復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸

第15話 理由

「改めて聞くが、研究所の破壊はどういう理由だ?」


「……国王陛下の命令によるものだ」


 たまたま捕まえた敷島の人間である山城英助の両手足を縛りつけ、横に転がしたまま限は再度研究所爆破した理由を尋ねる。
 英助の方も相手が限だと知ったためか、大人しく質問に答え始めた。


「……研究所は王家へ何かしでかしたのか?」


「はぁ~……」


 国王がわざわざ命令をくだすなんて、よほどのことでもない限りおこらない。
 限が知らない所で、研究所が王家に対して何かしでかしたのかもしれない。
 そう思って問いかけたのだが、その質問を聞いた英助は面倒臭そうにため息を吐いた。


「……お前は何も知らないのか?」


「あぁ……、研究所が何を研究していたのかも分からないな……」


 呆れたように問いかけてくる英助に対し、限は素直に返答する。
 研究対象として実験を受けていたが、何のためにおこなっているかなんて考える余裕すらなかった。
 ただただ地獄のように続く、実験による苦しみから逃れたいと願っていたに過ぎない。
 地下へ捨てられてからは、生き残ることばかり考えていたため、研究所がそもそも何を研究していたか分からない。


「奴らは合成獣の研究をしていたんだ」


「合成獣……」


 この世界には多くの魔物が存在しているが、その中には幾つかの動物が合わさったものが存在する。
 そういった魔物を合成獣という風に呼んでいるが、そんな魔物を研究して何になるのか限にはいまいち理解できない。
 そのため、英助の言うように合成獣の研究をしていたからと言って、それがどうして国王の怒りに触れたのか結びつかない。


「戦争時に敵国を滅ぼす強力な兵器となる生物の作成。それが研究所ができた理由だ」


「……生物の作成?」


 説明を受けて、ようやく研究所のしていたことが理解できた。
 色々な生物に色々な実験をすることで耐久性などを計り、それぞれの生物の良い部分だけを抽出して合成した生物を作り上げようとしていたのだろう。
 だから、限が捨てられた処理場に肉体の一部がなくなっている生物がやたらと捨てられていたのかもしれない。


「ここ数年でかなりの成果を出すようになってきたのだが、ある時制御不能な合成獣が出現したのが問題になった。最初の内は数人の兵で殺してしまえば済む話だったが、段々と制御のきかない強力な合成獣が出現し始めた」


 制御可能のたいしたことない合成獣では兵器としての役割が果たせず、兵器として役に立っても制御が効かないのでは味方の方に危機が及ぶ。
 それによって、研究所の評価はどっちとも言えない状況へと変わっていった。
 兵器となる合成獣を作り上げたことは素晴らしいが、それが制御できないのでは使用できない。
 そのような結果しか出せないのでは、高い金をつぎ込んだ意味がない。


「このままでは王族へも被害を及ぼす可能性も考えられたため、国王陛下は研究上の閉鎖を決定したのだ」


「閉鎖? 消滅ではなく?」


 結果的に英助たちは半島ごと消滅させた。
 閉鎖しただけなら別に破壊する必要はない。
 研究所のある場所は、関係者以外近寄ることもない場所にある。
 資料や関係者は、王都へ移転させれば済むだけの話のように思える。


「閉鎖が決定し、研究員たちは王都へ来るよう王命が下されのだが、何日経っても来ないのは謀反の可能性ありと我々が破壊工作をするように派遣されたのだ」


 兵器として使えるレベルの合成獣を作り上げたが制御できず、味方に被害が及んだ時にその合成獣を始末したのが敷島の連中だった。
 元々王族から信頼されていた敷島の連中は更に株を上げ、今回のことを一任されたらしい。


「……っで、来てみたら研究員も資料もなくなってたってわけか?」


「……その通りだ」


 限が地下から脱出した時には、もう研究所はもぬけの殻だった。
 それよりも後に来たのでは、何も得るものなんてなかった事だろう。
 敷島からの長い道のりもただの無駄足に終わり、限は心の中でご愁傷さまとあざけ笑った。


