第6話　煌めく星の光集め、我が杖、我が衣と為せ

「まあ……納得は出来ないけど、理解はできた。うん。ところで、私の命を狙うのは誰なの？」
（悪の魔法少女。すべてにして絶対なるお方が、お前と同じようにチャンスを与えた子供だ。パチモン少女のお前と違い、前世での年齢も１４歳）
「あー、異世界転生して厨二心が弾けちゃったとか？　……でも、そんな子供が相手じゃ、短機関銃なんて使えないよ」

　私も中学生の頃にこっちに来たら、何かおかしな考えに染まったかもしれない。
　そして、私たちにはおそらくそれを実現する力が与えられてしまっているのだろう。
　そんな子供相手に実弾を撃ち込むとか、ちょっと考えられない。

（相手は、遠距離魔法攻撃をしかけてくる可能性もある。武器を不要と言うのなら、どうやって対処するのかは検討しておけ。武器を使わない場合、私はサポート機能を停止する。それではさようなら。お前が生き延びられることを、万物の王たるお方に祈ろう）
「だぁ！　待って！　分かった！　武器必要です！　現状、一番必要なのは情報だけどもとりあえず武器も必要です！　ところでさっきＭＰ５からＭＰ７に変化したけど、どんな武器も自由に選択可能なの？」
（通常は杖ステッキだが、魔法の射出装置とそれに付随する装置であれば変化は可能だ）

　射出ですか。
　映画とかでしか見た事ないけど、５０口径の大きなライフルとかも素敵だよね。５０口径の意味は知らないけどさ。
　あれって対戦車ライフルとか言うんだっけ？
　あ。

「それなら戦車とかは？」
（装甲Armoured戦闘Fighting車両Vehicleは、射出装置よりも装甲と車輌の割合が高いから射出装置が主体とは認められない。禁止だ。それに仮に呼べてもひとりでは動かせまい？）
「駄目か……ならバズーカとかは？」
（問題ない。ただし撃ち出す弾丸はお前が魔法で生み出すのだから、銃でもバズーカでも、威力はお前次第だ。それに、お前がある程度結果なりをイメージ出来ない物には変化できないぞ）

　なるほど。と私は頷き、肩紐スリングを首から外してＭＰ７をベッドの上にそっと置いた。
　知ってる銃は、この他はＭ１６と拳銃が何種類か程度。
　威力がイメージ次第なら、拳銃並の大きさでバズーカの威力とかも出来るのかな？
　あ、でも狙いを付けるならスコープとかがあった方が有利な気もする。
　それにしても、分からないことだらけだね。

「聞きたいことは沢山あるけど、とりあえず……ええと、五つ教えて」
（それも私に与えられた任務だ。しかしこういう場合のお約束は、三つではないのか？）
「何もかもが分からないんだから仕方ないじゃない。まずこの服、さっき戦闘服って言ったけど、どうやったらこれが戦闘服になるの？」

　見た目は体に密着したセーラー服もどき。
　ブーツは革っぽいから多少はガードの役に立つと思うけど、それ以外はまったくガードされていない。
　しかも、普通の冬用のセーラー服ならそれなりに生地が厚いけど、これは布地が柔らかくて伸縮性があり、まるでジャージみたいで防御力はメチャクチャ低そうだ。
　手も素手だし、これで実銃を扱ったら火傷とかしそうだよね。

（その衣類は魔法で強化されている。物理防御も魔法防御も備わっており、この世界の通常兵器や攻撃魔法では、煤を付けることもできないだろう。また、服に覆われていない部分も力場の影響範囲となる）
「？　もう少し具体的にお願い」
（一定以上の破壊力を有する魔法は、接触前に無効化される。一定以上の衝撃も同じくだ。衣類に触れる前にエネルギーが安全レベルまで低下する。むき出しの顔や手も防御範囲に設定されているし、状態異常毒などへの耐性もある）

　エネルギーがなくなるのではなく低下する？　ああ、安全のためかな？
　ビームとかが撃ち込まれた場合、運動エネルギーや熱がそこにあるわけだけど、熱エネルギーを０にすると、残るのは絶対零度に近い粒子になるわけで、それは少し寒そうだ。
　まあ運動エネルギーもゼロになってるなら向こうから飛んでくることはないだろうけど、間違って触ったら危ないし、触れなくても周囲の空気が凍り付いたりしたらそれだけでも危ないから、０ではなく低下するというのは理解できなくもない。
　で、顔面などが保護されるし、毒にも耐える、と。

