エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第325話
「何っ!? 魔王を名乗る者が現れただと!?」
「は、はい!」
不法入国者が出たということで数人の兵を送ったのだが、その内の一人が急ぐように王城へと戻ってきた。
そして、その兵から伝えられた報告に、ドワーフ王国の王であるセベリノは驚いた。
魔王という危険な存在が、この世のどこかに存在しているということを、ケイによって伝えられていた。
ついに来るときが来たのだと、セベリノの表情は凛としたものへと変わった。
「この世のものとは思えない程の膨大な魔力を有しておりました!」
「……そんなにか?」
ケイから伝えられて数年経っているため、本当に存在しているかも気になっていた。
以前に比べれば警戒心は薄れていたが、それでももしもその魔王という者が現れた時に備え、兵の強化もおこなってきたつもりだ。
その鍛えていた兵が冷や汗を大量に流しつつ話してくるということは、それほど恐ろしい相手なのだということだろう。
「……我が国の兵器を使用しても倒せるか微妙な所です」
「なんだと……」
兵の多くは訓練により魔闘術を使えるようになっている。
しかし、ドワーフの強さは、更に強力な魔道具によって戦力を上げるという所だ。
それが兵士の武器だったり、大規模破壊の兵器だったりと様々だ。
それらを駆使したとしても、先ほど見た魔王といっている者を倒せるか、兵には判断できないという。
そうなってくると、まともに戦える人間は限られてくる。
「……仕方がない。救援依頼を出す。魔人族と獣人族、それとケイ殿にも頼むのだ」
「了解しました!」
セベリノの言葉に宰相は頷きを返す。
ドワーフ王国は、人族以外の国々とは同盟関係にある。
魔王という存在は人類にとって危険な存在。
国の体面なんて気にすることなく、セベリノは同盟国に対して救援を求めた。
「どうした? 休んでいないで向かってこい」
「ハァ、ハァ……、くっ!! 化け物が……」
ドワーフ王国の西の森の中に降り立った魔王と名乗る者。
仲間に報告に戻らせてた残りの7人の兵は、魔王を相手に戦っていた。
だが、集団で襲い掛かっても全ての攻撃を防いでしまい、魔王を一歩も動かすことができないでいた。
しかも、使っている武器が近くで拾った木の枝だ。
欠かさず訓練をして来たというのに、ここまでの実力差があると見せつけられると、体力だけでなく気力まで削られて来る気分だ。
連携を取りつつ攻撃を続けていたドワーフ兵たちだったが、とうとう息が切れて動けなくなっていた。
それをつまらなそうに眺める魔王に、兵の一人は恨み言のように呟く。
「それは俺を褒めているのか?」
化け物呼ばわりは、魔王にとって言われ慣れた褒め言葉でしかない。
人間側目線からの言葉なので別に嬉しくはないが、とりあえず受け入れることにした。
「ふざけるな!!」
「ハハハ……、遅いな」
少し休んだことで体力を回復した1人が、怒りと共に襲い掛かる。
しかし、兵は魔闘術で全身を強化しているというのに、魔王の体には当たるどころか掠ることなく躱される。
言葉通り、先程から遊んでいるというような態度に、ドワーフ兵は持っている剣に力を籠める。
「ホイッ!」
「ぐっ!」
剣が入ると思えば、拾った木の枝で弾いてしまう。
隙どころか、一歩も動かせずに終わってしまいそうだ。
いつでも反撃できるのに、魔王はして来ない。
実力差があり過ぎて眼中にないのかもしれないが、ドワーフ兵たちからすると不愉快極まりない。
「ドワーフ族はおもちゃの製作が得意なのだろ? 早く見せてくれ」
「お、おもちゃだと……」
ドワーフにとって魔道具製作は、世界に存在価値を示す手段だ。
愛着もあるし、自信を持った作品ともいえる。
それをおもちゃ呼ばわりされると、民族全体を否定されているようで我慢がならない。
兵たちは疲れも忘れて武器を強く握りしめた。
「1人1人ではまるで歯が立たない」
「合成魔法を放つぞ」
「あぁ!」
全員が全力で戦っても、魔王は遊びでしかない。
残り魔力で戦おうにも、怪我を負わせることなどできないだろう。
しかし、1人1人では勝てなくても、全員の力を合わせれば何とかなるはず。
そう思ったドワーフ兵たちは、1ヵ所に集まって魔力を一つにまとめ始めた。
「……ほぉ」
全員が残った魔力を気絶寸前まで集め、1つにまとめていく。
魔力の制御が難しい合成魔法だ。
この強力な1撃で、せめて魔王に怪我を負わせたい。
「「「「「「「死ね!!」」」」」」」
ドワーフ兵7人の思いを込めた魔力球が、魔王へと発射された。
1人ではなかなか出せないほどの高威力を持った魔力球が、変わらず仁王立ちする魔王へと迫っていった。
“パンッ!”
