エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第91話
「おぉ、ようやく見えて来た」
「本当だ。行きよりも早かったわね」
船から見る景色に見慣れた島が映ったことに、ケイと美花は喜んでいた。
行きも乗って少し離れたかと思いきや、2人はいまだに海の上ということが苦手なままのようで、表情が硬い。
「……魔法があるというのは羨ましいですね」
行きも帰りもこの行程にしては珍しく、天気が良好だった。
逆に、良すぎるせいか風も弱く、船の進み具合は最初遅かった。
なので、早く島に帰りたいケイは、行きの時と同じように帆に風を送って船の速度を上げた。
おかげで、このままなら行きより半日ほど早く着くことができそうだ。
「あそこがこれからお前が住む島だよ」
「ワフッ!」
◆◆◆◆◆
「何か欲しい物はありますかな?」
王都を離れる日、ケイと美花は最後に別れの挨拶をしにリカルドのもとへ足を運んだ。
そうしたら、リカルドの方からこのような言葉を投げかけられた。
突然のことだったため、ケイは思はず素で「えっ?」と言いそうになった。
「……どういうことでしょうか?」
来た時と同じように玉座の間で会うことになったのだが、リカルドの突然の発言に、以前と同じ位置にいるファウストたちも驚いているように見える。
「深い意味はありません。ただ私がケイ殿を気に入ったから何か援助できるものがないか聞きたかっただけです。すぐ手に入れられる物なら、帰りの船に乗せましょう」
「……そうですか。ありがたいです」
めっちゃ笑顔で言っているので、リカルドの本心からの発言だと思う。
こんな好機を、遠慮して断るのはもったいない。
ケイは何か欲しいものがないか考え始めた。
「そうですね。人……が欲しいですね」
「人?」
少し間を置くと、島には何が足りないか思いついた。
それがこれだった。
いまいちピンとこなかったリカルドは、首を傾げた。
「恥ずかしながらわが国には住民が少ない。時間をかければ次第に増えるでしょうが、駐在してくれるカンタルボス兵に提供する食材を作るためにも作業を手伝ってくれる人が欲しいのです」
「なるほど……」
ケイの島には20人程度の住民しかいない。
カンタルボスが駐留させる兵の方が数が多い。
食料はカンタルボス側も提供するので、それほど必要とはならないだろうが、それでも今よりも食料の生産を増やす必要がある。
そのことを考えると畑の拡張に伴い、人が必要になることは確かだ。
「仕事はして貰いますが、島ではのんびり過ごせるのでいいところです。もし来てくれるという人がいてくれるなら連れていきたいのですが……」
「ん~……、そうですな……」
聞きようによっては、国民を寄越せと言っているようなものだが、どこの国にもはみ出し者みたいなものはいるはず。
そういった人間を何人か連れていければと、ケイは思っていた。
とは言っても、自分を気に入っているというリカルドなら、おかしな人間を寄越さないだろうと、ケイは考えていた。
思った通り、リカルドは適当な人間がいないか悩みだした。
「……父上」
「ん?」
島に住むルイスたち狼人族の獣人との相性などを真剣に考えてくれているらしく、リカルドはなかなか答えが出ないでいた。
そんな父に、次男のファウストが話しかけた。
「ブエノカエルの狼人族の方たちはどうでしょうか?」
この王都に着く前に、ケイたちが寄ったブエノカエルの町。
そこには、ケイたちの島に住んでいるルイスたちと同じ狼人族の者たちが住んでいる。
ファウストは彼らを連れて行くことを提案した。
「ケイ殿の島にいる方たちは元は同じ村の同じ種族です。揉めるようなことはないと思います」
たしかに、彼らならルイスたちとも上手くやっていけるだろう。
言われてみれば適した者たちかもしれない。
「う~む……、しかし、彼らも後遺症に苦しみつつも新しい生活に慣れてきている者もいる。家族もできている者もいるし、首を縦に振るだろうか?」
「ならば、尋ねるだけ尋ねて、もしも良いという方がいるのなら、連れていくというのはどうでしょうか?」
ブエノカエルの町は、スタンピードで亡くなったエンツリオの村に似た雰囲気があるからか、後遺症の軽い者たちは回復傾向にあり、家庭を持って普通に暮らせるようになっている者もいる。
さすがにそういった者たちを無理に連れて行く訳にはいかない。
ただ、中には移住しても良いと言ってくれる者もいるかもしれない。
