復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸

第86話 独断専行


「宜しかったのですか?」

 砦前に立ち並ぶ敷島の者たち。
 そのなかの1人が、指揮官である菱山家の源斎に話しかける。
 
「今更だ……」

 部下の問いに対し、源斎は渋い表情をしながら返答する。
 自分がやろうとしていることが、敷島の総意ではないからだ。

「頭領の了承を得ていない状況で行動を起こすのは、お立場を悪くするのでは?」

「……かもしれないが、了承を待っている時間がもったいない」

 今回のラクト帝国への再侵攻は、頭領である良照の指示によるものではない。
 本来なら、再侵攻を良照に進言し、それを受けた良照がアデマス国王から了承を得て行動を起こすものだ。
 しかし、源斎が今やっていることは、それをすっ飛ばした独断専行でしかない。
 このことを頭領の良照が知ったら、菱山家にどのような制裁をおこなうか分かったものではない。
 確実に次期頭領候補の座から、大きく後退することになる。

「奴らの生物兵器の施設が、斎藤家の者によって破壊されたのだ。帝国が態勢を整える前に潰せば、これまでの失態を帳消しにできる!」

 今回菱山家とそれに連なる者たちが集まったのは、これまでの汚名を返上するためだ。
 ラクト帝国との戦争で、自分たちが後退するという失態をおこなわなければ、今のような状況に陥ることはなかったのだ。
 それだけあの生物兵器の存在が問題だったのだが、その生物兵器がもう出現することはないと分かっているのなら、当初の予定である砦の崩壊も自分たちだけ実行できる。
 その結果を持って、源斎は菱山家の汚名返上をおこなおうという考えのようだ。

「しかし、本当にあの生物兵器がでてくることはないのですか?」

 あの生物兵器が出てこないのなら、たしかに帝国を相手に勝利するのは難しくない。
 ただ、その情報が正しい場合に限る。

「間違いない。斎藤家の長男が話しているのを聞いた」

天祐てんすけがですか……、ならば納得できますね」

 生物兵器の出る出ないは重要だ。
 源斎も確たる証拠もなしに、このようなことはしていない。
 生物兵器を作るための薬品の製造所が破壊されたということを知ったのは、斎藤家の長男の軽口によるものだ。
 斎藤家の長男である天祐は、実力的に申し分ないのだが少々口が軽いことで知られている。
 敵や標的に情報を漏らすなどの問題は起こしていないが、敷島内にある情報が広まってしまったということがあった。
 その時のこともあって、部下の男も納得するように頷いた。

「斎藤家に近い中里と木内が密かに潜入していたという話だが、彼らがクラレンス伯爵領の領主邸地下で研究所を発見し、破壊したという話だ」

 斎藤家の派閥である中里家と木内家。
 その当主たちと共に、天祐が届いた情報を話していた。
 そこを源斎の配下の者が盗み聞きしたのだ。

「その者たちは戻ってきていませんが?」

「研究所を破壊するのと引き換えに、抵抗を受けて死亡したという話だ。最期の力を振り絞り、情報伝達用の烏を飛ばして来たとのことだ」

 アデマス王国から逃げ出した研究員たちは、生物兵器を作成していた。
 その研究員たちを追って、発見したのだろう。
 生きて戻らなかったのは残念だが、敷島の人間として立派に仕事を果たした結果だ。

「配下の者に確認に行かせたが、たしかにアウーリエの町の領主邸は焼失していたということだ」

「ならば、安心して攻め込めますね」

 同じ敷島の人間じから盗み聞きした情報。
 念のための確認として部下を送ったが、たしかにクラレンス領の領邸は焼失していた。
 そのため間違いないはずだ。
 情報が正しいなら、今回の侵攻に躊躇うことはない。 源斎の言葉を聞いて、配下の男は笑みを浮かべた。

「斎藤家も悔しがるでしょうね。自分たちが掴んだ情報を利用されるなんて」

「あぁ、だが自業自得だ。あんな軽口の長男に情報を与えたのだから」

「そうですね」

 配下を使って折角手に入れた情報。
 恐らく斎藤家は、今の源斎たちのように独断でラクト帝国のへの侵攻をおこなうつもりだったはずだ。
 それにより、ミゲカリ王国だけでなくラクト帝国にも勝利したという結果を得ることになる。
 そこまでのことをすれば、一気に頭領の地位に近付くこと間違いなしだ。
 しかし、その情報を横取りされるとは思ってもいないだろう。
 斎藤家としては、計画を崩されて歯ぎしりすること間違いない。

「そろそろ侵攻を開始するぞ」

「はい!」

 ラクト帝国側も兵の配備が済んでいる様子だが、一向に生物兵器を出してくる気配はない。
 やはり思った通りのようだ。
 それならば、こちらは攻め込むのみ。
 源斎は部下たちに出撃の準備を指示した。





「菱山家のお出ましか……」

 ラクト帝国の砦から少し離れた位置。
 そこには、魔力を目に集めて視力の上昇を計り、源斎たちを見つめる限が存在していた。

「奈美子がいないのが残念だ」

「……全くです」

 集まっている敷島の人間のなかに、限の元婚約者だった美奈子の姿がない。
 菱山家の者たちが集まっているため、もしかしたらと思ったのだが置いてきたようだ。
 この場で菱山家の人間全てを始末したいところだったのだが、残念でしかない。
 美奈子の関係を聞いているため、側に居るレラも同意する。
 婚約破棄した女ということで、会ったこともないのにヘイトが溜まっているようだ。

「しかし、あの人数は限様でも少々きついのでは?」

「そうだな……」

 菱山家の人間は1000人くらいしかおらず、ラクト帝国の7000人には遠く及ばない。
 しかし、一騎当千の敷島の者たちからすれば、この程度の人数差は特に気にする事ではないのだろう。
 そして、限はその敷島の1000人を相手にしないとならない。
 ラクト帝国の兵を数に数えていないが、戦力的には間違っていない。
 それだけ実力差があるということだ。

「まぁ、密かにいくしかないだろ」

「そうですね」

 限たちは現在ラクト帝国の鎧を装着している、
 というのも、戦いが始まると共に帝国兵に紛れて行動するつもりだからだ。
 油断している敷島の者たちを、密かに狩っていくつもりなのだ。

「おっ? そろそろ行くぞ?」 

「はい!」「ワウッ!」「キュウ!」

 どうやら両軍が行動を開始したようだ。
 それを見て、限たちは準備を始める。
 そして、完全に紛れるために、限とレラは帝国側の兜をかぶった。
 戦場へと向かうタイミングとなり、限はレラと従魔のアルバとニールを引き連れて、行動を開始したのだった。


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