エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第110話
「エルフはこんな所に住んでいるのか?」
洞窟内から他に出口になるようなところがないかを調べつつ、洞窟に入って行った部隊の者たちの1人がなんとなしに呟く。
国を出発する前に、獣人とエルフが住んでいるということは聞いていたが、戦うということをしないエルフと、強さを重視する獣人では相容れないと思っていた。
もしかしたら、獣人の奴隷としてエルフが使われているという可能性もあるが、獣人は犯罪者以外に奴隷を作ることはないという話は有名だ。
なので、エルフを奴隷にしているとは思えない。
エルフ程の弱い生物と獣人が、一緒に住んでいるとも思えないからだ。
「ゲヒッ!!」
「っ!?」
“グシャ!!”
洞窟内は暗く、兵たちは明かりの魔道具を使っているのだが、何か音がする方へ光を当てるとゴブリンが立っていた。
突然現れたその姿に驚いていた兵たちは、一時固まってしまった。
それをチャンスと見たゴブリンは、手に持つ棍棒で一番近くにいる兵を殴り飛ばした。
殴られた兵は頭を砕かれ、血を流して絶命した。
「なっ!? 魔物っ!?」
「まさか!? ここはダンジョンになっているのか!?」
戦闘力のないエルフが入って行ったのだから、ここがダンジョンだという考えが浮かばなかった。
まさかの魔物の出現と、仲間がやられたショックで、兵たちはかなり慌てた。
「ゲヒッ!!」
「おいっ!! 奥にも数匹いるぞ!!」
目の前のゴブリンを警戒した兵たちだったが、小さい音が聞こえたと思ってそちらに灯りを向けると、数匹のゴブリンの目がこちらの様子を窺っていた。
暗闇に乗じて襲い掛かるつもりだったらしく、声を殺していたようだ。
「ガァッ!!」
「ぐっ!? 誰か1人入り口へ向かって他の隊を連れて来てくれ!!」
暗闇に隠れていたのがバレたゴブリンたちは、すぐに兵たちに襲い掛かっていった。
ゴブリンだけあって、攻撃は単調で防ぎやすい。
しかし、数は隊の人数より多いようで、相手にするのは手間取りそうだ。
そう判断した隊長の男は、褒美のエルフよりも自分たちの命の方が大事だと考えを切り替えた。
そのため、隊長の男は隊の最後尾にいた援護班の兵に対して、外に集まっているであろう他の隊を呼んでくるように指示を出した。
「は、はい!!」
援護班の兵も、重い事態だと理解したのか、隊長の指示通り入り口に向かって走り出したのだった。
「チッ!! 遅れたか……」
「すいません……」
洞窟の外では、エルフ発見の報告を受けた他の隊のいくつかが入り口付近に集まっていた。
島の制圧も兵たちの任務であるが、それと同等、もしくはそれ以上に、彼らにとっては高報酬であるエルフの捕獲が重要だった。
折角のチャンスだったが、袋の鼠を奪い合うのは見苦しい。
早い者勝ちが暗黙のルールなので、遅れて洞窟に来た兵たちは悔しそうな表情をしている。
その様子に、エルフ捕獲に向かった隊の一員で、入り口前で他の隊への説明役を任された兵は、先に見つけたことを若干申し訳なさそうにしていた。
しかし、内心は喜色満面だ。
「だ、誰か……」
「っ!? 何だ!? どうした?」
他の隊とのやり取りをしていた兵たちの前に、一人の男が洞窟内から飛び出してきた。
入り口前に立っていた兵は、同じ隊の援護班だから当然知った顔だ。
その仲間が慌てて戻って来たと言うことは、中で何かあったということだろう。
そのため、中で何があったのかを出てきた援護班の男に問いかけた。
「ハァ、ハァ、こ、この洞窟、ダンジョンになってます! 救援をお願いします!!」
「何!? エルフは!?」
戻って来た兵の言葉に、他の隊の者たちが驚きの声をあげる。
この者たちも、エルフが魔物のいるダンジョンに入って行くとは思っていなかったのだろう。
そうなると、他の隊の者たちは、仲間のことよりもエルフの安否が気になった。
急なこととはいえ、もしかしたら高報酬の捕獲チャンスの芽が出てきたからだ。
「中に入ったのは確認しています。しかし、このままだと洞窟内の魔物に……」
戻ってきた兵は、慌てていたために頭が回っていなかったのだろう。
