エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第109話

 南に向かった陸軍部隊も順調に進んでいた。
 しかし、魔物は北側よりも多く、少し足止めを受けていた。
 とはいっても、数が多いだけで弱い虫の魔物ばかり。
 そのため汚れが付いたくらいで、誰も怪我をしていない。


“ドサッ!!”


「…………?」


 順調だったからか、急に先頭の兵が頭から血を吹いて倒れたのにはすぐには反応できなかった。
 倒れたその兵はピクリとも動かなく、ただ血を流すだけだった。


「おいっ! どうした!?」


 倒れて動かない兵を見て、一気に我に返ったのか、ようやく仲間たちが反応する。


「……死んでる?」


 仲間が呼びかけても倒れた兵は返事をしない。
 脈を取ってみると、完全に停止した状態だ。


“ドサッ!!”


「何だ? 何が起きたんだ?」


 またも1人の兵が頭から血を出して倒れる。
 しかし、だれも魔物の反応を感知できなかった。
 というより、魔物の仕業なのかすらもわからない。
 彼らはちゃんと魔物の存在を探知してから行動を開始している。
 そのため、これが魔物による現象である可能性は低いと考えられる。
 訳が分からず、隊の連中はみんな慌てふためいた。 


「何が起きてるんだ!?」


「っ!? …………まさか!?」


 ここは周辺の樹々の背丈が低い。
 周りを見渡すと遠くまで見渡せて、景色としては美しい。
 だが、遠くからもこちらが見えているということと同義だ。
 倒れた兵士が攻撃を受けたであろう方角を見てみると、隊長の男は遠くに見える丘の上に嫌な感覚を覚えた。


「どうしました?」


「望遠の魔法であそこを見ろ!!」


 隊の男が隊長の挙動に違和感を感じ問いかけると、隊長の男は嫌な感覚のした丘の上を指さした。


「……?」


 訳が分からないが、隊長の指示なので望遠の魔法が使える者は丘の上の方に視点を向けた。


“キラッ!”


「がっ!?」


 そちらに目を向けた兵が丘の上に何か光るものを感じると、また兵の1人が頭に穴を開けて吹き飛んだ。


「……やはりっ!? 退け!! 超遠距離攻撃だ!!」


「チッ!! バレたか? 早いな……」


 丘から1つの隊を狙っていたのはケイで、手にしているのは狙撃銃。
 今回の為というわけでなく、昔作って保管していたものだ。
 普通の魔法でもこの距離から攻撃できるが、なるべく魔力は消費したくない。
 なので、この銃を使うことで、魔力の省エネを計ったのだ。
 望遠の魔道具をスコープ代わりに利用して、さらに僅かに使う魔力を減らしたのだが、そのレンズが光を反射してバレてしまったみたいだ。


「父さん!!」


「どうした?」


 他に狙撃できるものがいないか探していたケイのもとに、兄のレイナルドとトレントの森に敵を誘導していたカルロスが戻って来た。
 少し疲労の色が見えるが、特に怪我もなく作戦は成功しているみたいだ。


「だいぶ減らせたとは思うけど、数が多すぎる。それに釣れなくなってきた」


 レイナルドと共に行動していカルロスたが、作戦はだいぶ成功した。
 20人くらいが1つの部隊をしていて、6つの隊がトレントに食べられて消えていった。
 しかし、時間がかかるにつれて平静を保つようになったためか、なかなか敵を釣れなくなってきた。


「他のみんなも似たような感じみたい」


 獣人のみんなも連携し、魔物の巣に敵を誘い込んだりしていたが、警戒されてなかなか手が出せなくなりつつあった。
 それをカルロスが、伝令係としてケイに伝えに来てくれたようだ。


「そろそろ潮時か……みんなを下がらせてくれ」


「分かった」


 事前に話し合って決めたこの作戦だが、獣人のみんなは敵と接触する分危険が伴う。
 まだ誰かが殺されたという報告は受けていないが、ケイとしては無理をしてほしくない。
 罠に嵌めて有利に進めている今の状況でも、恐らくまだ半分も潰せていないだろう。
 最悪転移して島を捨ててしまおうかとも思っているが、その可能性を考えておいた方が良いかもしれない。
 取りあえず、ケイは他のみんなには予定通り東の方に戻ってもらうことにした。


「じゃあ、行きますか」


 ケイの指示を受けたカルロスがみんなの所に向かうために姿を消した後、ケイはまだ罠に嵌めるために動くことにした。










「ったく、魔物や獣人なんかに邪魔されるんて……」


 現在、魔物との遭遇で兵の数を数人減らしながらも、ある1つの隊が先へと進んでいた。
 ここに住んでいるらしき獣人にも何度か遭遇したが、連携することでなんとか一撃加えることができただけで、代わりにこちらは多くの兵が怪我を負って船へと戻らせることになった。


“ガサッ!!”


「っ!! いたっ!!」


 あまりに突然だった。
 進行方向の草が揺れ、また魔物か獣人かと警戒した兵たちだったが、目の前に現れたのは耳の長い人間だった。


「エルフだ!!」


 その言葉に兵たちはみんな色めきだった。
 捕まえた者には高報酬が約束されているエルフが現れたためだ。
 平民なら爵位を、貴族位の者なら更に上に昇爵することができるかもしれない。
 それを考えたら、そうなるのも仕方がないかもしれない。


「あっ!? 逃げた!!」


「追え!! 逃がすな!!」


 そのエルフは、兵たちの姿に目を向けると背中を見せて逃げ出した。
 それを見た兵たちは、慌ててエルフの後を追い始めた。


「おい! 逃げるな!!」


「言葉が通じねえのかな?」


 エルフの足が思ったよりも早い。
 多少鎧を付けているとは言っても、鍛えている兵たちがなかなか追いつけず距離が縮まらない。
 無駄に体力を使わせられ、兵たちは苛立ちからエルフへの声も少し荒くなる。


「あっ! おいっ!」


「エルフはどうした?」


 隊長の男が少し遅れて仲間の所に追いつくと、彼らは足を止めて立っていた。


「隊長!! この洞窟に入って行きました!!」


 逃げられたのかと思って問いかけると、先を走っていた兵の一人が、すぐ側にある洞窟を指さして報告してきた。


「そうか。これこそ袋の鼠だな……」


 隊長の男はほくそ笑んだ。
 わざわざ追いかけなくても、自分から追い込まれてくれたのだから。


「お前はここにいて、他の隊が来たらエルフ発見を知らせろ」


「はいっ!」


 褒美は捕まえた者へと言っていたが、当然捕まえた隊の者たちにも出るだろう。
 捕まえるのは早い者勝ち。
 後からきた他の隊には、魔物や獣人たちから守る護衛にとなってもらう。
 そのために、隊長の男は1人おいて洞窟内へと入って行くことにした。


「行くぞ!」


「「「「「はい!」」」」」


 隊長の男の合図と共に、兵たちは洞窟の中へエルフを捕獲しに向かった。







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