主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第106話


「まさかこうなるなんてな……」

「全くだ……」

 伸の呟きに了も頷く。

 2体の名持ちの魔族の出現。
 そのことだけでも大問題だというのに、その魔族が討伐されたということもとんでもないことだ。
 このことは大和皇国だけに収まらず、名の知れている鷹藤家と共に柊家の名前も世界各国に知れ渡り、大きな称賛を受けた。
 当然国内も大いに沸いた。
 年に2度もの魔族の出現し、それを2度とも討伐に成功した柊家の名前はうなぎ上りだ。
 避難時の逃走で、観客軽傷者が出た。
 それよりも重大なのは、出場選手の死亡と大怪我が出たこと。
 このことから、競技大会を中止するという話が上がった。
 しかし、

【これより決勝戦を開始します!!】

 大会は継続することになった。
 それゆえに、冒頭で伸と了が交わした会話に繋がる。

「被害者の両親の願いだって話しだよな?」

「あぁ」

 大会の継続が決定されたのには、魔族のカルミネに利用されて死亡することになった豊川家の願いでもあったからだ。
 鷹藤文康の対戦相手だった豊川は、登場した時から明らかに様子がおかしかった。
 それが魔族によって変異されたことは、鷹藤家と柊家の連名によって報告された。
 それにより、利用された豊川には同情する声が集まった。
 彼の両親は、息子の死に憔悴しつつも、集まった報道陣に対して気丈に受け答えをした。
 その時、息子が楽しみにしていた大会が中止になってしまうことが残念だという話になり、彼のためにも大会を継続しようという方向に進んだのだ。

「継続もそうだけど、決勝のカードが……」

「すごいことになったよな……」

 会場は立ち見客が出るほどの超満員。
 報道陣のカメラも、例年以上の数集まっている。
 その狙いは、伸の言うように決勝戦のカードが関係している。

【西! 八郷学園3年、田名崎堅吾!】

「「「「「ワーーー!!」」」」」

 決勝進出者の1人がアナウンスされ、観客からは大きな声援が上がる。
 西の選手入場口から入ってきたのは、了も所属する剣道部主将の田名崎だ。
 準決勝で了を倒した官林学園の東堂と対戦し、勝利することでここまで上り詰めた。

【東! 八郷学園1年、柊綾愛!】

「「「「「ワアァーーー!!」」」」」

 田名崎の登場以上の声援と共に入ってきたのは、同じく八郷学園の綾愛だ。
 今大会は、魔族の出現というアクシデントということもあって注目度が上がっているのに、決勝は珍しく同校対決。
 しかも、片方は1年で柊家の娘というのだから、余計に注目されているのだ。
 魔族を倒したことで、現在国内だけにとどまらず国外にまで名前が広がりつつある柊家。
 その娘が決勝まで上がったということは、やはり柊家の強さは本物だと証明しているかのようだ。

「まさか同校対戦なんてな……」

「八郷学園は初ですね」

 舞台上に上がった田名崎と綾愛は、和やかな表情で言葉を交わす。
 同校対決は、これまでにも何回かあった。
 しかし、それは他の学園によるもので、八郷学園としては初の出来事だ。
 今回大会に参加した八郷学園の生徒は、鼻が高いことだろう。

「ここまで来たら狙うのは1つだ」

「ですね」

 魔族に意識操作された豊川によって大怪我を負った文康は、綾愛の手を借りてすぐに近くの病院へと担ぎ込まれた。
 病院に着いた時には気を失っていた文康は、すぐに医者から回復魔法をかけてもらったことで怪我は回復したのだが、彼の意識が1日戻らず、彼の在籍する官林学園は不戦敗を申し出るしかなかった。
 優勝候補の文康と戦わなくて済んだことで、綾愛は勝ち上がれたと言ってもいいかもしれない。
 しかし、よく言うように運も実力のうち。
 ここまで来たのなら狙うは当然優勝だ。

「負けません!」

「俺だって!」

 さっきまでの表情とは打って変わって、綾愛と田名崎は真剣な表情で視線をぶつけ合う。
 そして、2人は開始線に立ち、両者武器となる木刀を構えた。





「始め!!」

「ハーッ!!」「ターッ!!」

 観客の静寂と共に、審判が試合開始の合図を出す。
 それによって、綾愛と田名崎は相手に向かって走り出した。

「セイヤッ!!」「フンッ!!」

“ガンッ!!”

 両者距離を詰めると共に、綾愛が上段から袈裟斬りを、田名崎は左切り上げを放つ。
 放たれた木刀がぶつかり合い、大きな音が会場に響き渡る。
 そのぶつかり合いから僅かに鍔迫り合いをした後、2人は距離を取るようにバックステップした。




「……どっちが勝つと思う?」

「そうだな……」

 開始早々のぶつかり合いを見た了は、隣にいる伸に勝敗の予想を求めた、
 東堂との試合に負けてから、了は伸と一緒に試合を観戦していたのだが、その時伸は試合の勝敗をことごとく当てていた。
 この決勝もどうなるか知りたくなったために、了は尋ねたのだろう。
 その量の質問に対し、伸は勘会えごとをするように右手を顎に付けた。

「五分かな……」

「マジかよ。すげえな柊……」

 同じ学園ということもあって、了は2人の実力はある程度把握しているつもりだ。
 特に、同じ剣道部の田名崎のことは良く知っている。
 部活では毎回しごかれていたからだ。
 自分では全く勝てないでいる田名崎と1年でありながら互角なんて、了は綾愛の強さに感心せざるを得ない。

「……あくまで予想だぞ」

「あ、あぁ……」

 予想はあくまで予想。
 勝敗なんて、戦い方次第でどちらにでも変わるものだ。
 さっきのは、魔力量や剣術などの総合力から、伸が勝手に予想したに過ぎない。
 準決・準準決と何度も当てたことで、自分の予想を疑っていないようだ。
 そんな了に対し、伸は一応忠告しておいた。



『やっぱり一撃の重みが違うわね……』

『……また速度が上がったか?』

 最初の衝突の後距離を取った2人は、相手を見つめたまま動かなくなる。
 相手がどう出てくるか。
 もしくは自分がどう出るべきなのかを、2人は頭の中でフル回転させていた。
 そのなかで、綾愛は田名崎との体格差による1撃の重みを、田名崎は綾愛の移動速度に意識が集中していた。

『『長引けば、こちらの方が不利!!』』

 相手の特徴を考えていると、何故かお互い同じ結論に至った。
 綾愛は田名崎との年齢差による経験値の違い、田名崎は綾愛の成長力に警戒したためだろう。

「ハーッ!!」「ターッ!!」

 短期決戦を狙うなら、お互い得意な接近戦で白黒つけた方が速い。
 その結論に至ったのか、またも2人は試合開始と同様に相手との距離を詰めたのだった。


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