エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第33話

「外とあまり変わらないのね」


 昨日の約束通り、ケイと美花は島唯一のダンジョンへ向かった。
 入ってしばらく経ち、ここまでに出現した魔物の感想を美花は率直に述べた。


「魔物とか俺が捨ててるからかな?」


 このダンジョンには、ケイが魔物や魚の内臓や骨をゴミ捨て場のようにしていた。
 それを多く吸収していたからか、外と大差ない魔物ばかりが出現しているのかもしれない。
 ケイは美花の感想に返すように答えた。






「もう5層になるけど準備はいい?」


「えぇ!」


 外と変わり映えのない魔物ばかりだからか、すんなりと5層のボス部屋の前にたどり着いた。
 昨日も言ったが、ここのボス部屋は毎回変化するタイプで、入ると扉が閉まって倒すまで脱出出来なくなる。
 倒せば1日たたないと再出現することはなく、通行自由の状態になる。
 強さに当たりハズレがあるので、注意が必要だ。
 ボス部屋の前でケイが確認すると、美花は元気に返事をした。


「……今回は蛇か」


「でかいわね」


 中に入って2人が出した感想はこれだった。
 外で時折見つける蛇の魔物がボスとして出現した。
 しかし、いつもみる容姿ではあるが、大きさが全然違った。
 いつものが最大でも全長3~4mほどだというのにもかかわらず、このボスは12mはあるのではないかという程にでかい。
 長さもそうだが、肉も厚い。
 いつもは簡単に倒している魔物でも、でかいだけで圧迫感を覚える。


「危なっ!?」


「大きさが違うだけで、いつも通り噛みつきと尻尾に気を付けて!」


「なるほど、了解!」


 この手のボス戦は、ケイは経験済み。
 蛇が独特の動きで2人に迫ると、美花に噛みつき、ケイに尻尾を振って攻撃してきた。
 それをケイは危なげなく、美花はちょっと慌てたように躱した。
 大きさが違うだけなら注意点はそれ程変わらない。
 ケイが注意点を言うと、美花は納得した。


 それから噛みつきと尻尾の攻撃を躱していると、ケイが言ったように攻撃パターンが変わらない。
 そうなればでかいだけで、別に脅威ではなくなった。


「ハッ!!」


“ザシュッ!!”


 パターンが読めた美花は、噛みつき攻撃を躱すと共に蛇の脳天に剣を突き刺した。
 その一突きが脳に直撃したのか、巨大蛇はそのまま地面に崩れ落ちて動かなくなった。


「フゥ~……」


 攻撃パターンが分かっていたとしても、その一撃はかなりの威力。
 食らえば一発で瀕死になりかねないと考えると、思ったより体力を疲労した。
 ダンジョン初心者の美花は、息を吐くと共に額に掻いていた汗を拭った。


「一息ついたら次へ行こうか?」


「うん」


 ボスの蛇が倒され、次の階層に行く扉が開いた。
 少し疲労した美花のことも考え、ケイはここで軽く休憩をしてから進むことにした。






「今日は10層をクリアしたら帰ろうか?」


「そうね」


 休憩を終え、次の層を探索している途中で、これまで使った時間からケイは美花に拠点に帰る予定を提案した。
 危険だからと置いてきたキュウとマルのことが気になる。
 元々日帰りの予定で来たので、美花も異論はなかった。


「地図はあまり変わっていないみたいね?」


「そうだね」


 ケイはこの島に流れ着いてから数年、島の植物を使って紙が作れないか錬金術で試しまくった。
 その結果、質は悪いが紙と呼べるものは作れるようになった。
 ダンジョンを発見して中を探索するうえで、内部の地図があった方が良い。
 そのため、毎年記録するようにしている。
 美花にも同じ地図を渡し、去年と変化がないか1層から全部調べながら進んできた。
 最短距離ではないので時間がかかるが、危険な目に遭わないためには必要だろう。
 結局、少しだけ変化があったが、去年と大きな差はなかった。


 そして2人は順調に進み、10層のボスに挑むことになった。


「カウチョ(ダンゴムシ)!?」


 中に入って目に入ったボスを見て、美花は驚いた。
 島までは見ないような魔物が出現したからだ。


「俺も見たことないタイプの魔物だ」


 この魔物は、ケイも見たことがなかった。
 だが、島には普通の虫も存在しており、ダンゴムシも存在している。
 偶々入ったダンゴムシを吸収したのだろうか。
 大きさは3~4m程の大きさなのは全然違うが……。


“ギュルギュル!!”


「っ!? 横に避けて!!」


「わっ!?」


 ダンゴムシが丸まったと思ったら、高速で回転を始め、一気に2人に向かって転がって来た。
 その攻撃にいち早く気付いたケイは、咄嗟に美花へ指示を出した。
 その指示にすぐ反応した美花は、なんとか躱すことに成功する。


「何あれ!? まともに当たったら潰されちゃう」


 回転による攻撃を躱されたダンゴムシは、そのまま壁へとぶつかった。
 しかし、その速度と重量によって生み出された破壊力はかなりのもので、壁が大規模に凹んだ。
 その威力に、美花は顔を青くした。


「……大丈夫! あの速度で急激に方向転換はできない」


 慌てる美花とは反対に、ケイはすぐにさっきの攻撃の弱点を発見した。
 威力はすごいが、ぶつからなければなんてことはない。


「剣じゃ駄目だ。美花は今回は避けることに集中して!」


「分かった!」


 自分でも分かっていたのか、美花はケイの言いたいことをすぐに理解した。
 回転しているあの相手に攻撃しても、剣が弾かれるだけだ。
 美花は指示通り躱すことに専念した。


「ここだ」


“パンッ!!”


「ギギッ……!?」


 回転しているから正面からの攻撃は通用しない。
 なので、横から銃による攻撃を放つと、ダンゴムシの体に穴を開けた。
 ダンゴムシも痛みで丸まるのを一旦止め、ケイを睨みつける。


“パンッ!!”“パンッ!!”


 効くのならそのまま繰り返すだけでいい。
 何発も受けたダンゴムシは、体を穴だらけにして崩れ落ちた。


「やっぱり遠距離攻撃も必要ね……」


 今回は役に立たなかったからか、美花は以前言われた攻撃の引き出しを増やすことの重要性を再認識した。


「じゃあ、帰ろうか?」


「うん」


 これ以上先へ進むと、帰るのが深夜になってしまうかもしれない。
 キュウたちのことを考えると、ここが引き際だろう。
 予定通り2人はキュウとマルの待つ拠点に戻っていった。





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