エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第113話

「こ、こいつまともじゃないぞ!」


 殴られた腹を抑えながら、エウリコは仲間に話しかける。
 ハーフとはいえ、弱いはずのエルフの1撃が思いのほか体に響く。
 こんな攻撃を数発食らえば、あっという間に動けなくるだろう。
 それに気付き、これまでの舐めた態度を改めた。


「そのようだな……」


 右腕を斬り飛ばされたパウリノの手を回復魔法でくっつけながら、エウリコとの戦いを見ていたカルリトは、エウリコのその忠告に納得の相槌を打った。
 こんなのを相手にするのに、バカの腕の回復に結構な魔力を使ってしまい、額に汗を掻いている。


「…………殺す!!」


 カルリトによって腕が治ったパウリノは、痛みと屈辱で完全に我を忘れているようだ。
 自慢の大剣を手に取ると、すぐさまカルロスに向かって行こうとした。


「バカ! 腹を立てるな!」


「また腕を斬り落とされるぞ!」


 そんなパウリノを、エウリコとカルリトは慌てて諫めた。
 腹を立てたまま向かって行っては、さっきと同じような結果になるのは明白だ。
 そうなると、カルリトの魔力が減るだけでこちらが不利になるばかりだ。


「くっ!!」


 先ほどまでの痛みを思いだしたのか、2人の言葉が届いたパウリノはその足を止める。
 そして、冷静さを取り戻すべく深呼吸を繰り返した。


「連携していくぞ!」


「あぁ!」「分かった!」


 深呼吸の効果か、パウリノは仲間の2人に対して連携して戦うことを自ら提案した。
 魔闘部隊のうち、一人一人の強さは他の方角に向かった3人に少し及ばないが、連携を取って戦うのであれば、いい勝負ができるほどこの3人の組み合わせはいい。
 大剣による近接戦闘の火力の高いパウリノに、オールラウンダーのエウリコ。
 魔法による遠距離攻撃と回復魔法が得意なカルリト。
 普通に分析すれば、パーティーの組み合わせとしては申し分ない。


「エルフごときが俺を傷つけたことを後悔させてやる!!」


 3人がカルロスに対しての戦い方の打ち合わせをしている間、カルロスはポケットに手を入れてゴソゴソと何かをしていた。
 話し合っている時間を邪魔してこないその態度が自分たちを舐めているように感じ、パウリノはまたもこめかみに青筋を立てた。


「だから、腹を立てるなって……」


「分かってる!!」


 セレドニオの指示によって生け捕りが絶対条件だが、目の前のハーフエルフは手を抜いて戦えばこちらがただでは済まない。
 少しやり過ぎくらいの怪我を負わせて、捕まえるしかない。
 そうなると、ギリギリ痛めつけるには集中力が必要となる。
 冷静な状態の時のパウリノならできるだろうが、頭に血が上っていては殺してしまう可能性もある。
 少しでもその状態に戻すように、エウリコはまたもパウリノに注意をした。
 その注意も、パウリノにはいまいち効果がなかったようだ。


「行くぞ!!」


「「おう!!」」


 話し合いが終わり、パウリノの掛け声とともに3人は行動を開始した。
 勢いよく先頭を走り出したのはパウリノ。
 怒りで一直線に進むのではなく、軽くフェイントを混ぜながらカルロスへと迫っていく。


「っと!? 元気のいいチビッコだ」


 さっきまでと違い、大剣の振りにキレがある。
 縦に横にとパウリノが振り回す大剣を、カルロスはフットワークを使って躱していく。
 他の2人がいつ襲って来るか分からないので、横目できちんと様子を探っている。
 何か狙っているようだが、他にも多くの敵兵を相手にしなければならない身としては、時間をかけて無駄に体力を失いたくはない。
 そのためには、この大剣の男を煽るのが手っ取り早いとカルロスは判断し、またもパウリノが腹を立てる言葉を言い放った。


「貴様!!」


“バキッ!!”


 案の定、頭に血が上ったパウリノの攻撃は雑になる。
 とは言っても、最初の時と違いその差は僅かだ。
 そのため、刀で斬りつけることはできず、カルロスは顔面に拳を打ち込む。


「……この!」


“ドカッ!!”


 怯んだのは一瞬。
 パウリノはすぐに体勢を立て直し、またも斬りかかって来る。
 カルロスはその攻撃を刀で捌き、隙ができた脇腹へミドルキックを食らわせる。


「頑張れ! チビッコ!」


「てめ……」


“ドンッ!!”


