夢見る頃を過ぎても

篠原皐月

第2話 男同士の話

 予め清香と打ち合わせ、佐竹邸を訪れた聡を玄関先で待っていたのは、満面の笑みを浮かべた彼女と、綺麗に表情を消した清人だった。


「聡さん、いらっしゃい!」
「やあ、清香さん。……お邪魔します、兄さん」
「……ああ」
 彼女の一歩後ろで出迎えた清人は、面白く無さそうに相槌を返したが、続く清香の台詞に怪訝な顔になった。


「じゃあ聡さん。私は出掛けてくるから、暫くここで待っていてね?」
「分かった」
「え? 清香、お前こいつと出掛けるんじゃなかったのか?」
(さあ、きたわよ。ここで上手くお兄ちゃんを、納得させないと!)
 その当然の兄の疑問に、清香が密かに気合いを入れながら理由を述べる。


「それが……、昨日由紀子さんと電話で話した時に、少し遅れたけど進級祝いに、何か服を買ってあげるからって話になったの」
「どうして?」
「由紀子さん、一度女の子を思う存分着飾らせて、服選びをしてみたかったんですって。でも子供は聡さん一人だったから、つまらなかったそうなの」
「確かに、こいつを着飾らせても、つまらんだろうな」
(言ってろ!)
 チラリと横目で眺めつつ、清人に同意された聡は内心憤慨したが、グッと堪えて我慢した。そして清香の訴えが続く。


「それで、これからデパートに連れて行って貰う事になっているの。下に車を停めて、中で由紀子さんとおじ様が待っているのよ」
「それで、こいつが呼びに来たわけか」
「そうなの。それで聡さんは買い物の邪魔だって、お二人に言われちゃって。だからここで待たせてあげて? 聡さんも、お兄ちゃんと折り入って話したい事があるらしいし。ねっ! 聡さん?」
「……はぁ」
「話?」
 不承不承といった感じで応じた聡を、清人が怪訝な顔で眺める。そんな兄に、清香は頼み込んだ。


「ねぇ、お兄ちゃん良いでしょう? 今日は暇だって言ってたし、聡さんにお付き合いしてあげて?」
 そんな妹を見下ろしながら、清人は小さく溜息を吐いた。そして真顔で、清香に幾つかの指示を出す。


「分かった。しかし清香、くれぐれも高価過ぎる物は」
「はい! 丁重にお断りします!」
「それから、あまりダラダラと」
「迷わず、長引かせて由紀子さんが疲れない様に、終始心掛けます!」
 最後まで言わせず、宣誓する様に右手をピシッと延ばしながら宣言した清香に、清人もつい口元を緩ませて軽く彼女の頭を撫でた。


「分かっているなら良い、行ってこい。こいつは戻るまで預かっているから」
「はい、行ってきます! ……聡さん、宜しくね」
「ああ」
 そして上機嫌の清香が玄関から出て行った途端、その場にはどこか寒々しい空気が漂った。


「お前が俺に話、とはね」
 腕組みして上から目線の清人に、聡はひたすら低姿勢で頭を下げる。
「お時間を取らせて、申し訳ありません」
「全くだ。茶を淹れるから、先に座って待ってろ」
「失礼します」
 奥に消えて行く清人の後を追って、聡は靴を脱いで上がり込み、真っすぐリビングへと足を進めた。


(はぁ、緊張する。只でさえここに入るのは、“あの時”以来だし)
 落ち着かない気分でソファに座っていると、暫くしてキッチンから湯呑茶碗を手にした清人がやって来て、テーブルを挟んで聡の反対側に座り、静かに茶を啜り始めた。
 しかし持参した茶碗は清人が手にしてきたそれだけで、当然聡の前には何も出ない。 


(茶を淹れるって、自分の分だけかよ!? ああ、忘れてましたね。あなたはそういう人でしたよ、兄さん!)
 かなりやさぐれた心境になった聡は、ここに来るまでに色々考えて注意深く構築してきた友好的な話の進め方を、半ば放棄する意思を固めた。


