エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第115話
「終わったか?」
「っ!?」
敵の3人を始末した直後に急に背後から声をかけられた。
探知には引っかからないような隠形に、まともな相手ではないことが感じられる。
そのため、カルロスは慌てて刀を抜いて振り返った。
「兄さんかよ!!」
「何だ?」
カルロスが振り返った目の前には、兄のレイナルドが立っていた。
その顔を見た瞬間、焦らされたカルロスは思わずツッコミを入れた。
逆に、レイナルドは何でカルロスが焦っていたのか分からず、首を傾げた。
「まだ敵が隠れていたのかと思ったよ」
レイナルドが普通に近付いてきたような態度をしているので、カルロスは力が抜けた。
やっぱり自分はまだまだ兄に及ばないと、思い知らされているかのように思えた。
「いつの間に来たんだ?」
「ついさっきだ」
レイナルドは、北から東に迫ってきている強い魔力を感じ、そちらに向かったはずだ。
あちらの方が感覚的には手強そうだったので、レイナルドが向かうことになったのだが、どうやらこちらよりも短時間で仕留めてきたようだ。
「そっちはどうだった?」
「まあまあ強かったぞ」
その言葉に、意外な感じがした。
兄はあまり相手を褒めるようなことはしない。
強くなって、大体相手にならなくなってきたため、楽しめるような相手がいなくなってきたからかもしれない。
しかし、強くなったとは言っても、上には父のケイや、カンタルボス王国の国王リカルドがいる。
その2人は、まさに化け物。
追いつける気配は全然していない。
自分の相手になりそうな人間はなかなかいないが、かといって上に届く気配はない。
宙ぶらりんな状態が長いせいか、最近は楽しめることなんてないらしく、訓練にあまり身が入っていないようにも見えた。
以前褒めた時となると、リカルドの息子で次男のファウストの戦闘スタイルが面白かったと言っていた。
だが、ファウストがカルロスと手合わせしているのを見て、勝てると判断したのか、特に戦おうとする気配は感じられなかった。
ただ、最近は父との訓練に力を入れていた。
カルロスは最初、人族との戦いがあることを想定して訓練していると思ったのだが、どうやら違った。
結局習得には至っていないが、転移の訓練と顔合わせのためにカンタルボスの城へ行ったのが引き金になったようだ。
カルロス同様、リカルドを見て、戦わずして敵う相手ではないと顔を青くしていたレイナルドだが、その後紹介された王太子のエリアスと目が合うと、何か感じ合ったような目をしていた。
それがあってから訓練に力が入るようになったように思う。
もしかしたら、強さを目指すうえで似ている境遇にあるとお互い思ったのかもしれない。
ケイとカルロスに挟まれたレイナルドと、リカルドとファウストに挟まれたエリアス。
立場は違うが確かに似ているかもしれない。
「あ~ぁ……、お前怪我してんじゃねえか」
「あぁ……、たいしたことないよ」
魔法を受けて、上半身裸の状態のカルロスに、レイナルドは曇った表情になった。
その上半身には、所々火傷と切り傷が見受けられたからだ。
たしかに怪我を負ってはいるが、たいしたことはない。
回復魔法を使えばすぐに治る程度の怪我だ。
「ったく、また様子見なんかしたんだろ?」
「説教は戦いが終わってからにしてくれ……」
さすが兄。
カルロスは図星を突かれた。
今回は数が多いので、最悪この島を捨てるくらいのつもりでいるように、父であるケイは皆に言っていた。
こちらに死人を出さないで敵に勝つのが理想だが、さすがに数の違いからそうなることは難しい。
