苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

首長国ギルドの件

「フェ、フェニアー!」


「ぐふうですぅ...この国暑すぎですぅ...トリスリアさんにはもう乗らないですぅ」


俺が見つけた時には既に脱水症状末期だった。


そういえばフェニアの声がトリスリアに乗ってから聞いてないなと思い、胸元を見るとそこいるはずの妖精が綺麗さっぱり居なくなっていた。


どこかで落としたのかと思い立ち、街中走り回り見つけたのがこの、湖を囲った自然公園で、湖の傍らにフェニアが横たわっているのを発見したのが始まりだ。


「お前...どこに行ってた」


フェニアを浅い場所で水にさらしていると自分が経験した大スペクタクルを力なさげに語り始めた。
その内容は涙なしには語れない。


要点だけ話すと→トリスリアから落ちる→俺の魔力を頼りに入国→砂漠で蜥蜴に食われる→糞と共に脱出→新種の虫と勘違いされ捕獲される→逃げ出す→→今ここ


ということらしい。


「怖かったですよぉ~!ご主人様ぁ~!」


相当怖い思いをしたのか顔に抱きついてきたが思いの外臭くひっぺがす。


「お前、臭いぞ...ちょ、近寄んな」


「ひ、酷いですぅ!うわああん!」


「わ、わりいわりい。にしてもちゃんと対策しないとな。今度同じ目にあったらどうなるか...」


「もうあんなのは嫌ですぅーー!」


いつまでも胸元にいれとくわけにもいかないし、何か対策を考えないとな。


ーーギルドに向かう途中にある商店街。
そこの一角の雑貨屋でなかなか良さげな物を発見しフェニアと相談する。


「これなんかどうだ?」


「それなんですかぁ?」


「これはユングベルの箱っつって動物を入れておくもんなんだがこれなら安全だし、フェニアなら隙間から簡単に出入りできるんじゃないか?」


手のひらサイズの箱を手に説明するとフェニアは目を輝かせヒラヒラと周りを飛び回っている。


だがフェニアにとって残念なお知らせがある。
実はこの箱、すごい頑丈なだけの小さいただの虫籠だ。
確か元々は昆虫が好きな発明家が潰されないようにとかなんとか。


「あのー、お客様大きなハエが...」


「ハエっ!?私ハエって言われましたぁ!?」


憐れな...


「これ貰えるか?いくらになる?」


「あ、はい。520セルになります」


520セル...やっぱり外は高いな...
宿も一泊で2500セルだったし。
しかも一人あたりで。
アルザス村なら野菜一篭で200セルだぞ....


「ああ、ちょっと待って」


ズボンのポケットをまさぐり財布を取っているとふと後ろから通行人の声が聞こえてきた。


「聞いたかよ、あの話」


「聞いた聞いた。あそこの屋敷のことだろ?昨日壊された」


昨日...あの放火された家か...
あそこで見つけた手枷や布切れは今でも持っているが、なんの意味があるのだろうか。


「でもよ、なんで鬼って白狐の建物ばっかり襲うんだろうな?」


「さあな、恨みでもあるんじゃないか?鬼も人さえ殺さなきゃまだましなんだが」


鬼だって?そんな魔族見たこともないが...
15年前にまだこの国に居た時は、だが。
そういえば最近その単語聞いた覚えがあるな...どこだったか...


「でも聞いた話じゃあれだけ倒壊しても誰一人死んでないらしい」


「本当か?聞き間違いじゃないか?あの人殺しがか?それはないだろ。なんたってあのリリアーシュだぞ?」


鬼か...あの手配書で見た限りだとそうとうやばい奴みたいだが、昨日あった限りじゃ殺そうとはしていなかった。
本当にあいつが人を殺しているのか?


それよりも黒ずくめの集団の方がよほど人殺して
そうだったが...


「お客様?...大丈夫ですか?」


「あ、ああ、悪い。....これで」


「丁度頂きますね。ありがとうございました」


お金を渡しながらふと考える。
手配書と昨日の彼女、どちらが“真実”なのか、と。


ーー紆余曲折あったがようやくギルドにたどり着き扉を開けるなりまっすぐカウンターへと向かう。


数か月前まではこの昔ながらのギルドの内装をよく見ていたものだがアルザス村のギルドバーに慣れてしまっているからか、懐かしさを異様に感じる。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用時でしょうか?」


「俺はユウキ・ユグドラシル。仕事の依頼の手紙を昨日か今日の午前中に届くようにギルドマスター宛に送ったんだが」


「あっ、はい。承っております。ではギルドマスターを呼んできますのでしばらくお待ちください」


「あっ、ちょっ...」


受付嬢は丁寧にお辞儀をすると奥へと引っ込んでしまった。


「呼ばなくても良いんだが...内容だけ教えてくれれば...」


「ご主人さまぁ、あそこ何かあるんですかねぇ」


唖然としていると首もとにぶら下がっているユングベルの箱で寛いでいるフェニアが人混みを指差して不思議そうにしている。


「ほんとだな...」


俺も気になりだし、受付嬢が帰ってくる前に見ようと小走りで駆け寄り、人混みを掻き分けていく。


「リリさんって人ぉ、ファミリーネームがトトさんとぉ一緒ですねぇ」


「....なんだこれは....」


「ご主人さまぁ?」


掲示板に張り出してあったのは近辺の指名手配犯の手配書だったがその中にリリ・アーシュの手配書を見つけ、内容に驚愕する。


「なんなんだ....これは....!こんなこと...おかしいだろ...!」


その内容とは前日の屋敷破壊についてだがそこに俺の知らない...あるはずの無い罪状が付け加えられていた。


「白狐族...マシアスの忠臣を皆殺しにした...だと....」


怒りがこみ上げ歯軋りをするが喧騒に消えていく。


「なんの音ですかぁ?あれぇ?あの方ぁなんかこちらにぃ」


フェニアが何かに気付き俺もそちらに振り向く。
どうやら誰かが奥の扉を思い切り開けたせいで壁に激突したようだ。


そこから一人の女が鬼の形相をしながら望スピードで走ってきていた。


「ギ、ギルドマスターいけません!」


「ご主人さまぁ!」


その女が右腕を振り上げると思い切り。


「ぐっ....!」


俺の左頬を全力で殴り、耐えきれず掲示板によりかかる。


「あんたよく私の前に顔出せたわね!このくそハーフ!ぶっ殺してやる!」


「マスター!それは流石にやばいですって!皆さんもなに見てるんですか!止めてください!」


受付嬢が叫ぶと激昂している女と俺を交互に見渡し、何とか押さえつけようとするが一人一人ちぎっては投げちぎっては投げされている。


俺は睨んでくるその懐かしい女の名を呼ぶと、より目付きが鋭くなった。


「よお、ミツキ。久しぶりだな、元気だったか?」


「うるせぇぇ!絶対お前ぶっ殺してやるから覚悟しとけよぉぉ!離せ、お前らぁぁぁ!」


「あばばばばば」


余りの恐ろしさにフェニアがショートしてしまった。







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