主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第41話

「何だ? お前が相手かよ……」


 魔人たちとの戦闘になった伸たち。
 兄の方の魔人の相手は、部下の敵討ちを希望していた俊夫に任せた。
 だまし討ちとは言っても、前回あっさり戦闘不能にした俊夫が自分の相手だと知り、魔人はつまらなそうに文句を言う。


「お前程度は俺で充分だということだ」


 不意打ち以外でまともに戦ってもいないのに、魔人は俊夫のことをとことん下に見ているようだ。
 その態度には腹が立つが、何とか抑えて俊夫は挑発を返す。
 名門柊家の当主として多くの魔物を倒してきたが、俊夫は魔人との戦闘は初めてだ。
 しかし、戦った伸が自分なら勝てると任せてくれた。
 その言葉を信じているからか、何故だか恐れは浮かんでこない。
 柊家当主の自分が高校生の言葉に自信を持つなんておかしな話だと思いつつも、俊夫は伸の言葉に感謝していた。


「チッ! 雑魚のくせに言うじゃねえか!」


 下に見ている俊夫に挑発されて腹を立てた魔人は、魔力による身体強化をして俊夫へと襲い掛かっていった。










「2対1じゃなくていいのか?」


 俊夫と魔人の戦闘が始まり、伸はその少し離れた場所で弟の方の魔人と向かい合っていた。
 てっきり俊夫に魔物をぶつけて、2体同時で攻撃してくるのかと思っていたが、伸たちの考えていたように1対1の状態に分かれることができた。
 なんとなく魔人の方も素直に受け入れるような対応をしていたので、伸は訝しみつつ魔人へと問いかけた。


「確かに兄を圧倒したお前を単体で相手にするのは危険そうだ。だから……」


 兄の方を見てみると、俊夫との戦いを始めていた。
 性格的にはオラオラ系の兄と違い、弟の方は冷静なタイプのようで挑発のようなことをして来ない。
 対峙しているが、きっちり距離をとって伸の様子を眺めているように見える。
 そして、自分だけで戦うのは危険だと判断したのか、何かに対して合図を送るように手を振った。


「こいつらも使わせてもらう」


「フンッ! 好きなだけ使えばいいさ」


 魔人の合図によって姿を現したのは、またも巨大モグラの魔物だった。
 その魔物が数体現れ、魔人を守るかのように周囲を固め始めた。
 何度も倒していることもあり、伸はその魔物たちに脅威を感じないため、魔人の好きにやらせてみることにした。


「行けっ!」


「「ギュッ!!」」


 魔人の言葉を受けて、2体の巨大モグラたちが伸へと襲い掛かる。
 これを合図に、伸と弟魔人の戦いが始まった。


「フッ!」


 武器となる爪で襲い掛かってきた魔物に対し、身体強化した伸は刀で対応する。
 振り回してくる爪を躱し、伸はそれに返すように刀でモグラの体を斬り裂く。


「ハッ!!」


「っ!?」


 魔物を斬り裂いた瞬間を狙ったように、魔人が伸へと攻撃してきた。
 振り下ろしてきたその爪攻撃を、伸は後ろに跳び退くことで回避した。


「ギィッ!!」


「っと!!」


 跳び退くことまで想定していたのか、伸の行く手に魔物が待ち受けていた。
 着地をした瞬間を狙って横薙ぎしてきた攻撃をしゃがんで躱し、伸はその魔物の両足を斬り動けなくした。


「なるほど、配下の魔物との連携を利用した戦闘スタイルか……」


「正解だ」


 足を斬って倒れた魔物に止めを刺しつつ、伸は魔人に向かって話しかける。
 こっちの魔人は、明らかに兄の方の魔人とは違う戦闘方法をしてきた。
 兄の方は自分の力だけで戦うタイプだが、こっちの魔人は配下を使って攻撃するのを得意としているようだ。
 そのことを指摘すると、魔人は返答するとともに殺されたのと同じ数の配下が補充した。


「この戦い方を兄にはバカにされたがな」


「あっちのは頭が悪そうだからな」


 俊夫と戦う魔人の方は、前回の戦い配下の魔物に戦わせてはいたが、連携を取るようなことはなかった。
 自分以外は足手まといだとでも思っているのだろう。
 こっちの魔人のように、配下の魔物がいるならそれを利用して戦えば、もう少し手強かったかもしれない。
 そんな事も分からないから、伸にあっさりと負けたのだ。