「それって、無敵に近いんじゃない？　あ、でも、さっきの話だと、私を狙う魔法少女がいて、警戒が必要ってことは、魔法少女の攻撃だと私の防御を抜くことができるんだよね？」
（そうだ。お前を含め、魔法少女はこの世界の理ことわりから外れた攻撃を行える。攻撃は避けることを推奨する）
「それじゃふたつめの質問ね。この武器、弾丸が入ってなくて、さっきゴム弾出ろって念じても出てこなかったんだけど、使い方を教えて？」
（マガジンを装着した状態でどういった弾丸が欲しいかを念じるのだ。ゴムの弱装弾を４０発、とかだな）
「じゃくそうだん？　何それ」
（妙なこと知ってるのに、何故知らない？　装薬……火薬の量を減らした、威力が弱い弾丸のことだ）
「なるほど」

　私はＭＰ７を持ち上げ、ゴムの弱装弾４０発が欲しい、と念じてみた。
　すると、銃が少しだけ重くなる。
　マガジンを外してみると、先端がゴムになった銃弾がマガジンいっぱいに詰め込まれていた。

（誰かに銃が奪われた場合、銃の中の弾丸は消失するし、消えろと念じても消える。ただし消えるのは銃やマガジンの中にある銃弾だけだから気を付けろ。また、その銃でお前以外が弾丸を生み出すこともできない）
「へぇ、取られても安全なんだね」
（銃本体も念じればお前の手の中に戻ってくるから奪われるという事態はまずないだろうがな。そうだ、念のために言っておくと、通常弾とゴム弾は、バールのような物の尖った部分で殴られるのと、木の棒で殴るくらいの違いがあるぞ）
「それってどっちも痛いよね？　比較する意味あるの？」
（木の棒は、運が良ければ生き残れるだろ？）

　まあ、ゴムとは言え火薬で打ち出されたら、そりゃ怪我くらいはするか……うん。顔面とかには当てないようにしよう。
　よし、次だ次。

「じゃ、三つ目の質問だけど、私を狙う魔法少女っていうのは、どうやって私を探すの？」
（コンパクトの蓋を開けると大きな宝石があるだろ？）
「うん。あるね」
（自分以外の魔法少女の位置を知りたいと念じると、距離と方向が表示される素敵機能が）
「バカなの？　そんな索敵機能がなければ、私も命を狙われずに済んだのに。全然素敵機能じゃないよ」
（仕様だ。諦めろ。ちなみに、距離が近くなるほど赤く色づく。方向は光点が表示される）
「納得しがたいものがあるけど、それじゃ四つ目ね」
（おう）

　私は自分の服装を見下ろした。

「この服になったり、元の服装に戻ったりとかって自由にできるんだよね？」
（もちろんだ。変身解除はコンパクトを手に持って、武装解除ディスアームと唱える。変身するときはコンパクトを開き、中央の水晶に触れながら、武装アームドだ。銃だけ出したい、残したい場合は、そのように念じながら唱えればいい）

　あら、思ったよりもシンプルなんだ。
　まあ恥ずかしい呪文とかなくて良いのは嬉しいか。あと、コンパクトが必要ってのも誤爆を減らせるから助かるかもしれない。

（一応、コンパクトが出せないときも変身は可能だが、その場合は「スターライトシステムセットアップ、煌めく星の光集め、我が杖、我が衣と為せ、武装アームド」と唱えるのだ。囁く程度でも変身できるので、覚えておくことを勧める）
「えーと……とりあえず。コンパクトを持って。……武装解除ディスアーム」

　パァッと目がくらむほどの光がコンパクトから溢れ、気付くと私はスエットに裸足という、寝る前の服装に戻っていた。
　髪を一房手に取れば、色は見慣れた黒。体が若くなった影響で、とても滑らかな手触りだ。

「これ、服装が戻る瞬間、裸になってるとかないよね？」

　大きなお兄さん向けの魔法少女ものでは、大抵の場合全裸になった少女が踊っていると、どこからともなく服が生えてきたり飛んできたりする。
　まさか、あの手のじゃないだろうなと聞いてみると。

