音楽祭についてのアンケート用紙を配るから、該当する項目に丸を付けたり、必要な事を書き込め。そして全ての記入が終わった者からこちらに提出して、教室を出て行くように」
そう説明した彼が、手にしている用紙を三分割して前方の席に座っている者に手渡し、後ろに回すように指示すると、順調に用紙は後方へ手渡しされていったが、生徒達のざわめきは益々大きくなった。
「はぁ?」
「アンケート用紙?」
「音楽祭って……、今年も開催するのですか?」
しかし前方でグラディクトが睨みをきかせ、加えてエセリアの様子を窺えば、早速鞄にしまったペンと携帯用のインク壷を取り出し、何やら用紙に書き込み始めている為、クラスメート達は次第に囁き声を収めて記入を始めた。そして記入を終え、帰り支度を済ませた者から席を立ち、グラディクトの目の前にある教卓に用紙を置いて、教室を出て行く。
(ふっ、着々と集まっているな。この用紙は無記名だし、これならエセリアに反感を持っている者達も、遠慮せずに書ける筈。それに音楽好きの者は多い筈だから、数多くの賛同者が集まる筈だ)
計画の成功を信じて疑わない彼の目の前に、エセリアがアンケート用紙を手にして現れる。
「殿下。こちらに置けば宜しいのですね?」
「ああ、もう行って良い」
「それでは失礼します」
(そんな取り澄ました顔ができるのも、今のうちだぞ)
落ち着き払った余裕の笑みを振り撒きつつ、その場を後にしたエセリアに対して、グラディクトは内心で悪態を吐いた。
「どうだ? 貴族科上級学年は私が集めたが、他はちゃんと集まったか?」
全員の用紙を回収し、意気揚々と教室を出て統計学資料室に向かったグラディクトは、その道すがら側付き達と合流した。その直後に問われた内容に、三人が揃って頷く。
「はい、大丈夫です」
「私達で官吏科上級学年、官吏科下級学年、騎士科上級学年のクラス分を集めました」
「用紙はこちらになります」
「順調だな。貴族科下級学年分はアリステアが集めているし、明日で全生徒分の回収ができるぞ」
手渡された用紙の束を目にして、グラディクトはご満悦で頷いたが、その余裕は目的地に到着するまでだった。
「グラディクト様!」
「どうしたアリステア?」
既に室内にいたアリステアが自分達がやって来ると同時に立ち上がり、涙目で駆け寄った為、グラディクトは本気で驚いた。そんな彼に向かって、彼女が声高に訴える。
「酷いんです! 誰もアンケート用紙に記入してくれないんです! それどころか、用紙を受け取ってもくれなくて、呼びかけた私を無視して次々教室を出て行ってしまって! 『どうしてそんな訳の分からない物で、引き止められるんだ』とか、『音楽祭なんて必要無いし、意見を取るまでもない』とか言って!」
「何て無礼な奴らだ! 許せん!」
彼女の訴えにグラディクトは本気で腹を立てたが、彼の背後に立っている側付き達は、しらけた目を二人に向けた。
(いきなりどうでも良い用事で引き止められたら、誰だってそれ位言うだろ。大体、音楽祭なんて代物の開催を本心から望んでいるのは、あんた達だけだ)
そんな事を考えながら傍観していると、グラディクトが苛立たしげに言い出す。
「やはり貴族科だから、エセリアの息がかかっていたのに違いない。アリステアがアンケートへの記入を訴えても無視しろと、圧力をかけていたんだろう」
「やっぱりそうですよね!? 皆さん、私と顔を合わせないようにして、教室を出て行きましたし!」
(それはどう考えても違うだろ。事前にアンケートの話なんかしてないし、係わり合いにもなりたくないから、目を逸らしていただけだ)
各自が担当した教室でアンケートの説明をした際に、複数の生徒から不満を訴えられたり、引き止めた事に対して非難されていた側付き達は、それでも余計な事は言わずに無言を貫いた。
