復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸

第103話 元婚約者


「ハッ!!」

「っ!」

 ニールが作り出した結界内にて、レラと奈美子が戦闘を繰り広げていた。
 しかし、その攻防は一方的な展開になっていた。

「さっきの威勢はどこ行ったの!?」

「…………」

 攻める美奈子が笑みを浮かべて問いかけるが、守るレラは返答せず無言で受け流す。
 限が敷島の地から去ってからも、訓練を続けていたのだろう。
 美奈子の剣の腕は、敷島の女性の中でトップレベルにまで達している。
 奈美子が押しているのは、当然と言ったところだろう。
 むしろ、レラが何とか防いでいることの方がすごいかもしれない。
 防いでいるといっても完璧ではなく、レラは傷を負っていないが衣服の所々斬られている。

「……限様に感謝しないと」

「何……?」

 奈美子の攻撃を防ぎながら、レラは小さく呟く。
 その声が聞こえた奈美子は、一旦攻撃の手を止めてその意味を問いかける。

「あなたは強い」

「……まあね」

 奈美子の手が止まって軽く息を吐くと、レラは先程呟いた意味を話し始める。
 その出だしが敵である自分を評価する発言であったため、美奈子は意外そうな表情で答えを返した。

「でも、限様の剣を相手に訓練をして来た私なら、その程度を防ぐくらい訳ないわ!」

 限と行動を共にし始めてから、武術と魔法の訓練を毎日のようにしてきた。
 当然、訓練の相手は限だ。
 いくら奈美子が強くても、限以上の剣技でない限り恐ろしくない。
 そう思えるのも、限によるこれまでの訓練のお陰だ。
 そう考えたからこそ、先程レラは限に感謝する言葉を呟いた。

「……つまり、私があの魔無しに劣るって言いたいの?」

「その通りよ」

 レラの言葉を聞いた美奈子は、確認するように問いかける。
 それに対し、レラは当然というように間髪入れず返答した。

「……っっっ!!」

「っ!?」

 レラの発言を聞いて少し俯いた美奈子は、少しの間を置き勢いよく顔を上げる。
 それと同時に、身体強化の魔力を一気に上げた。

「私があんな魔無し以下の訳ないでしょ!!」

 敷島内でもトップレベルの実力の自分が、魔力もなくいじめられていただけの限に劣っているわけがない。
 何をして魔力を得たのか分からないが、所詮限は無能の魔無しでしかないはず。

「一族を皆殺しにされてもそんな風に言えるなんて、あなた本当に馬鹿なのね?」

 魔無し、魔無しといっている所から、奈美子の中で限のイメージは昔と変わっていないようだ。
 しかし、菱山家が潰れたことは事実。
 それなのに限を認めようとしない奈美子を見て、レラは何故か勝った気になった。
 元婚約者で、昔の限を知っている女性。
 自分よりも限のことを理解していると思っていた。
 だが、奈美子からは限を見下すような発言ばかりで、今の限を見ようとしていない。
 身も心も奉仕して理解している自分の方が、限のことを理解しているということだからだ。

「黙れ!! どうせあんたとそっちの従魔。それと罠を張って父たちを殺したんでしょ! そうに違いないわ! いくら魔無しでもそのくらいの頭は持ち合わせているでしょうからね!」

 美奈子は、レラの発言を首を振って否定する。
 何が何でも限を認めたくないようだ。

「そう……、そう思っていればいいわ」

 これ以上話しても、美奈子は聞く耳を持たない。
 そう判断したレラは、無駄口を聞くことをやめた。

「ハッ!!」

「っ!!」

 身体強化の魔力を増やしたことで、奈美子の移動速度が上がる。
 レラはその速度に目を見開くが、ギリギリのところで躱すことに成功した。

「くっ!!」

「っ!!」

 避けられた美奈子は、すぐに体勢を整え、またもレラに向かって地を蹴る。
 そして、接近すると共に振り上げた刀を振り下ろした。
 しかし、その攻撃もレラには当たらない。

