苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

対リリアーシュ戦の件

「いいな!貴様ら!私の宝をしっかり守るんだぞ!分かったな!この底辺ども!」




「ったく....何でこんな事に...」


今から10時間前。
結局医者は見つからず途方に暮れている時だ。
ベッドで横になり良い案が思い浮かばないかと頭を悩ませていたら扉を叩く音に気がつき開けた。


「医者は見つかった?」


「ミツキか...いや、駄目だった。そう簡単にはいかないのは分かってはいたんだがな。...くそ...」


「ふうん...見つからないならその間に一つの仕事頼みたいんだけど」


ミツキは一枚の依頼書をベッドの脇に置きそれを拾い上げる。


「護衛?屋敷のか?」


「まだ分からないけどそこがリリアーシュに襲撃される可能性があるらしいわ。」


「犯行予告でも来たのか?」


「まさか。あいつはそんな事しないわ。白狐のお偉いさんからの情報みたいよ」


白狐か...確か情報規制、交通管理を主に活動としている部族だったな。
だとしたらリリアーシュのあの罪状は奴らが?
今回の依頼、きな臭いがリリアーシュを捕獲させないためには同行するべきか。


「分かった。受けよう」


依頼書にサインをし、ミツキに手渡した。


「あら、受けるのね。なら今日の夜からお願いね」


というのが今回の顛末だ。


「聞いているのか、貴様!貴様はそうとう腕がたつと青龍とギルドから聞いておる!この場所にいけ!絶対に鬼の好きにさせるな!」


「はいはい。仰せのままに...」 


「それと、余計な物に触るんじゃないぞ!」


この先日屋敷を破壊され、リリアーシュに怯えていた小男が白狐のお偉方らしい。
だとしたらこいつが手配書に細工をしたとも考えられる。


それに手枷も血の付着した布切れ...こいつの屋敷から出てきたものだ。
ルーシェとミツキには悪いが、どちらの味方をするべきか見定めないといけないだろう。


ーー「ここが俺の持ち場だな」


「ユウキ、私はクマハチ様担当だからそろそろ行くわよ」


あの男、クマハチというのか。
知らなかった。あんなやつ見た目どおり豚で良いと思う。


「ここは任せろ、そっちも頑張れよ」


「え、ええ!頑張るわ!...こ、ここで良いとこ見せたら考えてくれるかしら...ふふ」


下心丸見えだぞ、ミツキよ。


呆れながら見送っていると胸元の箱からフェニアがもぞもぞと飛び出てきた。


「ご主人さまぁ、ここ何でしょうかぁ?」


フェニアの視線の先の鋼の扉が厳重にいくつも鎖と錠前が掛けられており、いかにも何か秘密がありそうだ。


「怪しいな」


「怪しいですぅ」


「「........」」


「ちょっと見てきますぅ」


お互い目を合わすと俺の意図を察したフェニアが隙間から入っていった。


手持ち無沙汰になり壁にもたれ掛かる。
すると突然、ドオオンと破壊音と共に地震かの様な揺れに足元が覚束なくなる。


「来たか...」


クマハチの予想どおりと言うことらしいが何故、奴はリリアーシュが襲ってくると確信していた?


疑問が頭を支配するがこちらに向かってくる足音が大きくなるのを感じ、ファフニールを作り出す。


するとフード姿のあの鬼が姿を現した。
今一度見てみると何故鬼なのか分からない。
角は生えていないし、肌だって俺達と変わらない。
人間に間違いないだろう。


「なあ、あんた...一昨日は大変だったな、お互いに。なんでこんな事してる?人だって本当は殺してないんだろ?」


「君もそれなりの事実に辿り着いた訳だ。じゃあ君は仲間と考えても良いのかしら?」


「それはどうだろうな。正直困ってる。クマハチという男が何かをしているのは分かってはいるんだがそれが犯罪的な物かまでは掴んでなくてな」


鋼の扉の前に立ちそう告げると鬼も黒色のローブから見えているスラッとした決め細やかな白い手を拳に変える。


「なら今は敵ね?そこを退いて」


「悪いが、それは出来ん。今はな...!」


リリアーシュからの殺気を感じ、肌がひりつく。
敵対してようやく分かる、こいつの強さが。
確かにこの気迫...鬼と呼んでも差し支えないだろう。
強い相手に後手に回るのは避けたく、先手必勝で詰め寄る。


そして剣を横凪に振るうが軽々と避けられてしまう。


俺の背後をとるやいなや、拳を振り抜くが剣で防ぐ。


「がっ!?....かはっ!な...んて腕力だ...」


確実に防いだが剣ごと弾き飛ばされ壁に激突し吐血する。


「耐えきった!?...この男、やる!」


「そりゃどうも...なら今度はこっちの番だ!はあああ!」


剣をリリアーシュに放り投げるがこれも避けられ壁に突き刺さる。


「苦し紛れか...いや、これは...!」


左手に魔力を貯め、魔法を発動する。


「空間よ、裂け弾け!...アポトーシス!」


「これは闇属性の上級魔法!?この男、まさか魔族...なに!?」


リリアーシュの目の前に黒い球体が現れ、バチバチ雷を放つと重量が空間を軋ませる。


「ぐっ!?」


これで倒せるような相手なら楽だがやはり耐えきったか。


だがこの比較的狭い部屋で避けることが出来ずもろに重重力がリリアーシュを遅い、思いの外大きいダメージに膝をつく。


その隙を逃さず。


「こい!シャドウゴーレム!殴り付けろ!」


「精霊まで!...やっぱりあの娘の情報通り!」


最早パートナーと言っても過言ではない身長が自分の二倍ほどある漆黒のゴーレムがリリアーシュにその大きい拳を放つ。


「なあっ!?受け止めた...だと...!?」


「ぐうっ...!...はあっ!」


両手を用いてゴーレムの拳を受け止めるとそれを押し返し、腕を掴むと背負い投げの要領で投げ飛ばした。


「ちいっ!ファフニール!...黒朧...」


「させないわ!これで!」


剣を再生成し、精霊を纏わせ迫ってくるリリアーシュの手刀に重なるように斬りつけようとした時だった。


「お待ちくださいぃ~!」


飛び出してきたフェニアが俺とリリアーシュの間に入り、お互い手を止めた。

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