「分かった。安心しろ、アリステア。明日は私が貴族科下級学年の教室に出向いて、最初に睨みを利かせてやる。それから騎士科下級学年の教室にも行って、アンケートを回収するから」
「ありがとうございます!」
「お前達は明日は教養科の三教室に行って、しっかり回収して来い」
「……畏まりました」
見当違いの義憤に駆られているグラディクトを無表情で眺めていた側付き達は、そこで恭しく頭を下げて話を終わらせ、二人を残して早々に部屋から出て行った。
同じ頃、何人かの人物を探していたエセリアは、そのうちの一人が前方を歩いているのを首尾良く発見し、声をかけた。
「セレーネ様、少々お時間を頂けないでしょうか?」
背後からのその声に、レオノーラやごく親しい友人達と共に談笑しながら歩いていたセレーネは、驚いて足を止めて振り返った。
「エセリア様? 私に何かお話が?」
「はい、すぐに済みますので。勿論、皆様に聞いて頂いても構いません」
「何でございましょう?」
「今日、殿下が音楽祭に関してのアンケートをお願いしましたでしょう? その中に『参加を希望するか否か』の項目がありましたが、セレーネ様がどうお答えになったかと思いまして」
それを聞いた途端、セレーネが僅かに顔を歪め、彼女の背後に立つレオノーラを含む三人は、無言で顔を見合わせた。
「……エセリア様のお話と言うのは、音楽祭への参加要請ですか?」
すぐにセレーネが慎重に問い返すと、エセリアはそれに真顔で首を振る。
「いえ、そんな事は。私も参加に関しては『否』と書きましたし」
「エセリア様は、お出になられないのですか?」
本気でセレーネが驚き、周りの者も呆気に取られる中、エセリアは落ち着き払って話を続けた。
「出る出ない以前に、私は音楽祭など開催する必要は無いと考えております」
「何故ですか? あなたは昨年、革新的な演奏をなさいましたのに」
思わず問い質したレオノーラにも、エセリアは理路整然と答える。
「あれはグラディクト殿下が、開催を教授方に決定させた後に参加要請されたので、殿下の顔を潰さない為に仕方無く……、ですわ。出るならば立場上、それなりの発表をしなければいけません。ですが現時点では、殿下が開催を教授方に認めさせる為に、意見集約をしているだけですから」
「…………」
それを聞いて再び押し黙った四人に向かって、エセリアは冷静に現状分析をしてみせた。
「確かに昨年のあの演奏は、画期的だと持て囃されました。ですが大規模な会場で多人数に向けての演奏や興行をするには、まだ社会的に期が熟していないと私は考えています。それは大衆に幅広い娯楽がもっと行き渡る、もう少し先の話ではないかと。音楽を楽しむ場としては、まだまだ小規模でのサロン形式が主流でしょう」
彼女がそう主張すると、セレーネは傍目にもはっきり分かるほどに安堵しながら、それに賛同した。
「私も同様に感じておりました。やはり昨年は、随分勝手が違っていて……。エセリア様にそう言って頂けて、安心致しましたわ」
「ええ、ですから本当に参加要請などは致しませんからご安心なさって」
「ですが……、殿下はどうお考えでしょう? いきなりあんなアンケートとやらを持ち出す位ですのよ?」
ここで難しい顔で考え込みながらレオノーラが懸念を口にした為、その場の空気が重くなりかけた。しかしここでエセリアが、落ち着き払ってある提案をする。
「私が懸念しているのも、そこなのです。参加者が少ないと、昨年の参加者に参加を強要しかねません。それでセレーネ様が参加を希望されないなら、私の名前を出してお断りなさって下さって結構です。それをお伝えしたかったのですわ」
「エセリア様のお名前を、ですか?」
言われた意味が咄嗟に理解できず、口ごもったセレーネだったが、レオノーラはすぐに彼女の意図するところを悟った。