 感触的には深く入っているが、パウリノは顔を歪めながらもすぐに体勢を立て直して向かって来る。
 打撃の耐久力が高いのかもしれない。
 こうなったら急所に良いのを一撃入れようと、カルロスはまた煽る。
 学習しないのか、パウリノはまたその言葉に引っかかり、鳩尾を狙ったカルロスの一撃を食らって吹き飛んだ。


「ぐっ!?」


 地面に何度か弾んだ後、しばらく転がってようやく止まったパウリノは、ボロボロになりながらも立ち上がる。


「「ナイスだ! パウリノ!」」


 攻撃を受けたことで、カルロスとの距離が離れたパウリノに対し、魔力を手に集めていたエウリコとカルリトは準備が整った。
 パウリノが相手にしている間に、高威力の魔法を放つ準備だ。
 カルロスが横目でその様子を見ていたように、パウリノもきちんと仲間の様子を見ていた。
 そのため、2人の準備が整ったと分かったタイミングでカルロスの挑発にわざと乗り、攻撃を食らうことで距離を取ったのだ。
 急所に強力な攻撃を受けたが、食らうと分かっていれば何とか耐えられる。
 思い通りの結果になり、パウリノは内心ほくそ笑んだ。


「っ!?」


「「ハーッ!!」」


 強力な魔力の集中に、カルロスは2人に目を向けた。
 すると、魔法の発射準備が完了していた2人は、カルロスに向かって強力な魔法を放ったのだった。
 エウリコの放ったのは、全てを燃やし尽くすような高火力の炎。
 カルリトの放ったのは、何もかも巻き込み、切り刻む竜巻。
 それがカルロスへと猛スピードで接近する。


「……チッ!!」


 強力な魔法に、カルロスは舌打ちする。
 すぐに腹を立てるパウリノに、カルロスの方がまんまと誘導されていたようだ。
 しかもこの方角。
 躱されるという、もしもの事も考えていたのだろう。
 カルロスの背後は、モイセスたちが逃げて行った方角だ。
 躱せば彼らに被害が及ぶかもしれない。
 そのため、躱すことができないと判断したカルロスは、2人の魔法を防ごうと魔力を高める。


「くたばれ! バ~カ!」


 カルロスが集めた魔力の量を見て、パウリノは笑みを浮かべて呟いた。
 その魔力量で、2人のこの魔法を止めようなんて甘く見過ぎだ。
 この魔法をまともに食らえば、大怪我で済まないだろう。
 運が悪ければ死ぬかもしれない。
 どちらにしても、これでこのエルフがズタボロになることを考えると、パウリノのこれまでの怒りも少しは治まるというものだ。
 とはいっても、全て治まるという訳ではないので、拘束した後でカルリトに回復させて憂さ晴らしをさせてもらうつもりだ。


「っ!?」


 パウリノの呟きが聞こえた時に、2人の魔法に変化があった。
 カルロスにぶつかる直前、2つの魔法がぶつかった。
 そして、そのまま合わさり、炎の竜巻と化してカルロスへ襲い掛かったのだった。


“ズドンッ!!”


「ハハ……」


「……やったか?」


 エウリコが立てた作戦通り、カルロスを見事にハメることに成功した。
 僅かな衝突で、カルロスの脅威を感じ取ったエウリコは、単純な攻撃ではダメージを与えることが難しいと悟った。
 ならば、これまでのやり取りを利用して、奴が攻撃を躱せない状況を作ることを考えた。
 そしてパウリノには悪いが、少々踊ってもらうことにした。
 作戦の成功に、エウリコは思わず笑いが漏れ、カルリトは結果を探る言葉を呟いた。
 だが、カルリトの言葉は戦いの最中に言わない方が良い言葉の代表のようなものだ。


「熱つつっ……」


「えっ?」「はっ?」「なっ?」


 強力な魔法によって大火傷と、風の刃により至る所を斬り刻まれた状態のカルロスが倒れていると思っていた3人だったが、カルロスは確かに火傷と切り傷を受けていたが、致命傷になる程ではなかった。
 その結果が信じられず、3人は呆けたような声が漏れた。


「駄目だな……」


「「「……?」」」


 たいして怪我を負わなかったにもかかわらず、反省したような言葉を漏らしたカルロスに、3人は訳が分からなかった。





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