「何で……!?」

 レラはさっきまでギリギリ防いでいた。
 それに対し、身体強化の魔力を上げて速度を上げたというのに、これまで同様攻撃が当たらない。
 その理由が分からず、美奈子はレラを追いかけながら疑問の言葉を口にした。

「ハッ!!」

「なっ!?」

 攻撃を躱せている理由を、わざわざ敵の奈美子に教えるわけがない。
 無言で躱していたレラは、接近する美奈子に合わせて火球の魔法を発射した。
 急に飛んできた火球に驚き、美奈子は接近する足を止めて刀で弾いた。

「フッ! こんな魔法が通用すると思っているの?」

 突然の魔法に驚いたが、よく考えれば自分たち敷島の人間は魔法に対しても訓練されている。
 そのため、わざわざ足を止める必要はなかった。
 そのことから、奈美子は自分が頭に血が上って冷静でなかったことを自覚した。 
 速度を上げても攻撃が通用しなかったのも、それが原因だ。
 身体強化の魔力を上げても、完全に肉体をコントロールできなければ、構えなどで攻撃のパターンが読まれても仕方がない。
 本当に限の訓練によってなのかは分からないが、レラの戦闘技術(主に防御力)はかなり高い。
 攻撃を躱されるのも、当然と言ったところだ。

「もう逃がさない。冷静に仕留める!」

『すごい殺気!』

 冷静になった美奈子は、刀を構えてレラへと殺気を飛ばす。
 その圧力を感じ、レラの頬には汗が一筋伝う。

『でも、限様の殺気に比べれば、問題ない!』

 確かにすごい殺気だ。
 しかし、訓練で受けた限の殺気には及ばない。
 そのため、レラは臆することなく冷静に薙刀を構えた。

『それに……』

“ニッ!”

「っ!? 何がおかしい?」

 自分の殺気に当てられても、特に何の反応も見せない。
 それだけで、美奈子にはレラが相当な修羅場を潜ってきたことが分かる。
 しかも、笑みを浮かべたのだから疑問に思うのも仕方がない。

「別に……」

 手の内を明かすわけにはいかない。
 そのため、レラは美奈子の問いに素っ気なく返答した。

「……まあいいわ。もう私はあなたを仕留めるまで止まらない」

「そう……」

 防御が上手いのは認める。
 しかし、防御に手一杯で反撃をする事はできていない。
 ならば、自分が殺られる心配はいらない。
 敷島の人間の自分は、スタミナも訓練しているため、先にスタミナ切れなどしない。
 攻撃を防がれることに焦ることなく攻め続ければ、レラのスタミナが切れて防ぎきることなどできなくなるはずだ。
 そう考えた美奈子は、すぐに仕留めるのではなく時間をかけてでも確実に殺すことに意識を変えた。 

「ハッ!!」

「っ!!」

 コントロールできていない身体強化の時よりも速度は落ちたが、冷静になったことで、これまでとは違い美奈子の動きにキレが出ている。
 動き回りながら迫る美奈子の動きに、レラは目で追うのがやっとだ。

「フッ!!」

「っっっ!!」

 美奈子が接近して間合いに入った瞬間、レラは笑みを浮かべる。
 その瞬間、奈美子の足下に魔法陣が浮かび上がった。

“ドンッ!!”

「ガッ!!」

 魔法陣が浮かび上がった瞬間爆発を起こし、奈美子が吹き飛んだ。

「グウッ!」

 吹き飛んだ奈美子は、なんとか着地する。
 身体強化の魔力で覆われていたため、足が吹き飛ぶことはなかったが、かなりのダメージを受けたようだ。

「時間をかけて仕留めるのは私の方よ」

「……まさか、あんた……」

「そう。防戦一方で反撃をしなかったのには理由があったのよ。逃げ回りながらこの結界内全域に地雷魔法を作り出すっていうね」

 これまでの攻防で、レラが反撃する機会は僅かだがあった。
 しかし、いくら限の指導によってかなりの実力にまで達しているといっても、武器による戦闘では美奈子に勝てないことはすぐに分かった。
 そのため、レラは武器戦闘だけでなく、魔法による戦闘も使用することにした。
 そして、勝機を確信したレラは、ここでようやく手の内を明かしたのだった。


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