（問題ない。キャストオフから武装化前の服装に戻るまでの時間は僅か０．０５秒にすぎない。その瞬間、周囲にはスタングレネードの閃光に匹敵する光が溢れるから、誰かの目に触れる心配はない。光学魔法で撮影していたとしても基本、魔法少女の画像は残らない）
「って、いやいや、裸になるのは否定しないんかい。それに閃光ってすごい迷惑じゃ……ああ、でも衆目に肌を晒すくらいなら……」

　肝心な部分に光や湯気がかかるというのは見たことあるけど、あれはほぼ丸見えだった。それと比べてスタングレネード並みに閃光があたりを包むなら、まあ、それなりに安心かな。
　見てたら目が眩むだろうし、カメラだって灼けるだろう。それに０．０５秒なら、何を見たかを理解する暇もないだろうし。

（ちなみに、必要なら爆音を付け加えることも可能な仕様だ）
「私を人間閃光発音筒スタングレネードにする気？　ああ、もういいや……それじゃ、最後五つ目だけど、この変身したり銃弾を出したりって魔法だよね？　無許可魔法行使は罪になるって本にも書いてあったけど、問題にならないの？」
（人間は魔法少女の魔法を検出することはできない。よって、無許可魔法行使として摘発されることはない。ただし、目視された場合は無許可魔法行使の現行犯と認識される可能性が高い）

　ん？
　検出されないから摘発されない？
　それってつまり。

「見つかったらアウトだけど、見つからなければ罪には問われないって、ろくでなしの思考じゃない？」
（だが、真理だ。加えて、魔法少女の魔法は天然魔素消費型魔法ではないため、厳密に言えば無許可魔法行使摘発の要件を満たしていない。が、それを証明するには実験室レベルでの検証が必要となる）
「えーと？　それってつまり違法性はないってこと？」
（そうだ。普通の魔法は周囲の魔素を消費するが、魔法少女の魔法は、自ら魔素を生み出すのだ。証明するには、魔素のない実験室が必要になる）
「見つかったら面倒だけど、無実を主張できるんならいい、のかな？　……ええと」

　銃砲刀剣類所持等取締法の銃砲の定義は火薬式の銃と空気銃を指すから、レールガンやビームライフルなら所持しても罪にならない、なんて冗談を聞いたことがあるけど、それに近い詭弁ぽい気もするけど。

　それはさておき。
　私はコンパクトの蓋を開き、魔法少女の場所を知りたいと念じた。
　すると、水晶がほのかな赤に色づく。その端の方に、青い光点が点滅している。
　うん、多分これだよね？
　光点は見た感じ、移動していないようにも見えるけど、縮尺が分からないから断定はできない。

「ねぇ、この色だと縮尺はどの程度なの？」
（その色の濃さだと５０万分の１くらいだな。１センチが５キロほどで、お前の位置は中央になるから、ターゲットまでの距離はざっくり１０キロと少しだ）
「……至近距離じゃない……あ、いや、そうでもないのかな？」

　愛美ちゃんに、陽菜は距離感覚がおかしいとよく言われてたけど、自転車乗りなら半径２０キロ以内のお店に行くなら自転車という選択肢が入るものなのだ。片道１０キロなど、散歩気分で走れる至近距離だ。まあ、空気抵抗なんかがきつくなる、時速２３キロ未満で流すのなら、という但し書きが付くが。
　その半径内に私を狙う魔法少女がいると聞いて緊張したものの、考えてみれば半径１０キロの円なら面積はパイアールの二乗だから、決して狭くはない。
　私が安堵の息をはいた所で、冷静な声に水を差された。

（お前が住んでいるブロック程度までなら簡単に特定されるだろうな）
「あれ？でも半径１０キロの面積って、３１４平方キロもあるよね？　東京２３区の半分くらいの面積なんだけど？」

