異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです 

ベレット

11 踊り子シャンテ

「はあっ!?それで放って逃げ出したのか!?...仲間じゃなかったのかよ...」


イオンは額に手を当てながらキャラ崩壊を起こしているのを気付く暇もなく焦っていた。
どうやらあの後路地裏の入り組んだ地形に迷い、複数の男達と遭遇した折りに強姦されかけシャンテを置いて逃げてきたらしい。
どうやらそれから30分程経っているらしくかなり油断できない状況になりつつある。


「あ、あんたが悪いのよ!?シャンテに着いてけばいつか一番取れるかもって言ったから!」


「はあ、そっちこそシャンテの側に居れば甘い汁吸えるって飛び付いたじゃないの!」


取り巻き二人が罪を擦り付けあっている間もシャンテを案じるイオンは限界を迎え..。


「うるっさい!!あんたらシャンテの友人だろ!心配じゃないのかよっ!」


その真剣な表情と怒髪天に押され、ポツポツと言葉を溢し始めた。


「別に友達じゃ...」


「う、うん。別に仲良くないし....」


「こいつら...!ああ、もういい!私が行くからそこで待ってろ!」


そう言うなり足に力を込めたイオンは一飛びで地上300メートルの空中に身を置き、スキル『サーチ』を使い360度全ての情報を頭に入れ、そこから東方向に発見した地点に辿り着くため空中で身を翻し、音速の蹴りを放つと..。


「ふんっ!」


「うそっ...」


「すごっ...あいつ何者なのよ?」


蹴った方向と逆方向...つまりは東方向に飛びつつ、迷路になっている裏路地の行き止まりでシャンテが踞っている場所の真上の空中に辿り着いた。


「やばいっ!このままだとあの女犯されるぞっ!ああっ、もう!仕方ないかっ!」


かつて商家の二人を助けるため偶然成功した急降下を今度は自分でやってのける。
上方に右手を空を切るように掲げ、掌から衝撃波を波及させそのまま垂直落下し、暴漢達とシャンテの間でかのヒーロー着地をした事により、近場にあった行き止まりの壁が崩落した。


「な、何だてめえ!何処から来やがった!」


四人中の一人が叫ぶと他の三人もイオンを警戒する。
だが、そこは強姦魔の集団...相手が女と判るなり舌なめずりをした。


「何だ?てめえもヤられてえのかよっ!相手してやるからこっちこ...ぶぎぃ!」


これ以上無いほどイオンは怒っていたが殺人はしないと心に誓っているからか、能力を0.0001程度に抑えボディーブローを放つ。


だがいくら制御していても常人がそのスピードに追い付ける筈もなく一人腹にパンチを打ち込まれ地に落ちていった。


「おい、このくそったれども。俺は女相手にイキってる奴が嫌いでな。覚悟できてんだろーな。」


「くそっ!舐めてんじゃねえぞ!女がっ!」


「お、おいっ!」


仲間の制止を振り切りナイフを手に襲いかかるも。


「はっ!」


「ぎゃああっ!」


その凶器を持っていた右腕を掴みその男を背負い投げし、壁に埋もれさせた。
そのまま横ステップで瞬時に木材を持ったやつれた男に掌底を顔面すれすれで制止する。


「ひひっ!届かないみたいだな!じゃあ今度は....ぐわあっ!!」


油断してにやけていたその男はイオンの掌から放たれた風圧を直に受け、囲まれていた壁を飛び越え民家に吹っ飛ばされ、最後に残ったボクサーの様な屈強な男に一足で接近すると。


「せいっ!」


「ぐわあっ!..がが...何なんだ、てめえは....」


デコピンを放つと一撃で真後ろに吹っ飛ばされ通路にあった木箱に突っ込むのを見届けるとイオンは散々練習を重ねた名乗りを上げる。


「私を知らないなんてもぐりだねっ!イオンちゃんプンプン!だったら教えて上げるよ、私が誰かをっ!私の名前は魔法少女アイドルイオンちゃん!私がこの街にいる限り君達悪人に明日は来ないっ!覚えといてねっ!キランッ!」


といつもの目元ピースをしながら腰を捻らせる...が既に体格の良い男も含め全員が気絶しているのに気付くと、ムッとした表情で。


「はあ、何?気絶してんかよ、だったらぶりっこキャラ演じるんじゃなかった...やって損したわ...」


「あんた...それが素な訳?やっぱり男が本体なのね...」


「え?.....あ...」


イオンは失念していた、シャンテは逃げていたのだからイオンが攻撃していない限り起きているのは至極当然なのだが、悪党を凝らしめるのに集中しすぎてシャンテの存在を一時忘れていた。
だが諦めの悪いイオンはそれでも続けようと人差し指を頬に当ててアイドルらしく。


