異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです 

ベレット

16 イオンは歌に想いを乗せ感情を唱う

シャンテの躍りが無事終わり邪気を孕んだ笑顔でこちらに歩み寄ってきた。


「どうかしら?あんたの躍りなんかよりよっぽど凄いでしょう?」


プライドの高いシャンテらしい高圧的な言い方だがもうそんな事は一切気にしなくなっていた。


「本当に凄いよ。だけど私だって負けるつもりないからさ。まあ見てなよ!」


その自信満々の私の態度に呆気にとられ、シャンテはアホヅラを引っ提げていたが、我に帰り問いただしてくる。


「あんた、どうしたの?頭おかしくなったわけ?」


その問いかけを気にも止めず...


「そんなんじゃねえよ。ただ色々考えるのは柄じゃないって思い出したんだよな。ほんとシャンテと会ってから私うじうじして、偽善者呼ばわりに傷付いて...そんなの私らしくないからさ。ただそれだけだよ。」


そう言い返すと固まってしまったシャンテの肩に手を置いて。


「じゃあ行ってくるよ。」


笑顔を放ち颯爽と駆け出し暗幕を潜ったイオンを見てシャンテは床にへたり込んでしまった。
その様子に駆け寄ったリンスが声を掛ける。


「あの人と出会ったのが運の尽きですよ。私も...スフィアさんも他の人もイオンさん...いえ、いおりさんに人生を変えられてしまいましたから。ふふっ、でも嫌な気はしないでしょう?」


「知らないわよ..」


そんなやり取りをスキルで拾いながら私はステージ中央にゆっくり一歩ずつ向かっている。
するとヤジと歓声が聞こえてきた。


「引っ込めー!シャンテをもう一回だせー!」


「イオンちゃーん!今日も応援しに来たよー!頑張ってー!」


私は手を降りながら中央に辿り着くと目を閉じた。
そして頬に右手の人差し指を指して、小首を傾げながら...


「皆、お待たせっ!魔法少女アイドルイオンちゃん、ダーリン達の為にカンシェル一座に来ました!」


日夜研究しているぶりっこを最大限に活用するべく全力で演技するが、アンチの方々の受けは余り宜しく無いらしい。


「いいから引っ込めー!わざとらしいんだよっ!」


知ってますが?わざとだからね。
だがそんなヤジをものともせず、私は前屈みになりながらウインクして...


「もう!そんな酷いこと言うとイオンちゃんプンプンだよっ!?」


「何がプンプンだ!気持ち悪い...」


「うおおおおおおっ!プンプン来たーー!!」


「イオンちゃん、可愛すぎるー!結婚してくれー!」


「イオン様!イオン様がこんな間近に...イオン様万歳っ!」


「くあーーーっ!天使...天使が降臨なされた!!ああ、神よ!感謝します!!」
いきなり神様に祈るポーズをとったり、泣き出したり、発狂し始めた私のファンの異常ぶりに圧されアンチの男達が引き下がった。
イオンのファンは怒らせると多分怖いと思う。


「..........」


だが、何もアクションをしない私を不思議に思ったのか会場全体が静まり返る。
その様子を見渡し静かにゆっくりと口を開く。


「皆さんに謝らないといけない事があります。実は今から唱う歌は皆さんの為ではなくある一人の女性のために捧げたいんです。」


「え?それってどういう事だ?」


「はあ?アイドルか何か知らないが勝手じゃねえか?こっちは金払ってんだぞっ!!」


「おい!イオンちゃんが話してるだろうが!静かにしろっ!」


心苦しいが彼女の為に言っておかなければならない。
ざわつき始めている観客席に向かって、普段のイオンでは考えられない真面目な面持ちで語り掛ける。


「きっと皆さんの中には怒っている人もいるかもしれません。ですけど、私はその人に伝えないといけないんです。」


「これはカンシェル一座の催しだろ!?イオンを下げろ!」


「そうだ!そうだ!」


こうなる事は理解していたがいざ直面し心が折れそうになっていると一人の見覚えのある人物が声を大にして上げてくれた。


「私はイオンちゃんが私達を蔑ろにしていないのを感じました。一イオンファンとして最後まで付き合います。」


「え!?店長さん!?び、びっくりしました!」


まさかこの間助けてくれたレストランの店長さんが来ているとは思いもよらなかった。
だが、また出してくれた助け船のお陰で他のイオンクラスタの方々が口を揃えて...


「俺達の為じゃなくても見ていくぜ?当たり前だろ?」


「だよな!折角のイオンちゃんの晴れ舞台なんだ。見なきゃ損だろ!」


「イオンちゃん頑張れー!」


その応援に私は涙ぐみそうになるが、ぐっと堪えて前を見据える。


「ありがとうございます!ですが今からやるのは皆さんが馴染みの無いことなので驚くと思いますがお付き合い下さい!....では行きます!」


会場全体に響き渡る様に腹から声を出す。
そして指をパチンと鳴らし...


「イッツパフォーマンス!」


と何時ものポーズをとると背後にずらっと並んでいる音楽団の団長が指揮棒を振り、シャンテの時とは全く違う異世界の住人には聞き馴染みの無いポップスとロックを掛け合わせた音楽が鳴り始める。
そして私は練習通りに楽団に向き直し右手を空高く掲げ...