なので、帰りは寄るつもりはなかったが、ブエノカエルに寄って彼らに話してから港町エンツに向かうことになった。
話してすぐに連れて行くというのは、流石に彼らも用意や心の整理などができないだろう。
そのため、とりあえずは話をして、半年後にでも島へと向かう船で連れてくるということになった。
「美花殿は何かありませんか?」
ケイの望みは一応片付いた。
そして、リカルドは次に美花にも望みを尋ねてきた。
「私もよろしいのですか?」
戦って気に入ったケイのことなら分かるが、美花にまでとは随分と大盤振る舞いだ。
美花もちょっとためらい、申し訳なさそうにリカルドに尋ねた。
「ん~……、あっ!」
少しの間悩んだ美花だったが、あることを思いだした。
「犬が欲しいです」
「「「「「「犬?」」」」」」
リカルドたちカンタルボスの王族一同だけでなく、これにはケイも聞き返してしまった。
◆◆◆◆◆
「ハッハッハッ……」
【いぬ、キュウがまもる!】
王都ではずっとおとなしくしているしかなかったケイの従魔であるキュウも、島に帰れることが嬉しそうだ。
リカルドから貰った犬の背中に乗っている。
犬もキュウの強さが分かっているのか、背中に乗られていても大人しくしている。
「クウは船大丈夫でいいわね」
表情が硬い美香は、気を紛らわそうと犬の頭を撫でた。
クウと呼ばれた犬は、ケイと美花が王都の短い観光をした時に、ペットショップで懐いていた柴犬そっくりの魔物だ。
犬の従魔がずっと欲しかったらしく、美花はあの時から気になっていた。
欲しいものと聞かれて、島のことなど考えず言ってしまったが、今の美花はとても嬉しそうだ。
そんな美花を見たら、ケイも文句を言うことはできない。
キュウがやきもちを焼くかもしれないので、ケイはたまにしかクウを撫でないでいる。
「「「「「お帰り~~!!」」」」」
帆船を岸に止め、小舟に乗り換えていつもの東海岸へ近付いていく。
すると、ケイと美花の帰りを待ち望んでいたのか、2人の子供や孫たち、それに獣人のルイスたちや魔人のシリアコが総出で出迎えてくれた。
「「ただいま!!」」
長いようで短い旅が終わり、無事に帰って来たのだと安心した2人は、やっと笑顔になってみんなのもとへと近付いて行ったのだった。
「本当だ。行きよりも早かったわね」
船から見る景色に見慣れた島が映ったことに、ケイと美花は喜んでいた。
行きも乗って少し離れたかと思いきや、2人はいまだに海の上ということが苦手なままのようで、表情が硬い。
「……魔法があるというのは羨ましいですね」
行きも帰りもこの行程にしては珍しく、天気が良好だった。
逆に、良すぎるせいか風も弱く、船の進み具合は最初遅かった。
なので、早く島に帰りたいケイは、行きの時と同じように帆に風を送って船の速度を上げた。
おかげで、このままなら行きより半日ほど早く着くことができそうだ。
「あそこがこれからお前が住む島だよ」
「ワフッ!」
◆◆◆◆◆
「何か欲しい物はありますかな?」
王都を離れる日、ケイと美花は最後に別れの挨拶をしにリカルドのもとへ足を運んだ。
そうしたら、リカルドの方からこのような言葉を投げかけられた。
突然のことだったため、ケイは思はず素で「えっ?」と言いそうになった。
「……どういうことでしょうか?」
来た時と同じように玉座の間で会うことになったのだが、リカルドの突然の発言に、以前と同じ位置にいるファウストたちも驚いているように見える。
「深い意味はありません。ただ私がケイ殿を気に入ったから何か援助できるものがないか聞きたかっただけです。すぐ手に入れられる物なら、帰りの船に乗せましょう」
「……そうですか。ありがたいです」
めっちゃ笑顔で言っているので、リカルドの本心からの発言だと思う。
こんな好機を、遠慮して断るのはもったいない。
ケイは何か欲しいものがないか考え始めた。
「そうですね。人……が欲しいですね」
「人?」
少し間を置くと、島には何が足りないか思いついた。
それがこれだった。
いまいちピンとこなかったリカルドは、首を傾げた。
「恥ずかしながらわが国には住民が少ない。時間をかければ次第に増えるでしょうが、駐在してくれるカンタルボス兵に提供する食材を作るためにも作業を手伝ってくれる人が欲しいのです」
「なるほど……」
ケイの島には20人程度の住民しかいない。
カンタルボスが駐留させる兵の方が数が多い。
食料はカンタルボス側も提供するので、それほど必要とはならないだろうが、それでも今よりも食料の生産を増やす必要がある。