「おいっ! もういいだろ? 話したんだからこの紐を解け!」


「あぁ……そうだったな」


 話を聞く前に、限は聞かれたことに答えれば両手足を拘束している紐を解くと約束していた。
 その約束があるから英助は話したと言いたいのだろう。
 同じ敷島の人間ではあるが、英助と限の間には顔見知りという以外に関わりがない。
 年齢的に数年上の英助と関わり合うことがなかったのだから、それも当然だろう。
 関わりがなければ特に恨みに思うこともないため、限は約束通り英助の手足を縛ったひもを短刀で斬り解いた。


「がんばって仲間のもとに帰るんだな……」


「………………」


 解放した英助に向かって言葉をかけると、限は背を向けてレラたちのいる村へと向かおうとする。
 その言葉を受けた英助の方は、無言でゆっくりと立ち上がり、凝りをほぐすように手足を動かす。


「死ねっ!!」


 手足の凝りがほぐれたのを確認した英助は、腰に仕込んでいた苦無を取り出し、そのまま減の背中へと突き出してきた。


“キンッ!!”


「っ!?」


「そう来ると思ってたよ!」


 英助の攻撃が背中へ迫って来たのを、限は振り向きながら腰の刀を抜いて防御した。 
 そして、不意打ちの一撃を防がれて驚いている英助に向かって、笑みを浮かべつつ呟いた。


「魔無しの貴様がどうやって仲間に気付かれずに俺を拉致したのかは分からないが、このまま放置しておく訳にはいかない!」


「だろうな……」


 不意打ちを防がれた英助は、すぐさまバックステップして距離を取る。
 そして、今度は限としっかり面と向かって殺害することを宣言してきた。
 しかし、この状況は限としては分かっていたことなので、慌てることなく英助に刀を向ける。


「まず、その刀を返せ!」


「やだね!」


 彼が言うように、限が持っている刀は捕まえた時に奪い取った英助の刀だ。
 武器らしいものが研究所内で見つけられなかったため、限は手ぶらの状態で行動していた。
 研究所から村までの道のりは、アルバたちが動いてくれるので何もしないでいたが、敷島の連中と戦うとなると何かしらの武器は持っていたい。
 そう思っていたら、ちょうど敷島の人間の持つ刀が目に入ったので、抵抗できないうちに限は拝借していた。


「やっぱり、刀は手にしっくりくる。お前を殺す戦果として、これは俺がもらってやるよ」


「魔無しの貴様に、俺が殺られる訳ないだろ!!」


“ボッ!!”


 舐めた態度の限に対し、怒りが一気に沸き上がった英助は、魔力を体外へ放出させた。
 戦いにおいて基礎中の基礎となる身体強化だ。
 英助の放った魔力が体を覆い、淀みなく流れるのが分かる。
 任務に参加できる実力の持ち主だ。
 英助はただのザコとは言い難い。


「っ!! ぐはっ!!」


 身体強化した英助が、苦無片手に限へ攻めかかろうと足に力を入れた瞬間、限の持つ刀が英助の腹に突き刺さっていた。


「貴様……魔無しのはずでは……」


「それは昔の話だ」


 何が起きたか分からず腹から血を噴き出した英助は、身体強化している魔力が消失して崩れ落ちるように倒れて行った。
 前のめりに倒れた英助は、何故限にやられたのか分からず、言葉を途切れさせながら問いかけた。
 それに対し、限は短い言葉で返すだけにとどめた。


「……でもよかったよ。島の人間の実力を確認できた」


 今度は縛られている訳でもないのに横たわる英助に近付きながら、限は独り言のように呟き、


「がっ!!」


 英助の心臓へ刀を一突きして止めを刺したのだった。


「まぁ、お前程度なんて親父に比べればゴミみたいなもんだろうがな……」


 刀に付いた血を払い、鞘へと納めた限は、亡骸となった英助に向かって一言呟き、その場から去っていったのだった。





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