主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第99話


「ハッ!!」

 これまでとは違い、左右にステップをしながら俊夫へと接近するティベリオ。
 武器である爪の間合いまで接近すると、顔面目掛けて突きを放つ。

「フッ!!」

 ティベリオの攻撃を、俊夫は刀で上へ反らす。
 それと同時に一歩踏み出し、ティベリオの鳩尾へと蹴りを放つ。

「っと!!」

 俊夫の蹴りに対し、ティベリオはバックステップして攻撃を回避する。

「セイッ!」

 蹴りを回避したティベリオを追うように、今度は俊夫が攻め込む。
 距離を詰めると同時に、俊夫は袈裟斬りを放つ。

「クッ!!」

 俊夫の刀による一撃を、ティベリオは両手の爪を交差するようにして受け止める。
 そのため、2人は鍔迫り合いのような状況になった。

「「フンッ!!」」

 鍔迫り合いのような状況から両者後方へ跳び、距離をとりって睨み合う。

「「ハッ!!」」

 少しの間睨み合い、両者ともまた距離を詰めての接近戦へと展開した。





「…………なぁ?」

「……何だ?」

 俊夫とティベリオが戦っている中、緊急事態の報告を受けた皇都に住む魔闘組合の者たちが闘技場付近へ集まっていた。
 闘技場付近に来てみると、柊家当主の俊夫と魔族の戦闘がおこなわれていた。
 俊夫の援護をしようと思うが、集まった者たちは離れた場所から戦闘を見ていることしかできないでいた。
 戦闘を見ていた者の中の1人が隣にいる知り合いに唖然とした表情で話しかける。
 それに対し、話しかけられた男も唖然としながら反応した。

「……お前あの動きが見えてるか?」

「ほとんど射線だよ」

「だよな……」

 少し離れた所で俊夫とティベリオの戦闘が繰り広げられているのだが、集まった魔闘師たちは距離があるのにもかかわらず、彼らの動きが目視できていなかった。
 離れていてこの状態だと、至近距離ではどれほどの速度で動いているのか想像できない。
 他の者たちも、唖然とした様子で戦闘を見ている様子から、恐らく自分たちだけが見えていない訳ではないようだ。

「あれが魔族……」

「化け物じゃないか……」

 少し離れた位置で俊夫たちの戦闘を見ている者たち。
 その多くは、魔族を見たことが無い。
 この年が特別なだけで、魔族を見ることなんて早々あり得ることではないからだ。
 初めて見る魔族に、彼らは顔を青くすることしかできない。
 とてもではないが、自分体とは次元が違い過ぎるためだ。

「それも驚きだが、柊家の俊夫殿はそれに付いて行っている」

「付いて行っているというより、ほとんど互角じゃないか」

 彼らが驚くのは魔族の実力だけではない、
 化け物ともいえる速度で動く魔族に、柊家当主の俊夫が付いて行っていることだ。
 しかも、ただ付いて行っているのではない。
 魔族と互角の攻防を繰り広げているから驚きだ。

「前回の魔族を倒したと聞いて、少し疑っていたんだけど……」

「あぁ、本当だったんだな……」

 柊家が名門とは言っても、田舎の八郷地区において。
 その思いがあってか、皇都の魔闘師はいまいち信用していなかった。
 戦闘の実力ではなく、何か罠でも仕掛け、それに嵌めることで倒したと考える方がしっくり来ていた。
 しかし、今、目の前で戦っているのを見て、以前現れた魔族を本当に俊夫が倒したのだと理解した。





「ハッ!!」

「効くか!!」

 接近戦を繰り返す俊夫とティベリオ。
 互角の戦いを繰り広げるなか、俊夫は火球の魔術を放つ。
 その攻撃を、ティベリオは鼻で笑うように余裕で躱した。

「魔術は無意味か……」

 距離を取ったティベリオに念のため試してみたが、やはり魔術は通用しなかった。
 とにかくティベリオの移動速度が速いため、ちょっとした魔術では難なく躱されてしまうのだ。
 ティベリオに当てるだけの魔術を放とうとすると、魔力を溜める時間が僅かにかかる。
 その僅かな時間は、ティベリオを相手にするには命取りになりかねない。
 魔術を使っての戦闘は、魔力の無駄使いになると理解した。

「ハッ!!」

「くっ!!」

 接近戦しかないと判断した俊夫は、すぐにまたティベリオとの距離を詰める。
 そして、そのまま居合斬りで左斬り上げを放つ。
 その攻撃を、ティベリオは右手の爪で受け止める。
 しかし、その威力により、反撃をする事も出来ずに距離をとるしかできない。

『何だ? こいつの動きが良くなって……』

 大和皇国において、脅威となりうるのは鷹藤家の康義のみと言う話だった。
 それなのに、この柊家の当主はどう考えても魔族の脅威になり得る存在だ。
 我を忘れるような怒りを抑え、自分は本気で戦っている。
 調子が悪いわけでもない。
 それなのにもかかわらず、最初の互角の戦いからジワジワと圧されてきていることに、ティベリオは内心納得できないでいた。





「やっぱりミモより動かしやすいな」

 競技場の建物に身を隠しつつ、伸は密かに呟く。
 周囲の魔闘師たちは気付いていないが、ティベリオと戦っている俊夫を操っているのは伸だ。
 夏休みに友人の了を操ってから、この能力はかなり使えると思っていた。
 そのため、たまたまペットとして拾ってミモと名付けたピグミーモンキーを使って、この操作技術を向上させてきた。
 そのミモと比べて、俊夫の方が動かしやすい。
 小さく魔力も少ないミモだと、操作するのにも超繊細な技術を要求される。
 魔力操作を間違えれば、ピグミーモンキーなんてあっさり殺してしまうことになりかねないからだ。
 ミモ相手の針の穴を通すような魔力操作に比べれば、魔力も多く、強靭な俊夫は動かしやすいことこの上ない。
 もちろん、俊夫の協力もあってのことなのだが、これなら身バレすることなく戦うということもできることが証明できた。

「段々慣れてきたし、追い込んで行くぜ!」

 ミモよりも簡単と言っても、人間の操作はまだ2度目だ。
 戦闘開始の時は操作に慣れるようにしていたが、それも段々と慣れてきた。
 鷹藤家が相手しているカルミネのことも気になるため、伸はティベリオを倒しにかかることにした。





「シッ!!」

「フンッ!!」

 ティベリオの両手の爪による連撃。
 その攻撃を、俊夫は刀で防ぐ。

「ハッ!!」

「ガッ!?」

 連撃の僅かな隙を突くように、俊夫の蹴りがティベリオの足を払う。
 それにより、ティベリオはバランスを崩して片膝をつく。

「ハァー!!」

「くっ!!」

 バランスを崩した隙を逃す訳もなく、俊夫は脳天目掛けて唐竹斬りを放つ。
 その攻撃を、ティベリオは必死に両手の爪をクロスして受け止めた。

「ハッ!!」

「っっっ!!」

 両手を上げて防御したことにより、下がガラ空きになる。
 そこを狙って、俊夫は思いっきりティベリオの顎を蹴り上げた。


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