異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです 

ベレット

7 握手会

「イオンちゃんのファンです!握手お願いします!」


「どうぞー。二枚ありますので6秒でーす。」


スフィアが20000レア(日本円で40000円程)のお買い上げでリンスが発行する握手券を数えファンの方に告げ、俺に握手するように促してくる。
それを俺はこの世界に来て会得したTSぶりっこ術を使用し客を虜にしていく為、差し出された手を優しく両手で包み込むと...


「ありがとうございますっ!まだまだ頑張りますから応援しててくださいねっ!でもでもまた来てくれないとイオン怒っちゃいますからね?」


わざと恥ずかしそうにはにかみながら、上目使いをしつつ両手に力をいれ、胸の谷間を強調する。
これで落ちない非モテ男子はほとんどいないと自負しており、案の定このファンの男も...


「勿論だよっ!イオンちゃんの為なら幾らでも稼いでくるからっ!」


「はい、時間切れでーす。次の方どーぞー。」


最早事務的になりつつある領家のお嬢様のマネージャーぶりに度肝を抜かれつつ、呆気に取られていると、彼女が耳打ちをしてきた。


「それにしてもお金稼ぐのって大変なんですね?嫌にならないんですか?」


(なるに決まってんだろが...今すぐ帰りたいわ...)


だがそれを公に発言してしまえばイメージが大事なアイドル活動に支障をきたすため絶対に言う訳にはいかない。
ギルドからランクアップ停止措置を命じられているのでこの副業がなければやっていけなし、そもそも身分も無いんだから他の仕事なんて見つかりもしない...どん詰まりである。
だからこそこの副業を是が非でも継続させなければいけないのだ。


しかし今回の握手会は俺の認知する所では無く、急に始まってしまった一時間前までの事を思い出していた。


時を遡ることおよそ四時間前...握手会会場に来る前にギルドに薬草取りのクエストを終わらせ、借家の自室に戻った時の事だ。
荷物を下ろし、腰を椅子に下ろそうとした時にドンドンドンと扉を叩く音がし開けると大家さんから「お客さん来てるぞ...ほらあんたのパーティーのエルフの...」と聞き嫌々ながら部屋に招き入れた。
その喧騒を隣の一室を新規に借りていたスフィアも聞き付け俺の部屋に入ってくるなり、リンスが耳に入れたくないイベントを口にする。


「今から3時間後に握手会を催しますので変身して身だしなみを整えたら広場の一角に来てください。」


「嫌です。」


「広場の何処ですか?」


あのゴーレム討伐から3日...聞いてはいたが本当に握手会を開催するらしいが、やりたくはない。
だが俺の抗議など最初から聞く耳を持たないリンスに問いかけても無駄なようだった。


「広場の東側ですね。繁華街側の。」


「ああっ!彼処立地良いですからお客さん一杯来そうですね!いおりさん!頑張りましょうよっ!何やるか知らないですがっ!」


「嫌ですっ!」


(何やるか知らんのかいっ!!)


何度も抵抗を試みるが効果がなく、それどころか俺の痛い所を突いてきた。


「良いんですか?あなたを慕ってお金を出した信者を裏切る事になりますが良いんですか?本当に後悔しませんね?」


「うぅ.....や、やります....」


そんな言い方されたらガラスハートのいおりが断れないのを知っているリンスが畳み掛け、結果握手会は無事開催する運びとなりいおりもイオンへと変身し、身なりを整え会場に着くなり笑顔の練習やキャラクターの再確認をしつつ、握手会が開始されたのだった。


そして現在に戻る...


「イオンさん、頑張ってください!僕も応援してますから!」


「えへへ、ありがとうございます。あなたの為にも一生懸命頑張りますっ!」


あざとく頬に合わせた両手を擦り寄せ、可愛いアピールに余念を残さない。
俺も女の子スキルに磨きがかかってきたようで...げんなりする...だが仕事だと割りきり耐えれるまでには成長しているみたいだ。


「はい、次の方ー。時間はありますので押さないで下さーい。....はい10枚なので30秒ですねー。どーぞー。」


だが、そこで最初のイレギュラーが発生してしまった。


「イオンさん!イオンさん!お久しぶりです!ああーー!本当に可愛い!お持ち帰りしたい!!」


10枚という破格の枚数に驚きぱっと頭を上げるとそこには200000レア...400000円をつぎ込めるだけの金持ちがいたのを失念していたのだ。


「はは...どうも...エリーさん...」


「ああっ!イオンさんが私の名前をっ!もう昇天しそうです!!あっ、それはそうとお手を拝借っ!」


久しぶりに会うあの商家の妹のエリーの姿がそこにあった...まあだがこれも仕事と割りきって両手を掴ませたのだが...


