エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第67話
「父さん!」
「ん?」
火山の噴火から3年、村は以前のように平和になっていた。
多くの種類の作物が畑に育ち、水田には赤米の苗が膝下まで伸びてきている。
出かけていたレイナルドが戻ってきたらしく、ケイに声をかけてきた。
「あっ! 父ちゃん!」
「あぶ?」
ケイの近くにはレイナルドの息子のラウルが、赤ん坊を抱っこしている。
この赤ん坊は、カルロスとドゥルセの間にできた、ケイにとっては3人目の孫だ。
「エステラ! お爺ちゃんが来たぞ」
ケイにとって初の女の子の孫だ。
それが良くなかった、元々子供や孫に甘いケイの表情筋を破壊し、だらしのない顔で赤ん坊のエステラをあやす。
「一応この村の村長なんだから、その顔は控えてほしいな……」
「……そういうお前も緩んだ顔しているぞ」
父親に似たのか、レイナルドも息子や姪に弱いらしい。
息子のラウルの前だというのに表情が緩んでいるため、ケイへのツッコミには全く説得力がない。
「……で? なんかあったのか?」
今日のレイナルドの仕事は、噴火した山の周辺の調査に向かったはずだ。
エステラに顔を向けたまま、ケイはレイナルドに本題を聞くことにした。
火山の噴火が治まり、ケイたちは調査を開始したのだが、すぐに中止をすることになった。
何故なら、煙などは出なくなったが、火山性のガスがケイたちの前に立ち塞がったからだ。
鑑定術が使えることが功を奏し、誰も被害に遭うことはなかったが、麓の周辺ですら長時間いるのは危険な状態だった。
特に、獣人と、獣人の血を引く子供たちには鼻が曲がるような臭いがすると、山に近付くのを完全に拒否していた。
そんな状況なので、1年前から嗅覚が普通な者たちが中心となっておこなっている。
噴火前に異常な行動をしていた猪や鶏の魔物も、調査の結果、南に避難していたお陰なのか、もしくは噴火の被害に遭わなかったのか頭数は減っていなかった。
今は元々の縄張りである山の麓に戻りつつある。
村にとっては貴重なタンパク源なので、魔物とは言っても無事でいてくれてありがたかった。
調査の1番の目的がそれであり、後は次に噴火した時のために山の地形の把握し、地図の作成をしている。
「山の中腹で温泉が見つかった!」
「何!?」
最近はガスの濃度も少しずつ治まって来ており、中腹まで行けるようになったのだが、それを聞いてケイは、エステラをあやすのをやめてレイナルドの方に振り向いた。
みんなが住む住宅は、ケイが間取りを考え、魔法と手作業で作り上げた現代日本の一般的な住宅に仕上がっている。
当然1軒、1軒、湯舟をおいているので、みんな毎日清潔に暮らしている。
だが、やはりたまには大きなお風呂で露天風呂と洒落こみたい気持ちの時もある。
魔法も駆使して作れば結構すぐにできるとは思うが、みんなが毎日使う訳でもないのに、それを作るのはどうなのかと、まさかの美花から止められた。
昔の日本人と同じような感覚の持ち主なため、美花も賛成してくれると思っていたのだが、まさかの反対で、ケイの意見は却下されることになった。
「よっしゃ! 風呂作りに行くぞ!」
そんなケイが温泉と聞いたら、反応するのが当たり前というもの。
もう夕方だというのに、ケイは西へ向かって歩き出していた。
「待って! 作るのはいいけど、父さん今日は駄目だろ?」
そんなケイを、レイナルドは服を引っ張って止めた。
夕方だから止めたというのではない。
ケイの今日の仕事は、陸地の作成だ。
ケイたちの住んでいるこの島は、西と東に分かれている。
東にみんなが住む家や田畑が作られている。
噴火前は西の島に少しずつ畑を広げていこうかと考え、魔物に田畑を荒らされないように見張りを置いたりしなければならなかった。
しかし、噴火が起こって溶岩の下に埋まった今、次また噴火した時のことを考えて、溶岩が流れてこないように事前に色々細工をすることに決まった。
それが、西の島を土魔法で削り、それでできた岩や土で、東の島を大きくすることだ。
「手狭になったなら、広げてしまえば良いじゃない?」
何かどっかで聞いたようなセリフに似た言葉が美花の口から放たれた。
やろうと思えばできなくもないが、魔法を使ったからと言っても重労働だ。
硬い岩を削るのには相応の魔力を消費する。
という訳で、ケイと息子2人がおこなう仕事になった。
「西側は特に何も起きなかったんだし、そっちに移住するってのは?」
噴火による被害は、山の南東から北東の範囲。
西側は風の影響で少し火山灰が降っただけで、何の被害も起きていなかった。
重労働になると分かっていたケイは、そのことを理由に僅かな抵抗を試みた。
「墓地のことを考えるとそういう訳にも行かないでしょ?」
「……だよね」
東の島にはルイスたちの親や知り合いが眠る墓地がある。
それに、ケイの従魔だったマルたちも埋葬されている。
墓から離れなければならなくなるので、墓参りには時間がかかる。
その一言で、ぐうの音も出ないケイは、島を作り変えていくことになった。
「しょうがない。明日にするか……」
今日はその島の作り変えの作業をおこなったので、魔力が相当減っている。
いくらケイでも、念のため今日の所は止めておくことにした。
