エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第294話

「……何だ?」


 褒美の魔道具につられてセベリノに頼まれたケイは、エヌーノ王国へと転移した。
 魔人の国であるエナグア王国を攻めていたが、見事に返り討ちに遭ったことで相当国内は酷いことになっていると思っていたが、予想通り以前きた時とは違う様子を醸し出していた。
 エルフと気付かれないように特徴となる長い耳を隠すようなカップを装着し、普通にエヌーノ王国の首都へと進入しようとしたのだが、王都へ入る門の所からもう違和感を感じていた。


「これは……」


 門番の検閲もなく(というよりも門番が存在していなかった)、すんなり町中に入ることができたケイは、町中を見て驚く。
 前回きた時もすでに市民が困窮しているように見えたが、魔人大陸の侵攻に失敗したことが知れ渡ったからか、更に荒れた町並へと変わっていた。
 店なんて開いている所はなく、路地には餓死した人間が転がっている始末だ。
 元々侵攻が成功していたとしても、同じ結果だったのではないかと思えてくる。


「……王城に籠城してんのか?」


 人の気配がないので捜し歩いていると、王城が近くに見える所にたどり着いた。
 市民は皆武器を持ち王城を取り囲んでいる。
 王城内がどんな状況なのか気になる所だが、これではケイでも入ることはできなさそうだ。
 恐らく、暴徒化した市民が攻め込んでくるのを見越して、王城へと入る橋を上げてしまったらしく、堀に囲まれているせいで市民たちも進入できないでいるようだ。
 堀を埋めてしまえば攻め込めるのだと思うが、市民たちは王族たちをこのまま餓死させたいのかもしれない。
 王城内の人間は一人も出入りさせないつもりのようだ。


「市民の暴徒化か……」


 離れた所で眺めつつ、ケイは一人呟いた。
 王族が勝手な作戦を実行して大失敗となったら、市民からしたらそれは腹立たしくて我慢ならないだろう。
 この状況にした王族たちをジワジワと苦しめている所を見ると、人の憎悪とは恐ろしいものだ。
 一応ケイもアンヘル王国のトップという地位にいるので、今さらながら自分も好きに動いていることが申し訳なく思えてくる。


「放って置いても大丈夫だろうが、あんまり長いこと続いても面倒だな……」


 このままにしておいても、もう国としては終わっている状況だ。
 なので、ケイが何かする必要なんてないのだが、はっきり言ってそろそろ島に帰りたい。
 潰れるのを待っていたら、あと何か月かかるか分からないので、ケイとしては悩みどころだ。


「どっかの国に攻め込ませるか……」


 高い山に囲まれたこんな小国を手に入れようとなんて、周辺の国は思ってもいないだろうが、簡単に手に入れられるなら欲しいと思うかもしれない。
 そのためのお膳立てをしてやろうと、ケイはあることを思いついた。


「たしかこの辺かな?」


 エヌーノ王国の王都から南へ向かったケイ。
 その眼前には高くそびえ立つ山が存在している。
 その中でも、渓谷になっている所に隣国へ続くための道を作ってしまおうという考えだ。
 そうすれば山越えなんてしなくても行き来できるようになるので、攻め込むにしてもそれほど苦にもならないはずだ。


「ハッ!」


 道を作ると言っても、山にトンネルを掘るとかいう訳でなく、ただアップダウンがきつくならないように、つ最短距離になるように道を整えていくだけだ。
 土魔法で川沿いに道を作っていくと、樹々が邪魔をしてなかなか進まないが、山を越えることに比べればたいした苦にもならない。


「ふぅ~……、後2、3日はかかるかな?」


 道を作りつつ進んで行っていると、いくらケイの魔力が多いと言っても疲れてきた。
 隣国で一番近い村までの距離を考えると、単純に計算しても2、3日。
 思ったより順調に進んでいるが、先はかなり長い。


「レイナルドか、カルロス連れてくるかな……」


 こういった大掛かりなことをするなら、自分と同じく魔力量が豊富な息子たちを連れてくるべきだったとケイは思い始めた。
 特に、カルロスは土魔法が得意なようなので、道づくりなんて得意そうだ。