「それはつまり……、『昨年のエセリア様の演奏と比べたら、同じ場に立つのは恐れ多い』とか『エセリア様がお出にならないのに、私如きが出るわけにはいきません』とか申し立てて、固辞すれば良いと仰る?」
「話が早くて助かります。バリエーションはお任せしますわ」
「本当にそんな事を口にして、宜しいのですか?」
半ば驚きながら確認を入れたセレーネに、エセリアは力強く頷いてみせた。
「勿論です。殿下からの苦情は、私が纏めて引き受けます。遠慮無く、私に回して下さいませ」
そこまで話を聞いたレオノーラの判断は、実に早かった。
「分かりました。セレーネ、ルディス、キリエ。私達で手分けして、昨年の音楽祭出場者に、今の話を伝えましょう。やはり参加者は、貴族科に所属している方が多かった筈ですから」
「助かります。と言うか、実はそう言って頂けるのを当てにして、先に今年の教養科で有望な方や、官吏科や騎士科での参加者から、説明に回っておりましたの」
打てば響くようなエセリアの物言いに、レオノーラは苦笑しながら言葉を返した。
「まあ……、それでは私、体よくエセリア様に使われる事になりますのね?」
「甘んじて、使われて頂ければ嬉しいです」
「使われましょう」
そこでレオノーラ達から全面的な協力を得られたエセリアは、笑顔で彼女達と別れて廊下を進んだ。
(これで何とか、希望しない生徒に参加を無理強いさせる事は防げそうだわ。勿論、本当に参加したい人がいるのなら、邪魔する気は無いんだけど……。やっぱりああいう広い所での大音響の演奏は、まだまだ時代が追い付いていないわね)
しみじみとそんな事を考えたエセリアだったが、すぐに意識を切り替えて、次に取るべき対策を考え始めた。
「全員、教室から出るな! 私から話がある!」
「何だ?」
「グラディクト殿下?」
「話とは何事かしら?」
あちこちでざわめきが生じる中、グラディクトは前方に進み、一段高い所から教室内を見回しながらクラスメートに言い聞かせた。
「皆、揃っているな? それではこれから音楽祭についてのアンケート用紙を配るから、該当する項目に丸を付けたり、必要な事を書き込め。そして全ての記入が終わった者からこちらに提出して、教室を出て行くように」
そう説明した彼が、手にしている用紙を三分割して前方の席に座っている者に手渡し、後ろに回すように指示すると、順調に用紙は後方へ手渡しされていったが、生徒達のざわめきは益々大きくなった。
「はぁ?」
「アンケート用紙?」
「音楽祭って……、今年も開催するのですか?」
しかし前方でグラディクトが睨みをきかせ、加えてエセリアの様子を窺えば、早速鞄にしまったペンと携帯用のインク壷を取り出し、何やら用紙に書き込み始めている為、クラスメート達は次第に囁き声を収めて記入を始めた。そして記入を終え、帰り支度を済ませた者から席を立ち、グラディクトの目の前にある教卓に用紙を置いて、教室を出て行く。
(ふっ、着々と集まっているな。この用紙は無記名だし、これならエセリアに反感を持っている者達も、遠慮せずに書ける筈。それに音楽好きの者は多い筈だから、数多くの賛同者が集まる筈だ)
計画の成功を信じて疑わない彼の目の前に、エセリアがアンケート用紙を手にして現れる。
「殿下。こちらに置けば宜しいのですね?」
「ああ、もう行って良い」
「それでは失礼します」
(そんな取り澄ました顔ができるのも、今のうちだぞ)
落ち着き払った余裕の笑みを振り撒きつつ、その場を後にしたエセリアに対して、グラディクトは内心で悪態を吐いた。
「どうだ? 貴族科上級学年は私が集めたが、他はちゃんと集まったか?」
全員の用紙を回収し、意気揚々と教室を出て統計学資料室に向かったグラディクトは、その道すがら側付き達と合流した。その直後に問われた内容に、三人が揃って頷く。
