エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第166話
「さぁ、出発しよう!」
「はい」
リカルドの声に、ケイたちを含めたみんなが頷く。
急遽釣り大会に参加したことで、移動日程が余計にかかってしまったが、ケイやリカルドたちは楽しめたこともあり、気分よくまた今日からドワーフ王国へ向けて出発する。
釣り大会中も練習をしていたため、ケイの乗馬の技術も成長している。
そのため、今なら結構な速度で馬を走らせても大丈夫になった。
「速度を出しても平気なようですな……」
数日のあっという間のケイの上達ぶりに、リカルドは驚きも僅かに含んだ言葉を呟く。
落ちても怪我する心配がないということが、どうやらここまでの上達に至れた理由かもしれない。
リカルドに限らず、ここにいるみんなは何度か落馬の経験を味わい、多少の怪我を負いながらも上達して来たものだ。
そんなことお構いなしとでも言いたげなケイの成長に、羨ましさが募った。
「今日はどこまで向かうのですか?」
ちょっと駆け足気味の速度で走る一行。
その中で、ケイが今日の目的地がどこなのかリカルドに尋ねる。
転移をする時の事を考えると、町の名前とイメージは合わせておいた方がいい。
もしもの時のために、できる限り多くの国と町に行っておきたいものだ。
「ピソバラの町まで向かいましょう」
「ピソバラの町……ですか?」
当然聞いたことも無いような町の名前だ。
そこは草原地帯が多く、馬にはいい環境になっている地域なのだそうだ。
乗っている馬を練習などで疲れさせているという自覚がケイにはあるため、その町で少し休ませてやるのもいいかもしれない。
「そこまで行けばヴァーリャ王国の王都バルニドが近い」
「王都ですか?」
昼休憩に入り、リカルドはケイに地図を見せながら説明を行なってくれた。
ピソバラの町は、たしかにドワーフ王国へ向かうために通るのは分かる。
他の道は山を越えなければならなかったりと、少々道なりが荒くなりそうだからだ。
しかし、ピソバラから真っすぐ北へ向かうのが道順としては最短に思えるが、そこから一旦北東にあるバルドニへ向かうのは何故なのだろうと思い、ケイは首を傾げる。
「この国を通るのに、さすがに何の挨拶もなしという訳にはいかないのでな……」
「なるほど……」
カンタルボスの王であるリカルドが、エルフを連れてドワーフ王国へ向けて移動しているのは、あらかじめ手紙によってヴァーリャの王には伝えてはある。
しかし、だからと言って隣国の王が王都の側を通るというのに、挨拶すらなしでは嫌な思いをするのは当然だろう。
ケイとしても、色々な獣人を見てみたいという思いがあるので、牛人の王に会えるのは少々楽しみだ。
「ブルㇽ……」
「よ~し、よし……」
移動は順調に進み、目的のピソバラの町にたどり着いた。
聞いていた通り草原が広がり、長閑で心の落ち着く町のようだ。
ここにたどり着くまでに馬には頑張ってもらったので、それを労う為にも、草原の草をたらふく食べてもらいたい。
馬は人を見ているというが、最初見た時はどう相手していいか分からず、この馬には不安にさせていたかもしれない。
しかし、この数日で乗馬技術に自信がついたことで、この馬とは仲良くなれたと思う。
そのため、嬉しそうに草を食べる馬に、ケイは優しくブラッシングしてあげたのだった。
「お~いケイ殿!」
「はい?」
毛並みが艶々になった馬はそのまま好きにさせ、ケイは休憩をしていた。
そこにケイを呼ぶリカルドの声が近付いてきた。
リカルドの手には、竹で出来ている籠が持たれており、その籠の中には色々な山菜が入っていた。
この草原の周辺には山菜が豊富に生えているらしく、それが名物の一つになっているらしい。
