エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第45話

 ルイスとの立ち合いを終え、5人の獣人たちはこの島に残ることになった。
 先々のことを考えれば、人が増えた方が良いと思うのでありがたい。
 元々ケイにとっては有利な条件だったので、何だか申し訳なくすら思う。
 もしもの時の事を考え、食料の貯蓄はしておいてはいるが、ケイたち家族4人分しか置いていない。
 亡くなった人もいるので言いたくないが、彼らが流れ着いたのが夏前で良かった。
 人数も増えたのだし畑を拡張する余裕がある。
 土魔法を使えば土を耕す時間なんてあっという間だ。


「便利な魔法があるのですね……」


「あまりケイを普通に考えない方が良いわよ」


 あっという間に魔法で畑を拡張したケイに、ルイスも呆気にとられたように呟いた。
 側にいた美花も最初は驚いたので、その気持ちが分からなくもない。
 魔法に愛された種族とでも言うのだろうか、ケイの魔力量は美花とは桁が違う。
 成長するたびにその差がどんどん開いていくので、出会った頃の追いつこうという気持ちは完全に失せている。
 その代わり、生身の状態の戦闘ではケイの方がパワーや速度は低く、美花には全然太刀打ちできない。
 エルフは、魔闘術がなければどの種族にも勝てない弱い種族のようだ。
 ハーフのレイナルドも似た感じの成長力のようだ。
 だが、人族の美花の血もあってか、ケイよりかはパワーの付きはいいようだ。
 レイナルドがそうなのだから、弟のカルロスもそんな感じで成長するのだろう。


「ダンジョンがあるんですか?」


 ルイスやアレシアに島の説明をしていたら、近くにいたイバンが反応を示した。
 イバンはこの世界では成人となる15歳らしく、レイナルドの訓練にも丁度いいいい相手になっている。
 獣人の場合男性女性関係なく、魔物から身を守るために武術を学んでいるらしい。
 大人し気なアレシアやリリアナも、基本はできていると言っていた。
 ルイスと共に、レイナルドをダンジョンに初挑戦させようと話していたのだが、イバンの耳に入ったのだろう。
 獣人は耳まで良いのだろうか。


「イバンも行きたいのか?」


「行きたいっす!」


 成人になっていると言っても、ケイはイバンの実力の全てを把握していない。
 稽古でよくルイスに転がされているのを目にしているし、年下のレイナルドにも負けていたように思える。
 目をキラキラさせ、尻尾がブンブン振り回されている所を見ると物凄い行きたいという気持ちは伝わってくる。
 しかし、ケイと美花によって、少しずつとは言っても年々ダンジョンは成長している。
 連れて行くのは実力的に不安になって来る。


「ルイスはどう思う?」


 自分よりも面倒をよく見ているルイスの方が、イバンの実力のことは分かるだろう。
 なので、ケイはルイスに相談してみることにした。


「そのダンジョン内の魔物の強さが分からないので悩みますが、イバンは防御が得意です。大怪我を負うことはないかと思います」


 それはなんとなく分かる。
 ルイスが稽古で、鬼のような攻めをしていたのを何度か見た気がする。
 何でも、防御の強化が優先だとかなんとか。


「そっか、じゃあ、行こうか?」


「やったー!」


 ケイの許可に、イバンはガッツポーズしていた。
 ルイスが許可するなら良いだろう。
 自分もフォローするつもりだし、そもそも無茶はしないことが優先なのだ。
 男なんだし、ちょっとの怪我までなら許容範囲内だろう。


「嬉しいのは分かるが、安全重視だからな」


「はい!」


 ちょっと浮かれている気がするのは成人とは言っても15歳、子供なのは仕方ない。
 とりあえず、忠告として釘を刺しておいた。






「は~……」


「……どうしたんですかね? レイは……」


 ケイ、レイナルド、イバン、ルイスの順でダンジョンに向かう最中、レイナルドが少し元気がないように見えた。
 それが気になったイバンは、ケイにそのことを尋ねてきた。
 因みに、イバンはレイナルドのことをレイと呼んでいる。
 実力は負けていても年齢的には上なのだから全然構わない。
 むしろ、ルイスとアレシアがケイと美花より年上なのにもかかわらず、命の恩人だからという理由で敬語を続けているのがむず痒い。
 本人たちがそう言うのだから、ケイたちも気にしないことにした。


「自分がいなくなるのに、カルロスが何とも思っていなかったのが堪えたらしい」


「あ~……、カルロスは女性陣に人気が高いから……」


 元々カルロスは母親から離れたくない年頃。
 弟が可愛くて仕方ないレイナルドは、全く引き留められなかったことが気になっていたらしい。
 小さな子というのは種族など関係ないらしく、女性陣はカルロスをよく面倒見てくれている。
 ただ、カルロスも小さいながらに男。
 女性にちやほやされているのが分かっているのか、しょっちゅう食べ物をもらいに近付いて行っている。


「カルロスが女たらしにならないといいな……」


 そんなことを話ながらダンジョンに着き、レイナルドとイバンのことを考えて上の層だけトライした。
 ここなら外の魔物より少し強いだけなので、2人でも安全だ。
 レイナルドとイバンの初ダンジョンは、突然の魔物の出現に慌てて躓いたイバンが膝を擦りむいただけで、無難に終了したのだった。





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