エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第320話
「シッ!!」
「グオォーー!!」
4本の腕を持つ3m近い身長の鬼を相手に、魔人族のラファエルが接近を図る。
鬼は腕のそれぞれに剣を持ち、振り回して攻撃してくる。
間合いに入ったラファエルは、襲い掛かる剣による攻撃を躱して懐へと侵入していく。
「ムッ!」
「グルァ!?」
懐に入るほどに、鬼が振るう剣の速度は増し、その内の1つが、ラファエルに迫る。
躱しきれないと思った攻撃に対し、ラファエルは何の動作もしないでを魔力の弾を当てる。
それにより鬼の剣の軌道がずれ、ラファエルの横をすり抜けていった。
「セイッ!!」
「ガアァッ!!」
身を低くして懐まで入ったラファエルは、下から上へ斬り上げる逆風の太刀により、鬼の左腕2本を斬り飛ばした。
腕を斬り飛ばされた鬼は、血を噴き出し痛みに悶えるような声をあげた。
「ガ、ガアァーー!!」
「そんなバランスじゃ攻撃もしにくいだろ?」
ラファエルの追撃を躱すように、鬼は残った右腕2本を振り回す。
それを躱すようにいったん後退したラファエルは、すぐにまた鬼への接近を試みた。
腕が4本あろうと、片方がなくなってしまえば攻撃としてはバランスが悪い。
それを指摘するかのように、またもラファエルは鬼の懐付近まで接近した。
「ガアァッ!!」
「っ!!」
接近したラファエルに、鬼は口から魔法を放つ。
至近距離におびき寄せての大玉の火球。
直撃を受ければ、魔闘術で強化した状態でも即死もあり得る。
先ほどまでラファエルがいた場所に火球がぶつかり、爆発を起こして地面に大きめの窪みを作り出した。
「グガッ!?」
「危ないな!!」
跡形もなく敵を吹き飛ばしたと思った瞬間、鬼はすぐにその場から左へと地を蹴る。
それにより、鬼の右腕2本が斬り飛ばされるだけで済んだ。
鬼の魔法発動兆候を感じ取ったラファエルは、蹴り足にのみ魔力を増やして鬼の股下を潜り抜けて火球の攻撃を躱していた。
そして、そのまま脳天から斬り裂こうと、鬼に対して唐竹割りを放った。
ラファエルが押しているが、鬼も相当な実力の持ち主。
背後から無言の攻撃に対し、直感的に体が反応したのだろう。
即死はまぬがれたが、結果的に右腕を斬り飛ばされることになったのだ。
「ガ、ガァ……」
「終わりだ!」
自慢の腕をすべて失い、鬼は戦意を失ったような目に変わる。
そんな鬼を無駄に甚振るようなことをせず、ラファエルは横薙ぎするように刀を振り、鬼の首を斬り飛ばしたのだった。
“パチパチパチ……!!”
「ご苦労さん!」
刀を鞘に納めたラファエルへ向かって、拍手をしながらねぎらいの言葉をかけた1人の男性が側へと近寄る。
「どうでしたか? ケイ様」
鬼との戦いを見守っていたのは、エナグア王から特別に許可を得てラファエルを連れてきた指導者であるケイだ。
自分の戦いを見ていたケイへ、ラファエルは目をキラキラとさせて問いかける。
「この階層の魔物でも苦にならなくなれば充分だな……」
「えっ? では……?」
この鬼レベルの魔物を圧倒するような実力になったのを確認したケイは、笑みを浮かべつつ呟く。
その言葉が、ある意味合格と言っていることが分かったが、ケイからキッチリと言われるのを待つようにラファエルは問いかける。
「あぁ! そろそろお前も下層へと連れて行こう」
「やったぁー!!」
求めていた言葉がケイの口から聞けて、ラファエルは跳び上がるように喜びの声をあげた。
「へ~……、ラファエルもようやくか……」
「フンッ! 数日くらいで上に立ったと思うなよ! オスカル!」
ケイとラファエルが話している所へ、1人の少年が近付いてくる。
オスカルという少年の上からの物言いに、ラファエルは不満げに文句を言う。
「じいちゃんから許可を得たのは俺が先だもんね!」
「何を!!」
少し馬鹿にするような発言に、イラッと来たラファエルはオスカルを睨みつける。
ケイのことをじいちゃんと呼んでいることからも分かるように、オスカルはケイの孫だ。
同い年のオスカルとラファエルは、お互いをライバルとして見ているらしく、ことあるごとに張り合っている。