そのことを考えると畑の拡張に伴い、人が必要になることは確かだ。
「仕事はして貰いますが、島ではのんびり過ごせるのでいいところです。もし来てくれるという人がいてくれるなら連れていきたいのですが……」
「ん~……、そうですな……」
聞きようによっては、国民を寄越せと言っているようなものだが、どこの国にもはみ出し者みたいなものはいるはず。
そういった人間を何人か連れていければと、ケイは思っていた。
とは言っても、自分を気に入っているというリカルドなら、おかしな人間を寄越さないだろうと、ケイは考えていた。
思った通り、リカルドは適当な人間がいないか悩みだした。
「……父上」
「ん?」
島に住むルイスたち狼人族の獣人との相性などを真剣に考えてくれているらしく、リカルドはなかなか答えが出ないでいた。
そんな父に、次男のファウストが話しかけた。
「ブエノカエルの狼人族の方たちはどうでしょうか?」
この王都に着く前に、ケイたちが寄ったブエノカエルの町。
そこには、ケイたちの島に住んでいるルイスたちと同じ狼人族の者たちが住んでいる。
ファウストは彼らを連れて行くことを提案した。
「ケイ殿の島にいる方たちは元は同じ村の同じ種族です。揉めるようなことはないと思います」
たしかに、彼らならルイスたちとも上手くやっていけるだろう。
言われてみれば適した者たちかもしれない。
「う~む……、しかし、彼らも後遺症に苦しみつつも新しい生活に慣れてきている者もいる。家族もできている者もいるし、首を縦に振るだろうか?」
「ならば、尋ねるだけ尋ねて、もしも良いという方がいるのなら、連れていくというのはどうでしょうか?」
ブエノカエルの町は、スタンピードで亡くなったエンツリオの村に似た雰囲気があるからか、後遺症の軽い者たちは回復傾向にあり、家庭を持って普通に暮らせるようになっている者もいる。
さすがにそういった者たちを無理に連れて行く訳にはいかない。
ただ、中には移住しても良いと言ってくれる者もいるかもしれない。
なので、帰りは寄るつもりはなかったが、ブエノカエルに寄って彼らに話してから港町エンツに向かうことになった。
話してすぐに連れて行くというのは、流石に彼らも用意や心の整理などができないだろう。
そのため、とりあえずは話をして、半年後にでも島へと向かう船で連れてくるということになった。
「美花殿は何かありませんか?」
ケイの望みは一応片付いた。
そして、リカルドは次に美花にも望みを尋ねてきた。
「私もよろしいのですか?」
戦って気に入ったケイのことなら分かるが、美花にまでとは随分と大盤振る舞いだ。
美花もちょっとためらい、申し訳なさそうにリカルドに尋ねた。
「ん~……、あっ!」
少しの間悩んだ美花だったが、あることを思いだした。
「犬が欲しいです」
「「「「「「犬?」」」」」」
リカルドたちカンタルボスの王族一同だけでなく、これにはケイも聞き返してしまった。
◆◆◆◆◆
「ハッハッハッ……」
【いぬ、キュウがまもる!】
王都ではずっとおとなしくしているしかなかったケイの従魔であるキュウも、島に帰れることが嬉しそうだ。
リカルドから貰った犬の背中に乗っている。
犬もキュウの強さが分かっているのか、背中に乗られていても大人しくしている。
「クウは船大丈夫でいいわね」
表情が硬い美香は、気を紛らわそうと犬の頭を撫でた。
クウと呼ばれた犬は、ケイと美花が王都の短い観光をした時に、ペットショップで懐いていた柴犬そっくりの魔物だ。
犬の従魔がずっと欲しかったらしく、美花はあの時から気になっていた。
欲しいものと聞かれて、島のことなど考えず言ってしまったが、今の美花はとても嬉しそうだ。
そんな美花を見たら、ケイも文句を言うことはできない。
キュウがやきもちを焼くかもしれないので、ケイはたまにしかクウを撫でないでいる。
「「「「「お帰り~~!!」」」」」
帆船を岸に止め、小舟に乗り換えていつもの東海岸へ近付いていく。
すると、ケイと美花の帰りを待ち望んでいたのか、2人の子供や孫たち、それに獣人のルイスたちや魔人のシリアコが総出で出迎えてくれた。
「「ただいま!!」」
長いようで短い旅が終わり、無事に帰って来たのだと安心した2人は、やっと笑顔になってみんなのもとへと近付いて行ったのだった。
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