エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第302話

「ぐあっ!!」


 拳による攻撃を食らって1人の兵士が吹き飛ぶ。
 首がおかしな方向に捻じれている所を見ると、即死してしまったようだ。


「このっ!!」


 仲間が殺られ、他の兵士が怒りに任せてグールに対して攻撃をしかける。
 槍を振り下ろし、グールの脳天を叩き潰した。


「市民を避難させろ!!」


 脳天を叩き潰されたグールが倒れると、兵士の男は仲間に指示を飛ばす。
 その指示によって市民を避難せていると、脳天を潰されたはずのグールが立ち上がる。
 立ち上がった時には、先程潰されたはずの頭が元に戻っていた。


「くそっ!! 倒してもすぐに治っちまう!」


 元に戻ったグールが、また殴りかかってくるのを兵は槍で受け止める。
 何度目かの同じやり取りに、兵の男は忌々し気に文句を言う。
 物理攻撃で倒しても、何度も回復して元に戻ってしまう。
 これではこちらが体力を失うだけで、グールの数を減らすことができない。


「物理攻撃では一時止められるだけだ!!」


 愚痴っている仲間に対し、他の兵が助言を飛ばす。
 魔法が不得意な彼らは、攻撃を与えて少しの時間を稼ぐ事しかできない。
 しかし、その一時でも抑えておくことで市民を避難させる時間を稼ごうと必死に戦う。


「グールには炎の魔法以外は通用しない!!」


「魔導士部隊頼む!!」


 グールに攻撃を与えて動けなくすると、兵たちは一旦退く。
 その隙に魔導士たちが魔力を手に集めることに集中していた。
 そして、魔力が集まって放つとき、彼らにグールの弱点となる炎魔法を求めた。


「ハッ!!」


「ギャッ!!」


 魔導士の1人が放った炎がグールに直撃する。
 炎が直撃したグールは、小さい悲鳴のような声をあげると炭化して崩れ落ちた。
 完全に消失すると、物理攻撃を受けた時のように回復をせず、そのまま塵と化した。


「まだまだ次がいる。近接部隊少しの間止めてくれ!」


「了解!!」


 兵たちは上手く連携を取りつつグールに対処している。
 しかし、多くいるグールの数により、町の建物が少しずつ破壊されて行っていた。










「……まさに襲われている所だね?」


「そうだな……」


 グールたちを追跡してきたケイとラウル。
 目的のグールたちにようやく追いついた。
 それを発見した時には、人族大陸北の国の王都を襲撃していた。
 町の兵たちが懸命にグールを倒すために奮闘している。
 ケイたちは市民の中に紛れ込み、兵たちの戦いを離れた場所から眺めている。
 市民のために奮闘する人間に共感しているようなラウル。
 アンヘル島で魔物の襲撃から市民を守るということを良くしているラウルからすると、種族は違っても同じ仲間のような思いを抱いているのかもしれない。
 しかし、そんなラウルと違い、ケイは冷静にそれを観察している。


「助けに行かないの?」


 冷静とは言ったが、悪く言うと興味が無いといった様子。
 人族が攻め込まれていることを望んでいるかのようにも感じてくる。
 数では兵の方が多いが、グール1体に対して数人で当たらないと倒せないようで時間がかかっている。
 グールの攻撃はなかなか強力で、まともに食らえば即死してしまうような威力をしているようだ。
 ケイたちが眺めていると、時折グールの攻撃を食らった兵が吹き飛んでいる。
 ジワジワ追い込まれて行っているような兵たちに、ラウルは助力をした方が良いのではないかと思えてきた。


「助けに? 何でだ?」


「えっ?」


 兵の助力をすることを提案したラウルに、ケイはキョトンとした表情で聞き返した。
 まるで、そんなことをすることは考えもしていないかのような反応だ。
 質問に質問で返されて、ラウルは何と答えていいか分からなくなる。


