エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第81話
「やっぱりでかいな……」
「そうね……」
馬車を進め、ケイたちはとうとうカンタルボスの王都へと辿り着いた。
王子のファウストも一緒の馬車に乗っているからか、町の中に入るための門はあっさり通れた。
そして、入ってすぐなのにもかかわらず、王城が遠くに見えた。
ケイと美花は、そのことに感嘆の声をあげた。
「そう言えば、我々の島を国と認めて、カンタルボスの国民は何も抗議は出なかったのですか?」
「国民へもできる限り情報を提供しておりますので大丈夫です」
ルイスに話を聞いたところ、カンタルボス王国は貴族制を取っていない。
王族に全権力が集中しているが、当然好き勝手すれば国民による暴動などが起こるだろう。
とは言っても、この国が建国して400年近く経っているが、そんなことが起きたことはない。
国民への情報提供をきっちりしているのがコツなのかもしれない。
「しかしながら、気を付けなくてはならない者もいるのはおりますが……」
大丈夫とはいいつつも、ファウストは続けて小声で呟いた。
軍の中には脳筋中の脳筋も紛れている。
獣人の国では強いことが重要視されるが、強いだけの馬鹿はいらない。
しかしながら、緻密に練り上げた敵の策を吹き飛ばす程の戦闘馬鹿は時折いるものだ。
手柄を上げれば上へ上げない訳にはいかないが、そういった者が出世した場合、無意味な他国との武力衝突を招くことがある。
相手が他国ならまだしも、褒美に満足せずに内乱を起こす場合もあり得る。
そういった者は、大体どんなところでも領地を広げれば良いと考えている節があり、ケイたちの島を手に入れようと進言してきた。
しかし、手に入れた後の領地経営の資金をどこから出すのかなどは政策担当の者たちに丸投げしており、考えなしなのが目に見えている。
無駄に強いだけに、こういった者たちをコントロールをするのは、結構面倒なのだ。
「……なるほど」
ファウストのその説明を受け、国を導くことの難儀さをケイは感じ取った。
「分かっていたことだけど、みんな私たちを見ているわね」
少しだけ王都の観光をしてみないかとファウストに聞かれ、ケイと美花はすぐに頷いた。
次はいつこの町に来れるか分からないので、見ておきたいと思ったからだ。
馬車から降りて町中を歩くが、ファウストが一緒だからとか言う理由だけでなく、市民は遠巻きからケイたちに視線を送っている。
ケイと美花はエルフと日向という人種とはいえ人族だ。
人族・獣人族・魔人族と3つの大陸に分かれてはいるが、どこも仲がいいとは言えない。
特に人族側の態度が良くない。
獣人を獣、魔人を魔物のようなものだとして、排除しようとちょっかいをかけてきている。
今は小競り合い程度で済んではいるが、いつ大きな戦争に発展するか分からない状況だ。
2人は、人種はともかく人族の部類に変わりはないので、近寄らないようにしているのかもしれない。
そう思っていたのだが、
「人族でも見ない容姿をしているからかな?」
視線は危険な生物を見るというより、関心があるように見えた。
ケイは、それを人族でも見ない容姿だからなのかと考えた。
実際の所、それも正解だが、それ以外にもあるということを、ケイは後に知ることになる。
「えっ? これって……」
視線のことは気にしてもしかたがないため、ケイたちは受け流すことにした。
そうして町を歩いていると、ケイは1つの店で足を止めた。
いくつものゲージに小型の魔物が入れられ、商品として売られている。
獣人は従魔を持つことはあまりない。
自分の身体能力だけで戦って勝つことが美徳という風潮にあるかららしい。
しかし、兵などの職業の人間はそうであっても、一般市民には当てはまらない。
ペットとして小型の魔物を使役するのは、家としての余裕の表れとして飼う者がいるのだそうだ。
「い、いらっしゃいませ! こちらは最近人族大陸で手に入れた種類です」
王子と共に現れたことで、店の主人は額から汗を流し、慌てたように説明をしてきた。
仲が良くないと言っても多少の交易はあるからか、人族・魔人族大陸の物が入ってくることがあるらしい。
ケイが気になったこの魔物も最近手に入ったそうだ。
『……完全に柴犬だ』
「ハッハッハッ……」
そこには前世で見たことのある犬がいた。
茶色と白の毛をした日本の柴犬だ。
大きさといい、見た目といい、完全にそれと同じだ。
ゲージに入っているが、魔物とはいえ大人しく、つぶらな瞳でケイと美花を眺めている。
「かわいい……」
ゲージに手を近付けると、柴犬は美花のその手を舐めだした。
「懐っこいな……」
ケイも手を出すと、柴犬はその手も舐め始めた。
しかし、美花の方が気に入ったのか、少しすると柴犬はまた美花の方に寄っていった。
「こ、こちらいかがでしょうか?」
「ウ~……!!」
人懐っこいのかと思ったが、羊の獣人の店主が近付いてくると柴犬は小さく唸り始めた。
「ワフッ!」
「…………いい子ね」
だが、それも美花がまた手を出すと大人しくなり、教えてもいないのにお座りをしだした。
柴犬のその態度に、美花は顔をほころばせている。
「飼いたいけどお金がない」
「……残念ね」
一応島で倒した魔物の魔石は大量に持ってきてはいるが、換金していないし、している暇がない。
そのため、飼いたい気持ちはあるが諦めるしかない。
「ク~ン……」
諦めることになり残念そうな美花には悪いが、そろそろ王城へ向かう時間だ。
ケイと美花は柴犬に手を振ると、ペットショップを後にした。