手こずりそうな敵に遭遇したら、余計なことをさせずに無力化させることが理想的な戦い方だ。
これを一番守らなそうなのがカルロスで、ケイとレイナルドは注意していたのだが、案の定無駄だったようだ。
「あれ? 珍しいね。兄さんの服が斬られるなんて……」
「まあな……」
説教が長くなっては困るので、話を紛らわせるためにカルロスはレイナルドの服の破れに話を向けた。
最近では父との稽古以外で服が汚れるのを見ない。
それくらいの実力があるレイナルドの服が斬られるなんて、思った通りこっちよりも強かったのかもしれない。
◆◆◆◆◆
時間は少し戻る。
カルロスと別れたレイナルドは、カンタルボスの駐留兵が戦っている場所へむかった。
彼らの側へ近付く、大きな魔力を持った者たちが迫っていたからだ。
「ハァッ!!」
「ぐあっ!?」
戦場に着くと、カルロスの時とは違い駐留兵たちの方が押されていた。
死人は出ていないが、重傷者は多数といったところだろうか。
敵の兵たちが多く、多勢に無勢でジワジワと傷を負っていっている。
レイナルドが着いたと同時に、一人の獣人が火魔法を受けて大火傷を負ってしまった。
速く退避して回復しないと危険なレベルだ。
とは言っても、ほぼ周囲を囲まれ、怪我を負った仲間を背負って逃げるだけの隙がない。
「くたばれ!!」
その魔法を食らった獣人に対し、止めとばかりに人族兵たちが迫っていった。
“パンッ!!”
「グヘッ!?」
「なっ!?」
しかし、火傷を負った獣人へ迫っていた男は、額に穴を開けてそのまま糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
これには敵だけでなく、味方の獣人たちも驚いた。
もう完全に仲間がやられると思っていたにもかかわらず、急に敵が倒れたためである。
「ここは任せて退避してくれ!」
「レイナルド殿!?」「おぉ!!」「レイ様!!」
この島に置いて、ケイは島民みんなに尊敬されている。
幼子の時からたった1人でこの島に暮らし、少しずつだが仲間を増やしてきた。
そのうえ、カンタルボス王国の国王であるリカルドにまでその実力を認めさせるまでに至ったとなれば、強さを重視する獣人の者たちからすれば当然の結果だろう。
しかし、レイナルドは違う。
父のように強くなろうと小さい頃から頑張って来たが、その域に達するビジョンは霞に覆われたように見えることができない。
どれだけ頑張ってもその景色が変わることがなく、一時期は諦めかけたこともある。
しかし、そんな時、自分と同じように偉大な父に追いつこうと頑張っている男に会った。
カンタルボス王国王太子エリアス。
少しだけ話をしたが、彼も同じように思った時があったそうだ。
それでも自分は王太子。
国民のことを考えたら諦める選択ができなかったと彼は言っていた。
それを聞いて、消えていた火がまた点いたような思いがした。
彼のように大人数ではないが、家族を守るため、仲間を守るために強くならなければならないのは、レイナルドも一緒だ。
父を抜こうとするのは今はまだいい。
その代わり、仲間を守るために懸命に稽古に励む。
そう思って毎日のようにケイにしごかれている姿を見て、獣人たちの中にはレイナルドを認める者たちも出て来ていた。
それをレイナルド自身は知らないが、今回のことでそう思った者たちは更に増えたことだろう。
窮地にヒーロー現る。
ベタだが、死を前にして救ってもらった者を何とも思わない者は、普通の人間じゃない。
歓喜の声をあげた獣人たちは、怪我を負った仲間を背負ったり、肩を貸して後方へ下がっていった。
「逃がすか!!」
“パンッ!!”
