異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです 

ベレット

54  居る筈の無いあいつ

王都パスカルを囲む壁を壊さないようにひた走る。
眼下を見下ろすと所々から火の手が上がっているが恐らく...いや、確実にライカンのせいでは無さそうだ。
魔法らしき痕跡がそこら中に見受けられる。
その光景に苛立ちを感じ、顔が歪む。


凄惨な都市から目を離し城を見ると城門が開け放たれ、そこら中に何かに押し潰された死体が血液を飛び散らせ肉塊になっていた。


これは何の魔法だ?少なくとも私の知る中にはこんな魔法は無かった。


その魔法少女の魔法なのだろうか...だとしたら許せるものではない。


今までもそれなりに怒りは感じてきたが、それは自分に降りかかる理不尽さ故だ。


だがこれは...


「どんな理由があるにしてもやりすぎだろ、これは!!」


感じた事の無い怒気に下唇を噛み血を流しながら城門前に飛び降りた。


すたっと着地し顔を上げる。


「....くそったれが...」


そこはどこを見ても死体死体死体...何かに圧し潰された死体だらけだった。


「ごほごほっ!!....なんて匂い...」


謁見の間に続く広間や階段が肉塊から漏れでた大量の血液が鉄分を思わせる匂いを放ち鼻が曲がりそうだ。


なるべく血溜まりに足を踏み入れないように肉塊の合間を縫いながら階段に足を掛ける。


「うぅ....あなたはもしや...イオン...殿では...?」


いきなり死体から声を掛けられ肩がビクッと震える。
恐る恐る声のした階段脇に目を向けると息は荒いがまだ生きていた全身鎧の兵士に寄り添うようにしゃがむ。


「あの時の....」


「はい...ご無沙汰しています...申し訳ありません、このような情けない姿で...」


ヘルムの下から覗かせる顔には見覚えがあった。
シャンテを襲った賊を引っ捕らえたあの時の騎士の男だ。


「私はもう駄目の様です。...あの先に...王子がいらっしゃいます...どうか助けて上げてください...」


「うん。...大丈夫...その為に来たからね...」


男は潰されて動かせない手足の代わりに首をなんとか動かし謁見の間に続く大扉に視線を移しながらそう告げた。


私もその扉を見ていると。


「後は...よろしく...お願いします....イオン殿...」


彼は息を引き取ったのかピクリとも動かなくなった。


首筋にある頸動脈を人差し指と中指で確認するが亡くなったのは間違いないらしく、彼の亡骸を見つめ、奥歯が欠けるかと思うほどにギリギリと噛み締める。


そして開きっぱなしの目をそっと閉じさせ立ち上がり、扉に歩いていき両手を扉につき力を入れる。


するとズズズっと音を立てて開いていく。


中途半端に開いた扉の合間から私は一歩足を踏み入れた。


「あら、ようやく来たのね。魔法少女イオン。遅かったじゃない。」


「....え...な、何で...何で...」


どうしてこいつがここに居る?


居る筈の無い人間がそこにいた。
漆黒の長髪に私と同じような服装に身を包んでいるそいつがそこにいた。


理解が追い付かない....死んだ筈だ....あの時死んだ筈だ...!
   ・・・
ああ、殺したんだあの時...地球で...!!
                  ト
「どうしてお前がこの世界にいるんだ。永

遠!!」


俺は変身を解き元の姿を見せるがトワの表情に変化が見えない。


どういう事だ?意味が分からない...俺は夢を見ているのか?


「残念だけど私はトワじゃないわよ。私はベータ。オリジナルの複製体...ホムンクルスに過ぎないわ。だからあなたの知ってるトワじゃないわよ?」


ホムンクルス?...作られたってことか?


「それって...トワがこの世界に居るって事...なのか!?...どうしてっ!!」


どうしてかは俺も分かってはいる。だが聞かずには居られなかった。


「どうしても何もあなたもそうよね?転生してきたのよね?トワの元彼氏の井坂伊織君。」


トワがこの世界に転生していた事実に恐怖と苦痛が心を薄暗く支配していった。


そして思い出す。リンスの言葉に癒された心を黒く塗り潰しながら..。

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