主人公は高みの見物していたい
第18話
「話は分かった。しかし、君に協力して柊家にメリットはあるのかな?」
鷹藤家の血を継いでいるというなら、確かに自分の殺気に耐えられるだけの実力を有している理由は分かった。
数年後のことを考えておけば、青田買いとしては最高の素材だ。
しかし、所詮は高校生。
実際に戦えば、負けるとは思っていない。
そのため、俊夫は鷹藤家に関わる問題事を抱え込むメリットを伸に求めた。
「大和最強の魔術師との縁が持てるだけでは不服ですか?」
「…………」
俊夫の問いに対し、伸は本気で思っていることを答えた。
現在大和皇国最強といわれている人間は、伸の祖父の兄である鷹藤家の康義だ。
伸はその康義を遠巻きに見たことがある。
たしかにすごい魔力量の持ち主だと思ったが、同時に自分の方が上だと思えた。
魔術師同士の戦闘だと魔力量が全てとは限らないが、それでも勝てる自信がある。
大和の魔術師なら誰もが康義のことを目標とし、その壁の高さに挫折することになる。
それだけ康義の強さは飛びぬけているというのに、目の前で平然と自分は康義よりも上と言ってのける伸に、俊夫は呆れたような表情で黙ってしまった。
「私の殺気に耐えられるくらいだから、確かに君は強いかもしれんが、しかし、それはあくまで高校生にしてはだろ?」
自分の殺気に平然と耐えた。
それだけで、たしかに高校生としては最強と言っていいだろう。
百歩譲って、自分と同等以上の実力を有しているとしよう。
しかし、康義の実力を越えているというのは、子供特有の根拠のない自信にしか思えない。
そのため、俊夫は伸の思い上がりを正すつもりで話しかける。
「今すぐに鷹藤家を潰せるくらいには強いですよ?」
「だから……っっっ!?」
本気で言っているつもりなのだが、俊夫の反応や言葉は、自分のことを信用していないのは分かる。
なので、伸は反論しようとする俊夫へ向けて力を見せることにした。
暴力を振るうつもりはない。
やられたことをやり返しただけだ。
濃密な殺気、伸はそれを俊夫へ向けて放ったのだ。
その殺気を受けた俊夫は、一瞬にして身動きができなくなった。
「殺気はこのように相手にのみぶつけた方が効果が高いですよ」
「…………わ、分…かっ…た。殺気…を…抑えて…くれ」
「分かりました」
俊夫とは違い、伸は魔力を使うことにより対象者のみに威圧を加える殺気だ。
その証拠に、廊下で控える木畑が先程のように入室してこないでいる。
咄嗟に魔力を纏って、その殺気に耐えようとした俊夫だが、その圧力に圧されてなんとか声を出すことしかできなかった。
こんな殺気にいつまで耐えられるか分からない。
呼吸まで難しくなった俊夫は、言葉を途切れ途切れになりながら伸に殺気を抑えるように頼んだ。
その頼みを受け、伸は放っていた殺気を消した。
「くっ! ハァ、ハァ、ハァ……」
「しかし、さすがに柊家の当ですね。今ので声が出せるとは思いませんでした」
殺気が切れたことで、俊夫は荒く呼吸を繰り返す。
そんな俊夫を、伸は上から目線で褒める。
元々すぐにやめるつもりだったが、まさか俊夫自身に言われるとは思わなかったからだ。
「フゥ~……、確かに君なら鷹藤家を潰せるかもしれない。しかし、それだけの力があるならバレても構わないのではないか?」
ようやく息も整い、俊夫は伸の言葉があながち嘘や思い上がりではないことを理解した。
しかし、それだけの実力なら、鷹藤家にバレても問題はないように感じた。
「それはこの国にとって良くないでしょ? 祖父に対してふざけた扱いをしたことは気に入らないですが、鷹藤は大和を守っていることには変わりはないです。自分があの家を潰してしまっては、経済に混乱が生じてしまうでしょう」
「なるほど……」
もう何十年も前から、鷹藤家が大和のトップとして君臨してきた。