　１０×１０×３．１４だから間違ってない。よね？

（相手の方向が分かるのだから、関係ない方向を無視すれば、見るべき範囲は直線上に絞られるだろ？）

　おおっ！　なるほど。
　確かに相手の方向と距離が分かれば、一直線に接近して、相手の反応の周囲をぐるりと回れば、建物の特定くらいまでならそう難しくはないのか。
　そして、マンションみたいな多人数が住んでる建物ならともかく、今いる建物には私とリズお姉ちゃんしかいない。
　リズお姉ちゃんじゃないというのは光点と比較して見れば分かることだから。
　……うわ、私、ほぼ詰んでない？

「難易度高いなぁ。そもそもなんで私って命を狙われてるんだろ？」
（ああ、それに答える前にだ、ちょっと部屋のドアを開けてみろ）

　言われるままにドアを開け、私は固まった。
　そこにはリズお姉ちゃんが困ったような表情で立っていた。

「え、ええと……リズお姉ちゃん？」
「あー、うん。トイレに起きたらなんか独り言言ってるのが聞こえたから、ね？　魘うなされてるようなら起こしてあげようかなって」

　し、しまった……防音とか考えずに普通に喋ってたよ。
　武装解除ディスアームしといてよかった……。
　私はベッドに潜り込み、頭まで布団を被ると、小声で管理精霊さんに、

「質問追加。私の正体がばれたらなんか不味いことってある？」

　と尋ねるのだった。
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補足？
後で説明する情報とかもありますが一応補足。

＞５０口径の意味は知らないけどさ
５０口径は弾丸の弾頭部分の直径が１００分の５０インチの弾丸を使える銃です。ＸＸ口径とあったら大体100分のＸＸインチ表記。
それに対し、９×１９ｍｍとかだと、弾頭の直径が９ミリで。薬莢の長さが１９ｍｍ。
メートル法に統一して欲しいけど、そうなると、４４マグナムとか、３５７マグナムとか言えなくなってしまうのです。あ、３５７は３５．７口径のことです。
口径が大きい方が一般的には強力であるように思われがちで、同条件であれば概ね正しいのですが、威力は弾頭の材質、重さ、火薬の量などによっても変化するので、一概に口径が大きい方が強いとは言い切れません。
具体例として、本作に登場するＭＰ５は9×19mm弾（一般的な拳銃弾相当）を使いますが、ＭＰ７は4.6×30mm弾（新開発の強力な弾丸）を使います。口径だけならＭＰ５が圧勝ですが、ボディアーマーを貫けるのはＭＰ７のアーマーピアシング弾の方です。まあ、×の後ろの数字を見れば分かるように、ＭＰ７の方が薬莢が大きく、沢山火薬を詰められますし、弾頭が小さく軽い分だけ弾速も早いのです。

＞武装化前の服装に戻るまでの時間は僅か０．０５秒にすぎない。
宇宙刑事ギャバンが、コンバットスーツを蒸着するタイムは、僅か0.05秒に過ぎない。という元ネタがあるのですが、陽菜はギャバンなんて知りませんのでスルーされています。

＞レールガンやビームライフルなら所持しても罪にならない。
銃と定義されているのは、金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃（圧縮した気体を使用して弾丸を発射する機能を有する銃。なので、レールガンは装薬も圧縮空気も使いませんと言ったら銃砲刀剣類所持等取締法違反にはなりません。
が、危険な道具を所持していたら理由その他によっては、もっと重い罪が科される可能性もなきにしもあらず。

＞片道１０キロなど、散歩気分で走れる至近距離
自転車乗りなら割と同意してくれるのではないかな、と。
もちろん平地で、極端に暑かったり寒かったりせず、雨や風がない、と言う、お散歩に適した気候などが条件ですけど。
あと、自転車は時速２３キロを越えた辺りから突然重くなります。空気抵抗だと言われていて、確かに追い風の時は楽に走れます。ロード、クロス、マウンテン、折り畳み、どれも同じでした。

＞３１４平方キロもあるよね？　東京２３区の半分くらいの面積
東京都区部（東京23区）の面積は627.57平方キロだそうです。
ちなみに東京ディズニーリゾートが2平方キロ。ランドは0.465でシーが0.49です。ランド＋シーがリゾートにならないのは、その他施設があるから。

＞煌めく星の光集め、我が杖、我が衣と為せ
呪文は適当です（いいのかそれで）。
煌めく星の光集め、我が杖、我が衣と為せ
要は「お星様、私の力になって下さいな」と言っております。