エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第82話
「フ~……、緊張するな」
「そうね……」
大きな扉の前で、ケイと美花は表情硬く言葉を交わす。
遠くからでも目に入るようなでかい王城に着き、ファウストに促されるまま付いて行くと、この扉の前で待つように言われた。
どうやら玉座の間の前らしい。
「この格好で良いのかな?」
「何も言われなかったんだから良いんじゃない?」
ケイと美花の2人は、フォーマルな服装など持っていない。
なるべく綺麗な服を着てきたが、2人は市民のような服装だ。
王都の散策中、ファウストに用意した方が良いのかと尋ねたのだが、「父はそのようなこと気にしないと思うので、大丈夫ですよ」と言われた。
しかし、一国の王に会うのに、さすがにこの格好はないのではないかとケイは思う。
そんなケイとは違い、美花の方は肝が据わっているというか、平然としている。
「どうぞ……」
「あっ、はい……」
扉が開くと、扉の近くにいる兵より中へ入るように促された。
中はかなり大きな部屋で、赤いカーペットが敷かれていた。
そのカーペットを進んで行くと、奥には玉座があり、一人の男性が座っており、その少し後ろに女性が立っている。
その反対側には一人の男性が立っていて、ファウストと一人の女の子が玉座の一段下の位置で左右に分かれて立っていた。
「初めまして、私はケイ・アンヘルと申します。こちらは妻の美花になります」
そう言えば、王との謁見にも関わらず、作法すらわからない。
それもそのはず、一国の王に会う日が来るとは思ってもいなかったのだから仕方がない。
前世の浅い知識をフルに思い起こし、ケイはできる限り丁寧な言葉で話すことにした。
「カンタルボス王に会えたこと恐悦至極に存じます」
まずは自己紹介だろうと、自分と妻の名前をいい、次に会えて嬉しい的なことを告げ、美花と共に軽く頭を下げた。
「カンタルボス王国、国王のリカルド・デ・カンタルボスである」
玉座に座ったままの男性が言ってきた。
ファウスト同様の虎柄の頭髪、予想通り父親でこの国の国王のようだ。
後ろに立っている女性が王妃のアデリナ、逆側の男性は、ファウストの兄のエリアス、一段下にいる女の子がファウストの妹のルシアだと、リカルド王は説明をしてくれた。
「……はい! 挨拶も済んだことだし、硬いのはやめよう!」
「……えっ?」
手を一回打って玉座から立ち上がると、リカルドは軽い口調へと変化した。
あまりに急な変化のため、ケイは面食らった。
「…………」
「あの……、何か?」
全員と挨拶を交わすと、リカルドが自分をじっと見ていることに気付いた。
何か気になることでもしたのかと思い、ケイは恐る恐る尋ねる。
「申し訳ない。エルフというのは文献でしか知らなかったものでな……」
「はぁ、なるほど……」
エルフは人族大陸の西側に住んでいたので、どういう理由でかは分からないが、大陸にきた獣人にも何度か遭遇した。
しかし、それも昔の話。
その獣人によってエルフという種族がいるということが広められたが、もう滅亡したと聞いていた。
今では幻と言ってもいい存在が目の前に現れて、気になったとのことだった。
「美花殿の日向という国のことも珍しい。こことは真裏の場所にあると聞いたことがあるな……」
『……日本とブラジルみたいな位置関係なのかな?』
リカルドの言葉を聞いて、ケイは咄嗟にこのように思った。
まさしくその通りで、カンタルボスの反対側に日向が存在している。
「文献を読んだ感想で申し訳ないが、私はエルフという人種が嫌いだ!」
「っ!? 父上!!」
得体も知れないエルフという名の種族の生き残り。
ここには王族の人間しかいないとは言っても、初対面の相手にそれは失礼だろう。
息子のエリアスとファウストだけでなく、王妃アデリナ、娘のルシアも慌てたようにリカルドとケイに目を向けた。
「……理由を窺っても?」
リカルドの発言を聞いても、ケイの表情に変化は起きていない。
逆にそれが空気を微妙にしているのは分かっているが、ケイはとりあえずその理由を尋ねた。