それによって、悪い部分もあれば良い部分もある。
鷹藤家は魔物退治だけでなく、そこから波及する様々な分野へ進出している。
それら全体が生み出す資金は、大和経済にとってはかなり大きい。
そうなると、自分勝手に潰してしまう訳にはいかないため、伸がバレないようにしているのは大和のためでもある。
大和全土に進出している鷹藤には劣るとはいえ、八郷地区を中心に発展している柊家としても納得できる。
「自分を利用して、柊家をもっと発展させませんか?」
「……それが柊家のメリットということか?」
「えぇ」
倒した魔物からは、肉や皮などと共に、体内から魔石と呼ばれる石のような物が手に入る。
魔素が集まって出来た物で、それに使うことによって多くの電力を発電することができる。
強い魔物なら、それだけ多くの魔素を有した魔石が手に入るため、それだけ得られる金額も変わってくる。
伸と協力関係になれば、柊家は伸を利用してこれまで以上の資金を得られるかもしれない。
そう考えると、俊夫は伸との協力関係を結べば大きなメリットがあるように思えてきた。
「……ハハ、ハハハハ……。面白い! 魔物の発生の少ないこの八郷地区に、こんな大物が眠っていたなんて……」
ただの違和感から呼び出しただけの少年が、自分以上のとんでもない強さだったということに驚いた。
しかし、そんな強さの魔術師とあっさり協力関係を築けるというのだから、こんな運のいいことはない。
俊夫は思わず自分の幸運に笑いが込み上げてきた。
「了承と受け取って良いですか?」
「あぁ! 柊家は君に協力しよう!」
最初の雰囲気とは違い、俊夫はとんでもなく上機嫌になった。
それが自分の提案を受け入れたことによるものだと思った伸の、最終確認としての問いかけに対して、俊夫は大きく頷きを返したのだった。
「さて、話も済んだことですし、自分は帰らせていただきますね」
「いや、待ちなさい」
秘密を話すことになってしまったが、とりあえず伸にとっても都合の良い形で話し合いは済んだ。
こんな豪邸にいつまでも居るのは、一般市民の伸としては落ち着かない。
それに、いまから帰れば、花紡州供応支店のギルマスである紅林の所へ予定通りに回復薬を届けに行くことができるかもしれない。
転移魔術なら、一度行った場所ならいつでも行き来できるため、伸は早々に寮に戻ろうと立ち上がろうとした。
そんな伸を、俊夫は先程までの笑顔から、またも少し険しい顔に戻して呼び止めてきた。
「……? まだ何か?」
円満な話し合いができたと思ったのだが、まだ何か話すべきことがあるのだろうか。
自分の秘密は話し終えたため他に思い当たる節のない伸は、首を傾げつつまたもその場に座り直した。
「もちろん! 娘の綾愛と君の関係についての話だ!」
「あぁ……」
そう言えば、俊夫は娘の綾愛を溺愛していると奈津希が言っていたし、最初俊夫は「まず」と言っていた。
つまり、伸のこともそうだが、学園内での噂の件も聞く気でいたということなのだろう。
その噂のことを忘れていた伸は、こっちの話の方が面倒な気がして来た。
案の定、それから俊夫に単なる噂話だということを説明することに、伸は骨を折ることになった。
しかし、話が長くなったことは悪いことばかりではなかった。
「美味っ!」
朝から車移動し、俊夫との話し合いでいつの間にか昼の時間になっていたため、昼食を振舞われることになった。
豪邸での食事のため硬くなっていたが、食べ始めたらすっかり忘れて食事に没頭してしまった。
「それじゃあ、失礼します」
「あ、あぁ……」
帰りも車で送るといわれたが、実力を隠す必要もなくなった伸は転移魔術で帰ることにした。
超絶難易度の魔術を目の前に、若干唖然とした俊夫たち柊家の面々の見送りを受け、伸はあっという間に学園寮の自室へと戻っていったのだった。