ラファエルよりも先にケイから合格点をもらっていたオスカルは、自分の方が上だと主張したいようだ。
「2人ともうるさいぞ!」
「「はい!」」
目の前で喧嘩をしだしそうな言い合いに、ケイはまたかと思いつつ2人に殺気をとばす。
それを受けた2人は、すぐさまおとなしくなった。
よく揉める2人には、これが一番おとなしくさせる方法だ。
「2人の下層行きは明日からだ」
「「はい!」」
ケイの言葉に、2人は同時に返事をする。
なんだかんだ言っても、結構いいコンビなのかもしれない。
境遇も少し似ているかもしれない。
2人とも才能があったが、ライバルとなる相手がいなかった。
特にラファエルの方は、指導者もおらずに自己流で研鑽を積むしかなかった。
オスカルはケイを筆頭に指導してくれる人間は多くいたが、同い年の人間がおらず、伸び悩んでいるようだった。
しかし、ケイがラファエルを連れてきたことにより、これまで以上に訓練に力を入れるようになった。
祖父のケイや父のカルロスから受け継いだ才が発揮され、実力が一気に成長した。
ラファエルの実力に感化されたようだ。
「じゃあ、今日は家へ戻るぞ」
「「はい!」」
ケイの言葉に従い、3人は地上へと転移していった。
「おっ? 帰ってきたか……」
町へ帰ると、レイナルドがケイたちの帰って来たことに気が付いた。
そして、ラファエルの表情を見て何かを感じ取る。
「その様子だと、合格したようだな?」
「はい!」
今日ラファエルの試験をするということは、レイナルドもケイから聞いていたので知っていた。
レイナルドも時間のある時にラファエルの指導をしていたので、実力は把握していた。
なので、それほど心配していなかったが、やはり合格したようだ。
合格の知らせを聞いて、レイナルドもラファエル同様笑みを浮かべた。
「じゃあ、2人は大人しくしていろよ」
「「はい!」」
これからはケイとレイナルドが訓練に入ることになっている。
そのため、オスカルとラファエルは畑仕事や学習に当てる時間だ。
適当なことをしていると後で知られれば、ケイからちびりそうになるほどの殺気を当てられると分かっているため、2人は大人しく解散していった。
「じゃあ行こうか?」
「あぁ」
2人が家へ戻っていったのを見て、ケイとレイナルドは訓練場所へと転移していった。
「まずは溜め込んで来た魔物や動物を吸収させるね?」
「あぁ、頼む」
短いやり取りの後、レイナルドは魔法の指輪から魔石が抜かれた魔物の死骸や、食事で出た生ごみなどを出して周辺にばら撒いた。
「おっ? 吸収されたようだな……」
しばらくその場で休憩をしていると、さっきレイナルドがばら撒いたものが消え失せる。
そうなってようやくケイたちは移動を始めた。
ケイが吸収されたと言ったのは、ここがダンジョンだからだ。
ラファエルの試験として戦わせたのは中層のエリアボスで、ケイたちがいるのは下層の領域だ。
アンヘル島にある唯一のダンジョン。
ケイはそこを使って、みんなの戦闘力の向上を図ってきたのだ。
この世界のダンジョンは、ある意味魔物と同じようなもの。
ダンジョン内に入り込んだ物を吸収することで成長していく。
色々吸収させてあまり強くし過ぎると、自分たち島民が手に負えない魔物が蔓延るようになると調整していたのだが、ギジェルモというバンパイアの魔族によって、魔族の王という意味の魔王が存在しているということを知った。
ギジェルモ自体が結構危険な魔族だったのに、それ以上の存在がいるというのは放置できない。
どこにいるかも分からないため、奇襲をかけるということもできない。
ならば、姿を現した時に倒せるようになっておこうと、島民たちの育成と、ダンジョンの成長を促してきたのだ。
「新種が出ると良いんだけど……」
ダンジョンの魔物は吸収した物の影響を受ける。
魔王がどんな能力を使ってくるかも分からないので、いろんなバリエーションの魔物と戦っておきたい。
そのため、ケイは特殊な魔物の出現を望んでいた。
多種多様な魔物との戦闘経験と、いつものように魔力の訓練をし続け、ケイは魔王と呼ばれる存在の出現を待つのだった。