「ケイ殿は山菜も料理できるだろうか?」
「豊富なバリエーションとは言えませんが、調理はできますよ」
ケイたち家族が住むアンヘル島でも山菜は取れる。
島に1人で暮らしていたころ、ケイも食べられそうな物がないかと山菜に手を出した。
子供の味覚では苦みが強く感じ、食料がない時ぐらいしか手を出すのは躊躇われたものだ。
しかし、大人になった今はその苦みが何とも言えず、つまみの1品に調理をすることもある。
「もしかして、天ぷら?」
「その通り!」
山菜を調理すると言ったら、やはり思いつくのは天ぷらだ。
天ぷらは調理の仕方でだいぶ味が変わる料理だ。
ケイも調理法は知っていても、所詮は家庭料理レベルでしかない。
それでも十分山菜を味わえるので、美花も山菜料理は気に入っている。
聞いた話だと、美花の父も作ってくれたりしていたらしく、日向の料理と言ったら天ぷらがすぐ浮かぶのだそうだ。
「以前、頂いた料理ですな?」
「えぇ」
リカルドも島に何度か来ている。
その時に天ぷらを振舞ったことがあった。
それが思い起こされたのか、リカルドの表情は一気に明るくなった。
「美味しい!」「美味い!」
ケイが揚げたばかりの山菜の天ぷらを食べ、美花とリカルドは笑みがこぼれた。
カラッと揚がり食感も良いが、何といっても味が良い。
ほんのりした苦みが、何とも言えない味わいを醸し出している。
「これを肴に酒を1杯なんて……」
「そういうと思って、冷やしておきましたよ」
「さすがケイ!」
天ぷらを食べていると、明日も馬に乗るのであまり飲むべきではないが、酒も少し飲みたくなる。
リカルドでなくても同じような思いが浮かぶ。
ケイ自身もだ。
そのため、みんなの分として買っておいたエールを、魔法で作った氷の中に入れてキンキンに冷やしておいた。
これには、美花とリカルドは喜びを隠せなかった。
天ぷらとエールを楽しみ、ピソバラの町の夜は更けて行った。
「はい」
リカルドの声に、ケイたちを含めたみんなが頷く。
急遽釣り大会に参加したことで、移動日程が余計にかかってしまったが、ケイやリカルドたちは楽しめたこともあり、気分よくまた今日からドワーフ王国へ向けて出発する。
釣り大会中も練習をしていたため、ケイの乗馬の技術も成長している。
そのため、今なら結構な速度で馬を走らせても大丈夫になった。
「速度を出しても平気なようですな……」
数日のあっという間のケイの上達ぶりに、リカルドは驚きも僅かに含んだ言葉を呟く。
落ちても怪我する心配がないということが、どうやらここまでの上達に至れた理由かもしれない。
リカルドに限らず、ここにいるみんなは何度か落馬の経験を味わい、多少の怪我を負いながらも上達して来たものだ。
そんなことお構いなしとでも言いたげなケイの成長に、羨ましさが募った。
「今日はどこまで向かうのですか?」
ちょっと駆け足気味の速度で走る一行。
その中で、ケイが今日の目的地がどこなのかリカルドに尋ねる。
転移をする時の事を考えると、町の名前とイメージは合わせておいた方がいい。
もしもの時のために、できる限り多くの国と町に行っておきたいものだ。
「ピソバラの町まで向かいましょう」
「ピソバラの町……ですか?」
当然聞いたことも無いような町の名前だ。
そこは草原地帯が多く、馬にはいい環境になっている地域なのだそうだ。
乗っている馬を練習などで疲れさせているという自覚がケイにはあるため、その町で少し休ませてやるのもいいかもしれない。
「そこまで行けばヴァーリャ王国の王都バルニドが近い」
「王都ですか?」
昼休憩に入り、リカルドはケイに地図を見せながら説明を行なってくれた。
ピソバラの町は、たしかにドワーフ王国へ向かうために通るのは分かる。
他の道は山を越えなければならなかったりと、少々道なりが荒くなりそうだからだ。