「はい。どうぞ....ひい!」


流石に此処では大した事はしないだろうと油断していた...エリーはむんずと手を掴むなり撫で回してきたのである。
そこに付き添いで来た兄のセシルが止めようとしてくれたのだが...


「や、止めなさい!いお...イオンさんが困っているだろう!」


「兄さんっ!邪魔しないでください!後24秒あるんですからっ!ふひひ...後20秒たっぷりこのしっとり肌を堪能出きるなんて愉悦~!」


(ひいいいいいっ!嫌あああああっ!うあああんっ!)


俺は心の中で泣き叫ぶ事になった...この女相変わらずである。
たっぷり丁度30秒間堪能すると艶々の肌になっていたがその興奮顔は乙女とは程遠い何かに身の毛がよだつ。


今の俺は完璧にストーカーされたアイドルそのものの表情をしているだろうと思いつつも、イメージを崩さないように顔を整える。
そのプロ意識にスフィアは感服と尊敬を示すと同時に異常者を見た衝撃も顔に表れていた。
そうなって当然だと思います。


「あの...もう次の方案内しますから...」


スフィアが恐る恐る話し掛け、俺も目を合わせないように脂汗をかきながら手を振るが、中々退散しない妹を見かね兄のセシルが襟首を掴み引き摺って行った。


「兄さん!放してください!!まだイオンさんを視姦し足り無いんですっ!はーなーしーてーっ!!」


「このバカっ!もう頼むから止めてくれっ!」


だがどうやらセシルも用事が有ったようで無理矢理エリーを連れていきながら...


「イオンさん!いおり君に用があるから待っててくれと伝えといて下さい!お願いします!」


そう告げていき、未だに暴れまわる妹を抱えると貴族街に消えていった...


「ふぅ...すみません。次の人どうぞっ!イオンちゃんはまだまだ触れ合い足りませんからっ!」


サービススマイルとリップサービスを交え、その場のざわめきを抑えるとまた声援がこの場を取り巻いていく。


「イオンちゃん本当にあんたいい子過ぎっ!余計好きになっちまったよ!」


「イオンちゃん最高ーー!」


と、次から次へと称賛の声が上がる。それを抑えようとスフィアが「静かにしろって言ってんでしょうがあっ!」とキレた。
その余りの怖さに会場が静まり返ったが次の客がまた騒動を巻き起こしてしまう。


見た目は良くいる小太りの男性で、日本で一昔前に居たような見るからにオタクの男の子が手ではなく肩を掴み...


「へっ?」


「イオンちゃん好きだあーーっ!」


「きゃああああああっ!」


無理矢理キスを迫ってきてつい乙女力全快に叫びつつファーストキスを奪われないように抵抗する。
ただ単にキモイだけだが...だが怪我をさせようものならそれこそ不味いので押しきれないでいると、いきなりふっとその男の体が離れていった。


どうやらその後ろに居た冒険者風の男性が助けてくれたらしい。
しかしそれが更に好ましくない展開になっていった。


「ちょ、止めてください!」


スフィアが叫ぶがその彼は小太りの男の胸倉を掴み...


「このくそ野郎...イオンちゃんに何しやがんだっ!」


その言葉に端を切ったのか会場の他の人達が口々に「やっちまえ!」だの「イオンちゃんを傷つけた報いを受けろ」等と叫んでいる。
非常にヤバい...何がヤバいってこのままだと騎士やら自治体が飛んできて若者を惑わす女だと噂されかねない事だ。
それだけは止めないと...と、立ち上がり掴みかかっている男性と小太りの男の手を取り、天使ってこう微笑みそうだと想像し、笑みを浮かべ、演技力全快で...


「止めてください!本当に驚きましたけど、それだけ私の事を想っての事ですよね?なら良いんです。それに貴方もそんな事したら手が傷ついちゃいます。私は皆さんのアイドルでお嫁さんですからどうか喧嘩なんかせずに仲良くしてほしいですっ!」


と、涙目で問いかけるとどうやら成功したみたいだ...自分の才能が末恐ろしい。


「聖女だ...こんな片田舎に聖女が降臨なされた!」


「うおおおおっ!イオンちゃん!さいこーっ!」


「可愛いだけじゃなく俺達の事をそんな風に!!俺もうイオンちゃんさえ居ればいい!」


そう語り始めた男達は皆豪快に泣き始めた。
やりすぎた気がする...すると助けてくれた男性も男泣きし始め俺を拝み始め、小太りの男もみっともなく泣きじゃく謝り続けているので...


「もう気にしないでくださいね?でも次やったらプンプンですからね?」


そう会場全体にわざと聞こえるように声を出しスフィアに続きをするように促すと...


「あっ、はい!では次の方っ!」


俺達二人は気を取り戻し握手会を再開したが俺の脳内にはある言葉が繰り返し再生されていったのだった。


(もうアイドル止めたい!)


心の底からそれだけを思う...

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