「グオォーー!!」
4本の腕を持つ3m近い身長の鬼を相手に、魔人族のラファエルが接近を図る。
鬼は腕のそれぞれに剣を持ち、振り回して攻撃してくる。
間合いに入ったラファエルは、襲い掛かる剣による攻撃を躱して懐へと侵入していく。
「ムッ!」
「グルァ!?」
懐に入るほどに、鬼が振るう剣の速度は増し、その内の1つが、ラファエルに迫る。
躱しきれないと思った攻撃に対し、ラファエルは何の動作もしないでを魔力の弾を当てる。
それにより鬼の剣の軌道がずれ、ラファエルの横をすり抜けていった。
「セイッ!!」
「ガアァッ!!」
身を低くして懐まで入ったラファエルは、下から上へ斬り上げる逆風の太刀により、鬼の左腕2本を斬り飛ばした。
腕を斬り飛ばされた鬼は、血を噴き出し痛みに悶えるような声をあげた。
「ガ、ガアァーー!!」
「そんなバランスじゃ攻撃もしにくいだろ?」
ラファエルの追撃を躱すように、鬼は残った右腕2本を振り回す。
それを躱すようにいったん後退したラファエルは、すぐにまた鬼への接近を試みた。
腕が4本あろうと、片方がなくなってしまえば攻撃としてはバランスが悪い。
それを指摘するかのように、またもラファエルは鬼の懐付近まで接近した。
「ガアァッ!!」
「っ!!」
接近したラファエルに、鬼は口から魔法を放つ。
至近距離におびき寄せての大玉の火球。
直撃を受ければ、魔闘術で強化した状態でも即死もあり得る。
先ほどまでラファエルがいた場所に火球がぶつかり、爆発を起こして地面に大きめの窪みを作り出した。
「グガッ!?」
「危ないな!!」
跡形もなく敵を吹き飛ばしたと思った瞬間、鬼はすぐにその場から左へと地を蹴る。
それにより、鬼の右腕2本が斬り飛ばされるだけで済んだ。
鬼の魔法発動兆候を感じ取ったラファエルは、蹴り足にのみ魔力を増やして鬼の股下を潜り抜けて火球の攻撃を躱していた。
そして、そのまま脳天から斬り裂こうと、鬼に対して唐竹割りを放った。
ラファエルが押しているが、鬼も相当な実力の持ち主。
背後から無言の攻撃に対し、直感的に体が反応したのだろう。
即死はまぬがれたが、結果的に右腕を斬り飛ばされることになったのだ。
「ガ、ガァ……」
「終わりだ!」
自慢の腕をすべて失い、鬼は戦意を失ったような目に変わる。
そんな鬼を無駄に甚振るようなことをせず、ラファエルは横薙ぎするように刀を振り、鬼の首を斬り飛ばしたのだった。
“パチパチパチ……!!”
「ご苦労さん!」
刀を鞘に納めたラファエルへ向かって、拍手をしながらねぎらいの言葉をかけた1人の男性が側へと近寄る。
「どうでしたか? ケイ様」
鬼との戦いを見守っていたのは、エナグア王から特別に許可を得てラファエルを連れてきた指導者であるケイだ。
自分の戦いを見ていたケイへ、ラファエルは目をキラキラとさせて問いかける。
「この階層の魔物でも苦にならなくなれば充分だな……」
「えっ? では……?」
この鬼レベルの魔物を圧倒するような実力になったのを確認したケイは、笑みを浮かべつつ呟く。
その言葉が、ある意味合格と言っていることが分かったが、ケイからキッチリと言われるのを待つようにラファエルは問いかける。
「あぁ! そろそろお前も下層へと連れて行こう」
「やったぁー!!」
求めていた言葉がケイの口から聞けて、ラファエルは跳び上がるように喜びの声をあげた。
「へ~……、ラファエルもようやくか……」
「フンッ! 数日くらいで上に立ったと思うなよ! オスカル!」
ケイとラファエルが話している所へ、1人の少年が近付いてくる。
オスカルという少年の上からの物言いに、ラファエルは不満げに文句を言う。
「じいちゃんから許可を得たのは俺が先だもんね!」
「何を!!」
少し馬鹿にするような発言に、イラッと来たラファエルはオスカルを睨みつける。
ケイのことをじいちゃんと呼んでいることからも分かるように、オスカルはケイの孫だ。
同い年のオスカルとラファエルは、お互いをライバルとして見ているらしく、ことあるごとに張り合っている。
ラファエルよりも先にケイから合格点をもらっていたオスカルは、自分の方が上だと主張したいようだ。
