エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第185話
「何だここ?」
「ハッハッハ……」
日向へ向けて移動を開始したケイ。
従魔のキュウとクウを連れて東へ向かっていたのだが、旅の資金を稼ごうと森に入って魔物を狩ろうとした時、何だかおかしな雰囲気の森に迷い込んでしまっていた。
まるで、吸い込まれたような感覚もあり、足を動かすのをためらわれる。
クウの方も鼻を使って周囲を警戒しているのだが、首を傾げている。
僅かに霧が掛かっているのが、余計に違和感を増長している。
【しゅじん! なんかへんだよ!】
「あぁ……、お前たちも注意してろよ」
クウの頭の上に乗っているキュウも、どんどん変な感覚に陥っていることに戸惑っている。
ケイ自体も何が原因でこうなっているのか分からないため、周囲への警戒に気を張っている。
ここから出たいにしても、日の方向が霧で分からなくなっているので、出口の方向が分からない。
魔力を周囲に伸ばしても、ある程度の距離まで行くと邪魔されているように魔力が霧散する。
一定距離までしか周囲の様子が分からない状況だ。
戻るにしても何かあるにしても、先に進まないと何も変わらないみたいなので、ケイはキュウとクウに注意して前へ進むことにした。
【うん!】「ワフッ!」
「ふっ……」
ケイに注意を受けた2匹は、返事をするとケイの足下へ近付く。
もしもの時は、自分たちが盾になると思っているのかもしれない。
例え敵が出たとしても、実際はケイの方が反応は早いだろう。
しかし、容姿が可愛らしい2匹が頑張ろうとしているのを見ると、何だかケイはおかしく見え、小さく吹き出してしまう。
そんなことには気付かず、2匹は真面目に周囲を見渡している。
「………………」
魔物が出た時の事を考え、ややゆっくりと歩を進めるケイたちだが、2匹とは違いケイはこの風景に関して何かずっとモヤモヤしている。
それが何故なのかも分からない。
なので、無言で歩きながら考えていたのだが、
「……あれっ?」
【どうしたの? しゅじん】
ある風景が目の前に広がった時、ここまでの間のモヤモヤが一気に晴れた。
そのため、思わず足を止めたら、キュウに心配された。
「んっ? いや、何かここ知ってるような……」
【えっ?】
キュウの質問に答えたケイだったが、その答えにキュウがびっくりする。
ずっと閉じ込められているようなここの周囲の雰囲気に、何かの罠が施されているのではと考えていたからだ。
主人であるケイが知っている景色と言うが、キュウはケイが小さい頃から一緒にいる。
ケイが知っているなら、自分もここのことを知っているはずなのだが、キュウには全く思い当たる所がない。
「……やっぱり!」
【なに? ここ……】「ワフッ?」
話しながらも足を動かしていると、霧と樹々の中に、いくつもの家が崩れたような瓦礫が転がっていた。
畑があったような場所もあり、もしかしたらここに村のような物があったのかもしれない。
その風景を見た時、ケイは予想通りと言ったような声をあげる。
こんな所に村があるなんて思いもしなかったキュウとクウは、目を見開いてその村の跡地を眺めた。
「……ここは元エルフの里だ」
【エルフ? しゅじんの里?】
キュウたちの疑問に答えるように、ケイは足下に転がった瓦礫を拾って呟く。
それを聞いたキュウは、首を傾げる。
キュウの場合どこに首があるのか分からないので、頭を傾げたと言った方が正しい気がする。
そんなことはどうでもいいとして、ケイはキュウの質問に頷きで返す。
大昔、エルフが住んでいた場所がここだった。
ケイのではなく、アンヘルの記憶の中にこの村のことがあったのだ。
「正確には俺の先祖が住んでた場所だな……」
【ふ~ん……】
アンヘルの記憶でも、ここに住んでいたという訳ではないと出ている。
しかし、一度だけ父と叔父と共に、ここに来たことがあった。
この地で密かに住んでいたエルフたちだったが、人族の侵攻にあい、自分たちの掟によって数を減らしていった。
そして、ここでは生きていけなくなったため、逃げ回る内にバラバラになり、どんどん数を減らしていくことになったのだった。
流れとすればそんな感じだが、ケイ1人になるまでは数百年の月日が経っている。
「っ!?」
【っ!?】「ワフッ!?」
ケイが父たちに聞いたことをキュウたちへ話していると、霧の一部が少しずつ集まり出した。
何が起きるか分からないため、ケイと従魔の2匹は警戒心を強める。
いつでも攻撃できるような態勢のケイたちの近くに、その白い靄が次第に人の形へと変化していった。
「映像?」
ゆっくりと人の形になった白い靄は、その耳の形からケイと同じエルフだと分かる。