「がっ!?」
退却を始めた獣人をそのままにしておく訳もなく、敵はレイナルドを無視して追いかけようとした。
それを、腰のホルスターから抜いた銃の引き金を引き、レイナルドは敵の足を撃ち抜く。
その結果を見た他の敵たちは、獣人を殺すことに集中していたからか、ようやくレイナルドのことをよく見ることになった。
「……エルフだ!」
「……本当だ!」「ハーフエルフだ!」「高報酬の……?」
1人の男の呟きが、波のように敵の兵たちに広がっていった。
「っ!?」
敵の3人を始末した直後に急に背後から声をかけられた。
探知には引っかからないような隠形に、まともな相手ではないことが感じられる。
そのため、カルロスは慌てて刀を抜いて振り返った。
「兄さんかよ!!」
「何だ?」
カルロスが振り返った目の前には、兄のレイナルドが立っていた。
その顔を見た瞬間、焦らされたカルロスは思わずツッコミを入れた。
逆に、レイナルドは何でカルロスが焦っていたのか分からず、首を傾げた。
「まだ敵が隠れていたのかと思ったよ」
レイナルドが普通に近付いてきたような態度をしているので、カルロスは力が抜けた。
やっぱり自分はまだまだ兄に及ばないと、思い知らされているかのように思えた。
「いつの間に来たんだ?」
「ついさっきだ」
レイナルドは、北から東に迫ってきている強い魔力を感じ、そちらに向かったはずだ。
あちらの方が感覚的には手強そうだったので、レイナルドが向かうことになったのだが、どうやらこちらよりも短時間で仕留めてきたようだ。
「そっちはどうだった?」
「まあまあ強かったぞ」
その言葉に、意外な感じがした。
兄はあまり相手を褒めるようなことはしない。
強くなって、大体相手にならなくなってきたため、楽しめるような相手がいなくなってきたからかもしれない。
しかし、強くなったとは言っても、上には父のケイや、カンタルボス王国の国王リカルドがいる。
その2人は、まさに化け物。
追いつける気配は全然していない。
自分の相手になりそうな人間はなかなかいないが、かといって上に届く気配はない。
宙ぶらりんな状態が長いせいか、最近は楽しめることなんてないらしく、訓練にあまり身が入っていないようにも見えた。
以前褒めた時となると、リカルドの息子で次男のファウストの戦闘スタイルが面白かったと言っていた。
だが、ファウストがカルロスと手合わせしているのを見て、勝てると判断したのか、特に戦おうとする気配は感じられなかった。
ただ、最近は父との訓練に力を入れていた。
カルロスは最初、人族との戦いがあることを想定して訓練していると思ったのだが、どうやら違った。
結局習得には至っていないが、転移の訓練と顔合わせのためにカンタルボスの城へ行ったのが引き金になったようだ。
カルロス同様、リカルドを見て、戦わずして敵う相手ではないと顔を青くしていたレイナルドだが、その後紹介された王太子のエリアスと目が合うと、何か感じ合ったような目をしていた。
それがあってから訓練に力が入るようになったように思う。
もしかしたら、強さを目指すうえで似ている境遇にあるとお互い思ったのかもしれない。
ケイとカルロスに挟まれたレイナルドと、リカルドとファウストに挟まれたエリアス。
立場は違うが確かに似ているかもしれない。
「あ~ぁ……、お前怪我してんじゃねえか」
「あぁ……、たいしたことないよ」
魔法を受けて、上半身裸の状態のカルロスに、レイナルドは曇った表情になった。
その上半身には、所々火傷と切り傷が見受けられたからだ。
たしかに怪我を負ってはいるが、たいしたことはない。
回復魔法を使えばすぐに治る程度の怪我だ。
「ったく、また様子見なんかしたんだろ?」
「説教は戦いが終わってからにしてくれ……」
さすが兄。
カルロスは図星を突かれた。
今回は数が多いので、最悪この島を捨てるくらいのつもりでいるように、父であるケイは皆に言っていた。
こちらに死人を出さないで敵に勝つのが理想だが、さすがに数の違いからそうなることは難しい。
手こずりそうな敵に遭遇したら、余計なことをさせずに無力化させることが理想的な戦い方だ。