「……そんな、俺たちの魔力を籠めた攻撃が……」
飛んで行った魔力球は、魔王が振った木の枝によってあっさりと弾き飛ばさた。
まさか埃すら付けられない結果に、ドワーフ兵たちは全員膝から崩れ落ちた。
「虫にしては良い攻撃だ。中級程度の魔族なら今ので殺せてただろうな……」
怪我も埃も受けなかったが、合成魔法の魔力球を弾いたことにより、魔王の手に持つ木の枝が折れていた。
それを見て、魔王は何故か楽しそう笑みを浮かべる。
人間ごときでも、魔族に一矢報いることができるということになる。
本気の暇つぶしができる相手がいるかもしれないと知れて、楽しみに思えたのだ。
「さて、ただ待つのも飽きてきた。お前らは消えていいぞ……」
「くっ!」
「このやろう!」
まるでシッシと動物を追い払うように手を動かし、魔王は魔力切れ寸前のドワーフたちを帰そうとする。
このままおめおめと逃げ帰る訳にはいかない。
かといって、魔力切れ寸前の状態では何もできない。
せめて魔王をこの場にとどめておこうと、ドワーフ兵たちは懸命に立ち上がり武器を構えた。
「フウ―!!」
「ぐあっ!!」「がっ!!」「うっ!!」
「そん…な……」
魔王がしたのは息を強く吐いただけ。
それだけでドワーフ兵たちは吹き飛ばされ、それぞれ樹々に体を打ちつけて失神していく。
あまりの出来事に、信じられないというような呟きをして最後のドワーフ兵が気を失った。
「ハハッ! 息を吐いただけだというのに吹き飛ぶとは本当に虫のようだな」
結局一歩も動かなかったため、つまらなかったかと言えばそうでもない。
思っていたよりも粘っていた方だ。
時間が潰せて、魔王は彼らに感謝している。
「……おっ! 援軍が来たようだな?」
7人と遊んでいる間に、逃げた1人が仲間を呼んで来たらしい。
多くの兵たちが迫り来る音を聞きながら、魔王は上機嫌に援軍の到着を待ったのだった。
「は、はい!」
不法入国者が出たということで数人の兵を送ったのだが、その内の一人が急ぐように王城へと戻ってきた。
そして、その兵から伝えられた報告に、ドワーフ王国の王であるセベリノは驚いた。
魔王という危険な存在が、この世のどこかに存在しているということを、ケイによって伝えられていた。
ついに来るときが来たのだと、セベリノの表情は凛としたものへと変わった。
「この世のものとは思えない程の膨大な魔力を有しておりました!」
「……そんなにか?」
ケイから伝えられて数年経っているため、本当に存在しているかも気になっていた。
以前に比べれば警戒心は薄れていたが、それでももしもその魔王という者が現れた時に備え、兵の強化もおこなってきたつもりだ。
その鍛えていた兵が冷や汗を大量に流しつつ話してくるということは、それほど恐ろしい相手なのだということだろう。
「……我が国の兵器を使用しても倒せるか微妙な所です」
「なんだと……」
兵の多くは訓練により魔闘術を使えるようになっている。
しかし、ドワーフの強さは、更に強力な魔道具によって戦力を上げるという所だ。
それが兵士の武器だったり、大規模破壊の兵器だったりと様々だ。
それらを駆使したとしても、先ほど見た魔王といっている者を倒せるか、兵には判断できないという。
そうなってくると、まともに戦える人間は限られてくる。
「……仕方がない。救援依頼を出す。魔人族と獣人族、それとケイ殿にも頼むのだ」
「了解しました!」
セベリノの言葉に宰相は頷きを返す。
ドワーフ王国は、人族以外の国々とは同盟関係にある。
魔王という存在は人類にとって危険な存在。
国の体面なんて気にすることなく、セベリノは同盟国に対して救援を求めた。
「どうした? 休んでいないで向かってこい」
「ハァ、ハァ……、くっ!! 化け物が……」
ドワーフ王国の西の森の中に降り立った魔王と名乗る者。
仲間に報告に戻らせてた残りの7人の兵は、魔王を相手に戦っていた。
だが、集団で襲い掛かっても全ての攻撃を防いでしまい、魔王を一歩も動かすことができないでいた。
しかも、使っている武器が近くで拾った木の枝だ。
欠かさず訓練をして来たというのに、ここまでの実力差があると見せつけられると、体力だけでなく気力まで削られて来る気分だ。