「まぁ、兄の配下はお前に全滅させられたからやろうと思ってもできないがな」


「じゃあ、ここにいるのと鷹藤の相手をしているのは……」


「俺の配下さ」


「なるほど……」


 洞窟内を探知した時、前回並みに魔物の数がいた。
 鷹藤の方も相手にしなければならないだろうから、前回ほど自分が戦うことはないだろうと思っても、結構な数のため面倒だと嫌気がさしていたが、どうやらこの魔物たちは全て弟魔人の配下のようだ。
 兄の方の魔人は、両手の再生に時間を費やしていたため、配下を増やす暇がなかったのだろう。
 伸にとってはいいことが聞けた。


「じゃあ、柊殿の勝ちは確定だな」


 伸の中で、俊夫とあの兄の魔人の戦いは、僅かに俊夫の方が分があると思っている。
 しかし、配下の魔物に邪魔をされるようなことがあったら、俊夫が負けることの方が高くなっている所だった。
 しかし、あの魔人に配下がいないのなら、純粋な1対1の戦闘になる。
 それなら俊夫の方が勝利すると伸は確信し、あちらの戦いに気を配る必要がなくなったと肩の荷が下りた思いがした。


「本当にあいつが兄に勝てると思っているのか?」


「あぁ」


 俊夫の勝利発言に特に腹を立てる様子もなく、弟魔人は確認するように問いかけてきた。
 やはり兄と違い、こちらは感情をコントロールしているタイプの魔人のようだ。
 兄が負けるといわれているのに、何を考えているのだろうか。 


「あっちのことは気にする必要はない。お前は俺が倒してやる」


「おっと!」


 伸の発言によってなのか、魔人は何やらあちらの戦いが気になっているようだ。
 自分と対峙しているのにその余裕染みた態度が気に入らない伸は、野球ボール大の魔力の球を魔人へ向かって発射させる。
 魔人は慌てたように反応し、その魔力球をギリギリの所で躱した。


「くっ! 行けっ!」


「「ギュッ!」」


 魔力球の攻撃に冷や汗を掻いた魔人は、同じような攻撃をされてはたまらないとすぐに配下を伸へと向かわせ、その間に距離を取った。


「そんな距離で戦えるのか?」


「当然だ!」


 爪による攻撃が自慢のはずのモグラ型魔人のくせに、離れては連携攻撃の意味を成さないはずだ。
 向かってきた魔物をあっという間に斬り倒し、伸は距離を取った魔人へと問いかけた。
 その伸の問いに、魔人は自信ありげに頷きを返し、またも配下の魔物を動かす。


「ハッ!!」


「ムッ!?」


 配下の魔物が左右から挟むように伸へと迫るのを見て、魔人は手から火球を放つ。
 魔物に意識が向いたところへ、まさかの魔術による火球。
 伸は刀を盾にするようにしてその火球を受け止め、そのまま背後へと受け流した。


「「ギィッ!!」」


「チッ!」


 火球を防いだ伸に、左右から来ていた魔物が襲い掛かる。
 その攻撃にカウンターを合わせることもできず、伸は舌打ちしつつその場から跳びあがった。


「もらった!!」


「フッ!」


 ジャンプした空中の伸に、魔人はもう一発火球を放ってくる。
 自信ありげな魔人の言葉に、伸は鼻で笑う。


「何がだ?」


「魔力障壁か……」


 飛んできた火球を、伸は空中でもう一度ジャンプするようにして横へと回避する。
 そして、安全圏へ着地すると、空中なら何もできないとでも思ったのかと言うかのように魔人へ問いかける。
 どうやら図星だったらしく、魔人は残念そうに呟いた。
 伸がやったのは、空中で足下に魔力障壁を張り、それを足場にしてもう一回ジャンプしただけだ。


「身体強化以外の魔術も使えるんだな……」


 魔人も魔術は使えるというのは、過去の歴史から分かっていたことだ。
 しかし、兄の方の魔人が身体強化しか使わなかったため、この魔人も遠距離攻撃ができるとは思っていなかった。
 いきなりの火球魔術に、伸も少し驚いた。


『……こいつ何が狙いなんだ?』


 たしかに配下を使って良い連携をとった攻撃を仕掛けてくるが、この魔人からはどうも本気で自分を倒そうとしている気配がない。
 なんとなく内心で違和感を感じながら、伸はまたも襲いかかってきた魔物を相手にするのだった。





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