しかし、ピソバラから真っすぐ北へ向かうのが道順としては最短に思えるが、そこから一旦北東にあるバルドニへ向かうのは何故なのだろうと思い、ケイは首を傾げる。
「この国を通るのに、さすがに何の挨拶もなしという訳にはいかないのでな……」
「なるほど……」
カンタルボスの王であるリカルドが、エルフを連れてドワーフ王国へ向けて移動しているのは、あらかじめ手紙によってヴァーリャの王には伝えてはある。
しかし、だからと言って隣国の王が王都の側を通るというのに、挨拶すらなしでは嫌な思いをするのは当然だろう。
ケイとしても、色々な獣人を見てみたいという思いがあるので、牛人の王に会えるのは少々楽しみだ。
「ブルㇽ……」
「よ~し、よし……」
移動は順調に進み、目的のピソバラの町にたどり着いた。
聞いていた通り草原が広がり、長閑で心の落ち着く町のようだ。
ここにたどり着くまでに馬には頑張ってもらったので、それを労う為にも、草原の草をたらふく食べてもらいたい。
馬は人を見ているというが、最初見た時はどう相手していいか分からず、この馬には不安にさせていたかもしれない。
しかし、この数日で乗馬技術に自信がついたことで、この馬とは仲良くなれたと思う。
そのため、嬉しそうに草を食べる馬に、ケイは優しくブラッシングしてあげたのだった。
「お~いケイ殿!」
「はい?」
毛並みが艶々になった馬はそのまま好きにさせ、ケイは休憩をしていた。
そこにケイを呼ぶリカルドの声が近付いてきた。
リカルドの手には、竹で出来ている籠が持たれており、その籠の中には色々な山菜が入っていた。
この草原の周辺には山菜が豊富に生えているらしく、それが名物の一つになっているらしい。
「ケイ殿は山菜も料理できるだろうか?」
「豊富なバリエーションとは言えませんが、調理はできますよ」
ケイたち家族が住むアンヘル島でも山菜は取れる。
島に1人で暮らしていたころ、ケイも食べられそうな物がないかと山菜に手を出した。
子供の味覚では苦みが強く感じ、食料がない時ぐらいしか手を出すのは躊躇われたものだ。
しかし、大人になった今はその苦みが何とも言えず、つまみの1品に調理をすることもある。
「もしかして、天ぷら?」
「その通り!」
山菜を調理すると言ったら、やはり思いつくのは天ぷらだ。
天ぷらは調理の仕方でだいぶ味が変わる料理だ。
ケイも調理法は知っていても、所詮は家庭料理レベルでしかない。
それでも十分山菜を味わえるので、美花も山菜料理は気に入っている。
聞いた話だと、美花の父も作ってくれたりしていたらしく、日向の料理と言ったら天ぷらがすぐ浮かぶのだそうだ。
「以前、頂いた料理ですな?」
「えぇ」
リカルドも島に何度か来ている。
その時に天ぷらを振舞ったことがあった。
それが思い起こされたのか、リカルドの表情は一気に明るくなった。
「美味しい!」「美味い!」
ケイが揚げたばかりの山菜の天ぷらを食べ、美花とリカルドは笑みがこぼれた。
カラッと揚がり食感も良いが、何といっても味が良い。
ほんのりした苦みが、何とも言えない味わいを醸し出している。
「これを肴に酒を1杯なんて……」
「そういうと思って、冷やしておきましたよ」
「さすがケイ!」
天ぷらを食べていると、明日も馬に乗るのであまり飲むべきではないが、酒も少し飲みたくなる。
リカルドでなくても同じような思いが浮かぶ。
ケイ自身もだ。
そのため、みんなの分として買っておいたエールを、魔法で作った氷の中に入れてキンキンに冷やしておいた。
これには、美花とリカルドは喜びを隠せなかった。
天ぷらとエールを楽しみ、ピソバラの町の夜は更けて行った。
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