これを一番守らなそうなのがカルロスで、ケイとレイナルドは注意していたのだが、案の定無駄だったようだ。
「あれ? 珍しいね。兄さんの服が斬られるなんて……」
「まあな……」
説教が長くなっては困るので、話を紛らわせるためにカルロスはレイナルドの服の破れに話を向けた。
最近では父との稽古以外で服が汚れるのを見ない。
それくらいの実力があるレイナルドの服が斬られるなんて、思った通りこっちよりも強かったのかもしれない。
◆◆◆◆◆
時間は少し戻る。
カルロスと別れたレイナルドは、カンタルボスの駐留兵が戦っている場所へむかった。
彼らの側へ近付く、大きな魔力を持った者たちが迫っていたからだ。
「ハァッ!!」
「ぐあっ!?」
戦場に着くと、カルロスの時とは違い駐留兵たちの方が押されていた。
死人は出ていないが、重傷者は多数といったところだろうか。
敵の兵たちが多く、多勢に無勢でジワジワと傷を負っていっている。
レイナルドが着いたと同時に、一人の獣人が火魔法を受けて大火傷を負ってしまった。
速く退避して回復しないと危険なレベルだ。
とは言っても、ほぼ周囲を囲まれ、怪我を負った仲間を背負って逃げるだけの隙がない。
「くたばれ!!」
その魔法を食らった獣人に対し、止めとばかりに人族兵たちが迫っていった。
“パンッ!!”
「グヘッ!?」
「なっ!?」
しかし、火傷を負った獣人へ迫っていた男は、額に穴を開けてそのまま糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
これには敵だけでなく、味方の獣人たちも驚いた。
もう完全に仲間がやられると思っていたにもかかわらず、急に敵が倒れたためである。
「ここは任せて退避してくれ!」
「レイナルド殿!?」「おぉ!!」「レイ様!!」
この島に置いて、ケイは島民みんなに尊敬されている。
幼子の時からたった1人でこの島に暮らし、少しずつだが仲間を増やしてきた。
そのうえ、カンタルボス王国の国王であるリカルドにまでその実力を認めさせるまでに至ったとなれば、強さを重視する獣人の者たちからすれば当然の結果だろう。
しかし、レイナルドは違う。
父のように強くなろうと小さい頃から頑張って来たが、その域に達するビジョンは霞に覆われたように見えることができない。
どれだけ頑張ってもその景色が変わることがなく、一時期は諦めかけたこともある。
しかし、そんな時、自分と同じように偉大な父に追いつこうと頑張っている男に会った。
カンタルボス王国王太子エリアス。
少しだけ話をしたが、彼も同じように思った時があったそうだ。
それでも自分は王太子。
国民のことを考えたら諦める選択ができなかったと彼は言っていた。
それを聞いて、消えていた火がまた点いたような思いがした。
彼のように大人数ではないが、家族を守るため、仲間を守るために強くならなければならないのは、レイナルドも一緒だ。
父を抜こうとするのは今はまだいい。
その代わり、仲間を守るために懸命に稽古に励む。
そう思って毎日のようにケイにしごかれている姿を見て、獣人たちの中にはレイナルドを認める者たちも出て来ていた。
それをレイナルド自身は知らないが、今回のことでそう思った者たちは更に増えたことだろう。
窮地にヒーロー現る。
ベタだが、死を前にして救ってもらった者を何とも思わない者は、普通の人間じゃない。
歓喜の声をあげた獣人たちは、怪我を負った仲間を背負ったり、肩を貸して後方へ下がっていった。
「逃がすか!!」
“パンッ!!”
「がっ!?」
退却を始めた獣人をそのままにしておく訳もなく、敵はレイナルドを無視して追いかけようとした。
それを、腰のホルスターから抜いた銃の引き金を引き、レイナルドは敵の足を撃ち抜く。
その結果を見た他の敵たちは、獣人を殺すことに集中していたからか、ようやくレイナルドのことをよく見ることになった。
「……エルフだ!」
「……本当だ!」「ハーフエルフだ!」「高報酬の……?」
1人の男の呟きが、波のように敵の兵たちに広がっていった。
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