他の隊の連中の目が、救援とは別な所に向いていることには気付かなかった。
「分かった! お前ら、救援に向かうぞ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
他の隊の隊員たちは救援と言いつつも、目はエルフの捕獲に向いていた。
そして、他より早く先へ向かい、エルフを発見しようとすぐさま洞窟内へと走り出した。
時間が経てば経つほど、エルフが魔物に殺られてしまうかもしれないからだ。
戻って来た兵の言葉から察するに、まだエルフの死体は見つかっていない。
そうなると、時間との勝負になりそうだ。
隊長の指示を受けた部下たちもそれが分かっているのか、救援に向かう振りをしてエルフの捜索へ向かう気満々だ。
『無駄なのに……、ご苦労さん』
怪我や伝令などの兵を数人残し、洞窟付近に集まっていたほとんどの隊がドタバタと中へと入って行いった。
それを、少し離れた樹の上でケイは眺めていた。
内心、また見事に罠にハマった敵兵たちを嘲笑いながら……。
ケイがダンジョンの中に入ったのは事実だ。
しかし、それは敵兵たちにわざとそういう風に見せたのだ。
ダンジョン内に入り、敵兵たちが中に入ってきたのを確認すると、転移魔法を使って見つからない場所へ移動したのだ。
金になるエルフである自分が姿を現せば、きっと敵は捕獲をしに追いかけてくると確信していた。
何といっても、純粋なエルフの生き残りはケイのみなのだから。
案の定、エルフ発見でほとんどの隊はダンジョンへと入って行った。
これでまた少しの時間が稼げ、敵の数を減らすことができる。
ダンジョン内の魔物は、外の魔物よりも手強い。
誰もいないダンジョンの捜索を、彼らには最下層まで是非頑張って欲しいものだ。
「どうなっている。何でこんなに被害に遭っているんだ?」
上陸した多くの隊が侵略とエルフ捕獲に出て行ったが、時間が経つにつれて怪我を負った者たちがどんどん戻って来ていた。
そのことに、指揮官のセレドニオはイラ立ちを募らせていた。
しかも、こちらの兵たちが傷つき、命を落としているというのに、獣人の殺害やエルフの捕獲に成功したという報告は全然入って来ない。
どうして怪我を負ったのかと聞いたら、地の利を生かし、獣人たちが魔物の多くいる所へ誘導しているらしい。
それにまんまとハマった兵たちが、怪我して戻ってきているとのことだった。
その報告を聞いた瞬間、セレドニオは怒りで怪我人たちを斬り殺したくなった。
「セレドニオ! こうなったらあいつらを行かせるか?」
「……仕方ない。行かせるしかないか」
先に行かせた兵は、いわば平の兵。
発見されてまだ間もないこの島程度なら、島民は1000にも満たないはずだ。
ならば彼らで十分だと思っていたが、敵の方が準備万端に迎え撃っているようだ。
数が減ったとは言え、まだまだ彼らでも十分だとは思うが、これ以上の被害を出すのはエルフの捕獲だけで帳消しになるとは思えない。
ライムンドの忠告通り奥の手を出すべきだろう。
「魔闘部隊出動だ!」
「「「「「「了解しました!」」」」」」
リシケサ王国には戦闘に特化した部隊がある。
人族のどこの国でも数が少ない、魔闘術が使える人間を集めた部隊だ。
1人いれば一騎当千と言われる者が、全部で6人。
ほとんどが冒険者上がりで、時折セレドニオとライムンドのいうことを聞かないところもあるが、こと戦闘に関しては信用できる者たちだ。
これまで怪我人が多く戻ってくることに仲間でありながらヘラついていた彼らだが、ようやく自分たちの番が来て嬉しそうに行動を開始したのだった。
洞窟内から他に出口になるようなところがないかを調べつつ、洞窟に入って行った部隊の者たちの1人がなんとなしに呟く。
国を出発する前に、獣人とエルフが住んでいるということは聞いていたが、戦うということをしないエルフと、強さを重視する獣人では相容れないと思っていた。
もしかしたら、獣人の奴隷としてエルフが使われているという可能性もあるが、獣人は犯罪者以外に奴隷を作ることはないという話は有名だ。
なので、エルフを奴隷にしているとは思えない。
エルフ程の弱い生物と獣人が、一緒に住んでいるとも思えないからだ。
「ゲヒッ!!」
「っ!?」
“グシャ!!”
