エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第305話

「逃げて来たけど人族に倒せるかな?」


 転移して王都の外へと逃れたケイとラウル。
 人族の市民たちも王都外へと逃れて東へと向かっているが、2人だけ魔族たちの背後に当たる西側の丘にいる。
 望遠の魔法で下を眺めると人族の兵たちが戦っているが、そのままにしてきたことへの不安が残る。
 魔族2体を相手に、王都の兵だけで勝てるのか怪しいところがある。
 ここで倒さないと、国が崩壊しかねない。
 魔人領に人間が逃げて来ないようにという理由から問題の解決を頼まれたが、これでは難しいかもしれない。


「とりあえず、お前が撃ったのは人族たちが何とかするだろ……」


 孫のラウルの疑問に、ケイは曖昧な返答をする。
 2人でライフルを使った攻撃をした時、ラウルの方には当たっていた。
 1発で仕留められなかったのは残念だが肩に当たった所を見る限り、相当戦力ダウンをさせることはできたと思う。
 アンデッドを操っている所を見る限り、それを操っていた魔族の方は人族たちでも倒せるだろう。
 怪我を負った片方の方は、それで問題ないはずだ。


「できるかな?」


「再生している様子がなかった。大丈夫だろ……たぶん……」


 ラウルとしては、人族たちだけで勝てるのか微妙に思えた。
 たしかに自分が撃った方は怪我を負わせたが、それでも微妙に感じる。
 しかし、ケイの方はそうは思わない。
 グールを操っているのだから、グールと同様に再生能力でも有しているのかと思ったが、再生する様子はなかった。
 それなら魔物たちを倒せば何とかなるはずだ。


「それよりも俺の弾丸を防いだ奴だ。ありゃ、相当数の人間でことに当たらないとどうにもならんぞ」


 ケイがライフルで狙った方の魔族は、弾丸が飛んできたことに反応して防いだ。
 反応できるだけでもすごいのだが、気付いてすぐに防御したことには結構驚いている。
 ただ金属の防具を装備していただけでなく、魔力もすぐさま発動させたのだろう。
 魔力量も多いうえにコントロールまであるとなると、人族の兵たちだけで勝てるのか微妙に思える。


「……そんなに?」


「あぁ……」


 かなりの数で戦わないといけないなんて、ケイの口から出るくらいなのだから相当危険なんだろう。
 自分では勝てないかもしれないと思っていただけに、ラウルは今まで以上に危険な存在なのだろうと認識を修正した。


「これからどうするの?」


 ドワーフの最新魔道具をタダで手に入れるためとは言っても、人族のために危険な目に遭うなんて勘弁願いたい。
 人族だけでは難しくても、ケイが手伝えば倒せるのではないだろうか。
 それはともかく、ラウルはこれからの方針を尋ねることにした。


「あいつの正体が分かればやりようはあるかもな……」


 ケイも参戦すれば何とかなる気はしている。
 しかし、きちんと敵の正体を見極めてから出ないと、もしもがあるのでまだ参戦するつもりはない。
 当然ラウルもだ。
 まずは怪我を負った片方の魔族が倒されるのを待つつもりだ。


「遠くで見学でもしているか?」


「そうだね……」


 とりあえず、片方の魔族を怪我をさせるという助力はした。
 人族の者たちにはそれだけで楽になったはずだ。
 その分自分たちは安全地帯で見学させてもらう。


「おっ! 出てきたか?」


「……何が?」


 遠くの丘から眺めていると、ケイが少し楽しそうな声をあげた。
 まるで何かを待っていたかのような反応だ。
 何のことか分からないラウルは、慌ててケイが見ている方に視線を向けた。


「んっ? 結構強そうなのが……」


 人族の兵たちに交じって、様々な武器を持った多くの者たちが参戦してきた。
 その装備などを見ると、とても国の兵とは見えない。
 しかし、兵たちよりも魔物との戦いに慣れているかのような動きをしている。
 一人一人が冷静にアンデッドの魔物たちを倒していっている。
 彼らの参戦で、一気に召喚されたゾンビやスケルトンが消え去っていっている。


「冒険者って奴だ」


「冒険者? あれが……」


 ケイの言葉で、ラウルは彼らのことを理解した。
 子供の時に島で教わった知識では、人族大陸で広まっている職業だという話だった。
 聞いたことはあったが、その職業の者たちを見るのは初めてだ。
 魔物を退治して素材を集めることも仕事としていると聞いていたが、その経験が多いから兵よりも動きが良く見えるようだ。