連携を取りつつ攻撃を続けていたドワーフ兵たちだったが、とうとう息が切れて動けなくなっていた。
それをつまらなそうに眺める魔王に、兵の一人は恨み言のように呟く。
「それは俺を褒めているのか?」
化け物呼ばわりは、魔王にとって言われ慣れた褒め言葉でしかない。
人間側目線からの言葉なので別に嬉しくはないが、とりあえず受け入れることにした。
「ふざけるな!!」
「ハハハ……、遅いな」
少し休んだことで体力を回復した1人が、怒りと共に襲い掛かる。
しかし、兵は魔闘術で全身を強化しているというのに、魔王の体には当たるどころか掠ることなく躱される。
言葉通り、先程から遊んでいるというような態度に、ドワーフ兵は持っている剣に力を籠める。
「ホイッ!」
「ぐっ!」
剣が入ると思えば、拾った木の枝で弾いてしまう。
隙どころか、一歩も動かせずに終わってしまいそうだ。
いつでも反撃できるのに、魔王はして来ない。
実力差があり過ぎて眼中にないのかもしれないが、ドワーフ兵たちからすると不愉快極まりない。
「ドワーフ族はおもちゃの製作が得意なのだろ? 早く見せてくれ」
「お、おもちゃだと……」
ドワーフにとって魔道具製作は、世界に存在価値を示す手段だ。
愛着もあるし、自信を持った作品ともいえる。
それをおもちゃ呼ばわりされると、民族全体を否定されているようで我慢がならない。
兵たちは疲れも忘れて武器を強く握りしめた。
「1人1人ではまるで歯が立たない」
「合成魔法を放つぞ」
「あぁ!」
全員が全力で戦っても、魔王は遊びでしかない。
残り魔力で戦おうにも、怪我を負わせることなどできないだろう。
しかし、1人1人では勝てなくても、全員の力を合わせれば何とかなるはず。
そう思ったドワーフ兵たちは、1ヵ所に集まって魔力を一つにまとめ始めた。
「……ほぉ」
全員が残った魔力を気絶寸前まで集め、1つにまとめていく。
魔力の制御が難しい合成魔法だ。
この強力な1撃で、せめて魔王に怪我を負わせたい。
「「「「「「「死ね!!」」」」」」」
ドワーフ兵7人の思いを込めた魔力球が、魔王へと発射された。
1人ではなかなか出せないほどの高威力を持った魔力球が、変わらず仁王立ちする魔王へと迫っていった。
“パンッ!”
「……そんな、俺たちの魔力を籠めた攻撃が……」
飛んで行った魔力球は、魔王が振った木の枝によってあっさりと弾き飛ばさた。
まさか埃すら付けられない結果に、ドワーフ兵たちは全員膝から崩れ落ちた。
「虫にしては良い攻撃だ。中級程度の魔族なら今ので殺せてただろうな……」
怪我も埃も受けなかったが、合成魔法の魔力球を弾いたことにより、魔王の手に持つ木の枝が折れていた。
それを見て、魔王は何故か楽しそう笑みを浮かべる。
人間ごときでも、魔族に一矢報いることができるということになる。
本気の暇つぶしができる相手がいるかもしれないと知れて、楽しみに思えたのだ。
「さて、ただ待つのも飽きてきた。お前らは消えていいぞ……」
「くっ!」
「このやろう!」
まるでシッシと動物を追い払うように手を動かし、魔王は魔力切れ寸前のドワーフたちを帰そうとする。
このままおめおめと逃げ帰る訳にはいかない。
かといって、魔力切れ寸前の状態では何もできない。
せめて魔王をこの場にとどめておこうと、ドワーフ兵たちは懸命に立ち上がり武器を構えた。
「フウ―!!」
「ぐあっ!!」「がっ!!」「うっ!!」
「そん…な……」
魔王がしたのは息を強く吐いただけ。
それだけでドワーフ兵たちは吹き飛ばされ、それぞれ樹々に体を打ちつけて失神していく。
あまりの出来事に、信じられないというような呟きをして最後のドワーフ兵が気を失った。
「ハハッ! 息を吐いただけだというのに吹き飛ぶとは本当に虫のようだな」
結局一歩も動かなかったため、つまらなかったかと言えばそうでもない。
思っていたよりも粘っていた方だ。
時間が潰せて、魔王は彼らに感謝している。
「……おっ! 援軍が来たようだな?」
7人と遊んでいる間に、逃げた1人が仲間を呼んで来たらしい。
多くの兵たちが迫り来る音を聞きながら、魔王は上機嫌に援軍の到着を待ったのだった。
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