洞窟内は暗く、兵たちは明かりの魔道具を使っているのだが、何か音がする方へ光を当てるとゴブリンが立っていた。
突然現れたその姿に驚いていた兵たちは、一時固まってしまった。
それをチャンスと見たゴブリンは、手に持つ棍棒で一番近くにいる兵を殴り飛ばした。
殴られた兵は頭を砕かれ、血を流して絶命した。
「なっ!? 魔物っ!?」
「まさか!? ここはダンジョンになっているのか!?」
戦闘力のないエルフが入って行ったのだから、ここがダンジョンだという考えが浮かばなかった。
まさかの魔物の出現と、仲間がやられたショックで、兵たちはかなり慌てた。
「ゲヒッ!!」
「おいっ!! 奥にも数匹いるぞ!!」
目の前のゴブリンを警戒した兵たちだったが、小さい音が聞こえたと思ってそちらに灯りを向けると、数匹のゴブリンの目がこちらの様子を窺っていた。
暗闇に乗じて襲い掛かるつもりだったらしく、声を殺していたようだ。
「ガァッ!!」
「ぐっ!? 誰か1人入り口へ向かって他の隊を連れて来てくれ!!」
暗闇に隠れていたのがバレたゴブリンたちは、すぐに兵たちに襲い掛かっていった。
ゴブリンだけあって、攻撃は単調で防ぎやすい。
しかし、数は隊の人数より多いようで、相手にするのは手間取りそうだ。
そう判断した隊長の男は、褒美のエルフよりも自分たちの命の方が大事だと考えを切り替えた。
そのため、隊長の男は隊の最後尾にいた援護班の兵に対して、外に集まっているであろう他の隊を呼んでくるように指示を出した。
「は、はい!!」
援護班の兵も、重い事態だと理解したのか、隊長の指示通り入り口に向かって走り出したのだった。
「チッ!! 遅れたか……」
「すいません……」
洞窟の外では、エルフ発見の報告を受けた他の隊のいくつかが入り口付近に集まっていた。
島の制圧も兵たちの任務であるが、それと同等、もしくはそれ以上に、彼らにとっては高報酬であるエルフの捕獲が重要だった。
折角のチャンスだったが、袋の鼠を奪い合うのは見苦しい。
早い者勝ちが暗黙のルールなので、遅れて洞窟に来た兵たちは悔しそうな表情をしている。
その様子に、エルフ捕獲に向かった隊の一員で、入り口前で他の隊への説明役を任された兵は、先に見つけたことを若干申し訳なさそうにしていた。
しかし、内心は喜色満面だ。
「だ、誰か……」
「っ!? 何だ!? どうした?」
他の隊とのやり取りをしていた兵たちの前に、一人の男が洞窟内から飛び出してきた。
入り口前に立っていた兵は、同じ隊の援護班だから当然知った顔だ。
その仲間が慌てて戻って来たと言うことは、中で何かあったということだろう。
そのため、中で何があったのかを出てきた援護班の男に問いかけた。
「ハァ、ハァ、こ、この洞窟、ダンジョンになってます! 救援をお願いします!!」
「何!? エルフは!?」
戻って来た兵の言葉に、他の隊の者たちが驚きの声をあげる。
この者たちも、エルフが魔物のいるダンジョンに入って行くとは思っていなかったのだろう。
そうなると、他の隊の者たちは、仲間のことよりもエルフの安否が気になった。
急なこととはいえ、もしかしたら高報酬の捕獲チャンスの芽が出てきたからだ。
「中に入ったのは確認しています。しかし、このままだと洞窟内の魔物に……」
戻ってきた兵は、慌てていたために頭が回っていなかったのだろう。
他の隊の連中の目が、救援とは別な所に向いていることには気付かなかった。
「分かった! お前ら、救援に向かうぞ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