「うん? おぉ、数人かなりの強さの人間がいる!」


「恐らく高ランクの冒険者なのだろう」


 よく見てみると、冒険者の中にすごい勢いで魔物を倒している者たちが存在している。
 かなりの魔力を持ち、相当な戦闘力なのが分かる。
 その者たちを見てラウルが感心していると、ケイは彼らのことを簡単に説明した。
 ケイから見ても、彼らはかなりの強だと思える。


「さすが王都だ。あれだけの者がいると分かっていれば、最初から助力しなくてもよかったかもな……」


「そうだね」


 ランクで言ったらかなり上の方の連中なのだろう。
 あれだけの強さの者がいれば、もしかしたらあの魔族の正体を掴むどころか倒せるかもしれない。
 ケイが言うように、自分たちは何もしなくても良かったかもしれない。










「おかしい……」


「どうした? シーロ!」


 王都を拠点とする冒険者パーティーの剣士シーロは、何体目になるか分からないゾンビを斬り裂いて呟く。
 大槌を持つ仲間のエミリアノは、その呟きが耳に入り問いかけた。


「倒しても魔物が増えているように思える」


「あぁ、たしかに……」


 シーロに言われて、エミリアノも少しあった違和感が増大した。
 自分たち冒険者だけでなく、先程から兵士たちも相当な数を倒している。
 それなのにも関わらず、魔物が減っていないように思える。
 それどころか、若干増えているようにすら感じる。 


「エミリアノ! 魔物が向かって来ている方へ突っ切ってみよう!」


「おいおい! 無茶なこと考えるな……」


 グールだけでなく、ゾンビやスケルトンと言った魔物が際限なく向かって来る。
 きっと何かしらの原因が存在するはずだとシーロは判断した。
 その原因を何とかしない限り、味方はジリ貧になってしまう。
 ここは違和感を感じた自分たちが行動に移すしかない。


「シャー! 行くぜ!?」


「あぁ!」


 エミリアノもその考えに乗ることを決心し、気合と共に大槌を肩に担いだ。
 短い言葉で理解し合うのは、長い年月共に戦て来たからだ。
 息の合った攻撃をしつつ、2人は魔物を蹴散らして突き進んで行った。


「っ!! 魔法陣!?」


 2人が連携して突き進んでいくと、魔物の発生源らしき場所へと行きついた。
 そこにはぞろぞろと魔物を発生させている魔法陣が描かれていた。


「あいつだ!! 肩に怪我を負っている奴だ!」


 魔法陣の近くには、肩に風穴が空いた人間が立っていた。
 エミリアノが指さしたその者が、どうやら魔法陣へ魔力を注入しているようだ。


「奴を倒せば魔物の出現を止められるはずだ!」


 召喚の魔法陣のようだが、これだけ長い時間魔力を放出し続けているとはとんでもない魔力量だ。
 しかし、その魔法陣も魔力を流さなければ召喚されることもなくなるはず。
 それを見抜いたシーロは、エミリアノと共にその者へと向かって行った。


「チッ!」


 シーロたちに発見されたことを悟った者は、これまで以上に魔法陣へ魔力を注ぎ込む。
 それにより、魔物の出現速度が上がった。


「くっ! 雑魚は任せてお前は行け!」


「頼む!」


 このままでは、仲間たちの被害が及ぶ。
 それを懸念したエミリアノは、自分が魔物の注意を引き付けることにし、シーロに魔力を流しているものを倒すように提案した。
 提案を受け入れたシーロは、一気に速度を上げて魔法陣へ魔力を流している者へと肉薄した。 


「っ!! おのれ!!」


「くたばれ!!」


 どうやら近接戦闘が苦手だったらしく、魔物を召喚していた者は逃げ足が鈍い。
 近付いたシーロは、剣に魔力を纏わせ、一気に敵を斬り殺した。


「やったぞ!!」


「よしッ!! 後は出現した魔物の始末だ!!」


 魔力の供給が止まり、魔物を召喚していた魔法陣は反応が消えた。
 これで魔物の出現は停止した。
 シーロたちは残りの魔物を倒すことへと意識を集中することにした。


 しかし、2人は気付いていなかった。
 最大の脅威となる者がまだ残っていることに……。





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