エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第65話
夕方に美花から障壁を張る役を代わり、夜の間もケイは障壁を張り続けた。
「……弱まったか?」
翌朝になり、噴煙は上がっているが、噴火の勢いは弱まってきているように見える。
噴火口が二つになったからか、一気に噴出したことによってマグマの勢いもなくなりつつある。
危険な落石はなくなり、障壁を張らなくても良さそうだ。
しかし、火山灰は降ってきているので、薄い障壁を張るだけにしている。
「とりあえず危機は脱したかな?」
この状況が続くようなら、壊れた家の修理に向かっても良さそうだ。
とは言っても、獣人のみんなは魔力が少ないため、長時間の外出は火山灰を吸い込んでしまう危険がある。
なので、まだ外出の許可は出せない。
「俺は出てもいいかな?」
「う~ん…………いっか」
獣人のみんなには申し訳ないが、もう少し噴火が静まるまではこのまま洞窟内で過ごしてもらうしかない。
しかし、ケイの息子のカルロスの魔力は結構な量ある。
今の噴火状況なら、障壁を張ってもらう役を任せても大丈夫だろう。
まだ完全に治まった訳ではないため躊躇われるが、畑や家は壊滅状態。
少しでも早くそれらを回復させたい思いもあるので、ケイは渋々カルロスに許可を出した。
「レイ! カルロスとキュウと一緒にみんなの家の修復を開始してくれ」
「分かった!」
しっかりと睡眠と休養を得たことで、レイナルドとキュウは魔力が回復した。
それにカルロスが加われば、余程のことがない限り問題が起こることはないだろう。
「俺と美花は少し休ませてもらう」
「任せたわよ」
障壁を張り続けなくてはいけなかったケイと、もしもの時のために一緒に起きていた美花は、レイナルドにあとを任せ、仮眠をとることにした。
◆
「……綺麗になってるな」
ケイが仮眠をしてから外に戻ると、寝る前には洞窟周りにいくつも落ちていた大きめの噴石が、綺麗になくなっていた。
「カルロスが張り切っちゃって……」
レイナルドが言うには、噴石を片付けるためにカルロスが魔力を使って北の海に捨ててきたとのことだった。
弱いながらも余震が続き、噴煙も治まっていないのだから、あまり無茶をするなとレイナルドも注意をしたのだが、
「俺がもっと魔力があれば、マルたちは死ななかったかもしれないから……」
こう言われては、レイナルドもなかなか止めづらく、もしもの時にはキュウもいるので、そのまま好きにさせることにした。
年齢差はそれ程ないレイナルドとカルロスだが、どちらかというと母の美花に似たカルロスは、レイナルドほど魔力が多くない。
とは言っても、人族に比べればかけ離れた魔力量をしてはいる。
それが、カルロスにはちょっとコンプレックスだったのだが、今回のことで更に刺さったのかもしれない。
母に似たせいだとは思いたくはない。
しかし、魔力量が少ないのはやはりそのせいだからだと、カルロスはどうしても考えてしまう。
今回被害に遭ったマルたちは、子供の頃から一緒に過ごしてきた思い出がある。
ケイと同様に、カルロスも家族のように思ってきた。
それなのに、みんなの役に立てず、マルたちが死んでしまうことになったのは、自分のせいだと思ってしまっているようだ。
「カルロス!」
「ん?」
洞窟周辺の清掃が一段落着いたことで休んでいたカルロスに、ケイは近付いていった。
「お前の魔力量が少ないのは俺とレイナルドのせいだ。だから気にするな!」
「……え?」
自分のコンプレックスの原因は母のせいだと、認めたくはないが思っている部分がカルロスにはあった。
だが、父であるケイに言われた一言の意味が分からず、カルロスはキョトンとした。
「お前、ダンジョンに行く回数他の人より少ないとか感じたことなかったか?」
「…………いや、別に……」
そんなこと思ったことなかった。
別にダンジョンに行くことは他の大人たち同様、止められたことはなかったように思える。
「俺やレイが、お前が怪我して帰ってくるのが心配で、いろんな仕事をさせてダンジョンに行く機会を削っていたんだ」
「「すまん!」」
「……え?」
父と兄、2人そろっての謝罪と突然の告白に、カルロスはキョトンとしたままだ。
