エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第204話

【あいつらしつこい!】


 いきなり2人組の男たちが入って来たため、宿屋の窓から逃げ出したキュウとクウ。
 窓から出た次の瞬間、後方から爆発音が響き渡る。
 何を考えているのか分からないが、どうやらまともな頭をした相手ではないようだ。
 そう思った通り、男たちは村人たちにまで攻撃を始めていた。
 被害にあった村人には申し訳ないが、いまのうちに逃げてしまおうと思って逃げるが、男たちもすぐにキュウたちを追いかけてきた。
 主人のいない所で従魔が人へ攻撃すると、理由の関係なく処罰を受けることになる。
 村の外へ行けばその縛りもなくなるので、村の出口へ向けて走るクウ。
 そのクウの頭の上に乗った状態で追いかけてくる男たちをみるキュウは、どんどん近づいてくる男たちにイラ立ちを覚えていた。


「待ちやがれ!!」


 クウの足はなかなか速い。
 しかし、追いかけてくる男たちはそれ以上の速度で追って来る。
 どうやら魔闘術を発動しているようだ。
 主人であるケイの指導によって、キュウとクウも魔闘術は使える。
 急いで村から出たいため、クウも魔闘術を使って走っているが、相手の方の実力も高いらしく逃げ切れるか微妙なところだ。


「村の外には出さん! ハッ!!」


 キュウたちの狙いに気付いたのか、ロン毛の男の方がクウたちに向かって魔法を放ってきた。


【クウ! ひだりにとべ!】


「ワンッ!」


 逃げることに集中しているクウに、キュウが魔法を避ける方向を指示する。
 その指示の通り、クウは左へと跳ぶ。


「チッ!! ちょこまかと……」


 足止めに放つ魔法をことごとく躱され、ロン毛の男はイラ立ちを募らせる。


「ちょ、お前!」


「ケセランパサランだけでも助かればいいんだろ!?」


 仲間の男が注意しようとするのを無視して、ロン毛の男はいくつもの魔力球を自分の周囲に作り出し、それをクウ目掛けて飛ばしていく。
 作った魔力球の大きさからいって、ただの足止めと言うには大きく、直撃でもすれば怪我だけでは済まないかもしれない。
 クウの生死なんてどうでもよく、目的のキュウさえ捕まえられれば構わないといったところだろう。


【っ!?】


 強力な魔力球の連発に、キュウも驚く。


【クウ! とまれ!】


「ワウッ!?」


 威力と数を見た時に、クウでは全部を避けることは不可能だと判断。
 キュウはクウのことを考え、止まるように指示をする。
 その急な指示に、クウも慌ててブレーキをかける。


“ズドドド……!!”


 クウが止まると、前方にいくつもの魔力球が降り注ぎ、強力な衝撃と共に道に穴を作り出す。
 もしも止まっていなければ、クウに直撃していただろう。
 キュウの判断は、クウのためにはある意味正解だった。


「ったく、手間取らせやがって……」


「さっさとこいつ持って帰ろうぜ」


 上手いこと足止めができたことで。男たちはゆっくりとキュウたちに近付く。
 目的のキュウがもう手に入ると思っているようだ。


【クウ! しゅじんのところにはしれ!】


「わうっ!?」


 このままでは良くないと思ったキュウは、クウの頭の上から降りる。
 そして、クウの足では逃げられることはできないと判断したキュウは、クウだけ逃がすことにした。
 生まれた時、あっさりとケイに捕まったことからも分かるように、ケセランパサランのキュウは移動速度が遅い。
 普通に走るとなると、クウの方が早いので乗っていたが、一緒にいるとクウに被害が及ぶ可能性が高い。
 そう思ったキュウは、クウをケイの所に向かわせることにした。
 しかし、キュウを置いて行くなんてできないため、クウはその指示を聞くことにためらいを見せる。


【いいから、いけ!】


「ワ、ワンッ!!」


 単純な戦闘力からいって、キュウとクウではキュウの方が上。
 それもあって、ケイがいない今、クウはキュウの指示に従うしかない。
 強めの口調の念話を受け、クウは地を蹴り走り出す。


「あっ!?」


「別にいいだろ? あいつは関係ないんだし……」


「……そうだな」


 キュウを置いて走り出したクウに、ロン毛の男は魔法を放とうとする。
 しかし、それを短髪の男が止めに入る。
 自分たちの目的は、ケセランパサランの捕獲だけ。
 日向に近い国なら時折見るような、犬の魔物なんて相手にする必要なんてない。
 仲間の尤もな意見に、長髪の男も納得する。


「じゃあ、こいつをこれに入れるか……」


 そう言って短髪の男が取り出したのは、小さい檻。
 キュウが丁度入る程度の大きさだ。
 その中に入れようと、キュウを捕まえに行く。


“ピョン!”


「っ!!」


 しかし、キュウは男が伸ばしたその手から逃れる。


「……逃げんな!」


 逃げられたことにイラッとしつつも、男はもう一度キュウに手を伸ばす。


“ピョン!”


「っ!!」


 しかし、またもキュウに逃げられる。


「……てめえ!」


 完全に腹を立てた男は、大人しくさせようと握った拳をキュウへと放つ。


“フッ!!”


「なっ!?」「っ!?」


 捕まる訳にも、殴られる訳にもいかないキュウは、男の拳を躱す。
 その動きの俊敏さに、2人の男たちは目を見開く。
 さっきの避け方とは違い、キュウのその速度がかなり早かったからだ。


「思った以上に速いな」


 キュウの予想外の移動速度に、男たちは余裕だった表情から真剣な目に変わる。


「このっ!!」


“スッ!!”


「やろっ!!」


“スッ!!”


 魔闘術を使い、殴るに近い程のハンドスピードでキュウへと手を伸ばす男たち。
 しかし、キュウはそれを躱しまくる。
 さっきも述べたように、キュウはクウより移動速度は遅い。
 しかし、それは普通に地面を蹴って移動する場合の話だ。
 瞬間的に短距離を移動するだけなら、キュウには秘策がある。
 手足のない球体のようなキュウは、肉体での戦闘は全くできない。
 そのため、ケイは魔法を教えた。
 初めはたいした魔法が使えなかったが、次第に色々な魔法を使えるようになり、魔法の練習をし続けることで魔力量もかなり増えて、今では魔法特化でも強力な魔物へとなっている。
 その得意になった魔法を使うことによって、移動速度を上げる方法を考え付いたのだ。
 強力な風魔法を瞬間的に放出することによって、自分を加速して移動するのだ。
 ただ、かなり精密な魔力コントロールが必要なので、魔力の消費量がかなり多い。


「いい加減にしろよ!!」


「ちょっと痛めつけるしかないな……」


 スイスイ避けられることで頭に来た男たちは、キュウを前後で挟んで拳に力を込めた。
 元々、多少痛めつけてでも捕まえるつもりだったので、無傷の捕獲は諦めて、殺さない程度に痛めつけることにした。


【……しゅじんがくるまでがんばる!】


 攻撃ができないので、今は逃げ続けるしか方法は無い。
 クウがケイを呼びに行ったのだから、それほど時間はかからないはずだ。
 それまでの間、キュウは逃げ続けることをことを決意したのだった。





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