鷹藤家の血を継いでいるというなら、確かに自分の殺気に耐えられるだけの実力を有している理由は分かった。
数年後のことを考えておけば、青田買いとしては最高の素材だ。
しかし、所詮は高校生。
実際に戦えば、負けるとは思っていない。
そのため、俊夫は鷹藤家に関わる問題事を抱え込むメリットを伸に求めた。
「大和最強の魔術師との縁が持てるだけでは不服ですか?」
「…………」
俊夫の問いに対し、伸は本気で思っていることを答えた。
現在大和皇国最強といわれている人間は、伸の祖父の兄である鷹藤家の康義だ。
伸はその康義を遠巻きに見たことがある。
たしかにすごい魔力量の持ち主だと思ったが、同時に自分の方が上だと思えた。
魔術師同士の戦闘だと魔力量が全てとは限らないが、それでも勝てる自信がある。
大和の魔術師なら誰もが康義のことを目標とし、その壁の高さに挫折することになる。
それだけ康義の強さは飛びぬけているというのに、目の前で平然と自分は康義よりも上と言ってのける伸に、俊夫は呆れたような表情で黙ってしまった。
「私の殺気に耐えられるくらいだから、確かに君は強いかもしれんが、しかし、それはあくまで高校生にしてはだろ?」
自分の殺気に平然と耐えた。
それだけで、たしかに高校生としては最強と言っていいだろう。
百歩譲って、自分と同等以上の実力を有しているとしよう。
しかし、康義の実力を越えているというのは、子供特有の根拠のない自信にしか思えない。
そのため、俊夫は伸の思い上がりを正すつもりで話しかける。
「今すぐに鷹藤家を潰せるくらいには強いですよ?」
「だから……っっっ!?」
本気で言っているつもりなのだが、俊夫の反応や言葉は、自分のことを信用していないのは分かる。
なので、伸は反論しようとする俊夫へ向けて力を見せることにした。
暴力を振るうつもりはない。
やられたことをやり返しただけだ。
濃密な殺気、伸はそれを俊夫へ向けて放ったのだ。
その殺気を受けた俊夫は、一瞬にして身動きができなくなった。
「殺気はこのように相手にのみぶつけた方が効果が高いですよ」
「…………わ、分…かっ…た。殺気…を…抑えて…くれ」
「分かりました」
俊夫とは違い、伸は魔力を使うことにより対象者のみに威圧を加える殺気だ。
その証拠に、廊下で控える木畑が先程のように入室してこないでいる。
咄嗟に魔力を纏って、その殺気に耐えようとした俊夫だが、その圧力に圧されてなんとか声を出すことしかできなかった。
こんな殺気にいつまで耐えられるか分からない。
呼吸まで難しくなった俊夫は、言葉を途切れ途切れになりながら伸に殺気を抑えるように頼んだ。
その頼みを受け、伸は放っていた殺気を消した。
「くっ! ハァ、ハァ、ハァ……」
「しかし、さすがに柊家の当ですね。今ので声が出せるとは思いませんでした」
殺気が切れたことで、俊夫は荒く呼吸を繰り返す。
そんな俊夫を、伸は上から目線で褒める。
元々すぐにやめるつもりだったが、まさか俊夫自身に言われるとは思わなかったからだ。
「フゥ~……、確かに君なら鷹藤家を潰せるかもしれない。しかし、それだけの力があるならバレても構わないのではないか?」
ようやく息も整い、俊夫は伸の言葉があながち嘘や思い上がりではないことを理解した。
しかし、それだけの実力なら、鷹藤家にバレても問題はないように感じた。
「それはこの国にとって良くないでしょ? 祖父に対してふざけた扱いをしたことは気に入らないですが、鷹藤は大和を守っていることには変わりはないです。自分があの家を潰してしまっては、経済に混乱が生じてしまうでしょう」
「なるほど……」
もう何十年も前から、鷹藤家が大和のトップとして君臨してきた。
それによって、悪い部分もあれば良い部分もある。
鷹藤家は魔物退治だけでなく、そこから波及する様々な分野へ進出している。