たしかに、カルロスがダンジョンに行くと怪我をすることが多かった。
しかし、だからと言って、2人がそんなことしているとは思ってもいなかった。
「……じゃあ、俺の魔力量が兄ちゃんより少ないのは?」
「…………単純に経験不足だな」
レイナルドは、性格的にケイ同様の銃を使った戦闘スタイルが合っているらしく、少し離れて戦うので怪我が少ないのでケイも安心して放っておける。
結婚して子供もできたことだし、ますます安全に戦うようになったとケイは思っている。
カルロスが母に似たせいと言うのも、実は関係があるのだが、刀を使った剣術が好きなカルロスは、敵との距離が近いために怪我をしやすい。
それが心配の種だった。
甘くなるのも美花に似ているせいで、ケイとレイナルドはカルロスにはあまり魔物と戦わせたくないと思うようになってしまった。
そのせいで、強い魔物を倒す経験が減った分、魔力量も伸びていないと、ケイとレイナルドは説明した。
「お前が見てない所で、美花にはよく怒られていた」
「母さんは甘やかしたくないようだったから……」
2人と違い、母の美花はカルロスを強くしたかった。
しかしながら、2人が連携を取って上手く甘やかすものだから、カルロスが伸び悩むようになった。
最近では、甘やかしたのがバレたらマジで怒りだし、刀を目の前に突き付けられたこともあった。
「……んだよ! 2人のせいだったのかよ!?」
「「すまん……」」
こんな時になって、まさかコンプレックスの原因を知ることになるとは思わなかった。
母のせいだと思っていた自分が、とんでもなく馬鹿に思えてきた。
それどころか、母の方が自分のために色々してくれていたことを知り、情けなくも思えてきた。
2人がしてきたことに気付かなかった自分も悪い。
何だか2人を怒るに怒れず、もやもやした感じになってしまった。
「…………もういいよ。もうすぐ結婚するんだし、俺のことは甘やかさないでくれ」
「「……分かった」」
何だかちょっと間があった気がするが、これでこれから先は2人も自分のことを甘やかさないだろう。
自分にとって最大のコンプレックスが消えたせいか、思い悩んでいた表情から、妙にすっきりした表情に変わったカルロスだった。
「……弱まったか?」
翌朝になり、噴煙は上がっているが、噴火の勢いは弱まってきているように見える。
噴火口が二つになったからか、一気に噴出したことによってマグマの勢いもなくなりつつある。
危険な落石はなくなり、障壁を張らなくても良さそうだ。
しかし、火山灰は降ってきているので、薄い障壁を張るだけにしている。
「とりあえず危機は脱したかな?」
この状況が続くようなら、壊れた家の修理に向かっても良さそうだ。
とは言っても、獣人のみんなは魔力が少ないため、長時間の外出は火山灰を吸い込んでしまう危険がある。
なので、まだ外出の許可は出せない。
「俺は出てもいいかな?」
「う~ん…………いっか」
獣人のみんなには申し訳ないが、もう少し噴火が静まるまではこのまま洞窟内で過ごしてもらうしかない。
しかし、ケイの息子のカルロスの魔力は結構な量ある。
今の噴火状況なら、障壁を張ってもらう役を任せても大丈夫だろう。
まだ完全に治まった訳ではないため躊躇われるが、畑や家は壊滅状態。
少しでも早くそれらを回復させたい思いもあるので、ケイは渋々カルロスに許可を出した。
「レイ! カルロスとキュウと一緒にみんなの家の修復を開始してくれ」
「分かった!」
しっかりと睡眠と休養を得たことで、レイナルドとキュウは魔力が回復した。
それにカルロスが加われば、余程のことがない限り問題が起こることはないだろう。
「俺と美花は少し休ませてもらう」
「任せたわよ」
障壁を張り続けなくてはいけなかったケイと、もしもの時のために一緒に起きていた美花は、レイナルドにあとを任せ、仮眠をとることにした。
◆
「……綺麗になってるな」
ケイが仮眠をしてから外に戻ると、寝る前には洞窟周りにいくつも落ちていた大きめの噴石が、綺麗になくなっていた。
「カルロスが張り切っちゃって……」
レイナルドが言うには、噴石を片付けるためにカルロスが魔力を使って北の海に捨ててきたとのことだった。
弱いながらも余震が続き、噴煙も治まっていないのだから、あまり無茶をするなとレイナルドも注意をしたのだが、
