エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第30話
「こっちのマルちゃんも魔法使えるの?」
数日前、キュウが魔法を使えるということを知って驚いていた美花。
畑の草むしりを終え昼食をとった後、側で転がるキュウ親子を見てふと思った。
「マルは生まれたばかりだからね。まだ使えないよ」
美花が来る少し前に誕生したマルは、キュウが魔法を使ったのを見て昔のキュウのように練習を始めたようだ。
キュウでも使えるようになったのは1年近く前、マルも使えるようになるのは相当先のことだろう。
そのことを教えると、マルはしょんぼりした。
マルとしたら今使えるようになりたいのかもしれない。
「キュウも使えるようになったんだからマルも使えるようになるよ」
“コクッ!!”
落ち込んでいたマルだったが、ケイが優しく撫でながら言うと嬉しそうに頷いた。
「……………………まてよ、もっと早く使えるようにできるかもな」
「えっ? どうやって?」
そもそも魔力がほとんどないから魔法が使えないのであって、魔力が増えればキュウだけでなくマルも使えるようになるのではないかとケイは考えた。
そうなると1つの方法が思い浮かんだ。
そんな方法があるならと、美花も興味津々で食いついてきた。
「かなりのハイリスクだけど、強い魔物を倒すとなとなんとなく強くなるだろ?」
「うん」
この世界では魔力を有する生物を殺すと微弱ながら強くなるらしい。
どういった原理かは分からないし、なかなか実感が湧かないが、恐らくはそうだろう。
特に成長を感じられるのは、死闘を制した時だ。
当然自分が命を落とす可能性があるので、ケイはそこまで危険な戦闘はしないようにしてきた。
美花も何かしらの経験があるのか、すぐに頷いた。
「キュウたちからしたら、魔物でない虫や動物でも脅威だろ?」
この10年でキュウもテニスボールくらいのサイズから、野球ボール程の大きさに成長した。
魔法も使えるようになりはしたものの、どんな魔物と戦っても通用しないだろう。
魔物どころか、ただの虫でも勝てるか分からない。
「……もしかして、キュウちゃんに何か生き物を倒させるってこと?」
「その通り」
ケイの話を聞いて、美花も言いたいことが分かったようだ。
レベルアップすれば魔力も増える。
魔力が増えれば高威力の魔法の攻撃もできるようになる。
キュウが成功すれば、マルも同じように魔法を使えるようになるはずだ。
「……無理じゃない?」
キュウを手に乗せて美花はじっと見つめる。
だが、可愛らしい姿をしているだけでとても戦える雰囲気はない。
魔物の餌と呼ばれるようなケセランパセランが、いくら魔法を使えるようになったと言っても無理だろう。
「もちろん俺が手伝う」
「?」
そう言ってケイが取り出したのは釘。
何が言いたいのか分からなかった美花は首を傾げた。
「これに毒を塗って刺す」
「あぁ、なるほど」
たしかに普通に戦ったのではキュウは勝てないだろう。
しかし、何かしらの武器を使用すれば、敵に少しの傷を付けるくらいはできるかもしれない。
ならば、傷を付けるだけで相手を倒せるような状況に持ち込めばいい。
ケイが言いたいことに美花も納得した。
「そうなると、相手はどうするの?」
毒を使うのは良いとして、次に問題になるのは戦う相手だ。
この島の魔物はキュウからしたら大き過ぎる。
いくら毒を使うといっても、傷を付けられなければ意味がない。
「魚で良いんじゃん?」
「あぁ……」
それを聞いて、美花は何でそれが思いつかなったのかと思ってしまった。
魚なら跳ねるだけで、キュウに危険が及ぶようなことはないだろう。
「ほぼ無抵抗な相手で良いのかな?」
自分と同等もしくは強い相手を倒した時に大きく成長する。
リスクを乗り越えるからこその恩恵のようにも思えるので、美花はそれでいいのか不安に思えた。
「う~ん。魔物の成長は低いって言うしな……」
敵を倒しての成長は魔物にも現れるとは言われている。
自分が何かしらの原因で身を守れない人間が、護衛代わりに従魔にやらせるようになり、それによって従魔の戦闘力が上昇したということが実際に起こった。
基本、魔物は他の生き物に殺されない限り寿命で死ぬということはないと言われている。
寿命がないということは無限に強くなるというように思えるが、その分成長の恩恵が低いようで、その時の従魔も、とんでもなく強くなったという訳でもなかった。
成長が低いのだから、美花が言ったようなほぼ無抵抗な相手でも成長するのか怪しい所だ。
「あまり変わりないようなら、数こなしてみるとかいろいろ試して見れば良いんじゃないか?」
「う~ん……。そうね」
所詮は実験のようなものだ。
キュウにも危険が少ないのだから、あまり大きな期待をしない方が良いだろう。
「とりあえず釣りに行こうか?」
「……なんか結局遊びたいだけじゃないの?」
短い付き合いだが、ケイはかなり頻繁に釣りに行っている。
食料の補給という意味でも、魚は多く釣っておいた方がいいかもしれないが、頻繁過ぎる気がしてならない。
ゆったり釣りをするケイを見ていると、自分が強くなろうと焦っているように思えて仕方がない。
強くはなりたいが、こんな無人島にまで早々に追っ手が来るとは思いにくいので焦る気はない。
だが、キュウの強化と言いながら、ケイの態度には遊びが入っているように思えてちょっと呆れる。
「折角なんだし楽しんだ方が良くない?」
「……そうね」
ケイの言葉で、美花はハッとした。
父の「自由に生きろ」といわれた最期の言葉が頭をよぎったからだ。
強くなることだけに生きていくのは自由とは思えない。
色々楽しんで生きることが、結果自由に生きたということになる気がする。
そのため、美花も結果を楽しむことにした。
数日前、キュウが魔法を使えるということを知って驚いていた美花。
畑の草むしりを終え昼食をとった後、側で転がるキュウ親子を見てふと思った。
「マルは生まれたばかりだからね。まだ使えないよ」
美花が来る少し前に誕生したマルは、キュウが魔法を使ったのを見て昔のキュウのように練習を始めたようだ。
キュウでも使えるようになったのは1年近く前、マルも使えるようになるのは相当先のことだろう。
そのことを教えると、マルはしょんぼりした。
マルとしたら今使えるようになりたいのかもしれない。
「キュウも使えるようになったんだからマルも使えるようになるよ」
“コクッ!!”