「2人ともうるさいぞ!」
「「はい!」」
目の前で喧嘩をしだしそうな言い合いに、ケイはまたかと思いつつ2人に殺気をとばす。
それを受けた2人は、すぐさまおとなしくなった。
よく揉める2人には、これが一番おとなしくさせる方法だ。
「2人の下層行きは明日からだ」
「「はい!」」
ケイの言葉に、2人は同時に返事をする。
なんだかんだ言っても、結構いいコンビなのかもしれない。
境遇も少し似ているかもしれない。
2人とも才能があったが、ライバルとなる相手がいなかった。
特にラファエルの方は、指導者もおらずに自己流で研鑽を積むしかなかった。
オスカルはケイを筆頭に指導してくれる人間は多くいたが、同い年の人間がおらず、伸び悩んでいるようだった。
しかし、ケイがラファエルを連れてきたことにより、これまで以上に訓練に力を入れるようになった。
祖父のケイや父のカルロスから受け継いだ才が発揮され、実力が一気に成長した。
ラファエルの実力に感化されたようだ。
「じゃあ、今日は家へ戻るぞ」
「「はい!」」
ケイの言葉に従い、3人は地上へと転移していった。
「おっ? 帰ってきたか……」
町へ帰ると、レイナルドがケイたちの帰って来たことに気が付いた。
そして、ラファエルの表情を見て何かを感じ取る。
「その様子だと、合格したようだな?」
「はい!」
今日ラファエルの試験をするということは、レイナルドもケイから聞いていたので知っていた。
レイナルドも時間のある時にラファエルの指導をしていたので、実力は把握していた。
なので、それほど心配していなかったが、やはり合格したようだ。
合格の知らせを聞いて、レイナルドもラファエル同様笑みを浮かべた。
「じゃあ、2人は大人しくしていろよ」
「「はい!」」
これからはケイとレイナルドが訓練に入ることになっている。
そのため、オスカルとラファエルは畑仕事や学習に当てる時間だ。
適当なことをしていると後で知られれば、ケイからちびりそうになるほどの殺気を当てられると分かっているため、2人は大人しく解散していった。
「じゃあ行こうか?」
「あぁ」
2人が家へ戻っていったのを見て、ケイとレイナルドは訓練場所へと転移していった。
「まずは溜め込んで来た魔物や動物を吸収させるね?」
「あぁ、頼む」
短いやり取りの後、レイナルドは魔法の指輪から魔石が抜かれた魔物の死骸や、食事で出た生ごみなどを出して周辺にばら撒いた。
「おっ? 吸収されたようだな……」
しばらくその場で休憩をしていると、さっきレイナルドがばら撒いたものが消え失せる。
そうなってようやくケイたちは移動を始めた。
ケイが吸収されたと言ったのは、ここがダンジョンだからだ。
ラファエルの試験として戦わせたのは中層のエリアボスで、ケイたちがいるのは下層の領域だ。
アンヘル島にある唯一のダンジョン。
ケイはそこを使って、みんなの戦闘力の向上を図ってきたのだ。
この世界のダンジョンは、ある意味魔物と同じようなもの。
ダンジョン内に入り込んだ物を吸収することで成長していく。
色々吸収させてあまり強くし過ぎると、自分たち島民が手に負えない魔物が蔓延るようになると調整していたのだが、ギジェルモというバンパイアの魔族によって、魔族の王という意味の魔王が存在しているということを知った。
ギジェルモ自体が結構危険な魔族だったのに、それ以上の存在がいるというのは放置できない。
どこにいるかも分からないため、奇襲をかけるということもできない。
ならば、姿を現した時に倒せるようになっておこうと、島民たちの育成と、ダンジョンの成長を促してきたのだ。
「新種が出ると良いんだけど……」
ダンジョンの魔物は吸収した物の影響を受ける。
魔王がどんな能力を使ってくるかも分からないので、いろんなバリエーションの魔物と戦っておきたい。
そのため、ケイは特殊な魔物の出現を望んでいた。
多種多様な魔物との戦闘経験と、いつものように魔力の訓練をし続け、ケイは魔王と呼ばれる存在の出現を待つのだった。
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