しかし、そこに実在しているようには見えず、僅かに靄が揺らいでいる。
それを見たケイは、ここで死んだエルフが何か言い残して死んだのだろうと、その映像を黙って見ることにした。
ケイが武器から手を離したことで、キュウたちも戦意を抑えて、その映像をじっと見始めた。
「エルフの子孫よ。よくぞこの地へ参った。私はこの地で生まれ、長い年月人族の手から逃げ回った。しかし、年を取り、死を覚悟した時、生まれ育ったこの地のことを思い出した」
生まれ育ったということは、やはりこの映像のエルフは先祖のようだ。
恐らく魔力を残留思念として、一定条件化の下に発動するようにしていたのかもしれない。
人族の手から逃れるために、魔力の訓練を相当したことがうかがえる。
「人族の国に囲まれたこの地は、私がたどり着いた時には無残な姿をしていた。田畑は荒らされ、家々は破壊され、どこも雑草が生い茂った状態だった」
このエルフが戻ってきた時には、どうやら今の状態になっていたらしい。
しかし、このエルフが言う程ひどいようにも思えない。
「これ以上人族にここを荒らされることに、私は耐えられない。そのため、エルフの魔力に反応した者しか入れないよう結界を張った」
「なるほど……」
そのエルフの言葉に、ケイは納得の言葉を呟く。
父たちと来た時も今も、ケイ(アンヘル)がここに来れた理由が分かった気がする。
キュウたちも一緒なのは、従魔と主人には僅かに魔力のパスが通じている。
それが反応して、一緒に入れたのかもしれない。
「ここをどうするかはお前に任せる。この結界を解くことも私の思念を消してしまうのも好きにしてくれ……」
映像も終わりに近づいたのか、揺らぎ始める。
「私を含め、ここの地で亡くなった者たちの墓地を作って置いた。できれば……彼らが静かに眠れるように……してくれ……ること……を願う」
靄の揺らぎが強くなると共に、段々と言葉も途切れだす。
「エルフの……一族……が、また……栄えて……くれる日が、いつか……来る……のを……祈って……いる」
途切れ途切れだが、彼はエルフの一族のことを本気で憂いて死んでいったのだろう。
どれほど昔のことだかは分からないが、ここまでのことをするなんて余程のことだ。
「任せてくれよ。新しい地でよければ良いところがある」
人型の靄が消え、それまで黙って聞いていたケイは、静かに決意を呟いたのだった。
「ハッハッハ……」
日向へ向けて移動を開始したケイ。
従魔のキュウとクウを連れて東へ向かっていたのだが、旅の資金を稼ごうと森に入って魔物を狩ろうとした時、何だかおかしな雰囲気の森に迷い込んでしまっていた。
まるで、吸い込まれたような感覚もあり、足を動かすのをためらわれる。
クウの方も鼻を使って周囲を警戒しているのだが、首を傾げている。
僅かに霧が掛かっているのが、余計に違和感を増長している。
【しゅじん! なんかへんだよ!】
「あぁ……、お前たちも注意してろよ」
クウの頭の上に乗っているキュウも、どんどん変な感覚に陥っていることに戸惑っている。
ケイ自体も何が原因でこうなっているのか分からないため、周囲への警戒に気を張っている。
ここから出たいにしても、日の方向が霧で分からなくなっているので、出口の方向が分からない。
魔力を周囲に伸ばしても、ある程度の距離まで行くと邪魔されているように魔力が霧散する。
一定距離までしか周囲の様子が分からない状況だ。
戻るにしても何かあるにしても、先に進まないと何も変わらないみたいなので、ケイはキュウとクウに注意して前へ進むことにした。
【うん!】「ワフッ!」
「ふっ……」
ケイに注意を受けた2匹は、返事をするとケイの足下へ近付く。
もしもの時は、自分たちが盾になると思っているのかもしれない。
例え敵が出たとしても、実際はケイの方が反応は早いだろう。
しかし、容姿が可愛らしい2匹が頑張ろうとしているのを見ると、何だかケイはおかしく見え、小さく吹き出してしまう。
そんなことには気付かず、2匹は真面目に周囲を見渡している。
「………………」
魔物が出た時の事を考え、ややゆっくりと歩を進めるケイたちだが、2匹とは違いケイはこの風景に関して何かずっとモヤモヤしている。
それが何故なのかも分からない。
なので、無言で歩きながら考えていたのだが、
「……あれっ?」
【どうしたの? しゅじん】
ある風景が目の前に広がった時、ここまでの間のモヤモヤが一気に晴れた。
そのため、思わず足を止めたら、キュウに心配された。
「んっ? いや、何かここ知ってるような……」
【えっ?】
キュウの質問に答えたケイだったが、その答えにキュウがびっくりする。
ずっと閉じ込められているようなここの周囲の雰囲気に、何かの罠が施されているのではと考えていたからだ。
