主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第65話

「大橋か……」


「剣術対棒術って所だな……」


 初戦の渡辺戦を勝利した了。
 次は千倉に勝った大橋との戦いになった。
 渡辺と共に伸たちと戦ったことがある大橋は棒術が得意で、了と同じように近接戦で戦うタイプだ。
 構図からしたら、伸の言うように了の剣術対大橋の棒術の戦いといったところだろう。


『了のことも気になるが……』


 大橋の棒術はなかなかのものだ。
 剣と槍が戦場で戦った場合、間合いの長さから槍の方が有利なのは分かり切っていること。
 しかし、だからといって絶対槍が勝つというものではない。
 了がどうやって自分の間合いに入るかがカギになってくるだろう。
 セコンドとは言っても、今の了にできることはほとんどやったため、見ているだけでやることはない伸としては、ただ楽しませてもらいたいと思っている。
 了の戦いのことも楽しみだが、伸としてはもう片方の試合の方も気になる。


『柊と杉山か……』


 A組からは選考会に2名選ばれた。
 伸に実力があることを知っている綾愛と奈津希の2名だ。
 その2名が、くじ運悪くトーナメントで同じ山になってしまった。
 綾愛は以前伸たちと戦ったD組の佐野を破り、奈津希はE組の鈴木という選手を倒して勝ち上がった。
 準決勝でこの2名が戦うことになるとは分っていたとはいえ、お互いやりにくいことだろう。
 柊家の1人娘の綾愛は、最近の柊家の名声から負ける訳にはいかないプレッシャーがあり、奈津希の方は柊家の従者の家系ということから、綾愛に本気でぶつかれるのか疑問な所だ。


『まぁ、綾愛が勝つだろうな』


 家のことを抜きにしても、2人の実力を知っている伸としては、勝敗は予想できている。
 伸を抜けば、綾愛はこの学年で1番強い。
 苦戦はしても綾愛が負けることはないだろう。


「どうした? 伸……」


「いや、何でもない」


 会場の選手控室に設置されているモニターへ映し出されているトーナメント表。
 そこにある名前を見て黙っていた伸に、了が話しかけてきた。
 少し考えていたことが気になったようだ。


「いこうか?」


「あぁ」


 いつの間にか了の試合の時間が迫っていたため、伸は了と共に会場へと向かうことにした。








【1年生の部、準決勝第1試合を開始します。C組金井了選手対F組大橋博選手になります】


「構え!」


 アナウンスが会場に広がり、会場の観客は段々と静かになっていく。
 ある程度静かになった所で、審判の三門が声をあげる。
 その声を受けて、了は木刀を、大橋は木の棒を互いに相手に向けて構えをとった。


「始め!!」


「ハァッ!!」「ダァッ!!」


 開始の合図と同時に身体強化した2人は、ぶつかり合うように相手との距離を詰めた。
 2人ともほぼ同時に跳び出したが、得物の長さから先に大橋の攻撃が届いた。
 振り下ろされた木の棒が、了の脳天に迫る。
 了はそれを受け止めて弾くと、大橋の懐に入り込もうとする。


「ハッ!!」


「っ!!」


 初撃を躱され、迫り来る了に対し、大橋は左手を向けて魔術を発動する。
 至近距離からの攻撃が当たれば、一撃で試合終了を告げられるかもしれない。
 そのため、了は接近を中止して横へと跳び退いた。


「ハハッ! やっぱり渡辺とは違うな……」


「あいつは真面目にやればいいのに、見た目や女子にばっかり気を取られているからな」


「確かに……」


 1回戦で了に負けた渡辺。
 入試も上位だったこともあるし、選考会に選ばれるだけあって、本来は才能のある人間だ。
 しかし、大橋の言うように、女子に持てるために見た目に気を使ったりとしていて、入試以降たいした成長はしていないように感じる。
 それに引きかえ、大橋は伸たちとの戦いに負けてからちゃんと訓練を重ねてきたからか、かなり戦い慣れているように感じる。
 元々、大橋が渡辺たちと隊を組もうと思っていたのは、強い者と組む方が自分も成長できると思っていたからだ。


「それにしてもお前の成長は恐ろしいな。魔力が飛ばせないと聞いていたが、夏休み中に急成長したらしいな……」


「……ちゃんと俺のことまで情報収集までしてんのかよ」


 これまた渡辺と違い、きちんと当たるかも分からない了のことも情報収取していたようだ。
 C組の人間なら分かっていたことなので、知られていてもおかしくない。
 前回伸たちと戦った中で、大橋が一番真面目な人間だったようだ。


「決勝のことを気にしている場合じゃないようだな……」


「っ!!」


 最初のやり取りだけで了の強さを感じ取ったのか、大橋は最初から全力で行くことに決めたようだ。
 魔力を増量し、身体強化の魔術を更に強化したようだ。
 集中していないとその魔術の維持はできないほど。
 つまり、了に対して単純な武術勝負を求めているということだ。


「……お前面白い奴だな」


 魔力を飛ばした戦いより、身体強化と武術による戦いを求めてきた大橋に対し、了は笑みを浮かべる。
 距離を取る相手との戦闘よりも、その方が自分としても性格的に向いている。


「いいぜ! 乗ってやるよ!」


 大橋の誘いに乗り、了も身体強化の魔力を増量する。
 そして、大橋に向けて木刀を構えた。


「……勝負!!」


「おうっ!」


 お互いに全力勝負に合意し、武器を向け合い睨み合う。
 そして、再度試合開始といわんばかりに、地を蹴って相手へと接近した。


「フンッ!!」


「くっ!」


 接近と同時に、大橋は了へと突きを放つ。
 高速で抉るような突きが顔面に迫り、了は首をひねって回避する。
 ギリギリ躱したが、僅かに掠ったのか頬から血が出る。
 躱したということは、その突き出した棒を引き戻すまでに僅かに時間ができる。
 その時間を利用するように、了は大橋との距離を縮める。


「ハッ!!」


「ぐっ!」


 躱されると同時に放っていたのか、迫り来る了へ回し蹴りが飛んできた。
 せっかく距離を詰めたために避ける訳にはいかず、了はその攻撃を左腕で受け止める。


「くっ!」


「ハッ!」


 回し蹴りを防がれ、大橋が僅かに体勢が崩れる。
 その隙を逃す訳にはいかない。
 了は木刀を持つ右手だけで唐竹に振り下ろし、体勢不十分のままの大橋は戻した棒で了を薙ぎ払おうとする。


「……くっ!」


「……俺の勝ちだな?」


 相打ちになる図式だが、了の攻撃の方が先に大橋の頭部の上で止まる。
 それに引きかえ、大橋の棒は了から離れた位置にあった。


「勝負あり! 勝者金井!」


 真剣なら先に当たっていたのは了の攻撃。
 そのことを理解した審判の三門は、すぐに試合終了を告げた。


「おぉ! やったじゃん、了!」


「やったぜ、伸!」


 これで了は決勝進出が決定した。
 これにより、対抗戦の選手の一人になることができたということだ。
 勝利に喜んだ伸は、駆け寄ってすぐさまハイタッチしたのだった。





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