「無抵抗主義。暴力で何もかもを解決するというやり方を認めない。この大陸でもそんな国が昔存在したが、今は滅びて存在していない。暴力には屈しないという信念はとても素晴らしい!」
嫌いと言っていたにもかかわらず、リカルドは逆に褒めてきた。
だが、この話には続きがあった。
「しかし、何の抵抗もせずに滅んで行くなど愚の骨頂。実に不快だ!」
エルフの掟3か条。
ケイがアンヘルの記憶の中から読み取った中で、最高にくだらないと思った情報だ。
これがあっては、何も抵抗なんて出来る訳がない。
ケイはあっさり無視して、転生初日にこの掟を全部破ったのだが、リカルドも同じ考えの持ち主なのかもしれない。
「40年ほど前に滅んだと聞いていたが……。しかし、どうやらケイ殿は文献のエルフとは違うようだな?」
生き残りがいたとしても、くだらない掟に縛られた者では、どこであろうと生きていけない。
そう思っていたため、リカルドは忘れかけていたが、まさか生き残りをこの目で見る日が来るとは思わなかった。
生き残っているということは、リカルドが嫌いな無抵抗主義をケイはやめたのだと分かった。
「私はエルフでも特殊でして……」
アンヘルの体を乗っ取ったような形になってしまったことへの謝罪のため、ケイはただ寿命が切れるまで生きるつもりでいた。
もしも、アンヘルの意識のままなら、掟を守ることにこだわって、すぐに魔物に殺られてエルフは滅亡していただろう。
どっちが正しいなんて分からないが、アンヘルではなくケイの意識に変わったということは、神がそうなるようにしたのだと思うようにしている。
2人の記憶を持ったおかしなエルフ、それが今のケイ・アンヘルなのだ。
ケイ自身が言うように、かなり特殊な存在だ。
「そんなケイ殿だからこそ、私は戦ってみたい!」
「……はあ?」
何でその結論に行きつくのかは分からないが、立場的に断る訳にはいかない。
エルフを嫌いだと言いながら、リカルドのケイに対する態度は悪くない。
それどころか、興味津々だと言わなくても分かるような態度だ。
とにかく、どうやら対戦の申し出は本気で言っているようだ。
「そうね……」
大きな扉の前で、ケイと美花は表情硬く言葉を交わす。
遠くからでも目に入るようなでかい王城に着き、ファウストに促されるまま付いて行くと、この扉の前で待つように言われた。
どうやら玉座の間の前らしい。
「この格好で良いのかな?」
「何も言われなかったんだから良いんじゃない?」
ケイと美花の2人は、フォーマルな服装など持っていない。
なるべく綺麗な服を着てきたが、2人は市民のような服装だ。
王都の散策中、ファウストに用意した方が良いのかと尋ねたのだが、「父はそのようなこと気にしないと思うので、大丈夫ですよ」と言われた。
しかし、一国の王に会うのに、さすがにこの格好はないのではないかとケイは思う。
そんなケイとは違い、美花の方は肝が据わっているというか、平然としている。
「どうぞ……」
「あっ、はい……」
扉が開くと、扉の近くにいる兵より中へ入るように促された。
中はかなり大きな部屋で、赤いカーペットが敷かれていた。
そのカーペットを進んで行くと、奥には玉座があり、一人の男性が座っており、その少し後ろに女性が立っている。
その反対側には一人の男性が立っていて、ファウストと一人の女の子が玉座の一段下の位置で左右に分かれて立っていた。
「初めまして、私はケイ・アンヘルと申します。こちらは妻の美花になります」
そう言えば、王との謁見にも関わらず、作法すらわからない。
それもそのはず、一国の王に会う日が来るとは思ってもいなかったのだから仕方がない。
前世の浅い知識をフルに思い起こし、ケイはできる限り丁寧な言葉で話すことにした。
「カンタルボス王に会えたこと恐悦至極に存じます」
まずは自己紹介だろうと、自分と妻の名前をいい、次に会えて嬉しい的なことを告げ、美花と共に軽く頭を下げた。
「カンタルボス王国、国王のリカルド・デ・カンタルボスである」
玉座に座ったままの男性が言ってきた。
ファウスト同様の虎柄の頭髪、予想通り父親でこの国の国王のようだ。