落ち込んでいたマルだったが、ケイが優しく撫でながら言うと嬉しそうに頷いた。
「……………………まてよ、もっと早く使えるようにできるかもな」
「えっ? どうやって?」
そもそも魔力がほとんどないから魔法が使えないのであって、魔力が増えればキュウだけでなくマルも使えるようになるのではないかとケイは考えた。
そうなると1つの方法が思い浮かんだ。
そんな方法があるならと、美花も興味津々で食いついてきた。
「かなりのハイリスクだけど、強い魔物を倒すとなとなんとなく強くなるだろ?」
「うん」
この世界では魔力を有する生物を殺すと微弱ながら強くなるらしい。
どういった原理かは分からないし、なかなか実感が湧かないが、恐らくはそうだろう。
特に成長を感じられるのは、死闘を制した時だ。
当然自分が命を落とす可能性があるので、ケイはそこまで危険な戦闘はしないようにしてきた。
美花も何かしらの経験があるのか、すぐに頷いた。
「キュウたちからしたら、魔物でない虫や動物でも脅威だろ?」
この10年でキュウもテニスボールくらいのサイズから、野球ボール程の大きさに成長した。
魔法も使えるようになりはしたものの、どんな魔物と戦っても通用しないだろう。
魔物どころか、ただの虫でも勝てるか分からない。
「……もしかして、キュウちゃんに何か生き物を倒させるってこと?」
「その通り」
ケイの話を聞いて、美花も言いたいことが分かったようだ。
レベルアップすれば魔力も増える。
魔力が増えれば高威力の魔法の攻撃もできるようになる。
キュウが成功すれば、マルも同じように魔法を使えるようになるはずだ。
「……無理じゃない?」
キュウを手に乗せて美花はじっと見つめる。
だが、可愛らしい姿をしているだけでとても戦える雰囲気はない。
魔物の餌と呼ばれるようなケセランパセランが、いくら魔法を使えるようになったと言っても無理だろう。
「もちろん俺が手伝う」
「?」
そう言ってケイが取り出したのは釘。
何が言いたいのか分からなかった美花は首を傾げた。
「これに毒を塗って刺す」
「あぁ、なるほど」
たしかに普通に戦ったのではキュウは勝てないだろう。
しかし、何かしらの武器を使用すれば、敵に少しの傷を付けるくらいはできるかもしれない。
ならば、傷を付けるだけで相手を倒せるような状況に持ち込めばいい。
ケイが言いたいことに美花も納得した。
「そうなると、相手はどうするの?」
毒を使うのは良いとして、次に問題になるのは戦う相手だ。
この島の魔物はキュウからしたら大き過ぎる。
いくら毒を使うといっても、傷を付けられなければ意味がない。
「魚で良いんじゃん?」
「あぁ……」
それを聞いて、美花は何でそれが思いつかなったのかと思ってしまった。
魚なら跳ねるだけで、キュウに危険が及ぶようなことはないだろう。
「ほぼ無抵抗な相手で良いのかな?」
自分と同等もしくは強い相手を倒した時に大きく成長する。
リスクを乗り越えるからこその恩恵のようにも思えるので、美花はそれでいいのか不安に思えた。
「う~ん。魔物の成長は低いって言うしな……」
敵を倒しての成長は魔物にも現れるとは言われている。
自分が何かしらの原因で身を守れない人間が、護衛代わりに従魔にやらせるようになり、それによって従魔の戦闘力が上昇したということが実際に起こった。
基本、魔物は他の生き物に殺されない限り寿命で死ぬということはないと言われている。
寿命がないということは無限に強くなるというように思えるが、その分成長の恩恵が低いようで、その時の従魔も、とんでもなく強くなったという訳でもなかった。
成長が低いのだから、美花が言ったようなほぼ無抵抗な相手でも成長するのか怪しい所だ。
「あまり変わりないようなら、数こなしてみるとかいろいろ試して見れば良いんじゃないか?」
「う~ん……。そうね」
所詮は実験のようなものだ。
キュウにも危険が少ないのだから、あまり大きな期待をしない方が良いだろう。
「とりあえず釣りに行こうか?」
「……なんか結局遊びたいだけじゃないの?」
短い付き合いだが、ケイはかなり頻繁に釣りに行っている。
食料の補給という意味でも、魚は多く釣っておいた方がいいかもしれないが、頻繁過ぎる気がしてならない。
ゆったり釣りをするケイを見ていると、自分が強くなろうと焦っているように思えて仕方がない。
強くはなりたいが、こんな無人島にまで早々に追っ手が来るとは思いにくいので焦る気はない。
だが、キュウの強化と言いながら、ケイの態度には遊びが入っているように思えてちょっと呆れる。
「折角なんだし楽しんだ方が良くない?」
「……そうね」
ケイの言葉で、美花はハッとした。
父の「自由に生きろ」といわれた最期の言葉が頭をよぎったからだ。
強くなることだけに生きていくのは自由とは思えない。
色々楽しんで生きることが、結果自由に生きたということになる気がする。
そのため、美花も結果を楽しむことにした。
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