エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第215話

「魔闘術も使えないのに1人で来たのか?」


 魔闘術の使い方を教えてほしいと言われたケイは、思ったことを善貞に尋ねることにした。
 ケイは簡単に猪の魔物を倒しているが、普通の人だと戦うのはかなり危険だ。
 その数が増えているような所に1人で来るなんて、考え無しも良いところだ。


「1対1なら何とかなるかと思って……」


「考えが甘いな……」


 魔闘術が使えなくても猪を倒せる人間はいるだろうが、安全を期すためには集団で戦うのが1番だ。
 善貞の実力がどんなものか分からないが、変な自信だけで挑もうなんて考えが甘すぎる。
 一人で戦って、怪我でもしたらただでは済まないだろう。
 そのことも考えないなんて、浅はか過ぎる。


「じゃあ、やって貰おうか?」


「えっ?」


 その自信が本物かどうか確認しないと、まずは判断できない。
 本人も戦う気で来たのだろうし、とりあえずやらせてみるのが手っ取り早い。
 なので、ケイは善貞の実力のほどを見るために、猪と戦わせてみることにした。


「この方向から猪が来ている。お前が相手してみろよ」


「わ、分かった」


 ケイの探知に、また猪の反応が引っかかった。
 丁度いいので、ケイは反応のあった北の方角を指さし、善貞に戦うように指示した。
 本当なら自分で見つけて退治するのが普通なのだが、それは一先ず置いておく。
 単純に善貞のレベルを見るためだ。


【だいじょうぶかな?】「ワウッ?」


 キュウとクウは、善貞が怪我をしないか気になるようだ。
 匂いなどから善貞は悪い奴ではないように思えるが、猪を倒せるほど強いかは微妙な気がする。 


「危なくなったら助けるよ」


【じゃあ、たいじょうぶだね!】「ワフッ!」


 ケイが見ているなら大丈夫だろうと、安心したキュウとクウは、落ち着いて見ていることにした。
 流石に知り合いが死ぬのを、ただ黙って見ているほどケイは冷酷ではない。
 多少の怪我なら治せばいい。
 大怪我しそうな時だけ助けるつもりだ。


「で、でかっ!」


「……バカ!」


 静かに樹々の中を進んで行くと、先程ケイが指さした方角に猪の姿を発見した。
 緊張感が足りないのか、その瞬間善貞は声を出してしまう。
 見つからないように接近して初撃を与えるのが基本なのに、それすら知らないかのようだ。
 案の定善貞の声に反応した猪は、こちらに向けて突進し始めた。
 ケイは単純なミスをした善貞に、一言ツッコむ。


「くっ!?」


 ケイたちは離れた所にいるからか、猪が向かってくることはないが、善貞は完全にターゲットになったようだ。
 向かってきた猪の突進を、善貞は上手く横に跳んで回避する。
 通り抜けた猪は、ターンしてまた善貞へと突進する。


「ハッ!」


「プギッ!?」


 何度か猪の攻撃を回避した善貞は、抜刀して猪の側面を斬りつける。
 善貞の斬撃は、浅くだが猪に傷を付ける。
 斬られた方の猪は、悲鳴を上げて鼻息を荒らげる。
 そして、血走った目で善貞へ襲い掛かる。


「はっ!!」


「避けるのは上手いみたいだな……」


 猪の攻撃はたしかに早いが、善貞はその速度に慣れたのだろう。
 攻撃を躱してから刀で攻撃するを繰り返す。
 少しの時間同じことを繰り返すと、多数の斬り傷によって大量の血液を失った猪が横倒しになって動かなくなった。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 止めを刺して勝利を治めたが、攻撃を躱すのに集中してほとんどずっと無酸素運動をしていたため、善貞は息切れをして座り込む。
 体力の限界に来たのだろう。


「もう、だめ、だ……」


「確かに1対1なら何とかなったが、しばらく動けないみたいだな……」


 息を切らしながら言葉を発する善貞。
 有言実行を果たしはしたが、これでは次の猪を倒せそうにない。


「ったく。こんなんでよくここに来たな」


 今のように、戦い終わった後にもう1頭が近寄って来たらどうするつもりだったのだろうか。
 剣術は指導を受けていたのかしっかりしているが、それ以外が良くない。
 一応及第点といったところだ。


「キュウ! クウ! 善貞を見ててくれ」


【うん!】「ワウッ!」


 近寄ってくる猪の相手は、ケイがすることにした。
 体力切れで座り込んでいる善貞は、キュウたちに保護をしてもらうことにした。
 ケイの指示を聞いたキュウたちは、素直に返事をした。


「おっ!?」


 ケイが見事な隠形を行ない、猪の視界に入らないように接近する。
 しかし、猪は魔物の勘とでも言うのだろうか、ケイがいることに気が付いたようだ。
 すると、有無を言わずにケイへと接近してくる。


「っと!」


 突っ込んでくる猪を、ケイはジャンプして躱す。
 そしてそのまま腰から1丁銃を抜く。


「食らえ!」


“パンッ!”“パンッ!”


「プギャーー!!」


 銃口を向けられても、猪にとっては何をしているのかは分からない。
 怯むことなくケイに突っ込んで来た猪だったが、ケイの2発の銃弾を食らって脳天に風穴を開ける。


「これで今日は大丈夫だろう」


 探知を広げてみるが、猪の反応はない。
 今日の所はこれで終わりにしても良いようだ。


「お前、野宿する準備はしてきたのか?」


「……持ってない」


 食料を持ってこなかった上に、テントなども用意していなかったようだ。


「仕方がない。こいつを使え」


 別にこんな時のためではないが、古くなり予備にとっておいたテントを、ケイは善貞に渡した。


「ありがとう!」


 そのテントを受け取り、作り上げた善貞はすぐに中に入って大人しくなる。
 いつの間にか眠りにはいってしまったらしく、起こそうとしても全然起きないから、ケイたちが見張りを行なうことになってしまった。





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