エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第142話

「「行かせるかよ!!」」


 リカルドに続いてケイたちが更に地下へと階段へ向かおうとするのを、立ち塞がっていた囚人2人が邪魔をしようとする。


「お前らの相手は俺らだ」


「くっ!?」「この……っ!?」


 立ち塞がった囚人たちに対し、ケイたちの邪魔をさせまいとエリアスとファウストが掴みかかり、手四つの状態に持ち込む。
 それによって、階段までの道ができ、ケイたちは階段を下りて行った。


「くっ!? いい加減放せや!!」「オラッ!!」


「っと!?」「っ!?」


 いつまでも手四つでいる訳にもいかないため、囚人の2人はそれぞれエリアスとファウストへ膝蹴りを放つ。
 魔闘術を使えるだけあって、その攻撃は食らえばかなりの痛手を負うだろう。
 しかし、その攻撃をまともに受ける訳にはいかないエリアスとファウストは、それぞれ後ろに飛んで膝蹴りを躱す。


「……チッ!」「くっ……!」


 囚人の2人は階段を下りていった4人を追おうかと一瞬そちらに目を向けたが、追えばエリアスたちに背を向けることになる。
 たった今のやり取りだけで、そんなことをしたら攻撃をされる隙を作るだけだ。
 牢の鍵を開けた兵が言うには、城に攻め込んで来た獣人を1人でも多く殺せとの話だった。
 奴隷落ちが確定の2人にとって、せっかく釈放されるチャンスなのだから、その指示通りここで獣人たちを殺すしかない。
 下に行ったのは4人だけなのだから、あとは王の側近たちにでも任せればいい。
 そう思い、囚人たちはエリアスとファウストへ目を向けたのだった。 


「お前らは上から敵が来ないように見張りをしていてくれ!」


「「「「「了解しました!」」」」」


 ここには他にもカンタルボスの兵たちがいる。
 しかし、この目の前の囚人たちは、予想以上に強そうな雰囲気を出している。
 もしかしたら巻き添えを食らうかもしれないため、他の兵たちには離れていてもらいたい。
 それに、エリアスは上から敵が来られる方が迷惑なため、彼らにはそうならないようにしてもらうことにした。
 エリアスのその考えを察したのか、兵たちは素直に指示に従って降りてきた階段をまた昇っていった。


「……これで邪魔ものは居なくなったてか?」


「あぁ……」


 幅が5mくらいしかない通路で狭いが、囚人Aが言うように心置きなく戦えるようになった。
 相手の強さがどれほどなのか分からないにも関わらず、お互い何だか楽しそうな表情をしている。


「……兄上、楽しむのではなく、速やかに処理してください!」


「……分かってるよ!」


 ここからの戦いを楽しみにしているような雰囲気の兄に対し、ファウストは真面目な顔で忠告をする。
 こういう時頭の固い弟の忠告に、若干渋い顔をしながらエリアスは返事をする。


「……何だ? お前ら兄弟なのか?」


?」


 エリアスたちの短い会話に、囚人Bの方が反応する。
 その言葉に、ファウストは思わず聞き返した。


「俺たちも兄弟だ」


 それに答えたのは囚人Aの方だ。
 どうも似ている感じがすると思っていたら、やはりこの2人の囚人たちも兄弟のようだ。


「一応名乗っておくか……」


 この場で始末するのだから、お互い名前なんてどうでも良いこと。
 しかし、「せめて自分を殺した者の名くらいは……」ということなのだろうか、囚人たちは名乗ることにした。


「俺が兄のトリスタン」「弟のハシントだ」


 エリアスが相手をしようとしていた方が兄で、ファウストが相手をしようとしていたのが弟の方のようだ。
 兄のトリスタンは、180cmほどの身長に、かなり鍛えられた筋肉をしている。
 特に腕周りは普通の人の太ももくらいの太さをしている。
 相当腕っぷしが自慢のようだ。
 弟のハシントは、トリスタンよりも少し身長が低く、兄同様に鍛えているのが体つきを見て分かる。
 しかし、兄のように太い筋肉というより、細マッチョと言った感じの体型だ。


「俺たちは……」「名乗るなんて時間の無駄だ!」


 名乗られたのだからと、エリアスが今度はこっちの番だという風に名前を名乗ろうとしたが、ファウストに遮られた。
 先に行ったリカルドたちにもしもがあった場合のことも考え、時間を無駄にするわけにはいかない。
 素直に名乗ろうとする兄の言葉を遮り、ファウストはハシントへと迫った。


「ったく……」


 仕方がないので、頭の固い弟の言う通り、戦いを始めることにしたエリアスだった。










「っ!? 足音!?」


「やつら足止めに失敗したのか!?」


 階段の方から足音が近付いて来ている音が響いて来る。
 それにより、魔導士たちが封印を解こうとしている隣の隠し部屋にいる王のベルトランは、その音にいち早く反応する。
 せっかく国内で暴れ回っていた盗賊兄弟を使ったというのに、これでは封印を解くまでの時間が足りない。
 全く役に立っていない盗賊兄弟のことを考えると、歯ぎしりをするベルトランだった。