「さっさと話とやらを済ませろ。俺はお前とダラダラ世間話なんぞをする気は無い」
「えぇ、嬉しい事に、俺も全く同意見です。それでは単刀直入にお伺いしますが、兄さんは近々結婚のご予定は?」
「無い」
「そうですよね。できませんよね、その性格では」
 聡の(やってられるか)と半ば自棄になりながらの台詞に、清人が僅かに顔を顰める。


「……何が言いたい」
「今、言った通りの意味です」
「出て行け」
 冷たく言い放った清人だったが、今の聡はある意味怖いもの知らずだった。


「清香さんに、兄さんに叩き出されたと言い付けますよ?」
「さっさと自主的に消え失せろ。でないと」
「そうはいきません。清香さんに頼まれていますので」
「何をだ?」
 凄んでもびくともしない相手に清人が怪訝な顔を見せると、聡は正直に、清香からの頼み事を口にした。


「兄さんの好みの女性の傾向を、調べて欲しいと頼まれました」
「はあ?」
「それから男同士で、過去の恋バナで盛り上がって欲しいとも言われましたね」
 ここで意表を衝かれた様に、聡の顔をしげしげと眺めてから、清人は呆れた表情で吐き捨てた。


「無理だな。清香に役立たずと罵られろ」
「俺はそれでも構わないんですが、俺に適当にでも話しておかないと、清香さんから直接、連日根掘り葉掘り聞かれる羽目になりますよ?」
 今度は逆に聡が脅しめいた台詞を口にすると、如何にも嫌そうに清人が促す。


「……一応、理由を聞いておこうか」
 それを聞いて、聡は(よし、まずは話に乗ってこさせないとな)と第一関門を突破したのを喜びながら、そんな感情は面には出さずに真面目くさって言葉を継いだ。


「彼女、兄さんの縁談を、取り纏めたがっているんですよ。自分がくっ付いていたから、兄さんが婚期を逃しかけてると、随分気にしているんです」
「それと清香は無関係だ」
 そう即答した清人だったが、聡はわざとらしく首を振って見せた。


「俺もそう言ったんですが、聞く耳持ちません。過去に付き合った女性の傾向だけでも、俺に話しておくのが無難では無いですか? そうすれば清香さんは満足しますし、兄さんも清香さんに言いにくい事まで吐かせられる事は避けられると思いますが」
「……少し待っていろ」
 聡の言葉に一瞬思案顔になった清人は、聡にそのまま待つように言って席を立ち、リビングを出て行った。そして一人きりの室内で、一時緊張感から解放された聡が、大きく深呼吸する。


(ふっ……、緊張度が半端じゃない。もうどうにでもなれ)
 そして一分程でリビングに戻ってきた清人は、ファイルを一冊手にしていた。そして元の位置に座ってから、聡の前にそのファイルを放り投げる。


「ほら、これでも見ていけば充分だろう」
「あの……、これは?」
 目の前にバサッと無造作に投げられたファイルに手を伸ばし、恐る恐る聡がお伺いを立ててみると、あっさりとした答えが返ってきた。
「これまで付き合った女達の、個人データ集だ」
「はぁ?」
 ヒクリと顔を引き攣らせた聡だったが、取り敢えず中身を確認するべく表紙を開き、綴じられている用紙を捲ったが、幾らもいかないうちに激しい頭痛を覚えた。


(ちょっと待て、一人一枚で何枚有るんだ? それ以前に、各項目の内容が……。生年月日、身長体重とか、性格や食べ物の好き嫌いまでならまだしも、スリーサイズとか、セックスの相性の五段階評価とか、好きな体位とか。それにこの略名と記号らしき物は、ひょっとして……)
 血の繋がった兄の人間性を疑いかねない代物に、密かに衝撃を受けていた聡だったが、何とか声を絞り出した。