「ふんふんふん...」


と、音楽に乗りながら右手を右下方向に振りながらターンすると、ジャーンと上手く楽器を掛け合わせた事でギターの様な甲高い音が会場に響いた。
それを聞き取った瞬間、タン・タン・タンと足でリズムを取りながら右手を水平にし...歌い出した。


「君の心はどこにあるの?私の気持ちに気付かずに...ねえ、覚えてる?私達の最初の出会い..♪」


そのダンスと共に歌い出すスタンスに皆度肝を抜かれ茫然自失している。
だが構わず続けていく。
右手を胸に戻し、左手をしなやかに前に持っていき...


「君は私に言ったよね?偽善がどうと...違うと言っても殻に閉じ籠った君はうたがった♪」


右方向に軽やかにステップし、右足を軸に一回転する。


「だけど私は放っておくなんてできなくて♪君の心を知りたくて♪喧嘩も絶えない今日だって心配だった♪どうしてそんなに辛く当たるのかな...信じてないから?誰を?私?それとも自分?♪」


「........!!..何で...こんなのずるいわよ...!」


シャンテは涙を一筋流す。それが自分に送る彼女なりの思いの伝え方に胸が締め付けられたからだ。


「本当に...心配してたんですよ。彼は...バカですよね。ファンを裏切ってまで...色々失うかもしれないのに、貴女の為だけに今歌ってるんですから...」


「何なのよ!何なのよ、ほんとに!意味分かんない....意味分かんないわよ....うぅ...」


彼女はイオンが歌に乗せた本音に泣き崩れた。
そしてその張本人もまた涙を浮かべながら歌い続ける。


「けれどそんな君が私は好きだよ♪だってこんな私を見てくれた♪私にだけ本音をくれた♪だから助けたいんだ、君の心を♪君自身をー♪」


今度は激しくステップしながら真ん中へ行くと私は左手を耳に当て、聞き耳をたてるジェスチャーをしつつ...


「もう遅いけどー、それでも今からやり直せるかな?♪私達友達になれるかなー?♪君と私は似てるから♪そんな君の近くに居たい...ねえその口で~、声で~囁いて~♪」


「あっ!シャンテさん何を!」


シャンテが足音を発てながらステージに居るイオンに近づくと...


「私だって分かんない♪あんたは私を助けてくれた♪でも信じるのが怖くてー♪信じてもらうのが怖くて~。♪彼を、彼女を傷付けたのにどうしてそんな事出来るのだろうか~♪」


私は突然現れたシャンテがいきなりデュエットし始めたので驚いたが表情を崩さずそのまま左に歩きながら歌い続ける。


「傷付いたって構わない!♪傷付けたって構わない!♪君の笑顔が見たいから~♪君の過去を癒したいから~♪苦しんだって良いんだよ♪それが私と繋がる道なんだ~♪」


私の行動に呼応するようにシャンテは左に歩きながら唱う。


「勝手すぎると言われない?♪お節介だと言われない?♪皆言うに決まってるー♪でも!でも!♪本当は嬉しかった、あんただけだからー♪私を見てくれたのは...♪」


「それは違うよ、家族が居るよ♪血は繋がってなくても家族になれる♪後ろを見て?前も見てー♪でも一番は隣の私よりも貴女の心が知っている♪」


「私の心?そんなの分かんない♪今まで蓋してきたから~♪ねえ、あんたが開けてよ!私の蓋をっ!♪」


そこまで唱うとシャンテの踊り子の勘か偶然ダンスがかち合った。
お互い背を向けながらバックしていく。


「私じゃ無理だよ♪誰にも無理だよ♪開けることが出来るのは君さ♪君だけさー♪だからその手を伸ばしてみよう♪私が掴みたかったその手を使って♪」


「無責任よね、そう言うところ♪でも案外嫌いじゃないかもね♪」


背中合わせになった私達は観客席の方を向き、左手を前に突きだし、恋人繋ぎで握り合い最後のフレーズを歌いきる。


「友達になれるかな?あんたと私....♪」


「もう友達だから♪一緒に歩こう♪私達の未来の明日へっ!♪」


そして最後の音が鳴り終わる瞬間同時に歌い上げる。


「君がいれば何だって出来るよね♪」


「あんたが居れば何でも出来るに決まってる!♪」


そこで私達のコンサートは終わりを迎えた。
息を荒げながらお互いの顔を見合せ、二人してはにかむ。
すると、いきなりシャンテが抱きついてきて小声で...


「ありがとう。それとごめんなさい。私と友達になってくれる?」


心細そうにそう問いかけてくるので慰めるように優しく。


「もう友達だと思うけど?だって見てみなよ?二人でこんだけやれたんなら...親友と言っても過言じゃないね。」


と、シャンテに伝え観客席を見せると...


「良いぞー!もう一回見せてくれー!」


「きゃああああ!二人ともカッコいいーー!」


「イオ-ン!俺あんたのファンになるわ!」


「シャンテさーん、俺も君のファンになったからー!」


その光景にシャンテの顔が綻び、ようやく笑顔を見せてくれた。


「ふふっ、何だかおかしいわね。こんな気持ち始めてかも...」


「これからもっと味わえると思うよ。今のシャンテならさ。」


「ならもう一回やらないかしら?」


どうやらアンコールに応じるらしく、最初から歌いたいそうなので私は...


「勿論!よーっしみんなーーっ!イオンとシャンテのコラボライブ始めるよっ!準備はいい!?」


「あんた達!今日は寝かさないわよ!!覚悟しなさい!」


その言葉に会場中が盛り上がり、結果翌日の朝までライブを決行する事となった。







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