エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第41話

「ハッ!」


“スッ!”


 軽く食事を終えたルイスと話をし、ケイは亡くなった人たちの遺体を魔法の指輪に収納した。
 ルイスに、獣人族では遺体を魔法の指輪に収納するのはタブーかどうか尋ねると、問題ないとのことだった。
 人族大陸では、魔法の指輪に遺体を収納するのは、少し躊躇われる風潮にある。
 遺体を物のように扱うのが不快に思う人間がいたからだ。
 そうはいっても、町から町へ移動することが多い商人や冒険者は、魔物に遭遇する確率が高い。
 魔物に殺されたりした場合、魔物に喰われるよりも、せめて家族に遺体を届けてあげるべきと考えるのが普通。
 遺族としても、遺体のない墓に手を合わせるよりも、全然気持ちが違うだろう。
 ルイスたちの身としたら、安全な場所にお墓を作りたいはず。
 そう思って魔法の指輪への収納を提案したのだが、気を遣う意味がなかった。
 獣人族ではきちんと死者を弔うことを優先すべきことで、遺体を運ぶ方法は関係ないそうだ。
 それが魔法の指輪を使ったとしても問題ないらしい。


「いこうか?」


「ハイ……」


 獣人の皆は体調的にまだ魔物と戦わせるのは不安がある。
 一番元気そうなルイスでもそうなので、ケイを先頭、美花を最後尾にして獣人たち5人を挟むように移動し始めた。
 キュウはケイのポケットに入ってのんびりしている。


「っ!?」


 東に向けて進んで行く途中、蛇の魔物が出現した。


「前に魔物が……」


“パンッ!!”


 魔物の発見を伝えようとルイスがしようとしたが、その言葉が言い終わる前にケイが銃の引き金を引いた。
 その一発でケイは蛇を仕留めた。


「…………」


「んっ? ルイスも気付いたのか?」


 ケイが蛇を仕留めて銃をホルスターにしまうと、ケイの早業に目を見開いた状態のルイスと目が合った。


「探知の範囲が広いんだな?」


 撃つ前にルイスが何か言おうとしていたようなので、ケイはその探知の広さに感心した。


「……いや、俺たち獣人は鼻が利く。臭いで判断しているだけです」


「へぇ~、なるほど……」


 獣人は他の種族と比べて魔力が少ない。
 その分、生まれ持った高い身体能力で補う。
 先程の魔物の出現も、嗅覚で判断したようだ。
 彼らは獣人族の中でも狼人族と呼ばれる種族らしく、狼から進化したと言われているらしい。
 結構獣人には多い種族だそうだ。
 蛇は貴重なたんぱく源。
 だいぶ歩いてきたので、ここで一旦休憩をいれることにした。
 丁度いいので、蛇を調理して振舞った。






「ちょっと待ってくれ」


 休憩を取って、またしばらく歩いていくと、ようやくケイたちの家がある東の島が見える所まで来た。
 そこでケイは皆を止めて、休んでいるように言った。


「何をしているのですか?」


 昔造った組み立て式の橋を取り出すケイに、ルイスは問いかけた。


「ルイスはこの距離は飛び越えられるか?」


「大丈夫です。今は弱っているので難しいですが、アレシアと、イバンもギリギリ飛べるかもしれません。リリアナも数年経てば越えられるんじゃないかと……」


 西の島と東の島の間の海峡は、結構な距離がある。
 鍛練でも積まない限り、人族では簡単には飛び越せられないだろう。
 筋肉が付いているルイスなら、ケイはもしかしたら飛び越せられるのではないかと感じた。
 ルイスの言うアレシアとは20代中旬の女性、イバンとリリアナは高校生くらいの少年、少女のことだ。


「大人になれば飛び越えられるようになるのか?」


 まるで、成長するだけで飛び越せられるような言い方に、少し羨ましく感じる。


「脚力にも自信があるので……」


「ふ~ん」


 ケイが飛び越えられるようになったのは、かなりの鍛練をしたからだと言うのに、成長するだけでいいなんて、獣人とは何とも羨ましいものだ。


 ともかく、飛び越せられないような少女もいるので、組み立て式の橋を渡した。


「お~い! 帰ったぞ!」


「っ!?」


“ピョン! ピョン!”


 橋を渡り、少し歩いて家につくと、ケイは帰宅の声をあげた。
 その声に反応したマルが、嬉しそうに飛び跳ねてきた。


「……珍しい。ケセランパサラン?」


 ルイスはマルの存在に気付いていたが、ケイが何もしていないので様子を窺っていた。
 そして姿を見ると、小さな毛玉だったので警戒心が薄れた。
 それに、キュウとかいうケセランパサランをケイが従魔にしていたので、こちらも同じ存在なのだろうと思っていた。


「俺の従魔だから安心していいぞ」


 キュウのことも説明していたから大丈夫だと思っていたが、ルイスが僅かに警戒していたようなので、一応説明しておくことにした。


「おかえり!」「パパ!」


「ただいま」


 ケイの声に反応したのか、家の中にいたレイナルドとカルロスも外に出てきた。
 可愛い息子たちの出迎えに、ケイはだらしなく表情を崩した。


「んっ? 誰?」


「あぁ、皆、西の海岸に流れ着いた人達だ」


 ケイに頭を撫でられた後、レイナルドは両親と弟以外の人間を初めて見て首を傾げた。
 カルロスの方は驚いたのか、ケイの足にしがみついた。


『『『『『……可愛い』』』』』』


 獣人たちは、綺麗に整った顔立ちのレイナルドと、とてつもなく可愛らしいカルロスを見て、同じ感想を思っていた。
 ケイも美形だが、目が覚めたばかりの時はそれどころではなかったので気にしていなかったが、時間が経ち、少し余裕ができたからだろうか、レイナルドたちの不意打ちに、獣人(特に女性陣)たちはやられてしまったようだ。





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