「あの、兄さん?」
「何だ。変な顔をして」
「このファイルに、これまで付き合った女性全員のデータが綴じられているんですか?」
 その質問に、清人が事も無げに答える。


「いや、違う。もう一つは今執筆に使ってるから、わざわざ机から持って来なかっただけだ。それは今は使っていないから、持って帰ってじっくり目を通して貰っても構わない」
(やっぱり、書こうとしている作品の、登場人物になりそうな女性を選んで付き合って、データを収集しているんですね。あなたって人は、どこまで最低な人間なんですか)
 がっくりと項垂れてページを捲る気力すら失われた聡に、どうやら追及は終わりかと思った清人は、淡々と声をかけた。


「それで満足だろう?」
「いいえ、不満です」
「何だと?」
(こんなのを見せたり内容を説明したら、清香さんがショックを受ける事確実だし。第一、兄さんがこの女性達に対して大した思い入れが無いのが明白だから、好みの傾向もへったくれも無いだろう!?)
 真っ向から否定されて、不機嫌そうな顔を見せた清人だったが、聡も兄のとんでもない一面を見せられて、内心怒りまくっていた。そして強い口調で言い切る。


「このファイルに載っている女性達には、失礼かもしれませんが、兄さんに取ってはこの女性達は、幾らでも取り替えが利く女性ですよね?」
「否定はしない」
(少し迷う素振り位しろよ、この鬼畜野郎!!)
 あっさりと断定されて、聡の苛つきは頂点に達した。


「ですから、俺が確認したいのは、どうでも良い女性のあれこれでは無いんです! 兄さんのこれまでの人生の中で、心を動かされた女性とかは、全く、ただの一人も、存在して居ないんですか!?」
 もう殆ど自棄になって聡が叫ぶ様に問い質した言葉に、清人は驚いた様に一瞬目を瞬いた。そして僅かに考え込みながら、静かに言葉を漏らす。


「心、か……。三人、居る事は居る、な」
「居るんですか!?」
 途端に喜色を露わにして喰い付いた聡を、清人が憮然として見やった。


「何だ、何か文句でも有るのか?」
「いえ、是非その女性のお話を聞かせて下さい! その人達は勿論、このファイルに載ってませんよね?」
「勿論だ。……しかし結構詮索好きな奴だな、お前。女には好かれんぞ?」
「清香さん以外の女性に好かれたいとは思いませんので、一向に構いません」
 真顔でそう言ってのけた聡を、面白く無さそうな表情で眺めてから、清人は小さく溜息を吐いた。


「言ってろ。じゃあ聞かせてやるから、最後まで黙って聞け」
「そうします」
 そうして聡が居住まいを正すと、清人は記憶を辿る様に徐に話し始めた。


「まず一人は……、彼女と初めて顔を合わせた時、俺は生まれて初めて、誰かの顔に見惚れるという体験をした」
「似合いませんね」
 思わず口を挟んでしまった聡に、清人が冷たい目を向ける。
「……止めるか」
「すみません! 以後は黙って拝聴させて頂きます!」
(ここで止められてたまるか!)
 聡も必死で頭を下げ、清人は忌々しげに舌打ちした。


「全く……」
「それで、因みにどんな方ですか?」
 恐る恐る続きを促した聡に、清人はそれほど気分を害した風でも無く、淡々と話を続けた。


「そうだな……、まず笑顔が素敵な女性で、声も鈴を転がす様なという表現がぴったりの人だった。その人から『これからずっと仲良くしてね? 清人君』と言われて、舞い上がりそうになったのを今でも覚えている。……思えば、あれが俺の初恋だな」
「そうですか」
(これは……、結構有望な話じゃ無いのか? ここでどんな相手だったのか聞き出せれば)
 密かに、そんな期待に胸を膨らませていた聡の耳に、ここで予想外の台詞が飛び込んできた。