「ひど~い。そんな事無いよ~!イオンちゃんはこれが素ですからっ!」


飛びきりの作り笑顔を見せるがシャンテは「はっ!」と突っぱねた。そして...。


「あんたが男なのは判ってんのよ!どうせついてんでしょ?お粗末なのがさあ?」


と、言い出すといきなりイオンのスカートを捲りスパッツの上から股間を触るのだが何度探っても気持ち悪い感触がなく、不思議に思ったシャンテは手を離した。


「はあ?あんた男の筈じゃ....ってどうしたのよ?」


「ぐう....な、何すんだよぉ....」


シャンテがへたりこんだイオンに目線をやると、当のイオンは耳まで紅潮させ、涙目になっている。


「あんたまさか...今ので?」


それもその筈で、イオンにとって始めての感覚であり、男ではまず味わうことの無い刺激に腰を砕かれてしまっていた。


「な、何だよ?」


「いやその、いっ...」


「止めろっ!言うなっ!」


イオンはそれ以上聞くと男の沽券に関わりそうで言葉を遮った。
そしてキッとシャンテを睨み付けているイオンを見て...。


「あんた何でさっきあんなに私に怯えてた訳?そんなに強いなら怖がる必要ないでしょ。」


「強いのと怖いのとは違うんだよ...後怖いと言うよりトラウマだから...それはともかく...あの二人心配してたぞ。」


不憫に思ったからかイオンが気を遣って嘘を言ってのけるが、どうやらシャンテもあの二人と同じく...それ以上に他人を信じていないようで。


「嘘言ってんじゃないわよ。あいつらは私を利用してるだけ。現に逃げやがったじゃない。」


「それは...嘘言ってごめん。」


「別に...どうでもいいわよ。私は誰も信じてないから...一座の奴らも、座長もあの二人も..特に...」


嘘がバレて気まずそうに顔を下に背けていたイオンだったが、そのシャンテの言葉に反応し頭を上げるとそこには蔑んだ眼をしたシャンテの顔があった。


「特にあんたみたいな偽善者、大ッ嫌いなのよ。私は...」


「偽善?なんの事だ?」


皆目検討もつかないイオンが問うと鼻で笑いながらこう答えた。


「あんたは気付いて無いでしょうけど、この街以外でも見かけた事があったのよ。そこであんたは依頼とは関係無いのに人助けしたり、金銭を恵んだり...どうせあんただって見返りを求めてたんでしょ?実際にさっきだってそういう騙された馬鹿で溢れかえってたじゃない。」


「なっ!あの人達は私を慕ってくれてるだけだろっ!?そんな言い方するなよ!それに私は偽善じゃ...」


「何黙ってるわけ?ああ、そっか...あんた心当たりあるんだ....ふーん。」


イオン...いおりにとってその言葉は図星でしかなかった。確かに善意で助けた事もあるにはあるがアイドル活動に関しては金目当てなのを自分でも理解しているのでそれ以上否定する事が出来ないでいた。


「それは!...それは...」


「やっぱりあんたって偽善者なんだ。」


「ちがっ!」


何とか誤解を解こうと言い返そうとするが、ガシャガシャガシャと騎士鎧の音に阻まれ声が届かなくなり、近づいてきた騎士の数人と取り巻き二人がシャンテを取り囲み見えなくなってしまい、それ以降その日は話せなかった。


「イオン殿、ご無事でしたか...余り無理をしないでください。部下にも貴女を慕うものがおりますから。」


「すいません...居ても立っても居れなくて..」


イオンが申し訳なさそうに謝ると、騎士の方が困り果て...


「いえ...では私達はこれで...アルテナ殿、後は頼みます。」


「はい、有り難う御座いました。」


騎士の一人が頭を下げると全身鎧の部下三人が犯罪者達を紐で縛り上げ抱えるとそのまま去っていった。
だが、イオンの心には先程のシャンテの言葉が刺さり苦渋を舐めた表情をしていると。


「イオンさん、少し良いですか?実はこの二人が話があるようでして....」


「え?何?」


働かない頭を振り払って意識を変えながらアルテナの後ろにいた例の二人の踊り子と目があった。
すると踊り子のソバカスの娘が手紙を差し出してきたので受け取り開いてみるとそこには...


『明後日の公演日に貴女と私達で躍りの勝負をしなさい。負けたら2度とアイドルをやらせないわ。もし貴女が勝つような奇跡が起きたら私が舞台を降りてやるわ。断るならイオンの正体を他の町で言い触らすから覚悟しておきなさい。』


「これは挑戦状か...」


「悪いけどあんたには負けてもらうから...それで許してくれるってシャンテが約束してくれた。」


「それじゃあ...」


そう告げるなり走って二人は去っていき、残されたイオンにアルテナが話し掛けた。


「イオンさん、座長と一座から依頼が来ています。見てください。」


アルテナから受け取ったそれにはこう書かれていた。


『三人に勝って再スタートを切らせてやってくれ。』


それだけ書いてあり読み終わるとアルテナがイオンにもう1つ紙を渡す。


「これって地図?カンシェル一座の場所?」


「はい。そこに行ってあの三人の過去を聞いてきてください。お願いします。座長もそれを望んでるみたいですよ。」


イオンはその地図を眺めながらこれから敵対する相手の事を知るべきなのか悩んだが、シャンテのあの悲しい表情と苦しさしかない言葉を思い出し。


「うん。この依頼受けるよ。明日早速ここに行ってくる。」


彼女はしっかりとした眼差しをアルテナに向け、アルテナも安堵の表情を浮かべていた。















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