「任せっぱなしにしといてそりゃないか……」


 息子を連れて来て手伝わせるということを思いついたが、すぐにその考えを改める。
 妻の美花が死んで抜け殻のような気持になったケイは、息子二人に島のことを任せて家出してしまった。
 人族大陸を横断して日向の観光。
 そんなことを勝手にして、島のことをほったらかしていたケイが、自分の思い付きに付き合わせるのは何だか申し訳なく思えて来た。
 日向から帰った時、島はレイナルドを中心としてしっかりと平和に発展して行っていた。
 前世の知識を生かして色々したいところだが、アンヘル島の良いところは長閑でのんびりとしたところだ。
 忙しなく過ごさなければならないようになるのは、今後次第で考えればいいことだ。


「……さっさと続けるか」


 島に帰ってもケイがいる意味なんてそれほどないだろうが、息子や孫たちの顔が恋しくなってきた。
 頼ることができないなら、自分でがんばるしかない。
 少しの休憩を取ったケイは、腰かけていた岩から立ち上がり、道づくりの再開をした。












「やっと村が見えてきた」


 道を作り続けること3日。
 目指していた隣国の村が、ケイの目に映ってきた。
 特に何かの産業があるとかではなく、農業を中心としている村だ。


「後はこの道が知れ渡れば……」


 隣国へ続く道なんて、誰も知らなければ何の意味も成さない。
 攻め込んでもらうにしても、軍部の耳に入らなければ攻め込もうなんて思うことすらないだろう。
 ケイが思いつくのは、地道に広める草の根作戦しか思いつかない。
 そのことは一先ず置いておいて、ケイは村で休ませてもらおうと向かって行った。


「んっ? この反応は……」


 無村に近付くにつれて、ケイは眉をしかめることになった。
 何故なら、たいして住民の多くない普通の村のはずの所に、多くの人間が集まっている反応が探知できたからだ。
 その数は、とても村に移住して来たとは考えにくい。


「兵士? 攻め込む気だったのか?」


 更に近付くにつれ、その集まっている人間のことがなんとなく分かってきた。
 彼らが装備している鎧などから察するに、エヌーノへ攻め込む準備をしているかのような出で立ちだ。
 もしかして、山越えするつもりでいるのだろうか。


「ツイてるな! 奴らが攻めるなら道のことを教えるチャンスだ」


 手に入れるだけ手に入れて、後で使い道を考えるつもりなのだろうか。
 ともかく、山越えなんて時間のかかることを何とか止めないといけない。
 ケイは少し急いで村へと向かって行った。










「本当ですか? 隣にできた国がもう潰れかかっているというのは……」


「えぇ……。山を越えてきた者が言っておりました」


 村長らしき老人が、兵を率いてきた男性に問いかける。
 小国とはいえ、元々自分たちの害にならないか偵察を送っていたのだが、その偵察からの報告が軍を動かすことになった。
 軍を率いて魔人大陸に向かい、返り討ちに遭って戻ってきたと聞いた時には、思わず笑ってしまった。
 魔人が武器の性能頼りでなくなっていたことには驚いたが、それが分からずに攻め込んだのは金や兵の無駄遣いでしかない。
 そんなのが王として君臨しているなんて、他国とは言え市民たちが可哀想で仕方ない。


「これから我々は、山を越えて隣国へ攻め込むつもりだ」


「左様ですか……」


 隣国までの山越えはかなり厳しい。
 アップダウンの連続な上に、魔物も多く出現する。
 それを思うと、大変な道へ向かう兵たちの健闘を祈るしかできない。


「……失礼!」


「「んっ?」」


 2人が話している所へ、旅人風の服装をした容姿が美しい男が割って入って来た。


「エヌーノへ向かうのでしたら、近道がありますのでご案内いたしますが……」


 話しかけたのはケイ。
 村に入って来てみれば、ちょうど2人が話していたので都合が良かった。
 そのため、2人の話に割って入り、道案内のことを話しかけたのだ。





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