それら全体が生み出す資金は、大和経済にとってはかなり大きい。
そうなると、自分勝手に潰してしまう訳にはいかないため、伸がバレないようにしているのは大和のためでもある。
大和全土に進出している鷹藤には劣るとはいえ、八郷地区を中心に発展している柊家としても納得できる。
「自分を利用して、柊家をもっと発展させませんか?」
「……それが柊家のメリットということか?」
「えぇ」
倒した魔物からは、肉や皮などと共に、体内から魔石と呼ばれる石のような物が手に入る。
魔素が集まって出来た物で、それに使うことによって多くの電力を発電することができる。
強い魔物なら、それだけ多くの魔素を有した魔石が手に入るため、それだけ得られる金額も変わってくる。
伸と協力関係になれば、柊家は伸を利用してこれまで以上の資金を得られるかもしれない。
そう考えると、俊夫は伸との協力関係を結べば大きなメリットがあるように思えてきた。
「……ハハ、ハハハハ……。面白い! 魔物の発生の少ないこの八郷地区に、こんな大物が眠っていたなんて……」
ただの違和感から呼び出しただけの少年が、自分以上のとんでもない強さだったということに驚いた。
しかし、そんな強さの魔術師とあっさり協力関係を築けるというのだから、こんな運のいいことはない。
俊夫は思わず自分の幸運に笑いが込み上げてきた。
「了承と受け取って良いですか?」
「あぁ! 柊家は君に協力しよう!」
最初の雰囲気とは違い、俊夫はとんでもなく上機嫌になった。
それが自分の提案を受け入れたことによるものだと思った伸の、最終確認としての問いかけに対して、俊夫は大きく頷きを返したのだった。
「さて、話も済んだことですし、自分は帰らせていただきますね」
「いや、待ちなさい」
秘密を話すことになってしまったが、とりあえず伸にとっても都合の良い形で話し合いは済んだ。
こんな豪邸にいつまでも居るのは、一般市民の伸としては落ち着かない。
それに、いまから帰れば、花紡州供応支店のギルマスである紅林の所へ予定通りに回復薬を届けに行くことができるかもしれない。
転移魔術なら、一度行った場所ならいつでも行き来できるため、伸は早々に寮に戻ろうと立ち上がろうとした。
そんな伸を、俊夫は先程までの笑顔から、またも少し険しい顔に戻して呼び止めてきた。
「……? まだ何か?」
円満な話し合いができたと思ったのだが、まだ何か話すべきことがあるのだろうか。
自分の秘密は話し終えたため他に思い当たる節のない伸は、首を傾げつつまたもその場に座り直した。
「もちろん! 娘の綾愛と君の関係についての話だ!」
「あぁ……」
そう言えば、俊夫は娘の綾愛を溺愛していると奈津希が言っていたし、最初俊夫は「まず」と言っていた。
つまり、伸のこともそうだが、学園内での噂の件も聞く気でいたということなのだろう。
その噂のことを忘れていた伸は、こっちの話の方が面倒な気がして来た。
案の定、それから俊夫に単なる噂話だということを説明することに、伸は骨を折ることになった。
しかし、話が長くなったことは悪いことばかりではなかった。
「美味っ!」
朝から車移動し、俊夫との話し合いでいつの間にか昼の時間になっていたため、昼食を振舞われることになった。
豪邸での食事のため硬くなっていたが、食べ始めたらすっかり忘れて食事に没頭してしまった。
「それじゃあ、失礼します」
「あ、あぁ……」
帰りも車で送るといわれたが、実力を隠す必要もなくなった伸は転移魔術で帰ることにした。
超絶難易度の魔術を目の前に、若干唖然とした俊夫たち柊家の面々の見送りを受け、伸はあっという間に学園寮の自室へと戻っていったのだった。
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