他の隊の隊員たちは救援と言いつつも、目はエルフの捕獲に向いていた。
そして、他より早く先へ向かい、エルフを発見しようとすぐさま洞窟内へと走り出した。
時間が経てば経つほど、エルフが魔物に殺られてしまうかもしれないからだ。
戻って来た兵の言葉から察するに、まだエルフの死体は見つかっていない。
そうなると、時間との勝負になりそうだ。
隊長の指示を受けた部下たちもそれが分かっているのか、救援に向かう振りをしてエルフの捜索へ向かう気満々だ。
『無駄なのに……、ご苦労さん』
怪我や伝令などの兵を数人残し、洞窟付近に集まっていたほとんどの隊がドタバタと中へと入って行いった。
それを、少し離れた樹の上でケイは眺めていた。
内心、また見事に罠にハマった敵兵たちを嘲笑いながら……。
ケイがダンジョンの中に入ったのは事実だ。
しかし、それは敵兵たちにわざとそういう風に見せたのだ。
ダンジョン内に入り、敵兵たちが中に入ってきたのを確認すると、転移魔法を使って見つからない場所へ移動したのだ。
金になるエルフである自分が姿を現せば、きっと敵は捕獲をしに追いかけてくると確信していた。
何といっても、純粋なエルフの生き残りはケイのみなのだから。
案の定、エルフ発見でほとんどの隊はダンジョンへと入って行った。
これでまた少しの時間が稼げ、敵の数を減らすことができる。
ダンジョン内の魔物は、外の魔物よりも手強い。
誰もいないダンジョンの捜索を、彼らには最下層まで是非頑張って欲しいものだ。
「どうなっている。何でこんなに被害に遭っているんだ?」
上陸した多くの隊が侵略とエルフ捕獲に出て行ったが、時間が経つにつれて怪我を負った者たちがどんどん戻って来ていた。
そのことに、指揮官のセレドニオはイラ立ちを募らせていた。
しかも、こちらの兵たちが傷つき、命を落としているというのに、獣人の殺害やエルフの捕獲に成功したという報告は全然入って来ない。
どうして怪我を負ったのかと聞いたら、地の利を生かし、獣人たちが魔物の多くいる所へ誘導しているらしい。
それにまんまとハマった兵たちが、怪我して戻ってきているとのことだった。
その報告を聞いた瞬間、セレドニオは怒りで怪我人たちを斬り殺したくなった。
「セレドニオ! こうなったらあいつらを行かせるか?」
「……仕方ない。行かせるしかないか」
先に行かせた兵は、いわば平の兵。
発見されてまだ間もないこの島程度なら、島民は1000にも満たないはずだ。
ならば彼らで十分だと思っていたが、敵の方が準備万端に迎え撃っているようだ。
数が減ったとは言え、まだまだ彼らでも十分だとは思うが、これ以上の被害を出すのはエルフの捕獲だけで帳消しになるとは思えない。
ライムンドの忠告通り奥の手を出すべきだろう。
「魔闘部隊出動だ!」
「「「「「「了解しました!」」」」」」
リシケサ王国には戦闘に特化した部隊がある。
人族のどこの国でも数が少ない、魔闘術が使える人間を集めた部隊だ。
1人いれば一騎当千と言われる者が、全部で6人。
ほとんどが冒険者上がりで、時折セレドニオとライムンドのいうことを聞かないところもあるが、こと戦闘に関しては信用できる者たちだ。
これまで怪我人が多く戻ってくることに仲間でありながらヘラついていた彼らだが、ようやく自分たちの番が来て嬉しそうに行動を開始したのだった。
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