「はい、大丈夫です」
「私達で官吏科上級学年、官吏科下級学年、騎士科上級学年のクラス分を集めました」
「用紙はこちらになります」
「順調だな。貴族科下級学年分はアリステアが集めているし、明日で全生徒分の回収ができるぞ」
手渡された用紙の束を目にして、グラディクトはご満悦で頷いたが、その余裕は目的地に到着するまでだった。
「グラディクト様!」
「どうしたアリステア?」
既に室内にいたアリステアが自分達がやって来ると同時に立ち上がり、涙目で駆け寄った為、グラディクトは本気で驚いた。そんな彼に向かって、彼女が声高に訴える。
「酷いんです! 誰もアンケート用紙に記入してくれないんです! それどころか、用紙を受け取ってもくれなくて、呼びかけた私を無視して次々教室を出て行ってしまって! 『どうしてそんな訳の分からない物で、引き止められるんだ』とか、『音楽祭なんて必要無いし、意見を取るまでもない』とか言って!」
「何て無礼な奴らだ! 許せん!」
彼女の訴えにグラディクトは本気で腹を立てたが、彼の背後に立っている側付き達は、しらけた目を二人に向けた。
(いきなりどうでも良い用事で引き止められたら、誰だってそれ位言うだろ。大体、音楽祭なんて代物の開催を本心から望んでいるのは、あんた達だけだ)
そんな事を考えながら傍観していると、グラディクトが苛立たしげに言い出す。
「やはり貴族科だから、エセリアの息がかかっていたのに違いない。アリステアがアンケートへの記入を訴えても無視しろと、圧力をかけていたんだろう」
「やっぱりそうですよね!? 皆さん、私と顔を合わせないようにして、教室を出て行きましたし!」
(それはどう考えても違うだろ。事前にアンケートの話なんかしてないし、係わり合いにもなりたくないから、目を逸らしていただけだ)
各自が担当した教室でアンケートの説明をした際に、複数の生徒から不満を訴えられたり、引き止めた事に対して非難されていた側付き達は、それでも余計な事は言わずに無言を貫いた。
「分かった。安心しろ、アリステア。明日は私が貴族科下級学年の教室に出向いて、最初に睨みを利かせてやる。それから騎士科下級学年の教室にも行って、アンケートを回収するから」
「ありがとうございます!」
「お前達は明日は教養科の三教室に行って、しっかり回収して来い」
「……畏まりました」
見当違いの義憤に駆られているグラディクトを無表情で眺めていた側付き達は、そこで恭しく頭を下げて話を終わらせ、二人を残して早々に部屋から出て行った。
同じ頃、何人かの人物を探していたエセリアは、そのうちの一人が前方を歩いているのを首尾良く発見し、声をかけた。
「セレーネ様、少々お時間を頂けないでしょうか?」
背後からのその声に、レオノーラやごく親しい友人達と共に談笑しながら歩いていたセレーネは、驚いて足を止めて振り返った。
「エセリア様? 私に何かお話が?」
「はい、すぐに済みますので。勿論、皆様に聞いて頂いても構いません」
「何でございましょう?」
「今日、殿下が音楽祭に関してのアンケートをお願いしましたでしょう? その中に『参加を希望するか否か』の項目がありましたが、セレーネ様がどうお答えになったかと思いまして」
それを聞いた途端、セレーネが僅かに顔を歪め、彼女の背後に立つレオノーラを含む三人は、無言で顔を見合わせた。
「……エセリア様のお話と言うのは、音楽祭への参加要請ですか?」
すぐにセレーネが慎重に問い返すと、エセリアはそれに真顔で首を振る。
「いえ、そんな事は。私も参加に関しては『否』と書きましたし」
「エセリア様は、お出になられないのですか?」
本気でセレーネが驚き、周りの者も呆気に取られる中、エセリアは落ち着き払って話を続けた。