「俺がもっと魔力があれば、マルたちは死ななかったかもしれないから……」
こう言われては、レイナルドもなかなか止めづらく、もしもの時にはキュウもいるので、そのまま好きにさせることにした。
年齢差はそれ程ないレイナルドとカルロスだが、どちらかというと母の美花に似たカルロスは、レイナルドほど魔力が多くない。
とは言っても、人族に比べればかけ離れた魔力量をしてはいる。
それが、カルロスにはちょっとコンプレックスだったのだが、今回のことで更に刺さったのかもしれない。
母に似たせいだとは思いたくはない。
しかし、魔力量が少ないのはやはりそのせいだからだと、カルロスはどうしても考えてしまう。
今回被害に遭ったマルたちは、子供の頃から一緒に過ごしてきた思い出がある。
ケイと同様に、カルロスも家族のように思ってきた。
それなのに、みんなの役に立てず、マルたちが死んでしまうことになったのは、自分のせいだと思ってしまっているようだ。
「カルロス!」
「ん?」
洞窟周辺の清掃が一段落着いたことで休んでいたカルロスに、ケイは近付いていった。
「お前の魔力量が少ないのは俺とレイナルドのせいだ。だから気にするな!」
「……え?」
自分のコンプレックスの原因は母のせいだと、認めたくはないが思っている部分がカルロスにはあった。
だが、父であるケイに言われた一言の意味が分からず、カルロスはキョトンとした。
「お前、ダンジョンに行く回数他の人より少ないとか感じたことなかったか?」
「…………いや、別に……」
そんなこと思ったことなかった。
別にダンジョンに行くことは他の大人たち同様、止められたことはなかったように思える。
「俺やレイが、お前が怪我して帰ってくるのが心配で、いろんな仕事をさせてダンジョンに行く機会を削っていたんだ」
「「すまん!」」
「……え?」
父と兄、2人そろっての謝罪と突然の告白に、カルロスはキョトンとしたままだ。
たしかに、カルロスがダンジョンに行くと怪我をすることが多かった。
しかし、だからと言って、2人がそんなことしているとは思ってもいなかった。
「……じゃあ、俺の魔力量が兄ちゃんより少ないのは?」
「…………単純に経験不足だな」
レイナルドは、性格的にケイ同様の銃を使った戦闘スタイルが合っているらしく、少し離れて戦うので怪我が少ないのでケイも安心して放っておける。
結婚して子供もできたことだし、ますます安全に戦うようになったとケイは思っている。
カルロスが母に似たせいと言うのも、実は関係があるのだが、刀を使った剣術が好きなカルロスは、敵との距離が近いために怪我をしやすい。
それが心配の種だった。
甘くなるのも美花に似ているせいで、ケイとレイナルドはカルロスにはあまり魔物と戦わせたくないと思うようになってしまった。
そのせいで、強い魔物を倒す経験が減った分、魔力量も伸びていないと、ケイとレイナルドは説明した。
「お前が見てない所で、美花にはよく怒られていた」
「母さんは甘やかしたくないようだったから……」
2人と違い、母の美花はカルロスを強くしたかった。
しかしながら、2人が連携を取って上手く甘やかすものだから、カルロスが伸び悩むようになった。
最近では、甘やかしたのがバレたらマジで怒りだし、刀を目の前に突き付けられたこともあった。
「……んだよ! 2人のせいだったのかよ!?」
「「すまん……」」
こんな時になって、まさかコンプレックスの原因を知ることになるとは思わなかった。
母のせいだと思っていた自分が、とんでもなく馬鹿に思えてきた。
それどころか、母の方が自分のために色々してくれていたことを知り、情けなくも思えてきた。
2人がしてきたことに気付かなかった自分も悪い。
何だか2人を怒るに怒れず、もやもやした感じになってしまった。
「…………もういいよ。もうすぐ結婚するんだし、俺のことは甘やかさないでくれ」
「「……分かった」」
何だかちょっと間があった気がするが、これでこれから先は2人も自分のことを甘やかさないだろう。
自分にとって最大のコンプレックスが消えたせいか、思い悩んでいた表情から、妙にすっきりした表情に変わったカルロスだった。
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