主人であるケイが知っている景色と言うが、キュウはケイが小さい頃から一緒にいる。
ケイが知っているなら、自分もここのことを知っているはずなのだが、キュウには全く思い当たる所がない。
「……やっぱり!」
【なに? ここ……】「ワフッ?」
話しながらも足を動かしていると、霧と樹々の中に、いくつもの家が崩れたような瓦礫が転がっていた。
畑があったような場所もあり、もしかしたらここに村のような物があったのかもしれない。
その風景を見た時、ケイは予想通りと言ったような声をあげる。
こんな所に村があるなんて思いもしなかったキュウとクウは、目を見開いてその村の跡地を眺めた。
「……ここは元エルフの里だ」
【エルフ? しゅじんの里?】
キュウたちの疑問に答えるように、ケイは足下に転がった瓦礫を拾って呟く。
それを聞いたキュウは、首を傾げる。
キュウの場合どこに首があるのか分からないので、頭を傾げたと言った方が正しい気がする。
そんなことはどうでもいいとして、ケイはキュウの質問に頷きで返す。
大昔、エルフが住んでいた場所がここだった。
ケイのではなく、アンヘルの記憶の中にこの村のことがあったのだ。
「正確には俺の先祖が住んでた場所だな……」
【ふ~ん……】
アンヘルの記憶でも、ここに住んでいたという訳ではないと出ている。
しかし、一度だけ父と叔父と共に、ここに来たことがあった。
この地で密かに住んでいたエルフたちだったが、人族の侵攻にあい、自分たちの掟によって数を減らしていった。
そして、ここでは生きていけなくなったため、逃げ回る内にバラバラになり、どんどん数を減らしていくことになったのだった。
流れとすればそんな感じだが、ケイ1人になるまでは数百年の月日が経っている。
「っ!?」
【っ!?】「ワフッ!?」
ケイが父たちに聞いたことをキュウたちへ話していると、霧の一部が少しずつ集まり出した。
何が起きるか分からないため、ケイと従魔の2匹は警戒心を強める。
いつでも攻撃できるような態勢のケイたちの近くに、その白い靄が次第に人の形へと変化していった。
「映像?」
ゆっくりと人の形になった白い靄は、その耳の形からケイと同じエルフだと分かる。
しかし、そこに実在しているようには見えず、僅かに靄が揺らいでいる。
それを見たケイは、ここで死んだエルフが何か言い残して死んだのだろうと、その映像を黙って見ることにした。
ケイが武器から手を離したことで、キュウたちも戦意を抑えて、その映像をじっと見始めた。
「エルフの子孫よ。よくぞこの地へ参った。私はこの地で生まれ、長い年月人族の手から逃げ回った。しかし、年を取り、死を覚悟した時、生まれ育ったこの地のことを思い出した」
生まれ育ったということは、やはりこの映像のエルフは先祖のようだ。
恐らく魔力を残留思念として、一定条件化の下に発動するようにしていたのかもしれない。
人族の手から逃れるために、魔力の訓練を相当したことがうかがえる。
「人族の国に囲まれたこの地は、私がたどり着いた時には無残な姿をしていた。田畑は荒らされ、家々は破壊され、どこも雑草が生い茂った状態だった」
このエルフが戻ってきた時には、どうやら今の状態になっていたらしい。
しかし、このエルフが言う程ひどいようにも思えない。
「これ以上人族にここを荒らされることに、私は耐えられない。そのため、エルフの魔力に反応した者しか入れないよう結界を張った」
「なるほど……」
そのエルフの言葉に、ケイは納得の言葉を呟く。
父たちと来た時も今も、ケイ(アンヘル)がここに来れた理由が分かった気がする。
キュウたちも一緒なのは、従魔と主人には僅かに魔力のパスが通じている。
それが反応して、一緒に入れたのかもしれない。
「ここをどうするかはお前に任せる。この結界を解くことも私の思念を消してしまうのも好きにしてくれ……」
映像も終わりに近づいたのか、揺らぎ始める。
「私を含め、ここの地で亡くなった者たちの墓地を作って置いた。できれば……彼らが静かに眠れるように……してくれ……ること……を願う」
靄の揺らぎが強くなると共に、段々と言葉も途切れだす。
「エルフの……一族……が、また……栄えて……くれる日が、いつか……来る……のを……祈って……いる」
途切れ途切れだが、彼はエルフの一族のことを本気で憂いて死んでいったのだろう。
どれほど昔のことだかは分からないが、ここまでのことをするなんて余程のことだ。
「任せてくれよ。新しい地でよければ良いところがある」
人型の靄が消え、それまで黙って聞いていたケイは、静かに決意を呟いたのだった。
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