転移したのに人間じゃない!?

逢夢

第62話 ウンター・ヴェルト 紅事件 ご主人様と暴君。

“ダメだ……君も飲まれるぞ………”
少年の微かな声。
そして、伝わってくるのは老若男女の思想。
良いよりも気分を害す様なモノ、邪悪なモノが流れ込んでくる。
“抵抗するな、受け入れろ、絶望を”
少年の声ではなく、ディノスの声。


俺の意識は、最初はディノスの声と邪悪な老若男女の思想に
捕まっていた。
意識の濁流がそれぞれが黒い人型へと姿を変えていき、言葉を発した。
とある国の王の不老不死を願い、自身が魔物として討たれた、怒り、恐怖、悲しみ。
とある豪商の願い、魔法のランプでの幸せがいつしか自身に固執して
数多くの黒い人型は自分が飲み込まれた怒りと恐怖と悲しみを伝えてきた。


漆黒石に溜まりに溜まった怒りと恐怖と悲しみ。
だから、周りが悪いという言葉をヒデに打つけてきた。


「俺が言えるのは、「君たちはそうなんだね…」だけだよ。」
だから俺たちと一緒にと黒い人型はヒデを飲み込もうと近づくが
「悪いが、俺は俺で、君たちは一人一人とは違うんだ
 聞いてあげる事は出来てもそれに同調して一緒の考えになるのは
 ごめんだ。」


はっきりと黒い人型達とは考え方が違うと伝えた。
黒い人型は敵意をむき出しにはしているが、それ以上踏み込んでは来なかった。


そして、黒い人型の群衆が割れて一本の道が出来き
その道を進んでいくと1人の少年の元へと辿り着いた。


「こうして喋るのは、2度目ましてかな?
 精霊石の少年。」
「2度目ましてだね、人間の青年。
 君はここにある感情達に寄り添わないのだね」
「あぁ、君のように寄り添うといって、同一化してしまうほど
 時間と言葉を掛けてはいないからね。」
「君もここまで来たなら、もう出られないよ
 ほら、君から生まれたディノスも向こうにいる。」


そういって、指をさされた方を見たら
山のようなワニが黒い人型を喰らいながら、動き回っていた。


「これでハッキリしたよ、精霊石の少年。」
「何がだい?」
「ディノスは優しい子だ。」
「何を…」
突然言われた言葉に、精霊石の少年は驚きを隠せなかった。
「あれは君が生んだものだ!そしてそれはここの絶望の力を元にして生まれたもの
 邪悪で、危険なんだぞ!」
「ディノスは俺が生んだんだろうな、ここの世界を壊すために。
 この世界から解放する事は、ここにいる連中からしたら絶望だ。
 そして、君と共に元の世界に戻るのもディノスの力が必要だ。」
「ふざけるな、ここは漆黒石の中の邪悪が渦巻く中だ、周りを見ろ!」
先ほどまで黒い人型に囲まれていたがその言葉を機に
姿を変えて2m前後高さを維持した渦の中心にいる構図になった。


「僕たちは出れないんだ!!」


少年の姿ではあるが、精霊石本体の悲痛な叫びがこの空間に広がる。


「出れないじゃない、出ない選択を君は…君達はしてきたんだ。
 だから、別の選択を精霊石、君に見せよう。」



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