その2人の背に、柴犬が悲しそうな声で鳴くので、後ろ髪惹かれる思いだった。
「そうね……」
馬車を進め、ケイたちはとうとうカンタルボスの王都へと辿り着いた。
王子のファウストも一緒の馬車に乗っているからか、町の中に入るための門はあっさり通れた。
そして、入ってすぐなのにもかかわらず、王城が遠くに見えた。
ケイと美花は、そのことに感嘆の声をあげた。
「そう言えば、我々の島を国と認めて、カンタルボスの国民は何も抗議は出なかったのですか?」
「国民へもできる限り情報を提供しておりますので大丈夫です」
ルイスに話を聞いたところ、カンタルボス王国は貴族制を取っていない。
王族に全権力が集中しているが、当然好き勝手すれば国民による暴動などが起こるだろう。
とは言っても、この国が建国して400年近く経っているが、そんなことが起きたことはない。
国民への情報提供をきっちりしているのがコツなのかもしれない。
「しかしながら、気を付けなくてはならない者もいるのはおりますが……」
大丈夫とはいいつつも、ファウストは続けて小声で呟いた。
軍の中には脳筋中の脳筋も紛れている。
獣人の国では強いことが重要視されるが、強いだけの馬鹿はいらない。
しかしながら、緻密に練り上げた敵の策を吹き飛ばす程の戦闘馬鹿は時折いるものだ。
手柄を上げれば上へ上げない訳にはいかないが、そういった者が出世した場合、無意味な他国との武力衝突を招くことがある。
相手が他国ならまだしも、褒美に満足せずに内乱を起こす場合もあり得る。
そういった者は、大体どんなところでも領地を広げれば良いと考えている節があり、ケイたちの島を手に入れようと進言してきた。
しかし、手に入れた後の領地経営の資金をどこから出すのかなどは政策担当の者たちに丸投げしており、考えなしなのが目に見えている。
無駄に強いだけに、こういった者たちをコントロールをするのは、結構面倒なのだ。
「……なるほど」
ファウストのその説明を受け、国を導くことの難儀さをケイは感じ取った。
「分かっていたことだけど、みんな私たちを見ているわね」
少しだけ王都の観光をしてみないかとファウストに聞かれ、ケイと美花はすぐに頷いた。
次はいつこの町に来れるか分からないので、見ておきたいと思ったからだ。
馬車から降りて町中を歩くが、ファウストが一緒だからとか言う理由だけでなく、市民は遠巻きからケイたちに視線を送っている。
ケイと美花はエルフと日向という人種とはいえ人族だ。
人族・獣人族・魔人族と3つの大陸に分かれてはいるが、どこも仲がいいとは言えない。
特に人族側の態度が良くない。
獣人を獣、魔人を魔物のようなものだとして、排除しようとちょっかいをかけてきている。
今は小競り合い程度で済んではいるが、いつ大きな戦争に発展するか分からない状況だ。
2人は、人種はともかく人族の部類に変わりはないので、近寄らないようにしているのかもしれない。
そう思っていたのだが、
「人族でも見ない容姿をしているからかな?」
視線は危険な生物を見るというより、関心があるように見えた。
ケイは、それを人族でも見ない容姿だからなのかと考えた。
実際の所、それも正解だが、それ以外にもあるということを、ケイは後に知ることになる。
「えっ? これって……」
視線のことは気にしてもしかたがないため、ケイたちは受け流すことにした。
そうして町を歩いていると、ケイは1つの店で足を止めた。
いくつものゲージに小型の魔物が入れられ、商品として売られている。
獣人は従魔を持つことはあまりない。
自分の身体能力だけで戦って勝つことが美徳という風潮にあるかららしい。
しかし、兵などの職業の人間はそうであっても、一般市民には当てはまらない。
ペットとして小型の魔物を使役するのは、家としての余裕の表れとして飼う者がいるのだそうだ。
「い、いらっしゃいませ! こちらは最近人族大陸で手に入れた種類です」
王子と共に現れたことで、店の主人は額から汗を流し、慌てたように説明をしてきた。
仲が良くないと言っても多少の交易はあるからか、人族・魔人族大陸の物が入ってくることがあるらしい。
ケイが気になったこの魔物も最近手に入ったそうだ。
『……完全に柴犬だ』
「ハッハッハッ……」
そこには前世で見たことのある犬がいた。
茶色と白の毛をした日本の柴犬だ。
大きさといい、見た目といい、完全にそれと同じだ。
ゲージに入っているが、魔物とはいえ大人しく、つぶらな瞳でケイと美花を眺めている。
「かわいい……」
ゲージに手を近付けると、柴犬は美花のその手を舐めだした。
「懐っこいな……」
ケイも手を出すと、柴犬はその手も舐め始めた。
しかし、美花の方が気に入ったのか、少しすると柴犬はまた美花の方に寄っていった。
「こ、こちらいかがでしょうか?」
「ウ~……!!」
人懐っこいのかと思ったが、羊の獣人の店主が近付いてくると柴犬は小さく唸り始めた。
「ワフッ!」
「…………いい子ね」
だが、それも美花がまた手を出すと大人しくなり、教えてもいないのにお座りをしだした。
柴犬のその態度に、美花は顔をほころばせている。
「飼いたいけどお金がない」
「……残念ね」
一応島で倒した魔物の魔石は大量に持ってきてはいるが、換金していないし、している暇がない。
そのため、飼いたい気持ちはあるが諦めるしかない。
「ク~ン……」
諦めることになり残念そうな美花には悪いが、そろそろ王城へ向かう時間だ。
ケイと美花は柴犬に手を振ると、ペットショップを後にした。
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