エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第283話

「準備は良いか?」


「「「「「はい!」」」」」


 潜ませた声で問いかけるバレリオ。
 その問いに、魔人の兵たちも返事をし、導線に火をつけた。
 彼らの目の前には数台の大砲があり、その砲口は海上へ浮かぶ船へ向けられている。
 ドワーフ王国より貸し与えられた大砲だ。


「撃て!!」


“ドドドドドンッ……!!”


 バレリオの指示により、一気に砲弾が発射された。
 彼らから見て左、つまりは北側を進む船へ発射された弾が飛んで行く。
 それが数隻の船に着弾し、多くの人族兵が海へと放りだされた。


「なっ!?」


「急襲!! 急襲!!」


 いきなりの急襲に、船上のエヌーノ王国陣は大慌てだ。
 数隻の船に着弾して船体に穴が空き、多くの兵が海に投げ出された。


「大砲だと!? 魔人かドワーフどもの仕業か!?」


「恐らく……!!」


 先に送った兵たちが作った拠点がどうなっているか確かめる意味でも、当初の予定通りに進んでいた船団だったが、魔人たちによる急襲は想定していなかった。
 エナグア王国のある場所は、ドワーフ王国に近い。
 そのことからドワーフの協力を得ているかもしれないという報告は受けていたが、自分たちが上陸した後におこなう決戦の時に関わってくると思っていた。
 武器に魔力を流して戦うことしかできない原始人のような魔人どもが、先に送った兵たちを見つけることも倒すことも出来ないだろう。
 なのにも関わらず、味方の拠点があるはずの場所から攻撃してくるということは、ドワーフが相当な協力をしているということになる。


「海に落ちた者を拾え! 船はともかく兵は戦力になる!」


「「「「「はい!」」」」」


 砲撃により数人が殺されたが、ほとんどは大した怪我もせず海に落ちただけだ。
 多少の怪我ならまだ戦うことができる。
 そのため、指揮をとる男は、海に落ちた兵の救助を指示した。


「南へ迂回しろ!! 離れた所からなら大砲の攻撃を受けずに上陸できるはずだ!!」


 風の影響か、敵の砲弾は北側へ飛んで行っている。
 大砲はその重量から、そう簡単に移動させることはできない。
 ならば、南へ進路を変えて上陸を果たすことにした。


「あそこだ!! あそこの海岸から上陸をするんだ!」


 南へ進路を変えると、上陸できそうな海岸が発見できた。
 そこから上陸すれば、拠点の場所にいるであろう敵へ一気に攻め込むことができるだろう。
 船上の兵たちは小舟に分散して乗り込み、その海岸目指して進み始めた。


“ドドドドドンッ……!!”


「ぐわっ!?」「くっ!?」


 海岸へ向かう小舟へ向かって、大きな音と共にまたも砲弾が飛んできた。
 砲弾は直撃しないが、小舟の近くの海面に落ち、強い波を起こす。 
 その波によって、小舟は何隻か横転し、その舟に乗った兵たちは海に放り出された。


「馬鹿な!? どれだけの数の大砲を仕込んでいるというのだ!?」


 拠点だけでなく、ここにも大砲が置かれていたことに驚きの声をあげる。
 どうやら、ドワーフから多くの大砲が貸し与えられているようだ。


「大丈夫だ! 小舟ではピンポイントでなければ当たらない! このまま上陸し、奴らを皆殺しにしろ!!」


「「「「「おぉっ!!」」」」」


 砲弾によって邪魔をされたが、最初に出発した小舟の中で上陸を果たす兵が現れ始めた。
 上官の指示の通り、兵たちは海岸を駆けて魔人たちの姿を探し始めた。


「「「「「グアァァーー!!」」」」」


「っ!? 何だ、何が起きた!?」


 海岸に上陸し、内陸へ向かった兵たちの悲鳴のようなものが、まだ少し離れた海上の上にいる者たちにまで聞こえて来た。
 明らかに何かあったようだ。 
 内が起きたか分からず問いかけると、怪我を負いつつ戻ってきた兵が答えを返した。


「包囲されての集中砲火です! 奴ら魔法を使えるようになっているようです!!」


「そんなバカなっ!! 半年前の報告では武器に魔力を流すだけの雑魚だっただろうが!?」


 宰相から侵攻する兵には、魔人の戦闘方法や実力などが説明された。
 魔人大陸に向かったことのある冒険者からも似たような報告を受けていた。
 なので、報告の通りドワーフ特製の武器に魔力を流して戦うということしかしてこないはずだ。
 もしも魔法という存在を知って使いこなせるようになろうとしても、相当な訓練を毎日やらないと、半年でできるようになるなんて考えられない。
 しかし、攻撃を受けたものが嘘を言う訳がない。
 本当に多くの魔人が魔法を使って攻撃してきたのだろう。


「ナチョ王太子様!!」


「ハシント!!」


 ハシントと呼ばれた者が指揮を出していた者に声をかける。
 どうやら指揮をしていた者は、エヌーノ王国の王太子でナチョと言うらしい。
 少し背が高く、サラサラの金髪をたなびかせた貴公子といったようなハシントは、ナチョの前へと進んで片膝をついた。


「私が奴らの包囲を崩しにかかります!」


 ここまでの用意周到な様子からいうと、魔人たちはこの海岸へ誘導したかったのだろう。
 奴らの計画を崩すには、強力な力によって打ち崩すのが手っ取り早い。
 そのため、ハシントはナチョへ進言したのだった。


「む~……、お前はこちらの最大戦力。やられることはあってはならないぞ!?」


「お任せください!!」


 ナチョが言うように、ハシントはエヌーノの最大戦力だ。
 それがやられるとなったら、こちらの士気は完全に消沈する。
 それだけは決してあってはならないこと。
 ハシントの強さは知っているが、ナチョは念を押した。
 それに対し、ハシントは自信満々の表情で頷きを返したのだった。





「エルティモエルフォ ―最後のエルフ―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く