「ん?」
火山の噴火から3年、村は以前のように平和になっていた。
多くの種類の作物が畑に育ち、水田には赤米の苗が膝下まで伸びてきている。
出かけていたレイナルドが戻ってきたらしく、ケイに声をかけてきた。
「あっ! 父ちゃん!」
「あぶ?」
ケイの近くにはレイナルドの息子のラウルが、赤ん坊を抱っこしている。
この赤ん坊は、カルロスとドゥルセの間にできた、ケイにとっては3人目の孫だ。
「エステラ! お爺ちゃんが来たぞ」
ケイにとって初の女の子の孫だ。
それが良くなかった、元々子供や孫に甘いケイの表情筋を破壊し、だらしのない顔で赤ん坊のエステラをあやす。
「一応この村の村長なんだから、その顔は控えてほしいな……」
「……そういうお前も緩んだ顔しているぞ」
父親に似たのか、レイナルドも息子や姪に弱いらしい。
息子のラウルの前だというのに表情が緩んでいるため、ケイへのツッコミには全く説得力がない。
「……で? なんかあったのか?」
今日のレイナルドの仕事は、噴火した山の周辺の調査に向かったはずだ。
エステラに顔を向けたまま、ケイはレイナルドに本題を聞くことにした。
火山の噴火が治まり、ケイたちは調査を開始したのだが、すぐに中止をすることになった。
何故なら、煙などは出なくなったが、火山性のガスがケイたちの前に立ち塞がったからだ。
鑑定術が使えることが功を奏し、誰も被害に遭うことはなかったが、麓の周辺ですら長時間いるのは危険な状態だった。
特に、獣人と、獣人の血を引く子供たちには鼻が曲がるような臭いがすると、山に近付くのを完全に拒否していた。
そんな状況なので、1年前から嗅覚が普通な者たちが中心となっておこなっている。
噴火前に異常な行動をしていた猪や鶏の魔物も、調査の結果、南に避難していたお陰なのか、もしくは噴火の被害に遭わなかったのか頭数は減っていなかった。
今は元々の縄張りである山の麓に戻りつつある。
村にとっては貴重なタンパク源なので、魔物とは言っても無事でいてくれてありがたかった。
調査の1番の目的がそれであり、後は次に噴火した時のために山の地形の把握し、地図の作成をしている。
「山の中腹で温泉が見つかった!」
「何!?」
最近はガスの濃度も少しずつ治まって来ており、中腹まで行けるようになったのだが、それを聞いてケイは、エステラをあやすのをやめてレイナルドの方に振り向いた。
みんなが住む住宅は、ケイが間取りを考え、魔法と手作業で作り上げた現代日本の一般的な住宅に仕上がっている。
当然1軒、1軒、湯舟をおいているので、みんな毎日清潔に暮らしている。
だが、やはりたまには大きなお風呂で露天風呂と洒落こみたい気持ちの時もある。
魔法も駆使して作れば結構すぐにできるとは思うが、みんなが毎日使う訳でもないのに、それを作るのはどうなのかと、まさかの美花から止められた。
昔の日本人と同じような感覚の持ち主なため、美花も賛成してくれると思っていたのだが、まさかの反対で、ケイの意見は却下されることになった。
「よっしゃ! 風呂作りに行くぞ!」
そんなケイが温泉と聞いたら、反応するのが当たり前というもの。
もう夕方だというのに、ケイは西へ向かって歩き出していた。
「待って! 作るのはいいけど、父さん今日は駄目だろ?」
そんなケイを、レイナルドは服を引っ張って止めた。
夕方だから止めたというのではない。
ケイの今日の仕事は、陸地の作成だ。
ケイたちの住んでいるこの島は、西と東に分かれている。
東にみんなが住む家や田畑が作られている。
噴火前は西の島に少しずつ畑を広げていこうかと考え、魔物に田畑を荒らされないように見張りを置いたりしなければならなかった。
しかし、噴火が起こって溶岩の下に埋まった今、次また噴火した時のことを考えて、溶岩が流れてこないように事前に色々細工をすることに決まった。
それが、西の島を土魔法で削り、それでできた岩や土で、東の島を大きくすることだ。
「手狭になったなら、広げてしまえば良いじゃない?」
何かどっかで聞いたようなセリフに似た言葉が美花の口から放たれた。
やろうと思えばできなくもないが、魔法を使ったからと言っても重労働だ。
硬い岩を削るのには相応の魔力を消費する。
という訳で、ケイと息子2人がおこなう仕事になった。
「西側は特に何も起きなかったんだし、そっちに移住するってのは?」
噴火による被害は、山の南東から北東の範囲。
西側は風の影響で少し火山灰が降っただけで、何の被害も起きていなかった。
重労働になると分かっていたケイは、そのことを理由に僅かな抵抗を試みた。
「墓地のことを考えるとそういう訳にも行かないでしょ?」
「……だよね」
東の島にはルイスたちの親や知り合いが眠る墓地がある。
それに、ケイの従魔だったマルたちも埋葬されている。
墓から離れなければならなくなるので、墓参りには時間がかかる。
その一言で、ぐうの音も出ないケイは、島を作り変えていくことになった。
「しょうがない。明日にするか……」
今日はその島の作り変えの作業をおこなったので、魔力が相当減っている。
いくらケイでも、念のため今日の所は止めておくことにした。
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