「そして彼女に緊張しながらも挨拶を返したら、横から父が『柏木香澄さんだ。今度お前のお母さんになってくれるから、仲良くしろよ?』と言って、俺の初恋は三十秒で終わった」
「……え?」
 あまりと言えばあまりの展開に、聡が絶句して固まると、テーブルの向こう側から、刃物の様な鋭い清人の声がかけられた。


「……笑いたかったら笑え」
「いえ、とんでもありません!」
(間違っても、笑える雰囲気じゃ無い……。もしちょっとでも笑おうものなら、消される事確実じゃないか)
 最早、生命の危機すら感じながら、聡はダラダラと冷や汗を流した。そして沈黙に耐えきれず、恐々、催促の言葉を口にする。
「その……、差し支えなければ、話を続けて頂けませんか?」
 すると清人は、何故か一瞬躊躇してから、静かに話し出した。


「そうだな、次は……、俺が喧嘩に巻き込まれた時に助けてくれた……、女性、だな」
「喧嘩ですか? しかも兄さんが女性に助けられたと言うのは……」
 相当腕が立つ筈の兄が、そうそう遅れを取るとは思えず、聡が怪訝な顔になると、清人が弁解がましく告げた。


「相手が複数でな、怪我もさせられたから。そこに颯爽と割り込んで、男達を全員追い払った。容姿も整っていたが、それ以上に凛としていて一目惚れした」
「それで? それからどうなったんですか?」
(これは、今度こそ色々な意味で、兄さんの恋バナが聞けるかも)
 仄かな期待に胸を躍らせた聡だったが、次に続いた清人の台詞は無情なものだった。


「助けて貰った後で、その女性に礼を言おうとしたら、『考え無し』とか『男なら受け身位取って、攻撃をかわせ』とか散々叱りつけられて……、それきり会ってはいない」
「…………」
 どうフォローしたら良いのか皆目見当が付かず、思わず黙り込んだ聡に、清人は静かに声をかけた。


「何か、言いたい事が有るのか?」
「いえ、三人目の方についての話をお願いします」
(兄さん、不憫過ぎる。だけどそんな同情する台詞を口にしようものなら、このプライドの高い人にベランダから投げ落とされかねない……)
 そんな事を考えながら神妙に頭を下げた聡に、清人はソファーにふんぞり返って堂々と言い放った。


「三人目か? 三人目は清香だな。清香は香澄さんが俺にくれた新しい家族で、産まれた時から俺の天使だった。全身光り輝いていたぞ?」
「……はあ」
(根っからのシスコンだ。分かってはいたつもりだったが)
 真顔で言い切る相手に、聡は本気で頭を抱えたくなった。


「もう可愛く可愛くて、どうしようかと思った位だ」
「……そうでしょうね」
 殆ど投げやりに頷いた聡に、清人が爆弾発言をぶつける。


「もう兄妹でも構わないと、禁断の愛に走ろうかと一瞬思った時もあったが、俺がそんなアブノーマルな思考の持ち主で無く、鉄壁の理性の持ち主で良かったな。聡」
「は、はあぁ?」
(いきなり何て話をするんですか! 禁断の愛に走ろうか云々を一瞬でも考える人が、鉄壁の理性の持ち主とは言えないでしょうが!? いやそれはともかく、いつもは『お前』とか『貴様』呼ばわりで、今初めて兄さんに『聡』と名前を呼んで貰った筈なのに。もう感動もへったくれも、あったものじゃないぞ!)
 色々な思いが頭の中でごしゃごしゃになった聡が、唖然呆然としていると、そんな混乱状態を分かっているのかいないのか、清人が冷静に話を終わらせにかかった。


「どうした。もう充分だろう?」
「……はい、結構です。ありがとうございました」
 もうこれ以上粘っても、大した事は聞き出せないと悟った聡は、潔く了承の言葉を返した。それに清人も満足そうに頷く。


「じゃあ俺は部屋で仕事をしているから、ここで勝手に時間を潰してろ」
「分かりました」
 そうして飲み終えた茶碗を流しに入れながら清人が仕事部屋へと姿を消すと、一人取り残されたリビングで、聡は両手で頭を抱えた。