「くそっ!! せめてあと20……いや、10分でも止められれば……」


 魔導士たちが魔力を送り込んでいる魔法陣は、僅かに反応をし始め、淡く光を放ち始めている。
 封印されている悪魔が魔力を吸い、復活の兆しを見せているようだ。


「……陛下。我々が少しでも時間を稼ぎます」「お側を離れる許可を……」


 ベルトランたちが今いるこの隠し部屋は、知らなければ見つけることは難しいだろう。
 復活させた悪魔が城内の獣人たちを相手にしている最中なら逃げるチャンスが作れるはず。
 というより、ここに追い込まれている今の状況では、それしかベルトランが生き残るすべがない。
 近衛兵たちもそれが分かっているのか、本来の仕事である王の護衛をするより、時間を稼ぐことを選択した。
 5人いる近衛兵のうち、4人がそれをすることに手を上げた。
 残りの一人は、ベルトランを城外へ逃がす時、体を張る人間を置かない訳にはいけないからだ。


「……許可する。頼んだぞ!」


「「「「もったいないお言葉!」」」」


 護衛が一人だけなど心許ないが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 命を懸けることを決意しているような4人に、ベルトランは感謝の念が湧く。
 王であるベルトランの願いに、感動するように頭を下げると、4人の近衛兵たちは部屋の外へと向かって行ったのだった。










「……んっ!?」


 前を行くリカルドが足を止めたため、ケイたちもそれにつられて足を止める。
 階段を下りきって、右を向くと、奥にある扉を背にした4人の兵が武器を構えて立っていた。


「来たか……」


「ここより先にはいかせない!!」


 どうやら、階段から下りてくる者を待ち受けていたようだ。
 城内に入って見てきた他の兵とは違い、彼らの鎧はどこか豪華に感じる。


「近衛兵か……?」


 リカルドたちカンタルボス王国では、王族たち自身が強くなくてはならないため、近衛兵というものを置いていない。
 女性王族も武術の訓練を行っているので、あまり必要ないが、一応近衛兵のような者を一人付けてはいる。
 そういった者たちは、王族の近くにいることが多いことから、他の兵とは少しだけ違いを付け、装備を豪華にしている。
 それと同じなのだろう。
 この者たちがここにいるということは、王のベルトランは奥の扉の先にいるはずだ。


「ケイ殿たちはそのままそこにいてくれ」


「了解した」


 今日のケイたちエルフは、魔力温存のために戦闘へは極力参加しない。
 この国に知らしめるのは、エルフが王の首を獲ったという結果だけだ。
 それ以外はリカルドたちに任せればいい。
 そのため、ケイと息子の2人は、素直にリカルドの指示を聞いた。


「一人で相手しようというのか?」


 リカルド1人が近付いてきたため、兵たちは眉をひそめた。
 城に乗り込んでくるくらいだから、相当な実力の持ち主だとは思うが、さすがに王の盾たる自分ら4人を相手に1人とは舐め過ぎだ。
 しかも、リカルドが何の獲物も持っていないのが、更に神経を逆なでする。


「舐めるなよ!!」


 4人もいれば短気な者もいるらしく、1人の近衛兵がリカルドへ襲い掛かった。
 近衛の兵に選ばれるくらいだ。
 彼らも魔闘術を使えるようで、持っている槍による突きがかなりの速度でリカルドの喉へと向かって行く。


「ヌンッ!!」


“バキッ!!”


「「「っ!?」」」


 たしかに、魔闘術を使えないものにしたら速いのかもしれないが、相手にしたのは膨大な魔力で身体強化したケイの速度にも、素の身体能力で対応できるリカルドだ。
 大した量でもない魔力を纏っただけの魔闘術では、スローモーションのように見えているのではないだろうか。
 迫り来る槍の穂先を、掠るほどにギリギリで躱し、リカルドは向かってきた兵の顔面に拳を叩き込み、向かってきた兵を元の場所へ送り返した。
 ものすごい勢いで吹き飛んできた仲間を見て、他の3人は背中に冷たい汗が一気に流れた。
 攻撃を躱したのも、殴ったのも、僅かしか見えていなかったからだ。


「……ガハッ!?」


 さすがとでも言って良いのか、殴られた兵は鼻が潰れて血を流しながらも、気を失っていないようだ。
 しかし、一撃で大ダメージを受け、立ち上がることすら苦しそうな顔をしていた。


「「「「………………」」」」


「いい根性だ。遠慮はいらん、全員でかかってこい」


 こんな化け物相手に10分なんて、正直考えが甘かった。
 だが、王に誓ったこともあり、このまま何もしないでいる訳にはいかない。
 4人は顔を合わせると、決意を更に固くした。
 そんな決意すらどうでもいいと言いたげに、リカルドは挑発するように4人を手招きしたのだった。





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