「俺たちはグールを殲滅するために来ただけだ。人族を助けるためじゃない」


「そう言えば……そうだったっけ?」


 元々ケイたちは、人族大陸から魔人大陸へ人族の者が流れてこないために問題を解決しに来た。
 その問題とはグールの大繁殖による襲撃。
 人族の町がどうなろうと、グールを倒しさえできればそれでいい。
 ケイの中では、アンヘルの記憶が残っている。
 エルフの一族を滅ぼした原因である人族に、何十年経っても完全に許すことができない。
 その記憶から、人族のことなんてどうでも良いという印象が強い。
 ただ、同じ人族でも妻だった美花と同じ日向の人間だったら、ケイも違う反応をしていただろう。
 前世の日本人と同じ言葉を使い、同じ顔立ちをしているせいか困っていたら助ける気持ちを持っていたかもしれない。
 平気で見捨てると言っているケイの発言に、ラウルも何となく納得するしかなかった。


「それよりも、グールの動きをよく見といておいた方が良い」


「動き?」


 助けないのならどうしたものかとラウルが思っていると、ケイはグールたちを指差して観察をするように言ってきた。
 何故そんなことをしなければいけないのかと思いつつ、ラウルは言われた通りにグールたちのことを観察し始めた。


「集団になると戦い方も変わる。敵のことを知ってから戦った方が危険度は下がるってものだ」


「なるほど、分かったよ!」


 ひとつ前の町で、はぐれグール1体を相手にした経験がラウルにはあるが、集団を相手となるとそれはない。
 ケイもグールの集団となると経験はないが、集団戦なら人でも魔物でも何回もある。
 その経験上、特に苦戦するイメージはない。
 そのため、自分のことよりもラウルのことが心配になっている。


「……何かおかしくない?」


「あぁ……、グールの動きがかなり統率されているように思える」


 指示通りに観察をしていたラウルだが、グールたちの様子に違和感を感じていた。
 それに関しては、ケイも同様の思いをしていた。
 兵たちはグール1体を相手に数人で戦っていたのだが、グールたちの方がそれに対応するように集団で兵たちと戦い始めたのだ。
 1体を足止めしようと兵が攻撃をするが、特に動きが停滞する頭部への攻撃を防ぐように、グールは仲間同士でかばい合ったりしている。
 片腕を斬り落とされても、もう片方の腕で攻撃をしてくる。
 そして、仲間が続いて攻撃をしている間に斬られた腕を拾ってくっ付ける。
 停滞する隙を突かれないように動いているのが分かる。
 魔法の攻撃も、そのせいで直撃させることができない。
 炎の魔法を受けても体の一部を焼かれるだけで、焼かれた部分は斬られた時とは違って時間がかかるが
再生してしまうようで、兵たちがグールを倒す数が一気に減っていった。


「何だか統率されているような……」


 グールは別に思考力が無いわけではない。
 変身したりできることから知能は低い方ではない。
 グールの発生方法はよく分かっていないが、食屍鬼と言われていることから生物の死肉を食したことで生まれると言われている。
 死人と言う説もあるし、死肉を食したことにより脳に変容を起こした人間だという説など様々だ。
 つまり、ゾンビなどのように思考力が無いわけではないが、普通の人間ほど賢いわけでもない。
 連携を取ることもそれ程不思議ではないが、さすがに上手すぎる。
 ラウルの言うように、何者かの指示を受けているかのようだ。


「もしかして……」


 ラウルの発言から、ケイにはあることが一つ思い当たった。
 それを確認するように、グールの最後方の周囲へ目を向ける。


「……違うのか? いやっ……」


 どうやら思っていたのとは違うのか、どのグールも容姿以外変わりない様子だ。
 何者かに指示を受けているのではないようで、グールの集団の中には特別な者は存在していない。
 そのため、自分の考えが間違いだったのかとケイは思ったが、まだ結論付けるのは速い。
 そう判断したケイは、グールから少し離れた位置へも目を向けて捜索した。


「居たっ!!」


 思った通り、ケイは誰もいないはずの時計台の上に一人の生物の存在を確認したのだった。





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