「参った……。清香さんに今の話を、どう話せば良いっていうんだ」
 あまりにも問題が有り過ぎる異父兄の女性関係に、聡の悩みは一層深まった。




「たっだいま~!」
 両手に大きな紙袋を提げた清香が、玄関で大きな声を上げると、リビングから聡が出て来て、彼女を出迎えた。
「ああ、お帰り、清香さん」
「あら? 聡さん、お兄ちゃんは?」
「仕事中だよ」
「そうなんだ。……ねえ、聡さん。どうだった?」
 途端に声を潜めて尋ねて来た清香に、聡も小声で言い返す。


「うん、一応聞くだけは聞いてみたけど。詳しい話は後からで良いかな?」
「それは構わないけど……、聡さん、どうかしたの? 何だか随分疲れているみたい」
 それを聞いて、聡は苦笑の表情を浮かべた。
「うん、ちょっとね。兄さんに挨拶して、今日は帰らせて貰うから」
 そう言って聡は一度リビングに戻ってファイルを取り上げ、それから清人の仕事部屋に向かい、そのドアをノックした。


「兄さん、すみません」
「何だ?」
 ドアを開けて顔を覗かせた清人に、聡は軽く頭を下げてファイルを差し出す。


「帰りますので、お返しします」
「ああ。二度とつまらん事は口にするな」
「俺としても、そうしたいです」
 不機嫌そうに釘を刺してくる清人に、聡も疲れた様に応じた。そして振り返ると、取り敢えず荷物をリビングに置いて来た清香が後ろにいた事に気付き、笑顔で別れの言葉を口にする。


「じゃあ清香さん。また電話するから」
「はい、聡さん、ゆっくり休んで下さいね」
 そのまま玄関まで見送りに行った清香がリビングに戻ると、清人が仕事部屋からリビングに移動して、デパートの紙袋を眺めている所だった。


「お兄ちゃん、今日は聡さんと、どんな話をしていたの?」
 そう明るく声をかけてみたが、清人の方は気の無い返事を返してきた。


「別に……、大した話はしていない。それより清香。お前の方こそ、外出先で何かトラブルは無かったか?」
「ううん? 全然問題なし。着せ替え人形よろしく、服をとっかえひっかえしてきたわ。由紀子さんが『一度こういう事をしてみたかったのよ!』と言って、凄く喜んでいて、そんな由紀子さんを見て、おじさまも終始ニコニコしていたの」
「それは良かったな」
 そこで清人は安心した様に、うっすらと笑みを浮かべた。


「その挙げ句『どれも清香さんに似合っているから、せっかくだから全部購入しましょう』とお二人に言われたんだけど、何とか2パターンのコーディネートだけで、抑えて貰ったわ。それがトラブルと言えばトラブルかしら?」
 そう言って首を傾げた清香に、清人は思わず失笑してしまった。


「それは、トラブルとは言えんだろう。だがお前にとっては、とんだ気苦労だったな。夕飯は俺が作るから休んでいろ」
「うん、買って貰った物をしまったら、ちょっとゴロゴロさせて貰うね? それじゃあ」
「清香」
「なぁに? お兄ちゃん」
「その……」
 紙袋を手に自室に引き上げようとした清香の背中に、思わず、といった感じで清人が声をかけたが、振り返った清香に何か言いかけたものの、彼は結局、口を閉ざした。


「……いや、何でもない」
 その反応に清人らしくはないと思ったものの、清香は断りを入れて踵を返した。
「ふぅん、じゃあ行くね」
「ああ」
 そして清香がドアを開けてその向こうに姿を消してから、清人はひとりごちた。


「結婚、か。清香がそんなに気にしてるとは、思っていなかったからな」
 そんなしみじみとした口調で呟いた後、清人は無言で、暗くなってきた窓の外を眺めていた。



「夢見る頃を過ぎても」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く