「出る出ない以前に、私は音楽祭など開催する必要は無いと考えております」
「何故ですか? あなたは昨年、革新的な演奏をなさいましたのに」
思わず問い質したレオノーラにも、エセリアは理路整然と答える。
「あれはグラディクト殿下が、開催を教授方に決定させた後に参加要請されたので、殿下の顔を潰さない為に仕方無く……、ですわ。出るならば立場上、それなりの発表をしなければいけません。ですが現時点では、殿下が開催を教授方に認めさせる為に、意見集約をしているだけですから」
「…………」
それを聞いて再び押し黙った四人に向かって、エセリアは冷静に現状分析をしてみせた。
「確かに昨年のあの演奏は、画期的だと持て囃されました。ですが大規模な会場で多人数に向けての演奏や興行をするには、まだ社会的に期が熟していないと私は考えています。それは大衆に幅広い娯楽がもっと行き渡る、もう少し先の話ではないかと。音楽を楽しむ場としては、まだまだ小規模でのサロン形式が主流でしょう」
彼女がそう主張すると、セレーネは傍目にもはっきり分かるほどに安堵しながら、それに賛同した。
「私も同様に感じておりました。やはり昨年は、随分勝手が違っていて……。エセリア様にそう言って頂けて、安心致しましたわ」
「ええ、ですから本当に参加要請などは致しませんからご安心なさって」
「ですが……、殿下はどうお考えでしょう? いきなりあんなアンケートとやらを持ち出す位ですのよ?」
ここで難しい顔で考え込みながらレオノーラが懸念を口にした為、その場の空気が重くなりかけた。しかしここでエセリアが、落ち着き払ってある提案をする。
「私が懸念しているのも、そこなのです。参加者が少ないと、昨年の参加者に参加を強要しかねません。それでセレーネ様が参加を希望されないなら、私の名前を出してお断りなさって下さって結構です。それをお伝えしたかったのですわ」
「エセリア様のお名前を、ですか?」
言われた意味が咄嗟に理解できず、口ごもったセレーネだったが、レオノーラはすぐに彼女の意図するところを悟った。
「それはつまり……、『昨年のエセリア様の演奏と比べたら、同じ場に立つのは恐れ多い』とか『エセリア様がお出にならないのに、私如きが出るわけにはいきません』とか申し立てて、固辞すれば良いと仰る?」
「話が早くて助かります。バリエーションはお任せしますわ」
「本当にそんな事を口にして、宜しいのですか?」
半ば驚きながら確認を入れたセレーネに、エセリアは力強く頷いてみせた。
「勿論です。殿下からの苦情は、私が纏めて引き受けます。遠慮無く、私に回して下さいませ」
そこまで話を聞いたレオノーラの判断は、実に早かった。
「分かりました。セレーネ、ルディス、キリエ。私達で手分けして、昨年の音楽祭出場者に、今の話を伝えましょう。やはり参加者は、貴族科に所属している方が多かった筈ですから」
「助かります。と言うか、実はそう言って頂けるのを当てにして、先に今年の教養科で有望な方や、官吏科や騎士科での参加者から、説明に回っておりましたの」
打てば響くようなエセリアの物言いに、レオノーラは苦笑しながら言葉を返した。
「まあ……、それでは私、体よくエセリア様に使われる事になりますのね?」
「甘んじて、使われて頂ければ嬉しいです」
「使われましょう」
そこでレオノーラ達から全面的な協力を得られたエセリアは、笑顔で彼女達と別れて廊下を進んだ。
(これで何とか、希望しない生徒に参加を無理強いさせる事は防げそうだわ。勿論、本当に参加したい人がいるのなら、邪魔する気は無いんだけど……。やっぱりああいう広い所での大音響の演奏は、まだまだ時代が追い付いていないわね)
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