後ろに立っている女性が王妃のアデリナ、逆側の男性は、ファウストの兄のエリアス、一段下にいる女の子がファウストの妹のルシアだと、リカルド王は説明をしてくれた。
「……はい! 挨拶も済んだことだし、硬いのはやめよう!」
「……えっ?」
手を一回打って玉座から立ち上がると、リカルドは軽い口調へと変化した。
あまりに急な変化のため、ケイは面食らった。
「…………」
「あの……、何か?」
全員と挨拶を交わすと、リカルドが自分をじっと見ていることに気付いた。
何か気になることでもしたのかと思い、ケイは恐る恐る尋ねる。
「申し訳ない。エルフというのは文献でしか知らなかったものでな……」
「はぁ、なるほど……」
エルフは人族大陸の西側に住んでいたので、どういう理由でかは分からないが、大陸にきた獣人にも何度か遭遇した。
しかし、それも昔の話。
その獣人によってエルフという種族がいるということが広められたが、もう滅亡したと聞いていた。
今では幻と言ってもいい存在が目の前に現れて、気になったとのことだった。
「美花殿の日向という国のことも珍しい。こことは真裏の場所にあると聞いたことがあるな……」
『……日本とブラジルみたいな位置関係なのかな?』
リカルドの言葉を聞いて、ケイは咄嗟にこのように思った。
まさしくその通りで、カンタルボスの反対側に日向が存在している。
「文献を読んだ感想で申し訳ないが、私はエルフという人種が嫌いだ!」
「っ!? 父上!!」
得体も知れないエルフという名の種族の生き残り。
ここには王族の人間しかいないとは言っても、初対面の相手にそれは失礼だろう。
息子のエリアスとファウストだけでなく、王妃アデリナ、娘のルシアも慌てたようにリカルドとケイに目を向けた。
「……理由を窺っても?」
リカルドの発言を聞いても、ケイの表情に変化は起きていない。
逆にそれが空気を微妙にしているのは分かっているが、ケイはとりあえずその理由を尋ねた。
「無抵抗主義。暴力で何もかもを解決するというやり方を認めない。この大陸でもそんな国が昔存在したが、今は滅びて存在していない。暴力には屈しないという信念はとても素晴らしい!」
嫌いと言っていたにもかかわらず、リカルドは逆に褒めてきた。
だが、この話には続きがあった。
「しかし、何の抵抗もせずに滅んで行くなど愚の骨頂。実に不快だ!」
エルフの掟3か条。
ケイがアンヘルの記憶の中から読み取った中で、最高にくだらないと思った情報だ。
これがあっては、何も抵抗なんて出来る訳がない。
ケイはあっさり無視して、転生初日にこの掟を全部破ったのだが、リカルドも同じ考えの持ち主なのかもしれない。
「40年ほど前に滅んだと聞いていたが……。しかし、どうやらケイ殿は文献のエルフとは違うようだな?」
生き残りがいたとしても、くだらない掟に縛られた者では、どこであろうと生きていけない。
そう思っていたため、リカルドは忘れかけていたが、まさか生き残りをこの目で見る日が来るとは思わなかった。
生き残っているということは、リカルドが嫌いな無抵抗主義をケイはやめたのだと分かった。
「私はエルフでも特殊でして……」
アンヘルの体を乗っ取ったような形になってしまったことへの謝罪のため、ケイはただ寿命が切れるまで生きるつもりでいた。
もしも、アンヘルの意識のままなら、掟を守ることにこだわって、すぐに魔物に殺られてエルフは滅亡していただろう。
どっちが正しいなんて分からないが、アンヘルではなくケイの意識に変わったということは、神がそうなるようにしたのだと思うようにしている。
2人の記憶を持ったおかしなエルフ、それが今のケイ・アンヘルなのだ。
ケイ自身が言うように、かなり特殊な存在だ。
「そんなケイ殿だからこそ、私は戦ってみたい!」
「……はあ?」
何でその結論に行きつくのかは分からないが、立場的に断る訳にはいかない。
エルフを嫌いだと言いながら、リカルドのケイに対する態度は悪くない。
それどころか、興味津々だと言わなくても分かるような態度だ。
とにかく、どうやら対戦の申し出は本気で言っているようだ。
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